女王陛下

Kira

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紅の華と黒の華

夕闇の中の人

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ガヤガヤという騒がしい喧騒の中静かに酒を飲むものが一人。
フードを被っており顔は見えない。
だが立ち振る舞いの中には凛とした雰囲気がある。あいにくそれが分かるのは此処には居なかった。

素性は知れないが腰には一振りの剣があり男の意識は常に周りへ向いていた。
分かる者はその男がその場にいる誰よりも強いという事が分かるだろう。

そんな男に声をかける者が一人。
身なりは一目で金持ちだと分かる者だ。

「なぁ、お前頼まれてくれないか?割りのいい仕事があるんだ。」

と。
だが、まるで聞こえていないかのように一瞥もせず、酒の入ったグラスを傾ける。
そんな姿に当然怒るだろう。特に身分意識の高い者ならば。

「おいっ!聞いているのか!私の言葉を無視する気か!」

そんな事を何度も言われても男は見向きもしない。

そんな時、

「ねぇ、その話オレにしない?」

と、突然誰かが言った。

「今は此奴と話をしておるのだ。入ってくるでな…い……。」

「ああ、オレの顔分かるんだー!そりゃ当然だよねー。近衛隊副隊長だもの。意識するよねー。さあ一緒に来てくれる?」

突然会話に乗り込んできた者は襟を緩めているが近衛隊の制服を着て、腰には剣を吊り下げていた。

「なんで此処に…。」

「…クスクス!そんなんあんたが一番分かってんじゃないの?」

「な なんの事だ!」

「知ってるよ。我らが女王陛下の噂流したの。あの噂信じてる奴も大概だけど、流した奴はもっと可笑しいよね。ホント、笑える。」

口許には笑みがあるが瞳は冷たく、鋭かった。

「アンタもな!」

突然入り込んだ艶やかな声に誰もがびっくりした。当然だろう。その声の主は美しい女だった。

「またこんな格好して、馬鹿にされるぞ」

「えー、そんなん言っても暑い~!コレきっちり着てんの隊長だけじゃん。
まぁ、一緒に来てくれるよね?」

断われそうにない圧力を掛けて言った。
誰もが腰が抜けそうな目と声音で。

「アンタも圧力掛けない! 悪いね、騒がわせちまったみたいだな。」

と言うと話しかけられていた男に向き直り

「アンタも気をつけた方がいい。今の貴族は皆あんな奴らばっかりだ。迷惑掛けたな。
……。
さぁ帰るぞ!」

「えー!なんでメルダが仕切ってんの!オレ地位高いよね!?ねぇってば!」

「うるさい!帰るぞ!」

「だからーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。」

「ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」








賑やかな声は遠ざかって行った。
が、それと同時に居酒屋独特の喧騒が広がっていった。
しかし、あの男はまた静かに酒を呑んでいる。
そんな男に

「アンタも災難だったな。」

「何がだ」

耳をくすぐる静かないい声だった。
そんな声を聞いた居酒屋の男はビックリしたのか目をパチクリとした。

「アンタ、…なまってないんだな、貴族みたいな綺麗な発音をしているな。」

ジッとそんな発言をした男に視線を向けると焦ったように

「な、何も聞かねぇよ。」

何を見たのか視線にびびっていた。

「ならいい。で何が災難なんだ?」

「あの貴族に声かけられたことよ。あれは女王暗殺の依頼だな。」

「女王暗殺?」

「アンタ、知らねぇんだな。この国の女王は皆から殺して欲しいって言われてんのよ。悪行しているとかでな、兎に角あの女王についてはいい噂は聞かねぇなぁ。何しろ自分の親を殺したんだからな。あの悪魔、おれらの王を殺したんだ。だから憎まれても当然だ!貴族はそんな悪魔を殺してくれようとしてるのに、あの近衛だか知らねぇがアイツらいっつも邪魔するんだ。」

「……。それは興味深い話だ。もっと聞かせてくれるか?」

喧騒に紛れ内緒話は誰にも聞こえない。




夕闇に紛れた男は静かに歩いている。

「思わぬ話が聞けたな。これは都合がいい。
さぁ行こう」

「はっ」

どこからとなく現れたのは3人の騎士だった。

「女王は嫌われている、か。可哀想だが、利用せて貰う」

夕闇に溶けた影の瞳は美しい緑に輝いていた。
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