セイバー

森田金太郎

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8話

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◆撤回
 それから、勇は学校へ行く。涼、晴、愛がもう既に来ていて次々に駆け寄ってきた。晴が言った。

「もう、大丈夫なのかよ?」
「大丈夫だよ」

 涼は安堵の表情を見せた。その顔を見ながら、勇は愛に尋ねた。

「愛ちゃん、恭くんは?」
「すっごく後悔してるみたい。普通に学校から帰る途中にあの2人に捕まったらしいから、恭は悪くないんだけどね」
「本当だよ。でも、助けて、よかった」

 勇はうつむく。涼が首を傾げ尋ねた。

「勇?どうしたの?」
「僕、戦うの、辞めなくちゃいけなくなった。父さんと母さんが駄目って言ったから」

 涼、晴、愛の「えっ」と言う声に呼ばれたように始業のチャイムが鳴った。

 放課後、勇は一目散に帰宅しようとしたが、涼、晴、愛はこの日は追いつくことが出来た。勇は、かなしげな表情で言った。

「ついて、来ないで。辛いよ」

 3人から逃げるように勇は走って行ってしまった。

 それから3日後の休日の事だった。勇の自宅近くで断続的な爆発音が鳴った。勇のセイブ・ストーンが激しく点滅する。

「プラネットクラッシャー。でも、僕、行けない」

 更に翌日の休日。朝のテレビニュースを見た勇。女性アナウンサーが言った。

「原因不明の爆発により、14名が死傷しました」

 勇は、朝食の途中に、家を飛び出して行った。近所の現場に辿り着く。歩道のタイルは粉々に、木々は焦げていた。そして、所々血の跡のような模様が見えた。

 勇は、昨日あった惨劇を想像した。

「守れなかった」

 勇の涙は溢れる。

「うああああ」

 そこに、涼と晴が来た。涼が慎重に勇に声をかけた。

「勇」

 泣きじゃくりながら勇は言った。

「涼!晴!僕っ!守れなかったっ!!人を殺しちゃったっ!!」

 晴が言った。

「違う!勇のせいじゃねぇ!俺たちだ!昨日、ここで戦った!けど、力不足だったんだよ!!」

 勇は、涼のウォーターとしての戦い、晴のファイアとしての戦いも想像した。

「ウォーター、ファイア、2人も傷ついたんじゃない?」

 2人は、曖昧な頷きを見せた。勇は、再び泣きながら言った。

「僕のっ、僕のせいでっ」

 勇は、涙を自らで拭い、言葉を続けた。

「やっぱり、戦う。僕、父さんと母さんとの約束、破る」

◆親子喧嘩
 勇は、家に帰る。食べ途中の朝食が迎えた。食べる気は起きなかったが、無理矢理詰め込んだ。すると、父親が言った。

「どこ行ってたんだ?」
「僕が、守れなかった、場所」

 母親が言った。

「危ない所に!駄目だって言ったでしょ?」
「『戦い』に行ったんじゃないっ!駄目って言わないでよ!!」

 勇は声を荒らげた。勇は感情的になったまま、暴言と言っていい言葉を両親にぶつけた。

「僕の事、心配してくれるのは、『ありがとう』だけど、言う事聞いたら、『あんな事』になったんだよ?今朝のニュース見た?見たよね?父さんと母さんが僕の事止めたから、14人もっ!14人もっ!!死んじゃった!傷ついちゃった!僕はどうなってもいいんだ!僕は!ヒーローだからっ!!」

 両親は同時に「勇!!」と怒鳴った。勇は、負けずにこう叫ぶように言葉を返した。

「もう!僕は!父さんと母さんの言う事聞かない!!これから、戦う!戦って、人を、地球を守るっ!!」

 そして、セイブ・ストーンを持ち、家を出ていった。

「ごめん、父さん、母さん」

◆家出状態
 それから、勇は街の中を宛もなく歩き続けた。極々一部ではあったが、瓦礫の山が勇の目に入った。

「プラネットクラッシャーの仕業、だよね?」

 そうしているうちに、映画館の目の前に辿り着いた。そこには「秘密ソルジャージュエル」の映画の予告看板が立っていた。

「秘密ソルジャー。『守る』って、こんなに辛いんだね?」

 その目には、涙の気配。「こんな所で泣けない」と、勇は、再び宛もなく歩き始めた。鬱ぐ心は、勇の足を狭く暗い路地へと誘った。しばらく歩いた勇を、聞き慣れない男性の声が引き止めた。

「なんだか、君、辛そうだね?」

 その声の方向に勇は目線を移した。そして、こう言った。

「よ、よくわかったね?」

 その勇の目には、粗末なパイプ椅子に座っている若い男性。ボリュームのある短めの髪を、非対称に分けたその男性は、こう答えた。

「占い、してるからね。色んな人を見てきて、わかるんだ」
「そうなんだ。正直、辛いよ」
「そう。話、聞くよ?特別にタダで色々やってあげるよ」
「えっ、いいの?」

 男性は、頷いた。そして、勇は、今までの事を男性に話した。そして、こう締めくくった。

「あの、僕、だから、家に帰りづらくなっちゃって。どうしたらいいかわからないんだ」
「わかるよ、その気持ち。なんだか昔の僕を見てるみたいだ」

 そう言うと、男性は立ち上がる。

「よければ僕の家に、しばらくいていいよ?」
「えっ!いいのっ?」
「いいよ、おいで。案内する」
「えっと、僕、安藤勇。よろしく」
「僕は、洞口芯。よろしくね」

 明るく開けた大通りに出た。よく見ると芯は、人骨2本がデザインされた上着を着ていた。勇は、それにおそれを成したが、今縋れるのはこの芯しかいないとついて行った。

 その先には、古ぼけたアパート。芯は言った。

「気に入らないかもしれないけど、休んでって。僕は、『仕事』に戻るから」
「あっ、ありがとう!」

◆奇妙な同居
 その夜、芯は帰宅。勇は言った。

「お、おかえりなさい」
「ただいま」

 芯は笑った。そして、言葉を続けた。

「『ただいま』なんて何年ぶりに言っただろう?」
「えっ、そうなの?」

 芯は、頷いた。そして、手に持っていた袋を開ける。

「夕飯、適当な弁当買ってきたから、食べて?」
「ありがとう。いただきます」

 そして、勇は芯との夕飯の時間を過ごした。その中で、芯は言った。

「君が洗いざらい君自身の事話してくれたから、僕も僕自身の事、話しておくよ」
「うん」
「僕ね?『死』が視えるんだ」
「えっ!」
「『あっ、この人もうすぐ死ぬ』って感じちゃうんだよね。しかも、それ、外れた事ないんだ」
「そ、そうなんだ」

 芯は、右耳に着けているドクロのイヤリングをいじり、話を続けた。

「あまりにもうるさく僕が『この人死ぬ!この人死ぬ!!』って騒いだから、家追い出されたんだよね。自分で言うのもなんだけど、凄くいい家柄だったんだけどさ」
「僕と似てるような?似てないような?」
「そうだね。でも、家に帰れないのは、お互い様だろう?」
「うん」
「でも、今では、帰らなくていい。『死』に特化した占い、結構儲かるんだよね。こんな古アパートからタワーマンションに引っ越し出来るくらいさ。まあ、引っ越しが面倒だから、これからもずっとここに住む予定だけどね」
「そんな所に、僕、邪魔じゃない?」
「大丈夫だよ」

 それ以降、2人は静かに夕飯を食した。その片付けが終わった時、勇は呟く。

「学校、どうしよう?制服、家に置きっぱなしだ」
「気が済むまで休んじゃいなよ」
「ええー?」

 納得いかない返答を勇はしたが、翌日から、それに従ってみることにし、芯の家にて早めに眠りに就いた。

◆失踪
 一方、安藤家では、勇の両親が勇が帰らない事に慌てていた。近所や愛の所を駆けずり回った。勿論、見つかる筈はなかった。愛は、それを受けて言った。

「も、もしかしたら、明日学校には来るかも?来たら、勇くんに『家に帰ってあげて。』って言ってみる」

 両親は、その提案に感謝し、一縷の望みをかけ、帰宅した。

 しかし、翌日勇は登校しなかった。高校を無断欠席したのだった。

 愛は言う。

「涼くん、晴くん、どうしちゃったんだろう?勇くん」

 その声は震えていた。涼は言った。

「放課後、僕たちも勇を探そう?」

 晴は言った。

「すぐに見つけてやるぜ!」

 そして、その放課後。雨が降り出した中、涼、晴、愛は、街の中を勇を探すために宛もなく歩いた。

 愛は、その最中、泣き出した。

「勇くん、何で?どこにいるの?」

 涼がそれに寄り添った。晴は言った。

「めんどくせぇ!セイブ・ストーンがなんとかしてくれるだろ!!」

 涼は言った。

「そうだね。仲間の所に連れて行ってくれるよ」

 涼と晴はセイブ・ストーンに言った。「ウイングの元へと行きたい」と。愛はそれを見て言った。

「私も、それ、欲しい」

 その言葉が雨に消えた瞬間、光が道を示した。それを辿ると、古ぼけたアパートに着く。愛は言った。

「ここに、勇くんが?」

 晴は言った。

「そうだろうな!」

 涼は言った。

「まだ、光は消えてない。進もう?」

 それに、晴と愛はついて行った。そして、1つの部屋の前で光は消える。涼は言った。

「ここみたいだね」

 晴は言った。

「よし、行くぞ」

 部屋の呼び鈴を晴は鳴らした。すると、勇が出てきた。愛は泣き崩れた。

「勇くん、無事だった」
「み、みんな」

 勇は目の前の光景に、どのような言葉を発していいかわからなくなった。

◆約束
 しかし、勇は泣く愛を放ってはおけず、涙を拭いに行く。その右手の人差し指は、愛の安堵の涙で染まった。

「ごめんね?愛ちゃん」
「勇くん!何で?どうして家に帰らないの?どうして学校に来なかったの?」

 今度は、疑問の涙が愛から溢れる。勇は、その光景を見て、この日してしまった罪を自覚した。

「心配、かけちゃった。ごめん」
「答えになってないよっ!」
「ごめん、本当に、ごめん。あのね?僕、父さんと母さんの言う事聞けないから、家に帰りづらくて。その、家に制服置きっぱなしだから、学校にも行けなくて。ごめんね?本当にごめん」

 確かに、体は傷ついてはいないが、確実にここ最近の自分の行動で、心を傷つけてしまった人々がいる。勇は、人の心も守らねばと思うようになった。

「愛ちゃん、僕、家に帰るよ。そして、学校に行くから、安心して?」
「絶対だよ?」
「うん、約束するよ」
 勇は、右手の小指を愛に見せた。愛は、首を傾げた。勇は言った。

「指切りだよ」

 愛は、それを受け自らの小指を勇の小指に絡ませた。2人の右手は、優しくかつ確実に数回揺らされた。その後、勇の一言でその小指たちは、離れた。

「ゆーびきった!!」

 勇は、笑顔で愛の顔を見た。愛も涙の残る目ではあったが、勇を出来る限りの笑顔で見た。その光景を、涼と晴は、静かにかつ微笑ましく見つめた。晴は言った。

「さーて、帰るか」

 涼も言った。

「うん、勇が見つかってよかった。安心して帰れるよ」

 そして、涼、晴、愛は、雨上がりの夕焼けの下、穏やかな顔で帰宅した。

 そんな3人の背中を見送った勇の目に、帰宅してきた芯の姿が映る。

「おかえりなさい」

 勇は言った。芯がそれに返す。

「ただいま」

 勇は、部屋の中に入ると、少し申し訳なさそうに芯に切り出す。

「あの、僕、やっぱり家に帰る。そして、学校に行く」
「もう、大丈夫なんだ?」
「大丈夫じゃないけど、家族とか友達に心配させちゃってるから」
「そう。うん、僕と君はやっぱり違うようだね?」
「あ、その、ごめん。芯さんには、よくしてもらったのに」
「いいや?人それぞれの人生だよ。帰りづらいのは変わらないようだから、帰る時、一緒に行ってやるよ」
「そんな!悪いよ」
「大丈夫、大丈夫。僕がやりたいだけだから。『善意の押しつけ』、受け取ってよ」
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