ブンボル王国の恋事情︰短編〜小さき愛人の未来〜

森田金太郎

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ここは、クルーサム財閥を率いる総帥の邸宅。その家の主と妻が、自ら達の娘であり、主の愛人と向き合っていた。多少の沈黙が流れていたのだが、同席していた夫妻の息子であり、妻の愛人でもあり、娘にとっての双子の兄が焦れて声を上げた。

「さっきから黙っているが、レアターシャ、お前が『話がある』って言って俺達を呼び出しておいて、それはないんじゃないのか?」
「ライゼニング、落ち着きなさいよ。レアターシャには時間が必要なのよ」
「母さん、でも」
「まぁ、待ってやれ」
「父さんまで」

 レアターシャは、双子の兄が両親から叱責されてしまった事に罪悪感を抱き、ようやく口を開いた。

「ねぇ、パパ、私、好きな人が出来たの。あの、だから、パパの愛人を辞めたいの。この事は、ママとライゼニングにも聞いてもらいたくて、皆に集まってもらったの」

 レアターシャは、驚いた表情の家族達を一旦見回した。そんなレアターシャの視線の先で、レアターシャの母は、言った。

「アルヴェード、第八条ね?」
「そうだな。背中を押してくれてありがとう。エリザータ」

 アルヴェードは、レアターシャに向き合い、こう返答した。

「本当に愛せる男を見つけたんだな。俺は嬉しいぞ。よし、これからはその男を目一杯愛してやれ」
「パパ、ありがとう」
「18年間、俺にお前を愛させてくれて感謝する、レアターシャ。これから、俺との時間より強い幸せを掴めよ」
「パパ」

 レアターシャは震えた。そんな娘に心配の目を向けつつ、エリザータも決断した。

「私も、ここで第八条をしようかしら」
「え?母さん?」
「ライゼニング?今日をもって、私達は、母と息子だけの関係になりましょう?」
「そんな」
「ライゼニングには悪いけれど、クルーサム財閥の将来を一緒に作ってくれる女性をこれから探しなさい」
「わかった、母さん。父さんは選べなかった。けれど、俺には選ばせてくれるんだな。ありがとう」
「私を愛して、学んだ『愛』で、将来の奥さんを幸せにするのよ?」

 ライゼニングが力強く頷いた隣で、レアターシャが再び口を開く。

「これで、頑張れる。私、頑張る」

 自分に言い聞かせるような呟きに、アルヴェードは返した。

「なんだ?頑張るとは?まさか、レアターシャ、お前の片想いなのか?」

 レアターシャは頷いた。そして、返答する。

「その人、マザコンなの。でも、私だけを見てもらいたくて」
「なるほど、それは難儀だな。しかし、レアターシャを惹きつけておいて、母親にうつつを抜かしている男か。名前だけでも訊いておこうか」
「王子。王子なの」
「王子?ウィンヒート王子なのか?」

 再びのレアターシャの頷きに、アルヴェードとエリザータは、目を見合わせた。レアターシャは、そんな両親、特に母親であるエリザータに急にすがりついた。

「ねぇ!ママ!男の人の『落とし方』を教えて!!ママ、昔沢山の男の人を『落として』きたんでしょう?私も、それでウィンヒート王子を落としたいの!!」

 エリザータは、胸の中のレアターシャの頭をひと撫でした。

「そうね、わかったわ。でも、ちょっとだけアルヴェードと2人で話させて?それから、教えてあげる」
「うん、わかった!」

 レアターシャは、ライゼニングと共に部屋を退出。それを見届けた後、アルヴェードは言った。

「何と言うか、『血は争えない』な。なぁ?エリザータ」
「まさか、レアターシャが王子を好きだなんて。私が王子のお父上で国王陛下のランディレイに惹かれたように、惹かれちゃったのね」
「いや、王子のお母上で王妃のミルーネに俺が惹かれたように惹かれたのかもしれないな」

 少しの間を空け、エリザータは、レアターシャに「男の落とし方」を伝授した。

「どれがウィンヒート王子に『効く』かわからないけれど、色々試してみなさい?」
「ママ、ありがとう!」

 いてもたってもいられない様子で、レアターシャは外に出て行ってしまった。見送ったアルヴェードは、呟くように言う。

「王子の所に行ったのか?」
「そうかもしれないわね」

 一方、レアターシャが目指すウィンヒートは、王宮にて母親であるミルーネの隣に座していた。

「母上、今日も素敵です」
「ありがとう、ウィンヒート」

 そこに、ミルフォンソを伴ったランディレイが来た。

「ウィンヒート、やはりここに来ていたんだね」

 ウィンヒートは、弾かれたように立った。

「ち、父上!公務に戻ります!!」

 厳しい顔で、ウィンヒートを見送るランディレイ。そんなランディレイは、ミルーネに話しかけられた。

「貴方様、とてもこわい顔をしてる」
「最近、ウィンヒートは、君に夢中で、公務を疎かにしているんだ。だから、厳しくしないと」
「私のせいね。ごめんなさい」

 そのミルーネの言葉に、ランディレイとミルフォンソの「ミルーネは悪くない」という言葉が重なった。一旦ランディレイとミルフォンソは、苦笑いした。そんな自らの伴侶と兄につられ、ミルーネも苦笑いした。

 それから、数週間後。アルヴェード達は、盛大なパーティーを開いていた。名目は、ライゼニングとレアターシャの誕生日会。そのパーティーに、王宮からゲストを呼んだ。会場には、ランディレイ、ミルーネ、ウィンヒート。そして、ミルフォンソの姿が。

 やがて、会場にいる人々の、ライゼニングとレアターシャの19歳の誕生日を祝う言葉が飛び交った。そんな中、エリザータは、レアターシャに歩み寄る。

「折角、アルヴェードが『お膳立て』してくれたんだから、しっかり王子と話してきなさいよ?」
「うん、ママ、とっても緊張してるけど、頑張る」

 エリザータは、手が小刻みに震えるレアターシャの背中を見送った。

 レアターシャの背中を見送ったのは、母のエリザータだけではない。父のアルヴェードも遠目から見送る。ウィンヒートに近づきつつある娘の姿を見て、呟いた。

「万が一、レアターシャがウィンヒートと成婚した場合、俺達は、王族入りを果たすな」

 隣にいたライゼニングはそんな父に視線を移し、こう言った。

「お、王族?」
「王家の親戚になるわけだからな。当然だ」
「確かに。けれど、俺、財閥の次期総帥と、王族の次期当主を同時にやれるかわからない」
「なに、総帥の事は、今までも教えて来た筈だ。それを実行すればいい。それに、王族としての立ち居振る舞いは、俺もわからないからな。共に学んでいこう」

 ライゼニングがそんな父の言葉に頷いた頃、レアターシャはウィンヒートの元へとたどり着いた。

「ウィンヒート王子、私と兄の誕生日会に来てくださって、ありがとうございました」
「レアターシャ、お誕生日おめでとう」

 レアターシャの顔は、急激に赤くなった。ウィンヒートの世を絶する顔の造形美を目の当たりにしたからだ。

「レアターシャ?顔が赤いね?熱でもあるのかい?」
「あ、いいえ」

 レアターシャの脳裏に、母、エリザータからの「時には仮病も策」という助言が浮かんだ。

「ご、ご心配かけてすみません。実は、熱っぽいところを無理に来てしまったんです」
「それは!大変だね?寒気とかはないかい?」
「あ、あの、少し、そうかもしれません」

 ウィンヒートは、自らのスーツのジャケットをレアターシャのワンピースの上に着させた。

「これで、大丈夫かわからないけれど、どうだい?」
「と、とても温かいです!」

 ウィンヒートの温もりに包まれたレアターシャは更に顔を赤くする。

「でも、とても熱そうだ」

 レアターシャの顔をウィンヒートは、手で包んだ。

「あっ、王子、そんな、近寄らないでください!」
「あ、失礼。嫌かい?」
「そ、その、熱が移ったら大変だから」
「熱が大変なのに、僕の事を心配してくれるなんて、君は素敵だね」
「王子。王子こそとてもお優しくて素敵です」
「体の弱い人には、優しくしたいんだ。その、僕の母は病弱だから」

 レアターシャの目が、ウィンヒートの言った「母」という単語に一瞬曇った。

「母は、自分の病気が大変な時に僕を産んでくれたんだ!だから、病気の母は大事にしたい!母と同じように病気で弱っている人にも優しくしたいんだよ!」

 ウィンヒートの語気が強まっていく。レアターシャは、それを聞いているうちに、悔しい気持ちが溢れ始める。その気持ちは、涙として現れた。ウィンヒートは、熱弁の中その涙に気づく。

「あ、どうしたの?熱が辛いかい?」

 ぽろぽろ落ちるレアターシャの涙。返答は出来なかった。そんな状況にいたたまれなくなったレアターシャは、ウィンヒートのジャケットを返し、短く礼を言う。

「王子、心配させてごめんなさい。そして、ありがとうございました」

 レアターシャは、ウィンヒートの返答を聞かずに、その場を走り去ってしまった。そして、一目散にエリザータの元へと行った。

「ママ、駄目。私、耐えられなかった!」
「あら。でも、1回で諦めるのは早いわ。話は出来たんでしょう?一歩進んだわ」
「でも!王子の前で泣いちゃって、めんどくさい女に見られたかも」
「大丈夫。貴女は私の娘よ。それに、涙も立派な武器。その後の会話で、いいものにも悪いものにもできるんだから」
「そう?」
「そうよ」

 レアターシャの表情が、安堵の物へと変わった。

 一方、ウィンヒートは、どぎまぎしながらも、両親の元へと戻って行った。ランディレイは尋ねた。

「主賓に挨拶は出来たのかい?」
「は、はい」
「偉いわ。ウィンヒート」

 ミルーネの賞賛の声が届く。しかし、ウィンヒートは、脳裏に繰り返し映し出されるレアターシャの涙に言葉を紡げなくなった。

 そんな経緯も知らずに、アルヴェードは、ライゼニングと共にミルフォンソと話し込んでいた。そのミルフォンソは、率直な疑問を口にした。

「何故ここで王族としての立ち居振る舞いを知ろうとしてるんですか?」

 アルヴェードは、それに返答した。

「やはり、理由が必要ですか」

 ライゼニングがそれに続ける。

「クルーサムが王族になるかもしれないと思っているんです」

 ミルフォンソは首を傾げる。

「そんな話は、王宮には無いですよ?」

 アルヴェードは、更に返答する。

「まぁ、可能性として、探っているだけですよ。王族当主としては、先輩になるかも知れないミルフォンソさんに話を聞きたかった」

 ミルフォンソは、多少釈然としなかったが、こう言った後、王族となってから今までしてきたことをアルヴェードとライゼニング伝授した。

「わかりました。私の一族が王族復帰できたのも、アルヴェードさんたちのおかげですから、お話ししましょう」

 その後、誕生日会はレアターシャの涙以外は、特にトラブルなどなく盛況に終了した。

 数日後、ウィンヒートは耐えきれず両親とミルフォンソに誕生会で起こったことを伝えた。

「すみません、僕、レアターシャを泣かせてしまいました」

 ランディレイの顔色が急変する。

「何だって?主賓を泣かせたのか!」

 ミルーネも眉をひそめた。

「それは、大変。何をしたの?」

 ウィンヒートは短く返答した。

「わかりません」

 ランディレイの眉間にしわが寄る。

「わからないはないだろう?レアターシャは、僕らの恩人の娘。丁重に扱うべき女性なのに!」

 ミルーネもその話に続ける。

「レアターシャのご両親がいなければ、私たちは結婚することはできなかったのよ。そして、貴方も産まれなかったかもしれない」

 ランディレイとミルーネは、声を揃えて謝るべきとウィンヒートを叱責した。ウィンヒートは、小声でこう言った。

「わ、私は、体調が悪そうだったレアターシャを母上と同じように労わっていただけなのに」

 針の筵のようになっているウィンヒートを見かねたミルフォンソは、こう言った。

「後は、僕が言って聞かせます。陛下、王妃」

 ランディレイとミルーネは頷いた。それを見届けたミルフォンソはウィンヒートを別室へと連れて行く。そして、こう言った。

「今まで黙っていましたが、少し、王子は、王妃を大事にし過ぎです。私も、妹である王妃を心から大事に思っていましたから、気持ちはわからないでもないですが、もう少し、視野を広げるべきです」
「僕の視野は広いと思うよ?だって、母上の事があるから、母上のように病で苦しんでいる人々の助けになりたいと思っているんだ!」
「王妃が、病を抱えていなかったら?貴方は今の思想を持てましたか?」

 ウィンヒートの言葉が詰まった。

「王子、きっとレアターシャさんは、それを感じて涙を流したのだと思います」
「わかったよ、少し、また考える」
「そうしてください」

 ウィンヒートが悩み始めて数日後、レアターシャは、邸宅にて呟いた。

「どうしたら、泣いちゃった事、『いい事』に変えられるだろう?」
「知らない。お前が蒔いた種なんだから、自分で解決しろよ」
「ライゼニング、冷たい」
「悪かったな。だが、一応言っとく。俺も悩んでる。自分で蒔いた種じゃない悩みを、自分で解決しようとしてるんだから、邪魔をするなよ」
「え?」
「だいたい、お前が『王子が好き』なんて言ったから、俺は急に母さんじゃない女探しを始めさせられたんだからな。それでも、俺は見つける。愛する女をな」

 ライゼニングは、レアターシャの所から去った。レアターシャは再び呟いた。

「なによ。王子もライゼニングも母親、母親って」

 レアターシャは、ライゼニングが立ち去った方向を見つめしばしの沈黙の時間を過ごした。しかし、次第に心の中で「でも」と言い、再び口を開く。

「確かに、ライゼニングには、私、悪い事した」

 レアターシャはそれから邸宅内でライゼニングを探した。

「ライゼニング!」
「なんだ?悩み相談は受け付けないぞ」
「違うの!ごめんなさい!私、わがまま過ぎた」
「わかればいい」

 再びレアターシャの元から去ろうとするライゼニングの手を引くレアターシャ。

「なんだ?離せ」
「もうひとつだけ。そんなに男の人にとって『母親』って大事?」
「世間一般の感覚は、俺にはわからない。けれど、これだけは言える。俺は幸せだ。その幸せは、母さんが俺を産んでくれたから感じられる。だから、一生大事にしたい」
「王子も、そうなのかな?」
「それは、そうだろうよ。話が本当なら、王妃様は、病気なんだろう?健康そのものの母さんから産まれた俺よりその気持ちは強いんじゃないか?」

 ライゼニングは、一旦ため息をつく。

「あと、レアターシャ、お前も父さんを愛してた時があったんだから、ちょっとはわかる筈じゃないのか?」
「あ」

 レアターシャの口は、申し訳なさそうに開く。

「というわけだ。俺が言えるのはここまで。あとは俺を俺の悩みに専念させてくれ」
「あ、でも、話を聞いてくれたから、私もライゼニングの」
「必要ない」
「ご、ごめん。あ、ありがとう」

 それから、レアターシャはライゼニングからの助言を参考に、再びウィンヒートと話が出来たら何を話すべきか考えを巡らせる事にした。

 それから、1週間ほど経ったある日。王宮でウィンヒートは呟いた。

「レアターシャ、ようやく君に謝る事が出来そうだよ」

 その足でウィンヒートはレアターシャの邸宅に事前連絡の上向かった。

 一方、レアターシャは、突然出来たウィンヒートの訪問予定に驚いていた。しかし、自らも話したい事があった為、到着までの短い時間で、気を引き締めた。

 やがて、使用人からウィンヒートの到着が知らされる。そして、レアターシャとウィンヒートは応接間にて顔を合わせた。

「王子」
「レアターシャ、君の誕生日会で、君を泣かせてしまってすまなかったと思っているよ。心から反省している」
「大丈夫です。王子は悪くありません。私が勝手に泣いただけですから」
「そうかい。許してくれて、感謝するよ。けれど、これだけは言わせて欲しい。あの時の僕は、君という民の1人を目の前にしていたのにも関わらず、『民』を見ていなかった。これは、王子失格だね」
「そんな!貴方は、ブンボルの王子です!!」

 身を乗り出すようにして、レアターシャはそれを否定した。ウィンヒートは、申し訳なさそうな表情を変えずにそれに返す。

「ありがとう、レアターシャ。それで、もうひとつだけ聞いてもらいたいんだけど、いいかい?」
「はい」
「僕は、小さな頃から母上が心配だったんだ。だから、いつも母上の事ばかり考えて、いつの間にか、母上を通してからでなければこの国を見れなくなってしまっていた。君は、それに気づかせてくれた。そして、ここ1週間と少し、初めて母上以外の人だけを考える事が出来たんだ」
「どなた、ですか?」
「レアターシャ、君だよ。君しかいないじゃないか」

 レアターシャの目が丸くなる。ウィンヒートは、言葉を続けた。

「この気持ちは何なのかわからない。けれど、僕は君となら国を正しい目で見る事が出来るかもしれない。そう考えたんだ。だから、僕の傍にいて欲しい」
「王子っ」

 レアターシャの顔が、『あの時』のように赤くなる。

「王子っ!ごめんなさい!!私、あの時熱なんてなかったんです!!」
「え?」
「謝るのは、私の方です。嘘をついて貴方の気を引こうとしてしまいました。なのに、それなのに勝手に泣いてしまって、私、とても恥ずかしい事をしました」

 ウィンヒートの目が揺れる。

「私、王子が好きなんです!だから、王子の顔を見ると顔がどうしても熱くなってしまうんです!これは嘘じゃないです」
「そうだったのかい」
「だから、王子の傍にいたいです。本当は」
「なら、傍にいてくれないかい?」
「でも!嘘つきな私は、王子にふさわしくないです」
「レアターシャ、そんな事を言わないでくれ!」

 レアターシャの目頭は熱くなるが、それを必死に振り切り言葉を紡いだ。

「許してくださいますか?」
「勿論だよ」
「ありがとうございます」
「なら、改めて訊くよ?僕の傍にいてくれるかい?」
「はい。でも、ひとつだけ約束してください」
「なんだい?」
「私に気を使って、王妃様を無理矢理忘れないでください」

 ウィンヒートは驚きをもってレアターシャと視線を絡ませた。

「王妃様は、貴方にとってかけがえのない存在でしょう?私も、両親、特に父は特別な存在だったのでわかります」
「僕を、理解してくれるのかい?」
「きっと、私だからわかるって思います。だからこそ、私、考えたんです。王子、貴方自身も、王妃様も、勿論、国王様も、貴方の一部だって。だから、私、王子のご家族を愛して差し上げたいって!」
「レアターシャっ!」

 ウィンヒートは感情に任せ、立ち上がり、レアターシャに急接近してきた。

「王子?」

 そうレアターシャが言い終わった時、レアターシャの顔はウィンヒートの胸の中に収まった。

「僕、そんな事を言われたのは初めてだよ。レアターシャ、ありがとう」

 誕生日会の時は、スーツのジャケットを介してしか得ることが出来なかったウィンヒートのぬくもりが、今は、直接ひっきりなしにレアターシャに伝わる。レアターシャの胸は、高鳴る。

「レアターシャ、これが、この感情が、『愛』って物なのかもしれない。愛しているよ、レアターシャ」
「王子っ、王子っ!王子っ!!」

 もはや、耐えることが出来なかった。レアターシャは、遂に落涙する。

「王子、愛しています」

 ウィンヒートは、2度目のレアターシャの泣き顔に、一瞬たじろいだが、すぐに微笑み、レアターシャの涙へと口づけをした。

「この涙にも感謝しようかな?僕と君を繋げてくれたんだから」

 レアターシャの顔は、より一層赤くなり、さらなる涙を落とした。それをウィンヒートは両手の親指で拭い、愛おしさを今度はレアターシャの唇へと注いだ。レアターシャは、ウィンヒートの唇からもたらされる心地よい刺激に身をよじった。2人の吐息が漏れ、やがてそれは終わる。そして、改めて心の芯から言葉を交わし合った。

「愛しているよ、レアターシャ」
「王子、愛しています」

 そうして、ウィンヒートは心の中に新たな感情を抱え、王宮へと帰って行った。レアターシャは、ウィンヒートが乗る車が見えなくなってもずっと消えた方角を見つめ続けた。

 すると、別の車が来る。

「ライゼニング、帰って来た」

 間もなく、ライゼニングが車から降りて来る。

「おかえり、ライゼニング」
「ただいま、レアターシャ」
「ねぇ、私、王子と心を繋げる事が出来たよ」
「そうか。俺も決めてきた。俺と未来のクルーサムを作ってくれそうな女をな」

 レアターシャとライゼニングは、祝福の笑顔を交換し合った。

 それから、5年が経った。

 ライゼニングは、とある大病院の令嬢と婚約を果たした。これにより、クルーサム財閥の関連施設に、大病院が加わった。

「立て続けに、子供が結婚すると、大変だな?エリザータ」
「あら、でも、折角だから楽しみましょうよ」
「確かにな。結局、自分の力で愛を掴んだ2人を全力で祝わなければな」
「でしょう?」

 これから王族クルーサム一族の当主となるアルヴェードと当主夫人となるエリザータの円熟味の増した笑顔が交換された。

 同じ年に、国中の祝福をウィンヒートとレアターシャが受けていた。2人は、無事に成婚したのだ。

「レアターシャ、これからもよろしくね?」
「はい、貴方様」
(完)
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