ブンボル王国の恋事情

森田金太郎

文字の大きさ
29 / 67

29甘:渡る紹介状

しおりを挟む
後日の事だった。再びエリザータは、トゥルレ・ジェネラル・ホスピタルの院長室にいた。1人待たされていたが、その部屋の主が急いだ様子で入って来た。

「ごめん。待たせてしまって」
「事情は聞いたわ。急変した患者さんがいたって。どう考えても、その人が優先よ」
「ありがとう。おかげで峠は越えたよ」
「よかったわ」

 早速、エリザータの手からスティン医師が書いた紹介状がセブレーノの手に渡った。

「確認するよ」

 セブレーノは、それを開封し、隅々まで読み込んだ。

「見立て通り、光過敏症だね。しかし、現在の治療でも問題なさそうだ。苦言を呈すけど、外野の君たち夫婦が介入する必要はこの紹介状からは見えないね」
「それでも、アルヴェードが深刻だって思う状態を、私も黙っていられなかったのよ。駄目かしら?」

 セブレーノは、思案顔になる。その顔のまま、セブレーノは返す。

「一般の人から見て、どうにかしてやりたい気持ちは理解出来るよ?その気持ちまで否定するつもりはないけどね」
「昔、私に優しくしてくれた貴方なら、やってくれそうって思ってたのに」
「待ってよ、僕は引き受けるよ?けれど、専門家としての僕の意見を言っただけだよ」

 エリザータの顔が、ほっとした。それを見つつ、セブレーノは言葉を続けた。

「全ての人の苦しみを取り除いてあげたい。それが僕の信条だからね。最善を尽くすよ。けれども、結果が伴わない事もある。それは君にも、君の夫にも承知してもらいたい」
「私たち夫婦にとってこれ以上ない言葉、ありがとう」

 エリザータは頭を下げ、再びセブレーノの顔を見ると、穏やかな空気が漂っていた。

「エリザータ、あれから、君の活躍を時折見させてもらっていたよ。元気そうで安心したけど、辛い事とか、なかったかい?」
「やっぱり、貴方は優しいわね。あのどん底と比べたら、どんな困難でも小さく見える。大丈夫よ」

 セブレーノは微笑んだ。

「なら、よかった」
「でも、私にそんなに優しくしないで?また昔のように甘えるだけ甘えたくなっちゃうわ」
「そうかい。それも困る話だね。今となっては、僕は妻帯者だから、変な方向に話が行ったらまずいね」
「あら、結婚したのね?もしかして、キャナリーンさん?奥さんは」
「どうしてそこにキャナリーンが出てくるんだい?違うよ。君も知ってる女性だけど」

 エリザータは、首を傾げた。

「誰?差し支えなかったら、教えて?」
「ティコラセーヌだよ」
「えっ!!ど、どんな経緯で?」
「昔、あれから友達になったんだけど、一緒に色々話しているうちに、僕、彼女が運命って感じるようになったんだよね」
「そ、そうなの」
「今では、尽くしてくれる妻と幸せな日々を過ごしてるよ」

 セブレーノの表情は一層穏やかになる。しかし、すぐに気合いが入った物となった。

「さて、これ以降のミルーネさんの治療方針を検討するよ。患者の紹介、ありがとう」
「こちらこそ、引き受けてくれてありがとう」

 エリザータは、セブレーノと握手し、その場を後にした。

「セブレーノとティコラセーヌが夫婦になってたなんて。アルヴェードは、どんな顔をするかしら?」

 一方、セブレーノは院長室にて、紹介状を再び読み込む。そして、延々と独り言を言い始める。

「とにかく、この状況なら引き続き光を遮断しなければならないだろうね。対症療法での軟膏も引き続きこれで間違いなさそうだ。しかし、これ以上の回復を望むのであれば、患者に少しの負担に耐えてもらわなきゃならないかもね。それに、特別に往診をしなければ」

 その後、エリザータは帰宅する。アルヴェードはまだ帰っていなかった。

「と言うか、アルヴェードは知りたいかしら?あの事」

 数時間しないうちにアルヴェードは帰宅。エリザータは迎えた。

「おかえりなさい」
「ただいま」

 少しの間を空け、エリザータは切り出した。

「紹介状、セブレーノに渡してきたわ」
「そうか」
「外野が騒ぐ事じゃないんじゃ?なんて言われちゃったけど」
「言われてしまったな」
「それはそうと、驚いた事があるの。昔を思い出しちゃうけど、話していいかしら?」

 アルヴェードは首を傾げたが、同時に興味の視線を向けてきた。

「何か?」
「セブレーノ、結婚してた」
「まあ、俺たちより年上だ。結婚してもおかしくないだろう」
「そうよね。その相手に私、驚いちゃったのよ」
「誰とセブレーノが?」
「ティコラセーヌよ」

 アルヴェードの目が見開かれた。

「何と言う縁だ」
「自惚れた言い方だと、私たちが結んだような物ね?」
「確かに、な」

 それから、エリザータとアルヴェードは、昔話や世間話に花を咲かせた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~

深冬 芽以
恋愛
 交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。  2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。  愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。 「その時計、気に入ってるのね」 「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」 『お揃いで』ね?  夫は知らない。  私が知っていることを。  結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?  私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?  今も私を好きですか?  後悔していませんか?  私は今もあなたが好きです。  だから、ずっと、後悔しているの……。  妻になり、強くなった。  母になり、逞しくなった。  だけど、傷つかないわけじゃない。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

離した手の温もり

橘 凛子
恋愛
3年前、未来を誓った君を置いて、私は夢を追いかけた。キャリアを優先した私に、君と会う資格なんてないのかもしれない。それでも、あの日の選択をずっと後悔している。そして今、私はあの場所へ帰ってきた。もう一度、君に会いたい。ただ、ごめんなさいと伝えたい。それだけでいい。それ以上の願いは、もう抱けないから。

偽りの愛の終焉〜サレ妻アイナの冷徹な断罪〜

紅葉山参
恋愛
貧しいけれど、愛と笑顔に満ちた生活。それが、私(アイナ)が夫と築き上げた全てだと思っていた。築40年のボロアパートの一室。安いスーパーの食材。それでも、あの人の「愛してる」の言葉一つで、アイナは満たされていた。 しかし、些細な変化が、穏やかな日々にヒビを入れる。 私の配偶者の帰宅時間が遅くなった。仕事のメールだと誤魔化す、頻繁に確認されるスマートフォン。その違和感の正体が、アイナのすぐそばにいた。 近所に住むシンママのユリエ。彼女の愛らしい笑顔の裏に、私の全てを奪う魔女の顔が隠されていた。夫とユリエの、不貞の証拠を握ったアイナの心は、凍てつく怒りに支配される。 泣き崩れるだけの弱々しい妻は、もういない。 私は、彼と彼女が築いた「偽りの愛」を、社会的な地獄へと突き落とす、冷徹な復讐を誓う。一歩ずつ、緻密に、二人からすべてを奪い尽くす、断罪の物語。

曖昧な距離で愛している

山田森湖
恋愛
結婚4年目のアラサー夫婦、拓海と美咲。仲は悪くないが、ときめきは薄れ、日常は「作業」になっていた。夫には可愛い後輩が現れ、妻は昔の恋人と再会する。揺れる心、すれ違う想い。「恋人に戻りたい」――そう願った二人が辿り着いた答えは、意外なものだった。曖昧で、程よい距離。それが、私たちの愛の形。

罪悪と愛情

暦海
恋愛
 地元の家電メーカー・天の香具山に勤務する20代後半の男性・古城真織は幼い頃に両親を亡くし、それ以降は父方の祖父母に預けられ日々を過ごしてきた。  だけど、祖父母は両親の残した遺産を目当てに真織を引き取ったに過ぎず、真織のことは最低限の衣食を与えるだけでそれ以外は基本的に放置。祖父母が自身を疎ましく思っていることを知っていた真織は、高校卒業と共に就職し祖父母の元を離れる。業務上などの必要なやり取り以外では基本的に人と関わらないので友人のような存在もいない真織だったが、どうしてかそんな彼に積極的に接する後輩が一人。その後輩とは、頗る優秀かつ息を呑むほどの美少女である降宮蒔乃で――

【完結】もう一度やり直したいんです〜すれ違い契約夫婦は異国で再スタートする〜

四片霞彩
恋愛
「貴女の残りの命を私に下さい。貴女の命を有益に使います」 度重なる上司からのパワーハラスメントに耐え切れなくなった日向小春(ひなたこはる)が橋の上から身投げしようとした時、止めてくれたのは弁護士の若佐楓(わかさかえで)だった。 事情を知った楓に会社を訴えるように勧められるが、裁判費用が無い事を理由に小春は裁判を断り、再び身を投げようとする。 しかし追いかけてきた楓に再度止められると、裁判を無償で引き受ける条件として、契約結婚を提案されたのだった。 楓は所属している事務所の所長から、孫娘との結婚を勧められて困っており、 それを断る為にも、一時的に結婚してくれる相手が必要であった。 その代わり、もし小春が相手役を引き受けてくれるなら、裁判に必要な費用を貰わずに、無償で引き受けるとも。 ただ死ぬくらいなら、最後くらい、誰かの役に立ってから死のうと考えた小春は、楓と契約結婚をする事になったのだった。 その後、楓の結婚は回避するが、小春が会社を訴えた裁判は敗訴し、退職を余儀なくされた。 敗訴した事をきっかけに、裁判を引き受けてくれた楓との仲がすれ違うようになり、やがて国際弁護士になる為、楓は一人でニューヨークに旅立ったのだった。 それから、3年が経ったある日。 日本にいた小春の元に、突然楓から離婚届が送られてくる。 「私は若佐先生の事を何も知らない」 このまま離婚していいのか悩んだ小春は、荷物をまとめると、ニューヨーク行きの飛行機に乗る。 目的を果たした後も、契約結婚を解消しなかった楓の真意を知る為にもーー。 ❄︎ ※他サイトにも掲載しています。

処理中です...