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29甘:渡る紹介状
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後日の事だった。再びエリザータは、トゥルレ・ジェネラル・ホスピタルの院長室にいた。1人待たされていたが、その部屋の主が急いだ様子で入って来た。
「ごめん。待たせてしまって」
「事情は聞いたわ。急変した患者さんがいたって。どう考えても、その人が優先よ」
「ありがとう。おかげで峠は越えたよ」
「よかったわ」
早速、エリザータの手からスティン医師が書いた紹介状がセブレーノの手に渡った。
「確認するよ」
セブレーノは、それを開封し、隅々まで読み込んだ。
「見立て通り、光過敏症だね。しかし、現在の治療でも問題なさそうだ。苦言を呈すけど、外野の君たち夫婦が介入する必要はこの紹介状からは見えないね」
「それでも、アルヴェードが深刻だって思う状態を、私も黙っていられなかったのよ。駄目かしら?」
セブレーノは、思案顔になる。その顔のまま、セブレーノは返す。
「一般の人から見て、どうにかしてやりたい気持ちは理解出来るよ?その気持ちまで否定するつもりはないけどね」
「昔、私に優しくしてくれた貴方なら、やってくれそうって思ってたのに」
「待ってよ、僕は引き受けるよ?けれど、専門家としての僕の意見を言っただけだよ」
エリザータの顔が、ほっとした。それを見つつ、セブレーノは言葉を続けた。
「全ての人の苦しみを取り除いてあげたい。それが僕の信条だからね。最善を尽くすよ。けれども、結果が伴わない事もある。それは君にも、君の夫にも承知してもらいたい」
「私たち夫婦にとってこれ以上ない言葉、ありがとう」
エリザータは頭を下げ、再びセブレーノの顔を見ると、穏やかな空気が漂っていた。
「エリザータ、あれから、君の活躍を時折見させてもらっていたよ。元気そうで安心したけど、辛い事とか、なかったかい?」
「やっぱり、貴方は優しいわね。あのどん底と比べたら、どんな困難でも小さく見える。大丈夫よ」
セブレーノは微笑んだ。
「なら、よかった」
「でも、私にそんなに優しくしないで?また昔のように甘えるだけ甘えたくなっちゃうわ」
「そうかい。それも困る話だね。今となっては、僕は妻帯者だから、変な方向に話が行ったらまずいね」
「あら、結婚したのね?もしかして、キャナリーンさん?奥さんは」
「どうしてそこにキャナリーンが出てくるんだい?違うよ。君も知ってる女性だけど」
エリザータは、首を傾げた。
「誰?差し支えなかったら、教えて?」
「ティコラセーヌだよ」
「えっ!!ど、どんな経緯で?」
「昔、あれから友達になったんだけど、一緒に色々話しているうちに、僕、彼女が運命って感じるようになったんだよね」
「そ、そうなの」
「今では、尽くしてくれる妻と幸せな日々を過ごしてるよ」
セブレーノの表情は一層穏やかになる。しかし、すぐに気合いが入った物となった。
「さて、これ以降のミルーネさんの治療方針を検討するよ。患者の紹介、ありがとう」
「こちらこそ、引き受けてくれてありがとう」
エリザータは、セブレーノと握手し、その場を後にした。
「セブレーノとティコラセーヌが夫婦になってたなんて。アルヴェードは、どんな顔をするかしら?」
一方、セブレーノは院長室にて、紹介状を再び読み込む。そして、延々と独り言を言い始める。
「とにかく、この状況なら引き続き光を遮断しなければならないだろうね。対症療法での軟膏も引き続きこれで間違いなさそうだ。しかし、これ以上の回復を望むのであれば、患者に少しの負担に耐えてもらわなきゃならないかもね。それに、特別に往診をしなければ」
その後、エリザータは帰宅する。アルヴェードはまだ帰っていなかった。
「と言うか、アルヴェードは知りたいかしら?あの事」
数時間しないうちにアルヴェードは帰宅。エリザータは迎えた。
「おかえりなさい」
「ただいま」
少しの間を空け、エリザータは切り出した。
「紹介状、セブレーノに渡してきたわ」
「そうか」
「外野が騒ぐ事じゃないんじゃ?なんて言われちゃったけど」
「言われてしまったな」
「それはそうと、驚いた事があるの。昔を思い出しちゃうけど、話していいかしら?」
アルヴェードは首を傾げたが、同時に興味の視線を向けてきた。
「何か?」
「セブレーノ、結婚してた」
「まあ、俺たちより年上だ。結婚してもおかしくないだろう」
「そうよね。その相手に私、驚いちゃったのよ」
「誰とセブレーノが?」
「ティコラセーヌよ」
アルヴェードの目が見開かれた。
「何と言う縁だ」
「自惚れた言い方だと、私たちが結んだような物ね?」
「確かに、な」
それから、エリザータとアルヴェードは、昔話や世間話に花を咲かせた。
「ごめん。待たせてしまって」
「事情は聞いたわ。急変した患者さんがいたって。どう考えても、その人が優先よ」
「ありがとう。おかげで峠は越えたよ」
「よかったわ」
早速、エリザータの手からスティン医師が書いた紹介状がセブレーノの手に渡った。
「確認するよ」
セブレーノは、それを開封し、隅々まで読み込んだ。
「見立て通り、光過敏症だね。しかし、現在の治療でも問題なさそうだ。苦言を呈すけど、外野の君たち夫婦が介入する必要はこの紹介状からは見えないね」
「それでも、アルヴェードが深刻だって思う状態を、私も黙っていられなかったのよ。駄目かしら?」
セブレーノは、思案顔になる。その顔のまま、セブレーノは返す。
「一般の人から見て、どうにかしてやりたい気持ちは理解出来るよ?その気持ちまで否定するつもりはないけどね」
「昔、私に優しくしてくれた貴方なら、やってくれそうって思ってたのに」
「待ってよ、僕は引き受けるよ?けれど、専門家としての僕の意見を言っただけだよ」
エリザータの顔が、ほっとした。それを見つつ、セブレーノは言葉を続けた。
「全ての人の苦しみを取り除いてあげたい。それが僕の信条だからね。最善を尽くすよ。けれども、結果が伴わない事もある。それは君にも、君の夫にも承知してもらいたい」
「私たち夫婦にとってこれ以上ない言葉、ありがとう」
エリザータは頭を下げ、再びセブレーノの顔を見ると、穏やかな空気が漂っていた。
「エリザータ、あれから、君の活躍を時折見させてもらっていたよ。元気そうで安心したけど、辛い事とか、なかったかい?」
「やっぱり、貴方は優しいわね。あのどん底と比べたら、どんな困難でも小さく見える。大丈夫よ」
セブレーノは微笑んだ。
「なら、よかった」
「でも、私にそんなに優しくしないで?また昔のように甘えるだけ甘えたくなっちゃうわ」
「そうかい。それも困る話だね。今となっては、僕は妻帯者だから、変な方向に話が行ったらまずいね」
「あら、結婚したのね?もしかして、キャナリーンさん?奥さんは」
「どうしてそこにキャナリーンが出てくるんだい?違うよ。君も知ってる女性だけど」
エリザータは、首を傾げた。
「誰?差し支えなかったら、教えて?」
「ティコラセーヌだよ」
「えっ!!ど、どんな経緯で?」
「昔、あれから友達になったんだけど、一緒に色々話しているうちに、僕、彼女が運命って感じるようになったんだよね」
「そ、そうなの」
「今では、尽くしてくれる妻と幸せな日々を過ごしてるよ」
セブレーノの表情は一層穏やかになる。しかし、すぐに気合いが入った物となった。
「さて、これ以降のミルーネさんの治療方針を検討するよ。患者の紹介、ありがとう」
「こちらこそ、引き受けてくれてありがとう」
エリザータは、セブレーノと握手し、その場を後にした。
「セブレーノとティコラセーヌが夫婦になってたなんて。アルヴェードは、どんな顔をするかしら?」
一方、セブレーノは院長室にて、紹介状を再び読み込む。そして、延々と独り言を言い始める。
「とにかく、この状況なら引き続き光を遮断しなければならないだろうね。対症療法での軟膏も引き続きこれで間違いなさそうだ。しかし、これ以上の回復を望むのであれば、患者に少しの負担に耐えてもらわなきゃならないかもね。それに、特別に往診をしなければ」
その後、エリザータは帰宅する。アルヴェードはまだ帰っていなかった。
「と言うか、アルヴェードは知りたいかしら?あの事」
数時間しないうちにアルヴェードは帰宅。エリザータは迎えた。
「おかえりなさい」
「ただいま」
少しの間を空け、エリザータは切り出した。
「紹介状、セブレーノに渡してきたわ」
「そうか」
「外野が騒ぐ事じゃないんじゃ?なんて言われちゃったけど」
「言われてしまったな」
「それはそうと、驚いた事があるの。昔を思い出しちゃうけど、話していいかしら?」
アルヴェードは首を傾げたが、同時に興味の視線を向けてきた。
「何か?」
「セブレーノ、結婚してた」
「まあ、俺たちより年上だ。結婚してもおかしくないだろう」
「そうよね。その相手に私、驚いちゃったのよ」
「誰とセブレーノが?」
「ティコラセーヌよ」
アルヴェードの目が見開かれた。
「何と言う縁だ」
「自惚れた言い方だと、私たちが結んだような物ね?」
「確かに、な」
それから、エリザータとアルヴェードは、昔話や世間話に花を咲かせた。
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