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エピローグ
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しおりを挟む「倫太郎さん、また本を読んでいたんですか。今日は天気も良いですし、何処かへ出掛けましょうよ」
大学の春休みに入り、僕は倫太郎のアパートを訪ねていた。
倫太郎は今月の頭に大学を卒業し、来週から採用された銀行へと入社予定だ。
一度諦めようとした教師になるという夢だが、やはり捨てきれなかった様で働きながらも教員免許の勉強は続けていくようだ。
その真っ直ぐな姿がなんとも彼らしいと、僕は密かに喜んだ。
倫太郎は卒業してから、空き時間には図書館で勉強をしたり、ボロ家で古い小説を買い漁り家に籠って読み耽っている様だ。
僕の連絡にも気づかない程に没頭して読んでいる時もあるようで、五日も連絡が取れなかった時は流石に心配になり、アパートまで来て安否確認をした程だ。
変わらない彼を見ていると安心すると共に、僕達を取り巻いていた環境が変わってしまった事についての不安感が、より一層重く心にのし掛かる。
あの事件から九ヶ月近く経とうとしていた。
長崎県の山奥にある別荘で起きた殺人事件は、一時期世間を騒がせる程大きく報道された。
女子大生が起こした殺人事件を、テレビの中の人達は面白可笑しく取り上げる。
しかし皮肉な事にそのお陰もあり、過去に起こった美波の母親の事件が再捜査され、犯人蔵匿及び証拠隠滅の罪で烏間秀治が逮捕された。
父親が逮捕された事もあり、慎二は大学に居づらくなった様で、卒業を前に大学を辞めてしまった。
推理サークルメンバーは、僕と倫太郎、荒井、黒澤の四人だけとなってしまった為、倫太郎が卒業すると同時に廃部となった。
寂しくないと言えば嘘になるが、仕方がないという事も分かっている。
その寂しさを埋めるように僕は、空き時間を見つけては倫太郎の家を訪ねている。
そんな事を考えていると、座椅子に座っていた倫太郎が一つ大きな伸びをする。
「もうこんな時間か、お腹減ったし外にお昼ご飯でも食べに行こうか」
お昼とは言い難い時間だが、僕もお腹は空いているのでその提案に賛成した。
「何処に食べに行きますか。いつものカレー屋でも良いですし、駅前のカフェでゆっくりってのも良いですよね。あっでも今からの時間だとカフェは難しいですかね・・・。そういえば駅の反対口に新しいラーメン屋が出来たみたいですよ。今の時間なら空いてそうですし、そこに行きましょうよ」
僕は早速玄関へと向かい、靴を履くと扉を開き外へと歩き出す。
天気は良いが風は少々冷たい。暖かくなるのはもう少し先になりそうだ。
「海斗鞄を忘れてる、ラーメンは逃げないから安心して」
倫太郎が部屋の扉の鍵を閉め、僕にトートバッグを渡す。
初めてのお店に行くので、つい浮ついた気持ちになってしまって恥ずかしい。
僕達は二人並んで、駅へと歩き出す。
左手では海の生き物が縫われたトートバッグが揺れている。
春休みという事もあり近くの公園には、小さな子供が多く集まっていた。
賑やかな公園横を通り過ぎていると、倫太郎が僕の名を呼ぶ。
「お昼ご飯を食べ終えたら一緒に行きたいところがあるんだ。付き合ってくれるかい」
「勿論です、何処へ行きましょうか」
倫太郎は少年の様な笑みを浮かべた。
「真っ白なお城へ行こう」
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