お伽話 

六笠 嵩也

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第一章

今は昔、或る所。

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今は昔、

或るところに一本の大きな川が流れておりました。

その大きな川を挟んで三つずつ、合わせて六つの村がありました。
都から離れた辺境の地には、兎角変わった習慣や言い伝えがあるもので、それ等は傍から見れば奇妙奇怪なものではありますが、他方と交わる事の少ない土地であれば、それ等を守りながら生きてゆくのが定め。
少々窮屈ではありますが、それが暮らしを守る知恵と言うものであり、いつしかそういったことが大きな影響力を持つようになるのは否めない事なのでありました。


今は夏。

真っ青に晴れた空の下、広々とした緑の田を熱い風が吹き抜けて行きます。

その遥か向こうに目をやれば、深緑色の杉林を背にして村長むらおさのお屋敷の萱葺き屋根が見えて来ました。外からの目を気にしているのでしょうか。ぐるりと高い塀を廻らせて、その中を窺い知ることは出来ませんが、立派な佇まいであることは屋根の大きさから見てとれましょう。

お屋敷の敷地の中に足を進めましょう。

門をくぐり抜けて庭に出ると芙蓉の花が咲いています。シオカラトンボがスイッと合間をすり抜けて、庭の奥へと飛んでいくのが見えます。追いかけるように視線を移すと、庭を仕切るように生垣があり、その向こうにもまた芙蓉の花が咲いておりました。

庭の奥に進むにつれて、深い杉林を通り抜けて来た涼しい風がほんのりと香り、他とは少し違う空気を醸し出しています。

奥に小さなお堂がありました。

寺社でも無いのに敷地内に堂を建立するなど少々変わっております。長閑な村には不釣り合いな高い塀を立てる理由ががここにあるに違いありません。
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