お伽話 

六笠 嵩也

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第四章

4-4★

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「そぅ、おらのこと、ちゃぁんと抱いてくだせ。ふふっ…今度こそはおらの中においでよ。だいじょうぶだから!」

佐吉はゴクリと唾を飲んだ。寝乱れた単衣から上気した裸体を半ば覗かせ、少し気怠そうな眼差しで鈴虫が微笑みかけている。その艶めかしい微笑みは理性を破壊するには十分すぎて、今すぐにでもその細い手首を握りしめ、甘い吐息を吐くその口唇にむしゃぶりつきたい。
しかし、佐吉はその衝動をグッと堪えた。鈴虫から誘いをかけてくれるのは佐吉にとって嬉しい事ではあるが、そうかと言って立て続けに体力を消耗するようなことを鈴虫にさせても良いものなのだろうかと、やはり不安になってしまったからだ。
佐吉は無意識に眉間に皺を寄せた。この板挟みになった気持ちを表す言葉がなかなか出て来ない。佐吉が口を開いたまま言葉を探しているうちに鈴虫は気まずそうに目を伏せてしまった。

「…さ…さきっさ、立て続けはキツイか?」

「いや、そんなことはないよ。あ、えっと、何でもない。」

「そか…?」

「う~ん…あのね、お鈴ちゃん、やっぱりうつ伏せになってくれる?顔が見えないのは嫌かも知れないけれど、お鈴ちゃんが怪我をするのは一番いけないことだ。やっぱり嘉平様に教わった通りに時間を掛けて体を慣らそう。さぁ、もう一度、ちゃんと指が三本入るか試そうか?」

「さきっさん、手順を気にしていたの?おら、だいじょうぶだよ、ちゃんと上手に力を抜けるもん。それより、ほんとは…」

鈴虫は口をツンと尖らせて少々ご不満の様子。佐吉はその口唇を指の腹で嗜めると、俯せになるように手を添えた。お互いの顔が見えない体位にご不満なのは理解しているが、大切な観世音菩薩の現身の身体を預かるからには傷を付けない事が最優先になる。何か間違いを起こして嘉平からの信頼を失うことだけは絶対に避けたいという思いも強い。ならば、鈴虫の気持ちとの落としどころはどこだろうか。

「俺はすずのことを壊さないように大切に抱きたいんだ。でも、すずがそう言うなら分かったよ。指で広げられるの嫌なんだよね。」

「……。」

「背中側から全部、すずのことを包み込んでいるのは俺だから…ね、呼吸、忘れないでね。ゆっくり…ゆっくり…そう…緊張しないで……」

「……。」

香油の壺の蓋を開けると甘い香りが鼻を擽る。その香りを吸い込んで、鈴虫が佐吉に分かりやすいように音を立てて呼吸を始める。佐吉は扱いて固さを持たせると鈴虫の後孔に押し当てた。無理の無いように、安全を第一に、嘉平から重ね重ね言いつけられた言葉を反芻しながら、ゆっくりと体重を掛ける。

「アァァッ!…イッ……ハァ…ふぅっ…」

「あっ、ご、ごめん!ちょっとまってね、もう少し時間をかけて慣らそう?やっぱりもう一度横になって。」

「ち、違う!おら、痛くてもいいから!…して!」

あれこれと余計な事ばかりを考えて動きの止まってしまった佐吉に痺れを切らして鈴虫がいつになく大きな声を出した。その瞬間、佐吉は初めの日を思い出す。そう、あの時も今も同じで心に迷いがあるのは佐吉の方だ。腰が引けてしまった佐吉を鈴虫が手を後ろに回して引き留めた。

「してッ!さきっさ…おねがい、おねがい…やめないで!かまわずに!」

「…す、すず…ちゃん…?」

「さきっさん、ほんとは…こわいのか……!」

「えっ?」

「こわいのか?…もう、さきっさんが出来ないならおらがやる。」

鈴虫はキッと歯を食いしばると膝をつき、恥じらいを知らない獣のような体勢で自らの秘所を突き出した。振り返った鈴虫の顔は今までに見た事が無いような悲しげな表情をしている。佐吉は驚いて鈴虫の背中から身を離した。その隙に鈴虫が呆然とする佐吉を逆さに押し倒し、露わになった腰の上に陣取る。佐吉の熱く怒張した性器を掴んで自分の尻の穴に当てがうと、こんな体がまだ性的な対象として見られていると言う奇妙な安堵感をおぼえるから不思議だ。鈴虫はその熱と硬さを信じて、ギリギリと力尽くで楔の上に腰を落として自ら体を抉じ開けた。
鈴虫は自分が男の体に跨って腰を振って見せるなんてありえないと思っていた。香油の滲みた単衣の裾を胸元までたくし上げ、自分が尻に咥え込んでいる男を見下ろすと、何故だか涙が溢れて来る。愛していても心は二つ。不器用な者同士、全てが上手く伝わるわけではない。鈴虫はそんな顔を見せたくなくて、咄嗟に涙を湛えたまま何も無い天井を見上げた。

「お、お鈴ちゃん!?…泣いてるの?」

「……。」

佐吉の問いに答える事も無く、鈴虫は膝の屈伸を使って跳ねるかのようにして注挿を始めた。ゆっくりと呼吸を合わせる事などとうの昔に忘れている。体の自重で貫かれ、内臓がぐしゃぐしゃに掻き混ぜられるような感覚に狂いそうになりながら自らを激しく犯し続けるだけ。ヌチャヌチャと油が粘膜に纏わりつく音と、めちゃくちゃな息遣いが鈴虫の世界を塞いでいく。

「アァァッ……おねがいだ、下から突き上げて…ハァ…ハァ…ァッ…ハァハァ…アァッ…ンッ……」

「…ぇ、すず…鈴ちゃん…ダメだ…ダメだよ。奥の窄まりを越えて入れちゃダメなんだよ。」

「ぃやッ!お、おねがい!もっと…アァッ…もっと!もっと奥まで入れてッ!一番奥まで入れてくだせぇッ!…アァァッ!…さきっさ…もっと、おねがい!もっと…アァッ…ンッ…もっと深く突いてよ…!…さきっさ…やっぱり、こわいのか?こわいのか!!!この体が…こわい…の…か…!」

最後は叫びに近かった。鈴虫がガクッと項垂れると佐吉の上に大粒の涙が降り注いだ。そしてそのまま鈴虫が佐吉の胸へと崩れ落ちる。絶頂に達するよりも先に鈴虫の体力が尽きたのだ。太腿が震えてもう動けない。それなのに中途半端に燃え残った情欲と歯痒くも切ない気持ちは鈴虫の疲れ切った体の中で空回りし続ける。佐吉が鈴虫の体を布団の上に降ろして抱き締めると、しゃくり上げながら鈴虫がぽつりぽつりと心を漏らしはじめた。

「…おらのこと…みんなして腫物みたいに扱って…さきっさもこわいんだろ。…おら、あんなに血がいっぱい出て壊れちまったんじゃないかって。もう、おら…赤ちゃん産めねぇかもしれね……腹の中なんて見えないし…分かるのは、おらの体の中を知ってるさきっさんだけ…なぁ、さきっさ…おらの体の中はどうなってるんだ?…おしえてよ…」

「そんなこと…俺は…俺はただ…怪我させたくないから慎重にしたいだけだよ。でも、お鈴ちゃん、雪虫さんを信じるって言ってたよね?」

鈴虫がくしゃくしゃと頭を横に振る。そうとでも思わなければ生きているのが辛すぎるのだと分かって貰えないのか。最近やけに喜一郎が優しいのも何か隠し事があるように思えてくるし、夏の初めに二日ばかり盛りが付いて喜一郎に堂に閉じ込められて以来、本来ならば二度は来て良いはずの盛りが未だ無いのは数えるのが得意ではない鈴虫にだっておかしい事だとわかる。不安な気持ちを何処へ持ってゆけばいいか分からずに雪虫に預けてみただけだ。

「ねぇ、お鈴ちゃん?怖がってるのはお鈴ちゃんの方だよね。もう怖くなくなったって言うけど、そんなに簡単な事じゃないって俺にだって見当はつくよ。」

「こわくないもんッ!こわがっておらを抱くのを嫌がってるのはさきっさんだもん。」

「わかった、わかったから泣かないで。中に…奥の方へ放つよ…いいね?痛がっても止めないからね。」

鈴虫は小さく頷くとギュッと目を瞑った。自分から求めたはずなのに深い部分の痛みの記憶に体が震える。記憶にある限り、最奥の壁の更にその先を責められたのは嘉平による張り型のお仕置き以来だ。

「すず、自分の手で自分のお股をちゃんと弄って…俺ひとりで達するのは嫌だからね。それと、俺だってすずの体が心配だし、どうなってるのか知りたい。だからどんな感じなのかちゃんと言葉で伝えて。」

「あぁぁ…さきっさ…そんなぁ…おら、恥ずかしい……」

「俺達の間に隠し事は無しだよ。」

くちゅっ…と淫靡な水音を立てて敏感な粘膜が触れあう。ひとたび開いた体は多少緊張していても負担なく呑み込んでくれるはず。佐吉は鈴虫の両膝の後に腕を回して脚を持ち上げるとゆっくりと体重を掛けた。佐吉は鈴虫の呼吸を聞きながらゆっくりと、それでも止めることなく鈴虫の望む最奥の壁まで一息に押し込むつもりだ。
佐吉の胸の下で鈴虫が甘く切ない声を上げた。骨盤の中の臓物を圧迫しながら熱い楔が体の奥へと入って来ると、通過して行く部分がじわじわと熱を持つのを感じる。冷たく無機質な責め苦とは違う生身の愛撫はやはり心地良い。体の感覚に意識が集中すると頭で考える事が出来なくなってきた。怖かったはず、痛かったはず、それらを全て塗り替え、愛する人からもらったこの快楽が全神経を支配してゆく。恥じらいは意識の中から薄れ、息を吐くのと同じくして自然と言葉が出た。

「…さきっさ…どうしよぅ…きもちいぃ…アァッ…お腹の中、なんか切ない感じ…背中からしびれが駆け上がってくるみたい……どうしよ…きもちいいよ…ンッ…アァァッ…すごいッ……」

「…あぁ、俺も気持ちいいよ…ねぇ、ここは、どう?…前はあんまり気持ち良くないって言ってた…ここ、このしこりになってるところ。」

「ン…ンッ…きもちいい…かも…まえよりきもちいい…おらの竿の根元の辺りに響いてお股いじらなくても気を遣ってしまいそう…」

「……そ、そう…そうなんだね…」

指二関節程の深さにある小さなしこりは、回数を重ねるごとに感じやすくなるだろうと嘉平から言われていたが場所だ。どんな答えが返って来ようとも受け止める覚悟はしていたが、佐吉以外との交わりで回数を稼いだ成果が発揮されてかなり感じやすくなってしまっているとは、問うた事をやはり後悔してしまいそうだ。まぁ、だがこれで聞かずに悶々として過ごすよりは良かったと踏ん切りをつけるしかない。

「…なぁ、おくは…さきっさ…おくは壊れてねぇか……」

「…奥…うぅぅ…わからない、まえ遣った時との違いが…わからん。多分、変わってないよ。」

「さきっさ…ん…もっと、おく…おらの子袋があるのはもっとおくだ…」

鈴虫がそっと手を伸ばして佐吉の頬に触れる。そして目と目を合わせると一瞬ニコリと笑ってみせた。


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