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4章
4章38話 救助
しおりを挟む「薄汚い淫売どもめ」
そう吐き捨てながら、沙月さんは地面に倒れこんだミカさんを足先でツンと蹴った。
「無事か?」
「は、はい……あっ」
二人の女子高生サキュバスの責めから唐突に開放された僕はしばらく放心していた。
「うぅ……」
「大変な目に遭ったな。可哀想に。――私だ。街中で一般人を襲っていた淫魔二名を確保した。移送願う」
沙月さんはスマホでどこかに連絡しながら、周囲に散らばった僕の服や荷物を集めて持ってきてくれた。
その間に僕は手早く衣服を整えた。
「君は、以前スメラギ・サリナと一緒にいた少年だな」
「はい……」
「やはりクラブの関係者だな?」
「……はい」
ここまでくると隠し通すことはできない。
僕は潔く認めた。
「確認しておくが、君は未成年だな?」
「……はい」
「……奴ら、ついにタブーに手を出したな。従順に振舞っても所詮は盛ることしか頭にない犬畜生どもだったか。それにしてもなぜリスクを冒してまで君を……? 君、ランクはなんだ?」
「ランク……」
「教えられていないか? 奴らが気に掛けるということはシルバー……もしかするとゴールドの可能性もあるな」
……実はプラチナだけど、それを伝えても大丈夫なのか分からなくて僕は黙った。
「ということはあのスメラギ・サリナもやはり……君、奴がどういう女か知っているな?」
「……」
「手懐けられたか。それともまさか……君、奴を購入していないだろうな?」
「…………」
気まずそうに沈黙を貫く僕を見て、沙月さんの表情はどんどんと険しくなっていった。
はっきり言わない僕に怒っているのかと内心でビクビクしてたけど、どうやら沙月さんの怒りは僕じゃなくサキュバスに向けられているようだった。
「……君、名前は?」
「……小作清太、です」
「ありがとう清太。私は斎賀沙月という」
沙月さんは地面に座り込んだ僕のためにしゃがみこんで視線を合わせてくれた。
「清太、よく聞くんだ。君はまだ子供だ。恋愛や……性行為にも興味があるだろう」
まるで先生やお母さんのように、優しく諭すような口調で僕に静かに語り掛ける沙月さん。
「こいつらは確かに見てくれはいい。君はこいつらに甘い言葉を囁かれ、快楽を与えられ、心を許しているかもしれない」
「……」
「だが今日の一件で分かっただろう? こいつらはただ性におおらかなだけの気のいい女たちじゃない。もっと邪悪な存在なんだ。私は仕事柄、こいつらに人生を狂わされて破滅してきた男たちを何十人も見てきた」
「……」
反射的に、そんなことはないと反論しそうになるのを抑えた。
それが僕の、そうであってほしいという願望に過ぎないと自覚できたからだ。
その時点で僕は沙月さんの言う通り、無自覚の内にサキュバス達に味方するようにほだされてしまっていた。
「清太、奴らはいずれ君に『キャストを購入しないか』と誘いを持ち掛けてくるだろう」
「……っ」
もう既にサリナさんを購入しているとは言えなかった。
「もし誘われても絶対に乗るな。購入だの所有権だの、男に有利な条件かのように提示してくるが、それらは全てまやかしだ」
「まやかし……?」
「契約上は確かに男側に有利な条件になっている。だが実際のところ、やつらに魅了された男は女からの要求を拒めない。行為中の昂った状態にでも話を持ち掛けられたら、まず無理だ。実質的に物事の主導権は全て奴らにある」
「……」
……そ、それは分かる気がする。
実際、サリナさんに何かを真剣にお願いされて断れる自信がない。
しかもエッチの最中にお願いなんてされたら……うん、確かに無理だ。
「いいか清太、もう奴らとは関わるな。これ以上は本当に取返しがつかなくなる。わかるな?」
「……はい」
「いい子だ。クラブにも決して立ち入るな。安心しろ、今日の一件を受けて、必ず管理局が動くだろう。いや、私が動かしてみせる。そうなればあのクラブは終わりだ。もうじき、君を必ずあのクラブから解放してみせるから待っていてくれ」
そう言って優しく僕の頭を撫でる沙月さん。
……この人は、本当に心から僕のことを心配して言ってくれてるんだというのが伝わってくる。
「それじゃあもう行きなさい。私はこいつらを管理局に引き渡す仕事が残っている」
地面に倒れたミカさんとマリさんの二人を見ながら言う沙月さん。
僕は気まずそうに沙月さんから視線を外しながら路地裏を歩く。
「……あの」
それでも最後に一言だけ言っておかなければならないと、沙月さんの方を見ながら言った。
「ありがとうございました。助けてくれて」
「当然のことをしたまでだ」
そっけなく言う沙月さん。
口調は淡泊だったけど、でも最後に彼女が見えたかすかな笑顔はとても優しいものだった。
「ただいま」
サリナさんの家に帰宅。
戻るべきか少し迷ったけど、さすがに何も言わずに消えるのは失礼だからやめた。
この先どんな決断をするにしても、一度サリナさんとはしっかりと話し合う必要があると思った。
「おかえりなさい」
サリナさんは既に帰宅していて僕を待っていた。
「あの、サリナさん……少しお話が」
「あ、ごめん。先に私からいいかしら」
僕の言葉を遮って、サリナさんがずいと一歩僕に歩み寄ってきて言った。
「ねえ清太、今日、あのクラブに遊びに行かない?」
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