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第3章
恋人としてのデートです
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「……よし」
鏡の前で、前髪を整える。今日は気合を入れて、髪をコテで波ウェーブに巻いてみた、服装は白いフリルの付いたブラウスに、淡いブルーグレーのフレアスカート。少し甘めのファッション。そこにこの間蓮に買ってもらった月のネックレスをつける。
今日は彼と約束した、パークランドのデートの日だ。
「準備できたよ」
声をかけながら階段を下りると、蓮がソファから立ち上がって、こちらに歩み寄ってきた。
黒のカラーシャツに、チャコールグレーのスラックス。ラフなのに、どこか品のある着こなし。髪はいつも通り、無造作なままだけど、それすらも“らしい”と思える。
彼の前に立ち、少し上目遣いで見つめると、ふっと表情が緩む。
「すげーかわいい」
下がっていたネックレスを、そっと手に取られる。
「……ここ1番の、デート?」
片眉を上げて、ややいたずらっぽく尋ねられる。
前にその時につける、って言っていたから。
「そ。大切なデート」
そう返すと、優しく抱きしめられた。頬に、何度も音のない口づけが落ちてくる。
「ちょっと。化粧落ちちゃう」
口を尖らせて言ってみるけど、頬の奥が熱くなるのを止められなかった。
***
車に乗る時に助手席を開けてくれた。いつもはそんな事しないのに。妹じゃなくて、ちゃんと彼女として扱われているのが嬉しい。
彼と思いが通じてから、もうすぐ1ヶ月になる。交際0日での同棲みたいなものだったけれど──。毎日は甘く、過剰なほどに満たされている。
特に、蓮の愛情表現はとにかく濃い。私にずっと想いを寄せていたのもあってか。甘やかし方も、甘え方も、正直言って尋常じゃなかった。自分で言うのもなんだけれども、よく我慢してたなって思う。
かつては無表情で無口だった人が、今では頻繁に笑うようになって。「やっぱり咲は美人だな」とか「ほんと、きれいだ」とか。そんな言葉を帰宅のたびに惜しみなくくれる。
元々海外で暮らしてたし。最近までオランダにいたから。根は情熱的なのかもしれない。
情熱的、といえば。
ベッドでも──、いや、時にはそれ以外の場所でも。ほぼ毎日触れ合ってる。生理の時もいちゃいちゃはしてた。
蓮と、こんな関係になるなんて──。昔の自分じゃ、想像もできなかった。
けれど今、胸の奥が少しだけざわつくのは。
母に、まだ話せていないから。
この前電話した時、なんかぎこちなくなっちゃったし。どんな顔されるだろう。やっぱり反対されちゃうのかな。そんな不安ばかりが胸をよぎって、言葉にできずにいる。
そのせいか、この頃夜中に目が覚めることが増えた。夢から目覚めたあとの、寝ている蓮の顔を見て。幸せなのに、どうしてと、ふと思う。
「……しばらくかかるから寝ていいぞ」
ハンドルを握りながら、サングラス越しに蓮が言った。
「ううん。……すごく楽しみ。一昨年友達と行ったっきりだから」
「そうか」
「うん。蓮は?いつぶり?」
「そうだな……。10歳の時カルフォルニアから帰国した後、1回行ったっきりだな。父さんと、……母さんと」
「そんな昔?」
蓮はぼんやりと答えた。あまりに昔なのでびっくりする。今彼は27歳だから17年ぶり、って事になる。
本当の“お母さん”の話は、彼から今までほとんど聞いたことがない。母から離婚は浮気が原因だったとしか、聞いてはいない。私自身も、本当の父親のことを話す気になれなかった。
「……え、彼女とも言った事ないの?」
「ないな」
「そっか」
その一言が嬉しかった。私が1番最初だ。
次は、……ないよね。
でも、この先。私たちどうなるんだろう。
「咲は?」
「え?」
「咲は彼氏と行った事あるのか?」
一瞬ぼうっとしていたら、不意に尋ねられた。
デートといえば、ランドってイメージがあったので。当然行ったけども。
「あー……うん、まあ。今日は私がちゃんとエスコートするから!ランチも予約済みだし」
「ああ。全然わからないから、頼む」
蓮の声が物凄く低かったから、はぐらかしてしまった。
***
ゲート前の広場は、すでに多くの来園客でにぎわっていた。私たちは朝早く出たつもりだったけれど、土曜日という事もあって、家族連れやカップルでいっぱいだ。
「すごい人……。やっぱり、人気あるね」
「……あぁ」
開園を待ってる間は、一緒にスマホを覗き込んでルートを考えたりしていた。その間蓮が私の頭に顔を乗せて抱きついたり、腰を引き寄せたりする。家では普通だったけれども、外でこうされるのは初めてで。なんか本当恋人、って感じで。無駄にドキドキしてしまった。
入園時間になりゲートをくぐり抜けた瞬間、まるで別世界に足を踏み入れたような気分になる。色とりどりの花壇、陽の光を反射する噴水、思わず「うわぁ」と声を漏らしてしまった。
「……咲、あれ」
ふと隣を見上げると、蓮が少しだけ視線をそらしながら、ショップのディスプレイを指さした。そこにはランド名物の“耳付きカチューシャ”がずらりと並んでいる。
「……つけたいか?」
唐突にそんなことを言われて、思わず目を見開く。
「えっと……つけたい、けども」
思わずモジモジする。
密かに、カップルで付けるのに憧れがあった。元カレは恥ずかしがって、つけてくれなかったから。
いや、蓮も絶対つけてくれなさそう──。でもダメ元で聞いてみたい。
「2人でつけたいなー……なんて」
わたしがそう提案すると、蓮の目がほんの一瞬、大きく見開かれた。けれどすぐに、ふっと優しく笑った。
「あぁ。一緒につけよう?」
「え!いいの!?」
絶対キャラじゃないと思ってたのに。2人してうーんうーん悩んで。くまのケイティとミミィちゃん耳にした。
その後は手を繋いで、アトラクションを幾つか回った。
***
ランチは園内のホテルレストランで予約していたテラス席へ。窓の外に広がる庭園を眺めながら、少し大人びたランチコースを楽しんだ。
「やっぱりこういうところ、すごく似合うよね」
私がそう言うと、蓮はナプキンを折りながら答えた。
「うん?……まぁ、多少かっこよく見せたいからな、咲の前だと」
言葉に詰まる。あまりにさらっと言われて、なんか悔しくて半目になる。蓮は元々育ちがいいから。こういう時のマナーとか完璧だ。
紅茶を飲んだところで、蓮が少しだけ身を乗り出してきた。
「咲、この頃夜中起きるだろ」
「……え?」
「なにか、悩み事とかあるのか?」
気づかれていた。彼の目は、真剣だった。
言うべきか、黙っているべきか──。
重い口を、ゆっくりと開く。
「……いつお母さんに話そうかって」
そう告げた途端、蓮のまぶたがわずかに揺れた。
「……まだいいんじゃないのか?」
「そうかな?」
「あぁ。……余計な心配かけるし」
蓮はこちらを向いたまま、呟くように言った。
「うん。……そうだよね」
「あぁ。そう心配するな」
小さく笑って、目を伏せる。テラスの向こうで、子どもたちのはしゃぐ声が聞こえた。楽しそうな音なのに、胸の奥が少しだけ苦しくなる。
そうだよね。まだお母さんたち転勤中だし。
でも、いつ。どこのタイミングで?
そう思い始めると心がざわざわして。心の奥底では罪悪感を感じてるって、改め実感してしまった。
***
空が暗くなり、風がほんの少しだけ肌寒い。ライトアップされた城の前には、もうたくさんの人が集まっていた。
「なんか……夢みたい」
私はぽつりと呟いた。
「夢?」
「うん。こんなふうに蓮と並んで、パレード見る日が来るなんて、思ってなかったから」
蓮は少し黙ってから、小さく息を吐いた。
「……俺もだよ」
その声が、静かに胸に染みてくる。やがて、音楽が一段と大きくなり、パレードが始まった。
きらきらと光るフロートがゆっくりと近づいてくる。キャラクターたちが笑顔で手を振り、リズムに乗って踊り、ファンファーレが空を満たしていく。
思わず食い入るように見つめる。けれど、ふと横を向くと、蓮がじっと私を見ていた。
「……どうしたの?」
視線がぶつかる。手をそっと握られた。
「咲が、すごく楽しそうな顔してるから。綺麗で見とれてた」
手の中の温度が、じわりと上がっていく。思わず俯く。
「……なに、それ。ずるいよ」
「ほんとうだから」
ふっと笑った彼の瞳が、パレードの光に照らされて、少しだけ幻想的に見えた。
「……咲」
「ん?」
呼ばれて見上げた先に、彼の顔がすぐ目の前にあった。
ほんの一瞬の間。触れるだけのキス。
「……っ」
胸の奥が跳ねるように高鳴って、言葉が出てこなかった。気づけば、手を握る力が強くなっていた。
その後すぐ彼の視線はパレードに戻っていたけれど。少しだけ、照れているように見えた。
「ずっと、……一緒にいような」
そう言われて。静かに頷く。
ずっとずっと、今日みたいな日が続いたらいいのに。
心の奥でそう思いながら、私はもう一度彼の肩に寄り添った。
***
「なんか、今日楽しすぎて。帰りたくなくなっちゃった」
助手席のシートにもたれながら、窓の外に流れる街の光をぼんやりと見つめて呟いた。あと、30分もすれば家に着く。
「帰っても一緒にいるのに?」
「うん。夢が覚めちゃうみたいで」
蓮は息つくように笑った。夕食であの日以降禁止していたお酒を飲んで。ふわふわした気持ちでそう言った。
次の瞬間、蓮の指先がウィンカーを出していた。車はまるで何かを決めていたかのように、ひとつ角を曲がる。たどり着いたのは、少し外れにある静かな場所。建物の前に立つネオンが、遠慮がちに淡く光っていた。
ここって。もしかしなくてもラブホテルだよね──。気づいた瞬間、鼓動が跳ねる。
けれど蓮は何も言わず、ゆっくりと車を停めて、エンジンを切った。
「……咲」
静かな声だった。
「どうする?帰るか?」
彼はハンドルに身を乗り出すと、目を細めた。
蓮は、時々意地悪だ。
「さっき帰りたくないって言ったでしょ。……あ」
頬を取られて覆い被さるようにキスをされる。
さっきよりももっと深くて、情熱的なキス。
また、夢の続きを見ているみたいだった。
鏡の前で、前髪を整える。今日は気合を入れて、髪をコテで波ウェーブに巻いてみた、服装は白いフリルの付いたブラウスに、淡いブルーグレーのフレアスカート。少し甘めのファッション。そこにこの間蓮に買ってもらった月のネックレスをつける。
今日は彼と約束した、パークランドのデートの日だ。
「準備できたよ」
声をかけながら階段を下りると、蓮がソファから立ち上がって、こちらに歩み寄ってきた。
黒のカラーシャツに、チャコールグレーのスラックス。ラフなのに、どこか品のある着こなし。髪はいつも通り、無造作なままだけど、それすらも“らしい”と思える。
彼の前に立ち、少し上目遣いで見つめると、ふっと表情が緩む。
「すげーかわいい」
下がっていたネックレスを、そっと手に取られる。
「……ここ1番の、デート?」
片眉を上げて、ややいたずらっぽく尋ねられる。
前にその時につける、って言っていたから。
「そ。大切なデート」
そう返すと、優しく抱きしめられた。頬に、何度も音のない口づけが落ちてくる。
「ちょっと。化粧落ちちゃう」
口を尖らせて言ってみるけど、頬の奥が熱くなるのを止められなかった。
***
車に乗る時に助手席を開けてくれた。いつもはそんな事しないのに。妹じゃなくて、ちゃんと彼女として扱われているのが嬉しい。
彼と思いが通じてから、もうすぐ1ヶ月になる。交際0日での同棲みたいなものだったけれど──。毎日は甘く、過剰なほどに満たされている。
特に、蓮の愛情表現はとにかく濃い。私にずっと想いを寄せていたのもあってか。甘やかし方も、甘え方も、正直言って尋常じゃなかった。自分で言うのもなんだけれども、よく我慢してたなって思う。
かつては無表情で無口だった人が、今では頻繁に笑うようになって。「やっぱり咲は美人だな」とか「ほんと、きれいだ」とか。そんな言葉を帰宅のたびに惜しみなくくれる。
元々海外で暮らしてたし。最近までオランダにいたから。根は情熱的なのかもしれない。
情熱的、といえば。
ベッドでも──、いや、時にはそれ以外の場所でも。ほぼ毎日触れ合ってる。生理の時もいちゃいちゃはしてた。
蓮と、こんな関係になるなんて──。昔の自分じゃ、想像もできなかった。
けれど今、胸の奥が少しだけざわつくのは。
母に、まだ話せていないから。
この前電話した時、なんかぎこちなくなっちゃったし。どんな顔されるだろう。やっぱり反対されちゃうのかな。そんな不安ばかりが胸をよぎって、言葉にできずにいる。
そのせいか、この頃夜中に目が覚めることが増えた。夢から目覚めたあとの、寝ている蓮の顔を見て。幸せなのに、どうしてと、ふと思う。
「……しばらくかかるから寝ていいぞ」
ハンドルを握りながら、サングラス越しに蓮が言った。
「ううん。……すごく楽しみ。一昨年友達と行ったっきりだから」
「そうか」
「うん。蓮は?いつぶり?」
「そうだな……。10歳の時カルフォルニアから帰国した後、1回行ったっきりだな。父さんと、……母さんと」
「そんな昔?」
蓮はぼんやりと答えた。あまりに昔なのでびっくりする。今彼は27歳だから17年ぶり、って事になる。
本当の“お母さん”の話は、彼から今までほとんど聞いたことがない。母から離婚は浮気が原因だったとしか、聞いてはいない。私自身も、本当の父親のことを話す気になれなかった。
「……え、彼女とも言った事ないの?」
「ないな」
「そっか」
その一言が嬉しかった。私が1番最初だ。
次は、……ないよね。
でも、この先。私たちどうなるんだろう。
「咲は?」
「え?」
「咲は彼氏と行った事あるのか?」
一瞬ぼうっとしていたら、不意に尋ねられた。
デートといえば、ランドってイメージがあったので。当然行ったけども。
「あー……うん、まあ。今日は私がちゃんとエスコートするから!ランチも予約済みだし」
「ああ。全然わからないから、頼む」
蓮の声が物凄く低かったから、はぐらかしてしまった。
***
ゲート前の広場は、すでに多くの来園客でにぎわっていた。私たちは朝早く出たつもりだったけれど、土曜日という事もあって、家族連れやカップルでいっぱいだ。
「すごい人……。やっぱり、人気あるね」
「……あぁ」
開園を待ってる間は、一緒にスマホを覗き込んでルートを考えたりしていた。その間蓮が私の頭に顔を乗せて抱きついたり、腰を引き寄せたりする。家では普通だったけれども、外でこうされるのは初めてで。なんか本当恋人、って感じで。無駄にドキドキしてしまった。
入園時間になりゲートをくぐり抜けた瞬間、まるで別世界に足を踏み入れたような気分になる。色とりどりの花壇、陽の光を反射する噴水、思わず「うわぁ」と声を漏らしてしまった。
「……咲、あれ」
ふと隣を見上げると、蓮が少しだけ視線をそらしながら、ショップのディスプレイを指さした。そこにはランド名物の“耳付きカチューシャ”がずらりと並んでいる。
「……つけたいか?」
唐突にそんなことを言われて、思わず目を見開く。
「えっと……つけたい、けども」
思わずモジモジする。
密かに、カップルで付けるのに憧れがあった。元カレは恥ずかしがって、つけてくれなかったから。
いや、蓮も絶対つけてくれなさそう──。でもダメ元で聞いてみたい。
「2人でつけたいなー……なんて」
わたしがそう提案すると、蓮の目がほんの一瞬、大きく見開かれた。けれどすぐに、ふっと優しく笑った。
「あぁ。一緒につけよう?」
「え!いいの!?」
絶対キャラじゃないと思ってたのに。2人してうーんうーん悩んで。くまのケイティとミミィちゃん耳にした。
その後は手を繋いで、アトラクションを幾つか回った。
***
ランチは園内のホテルレストランで予約していたテラス席へ。窓の外に広がる庭園を眺めながら、少し大人びたランチコースを楽しんだ。
「やっぱりこういうところ、すごく似合うよね」
私がそう言うと、蓮はナプキンを折りながら答えた。
「うん?……まぁ、多少かっこよく見せたいからな、咲の前だと」
言葉に詰まる。あまりにさらっと言われて、なんか悔しくて半目になる。蓮は元々育ちがいいから。こういう時のマナーとか完璧だ。
紅茶を飲んだところで、蓮が少しだけ身を乗り出してきた。
「咲、この頃夜中起きるだろ」
「……え?」
「なにか、悩み事とかあるのか?」
気づかれていた。彼の目は、真剣だった。
言うべきか、黙っているべきか──。
重い口を、ゆっくりと開く。
「……いつお母さんに話そうかって」
そう告げた途端、蓮のまぶたがわずかに揺れた。
「……まだいいんじゃないのか?」
「そうかな?」
「あぁ。……余計な心配かけるし」
蓮はこちらを向いたまま、呟くように言った。
「うん。……そうだよね」
「あぁ。そう心配するな」
小さく笑って、目を伏せる。テラスの向こうで、子どもたちのはしゃぐ声が聞こえた。楽しそうな音なのに、胸の奥が少しだけ苦しくなる。
そうだよね。まだお母さんたち転勤中だし。
でも、いつ。どこのタイミングで?
そう思い始めると心がざわざわして。心の奥底では罪悪感を感じてるって、改め実感してしまった。
***
空が暗くなり、風がほんの少しだけ肌寒い。ライトアップされた城の前には、もうたくさんの人が集まっていた。
「なんか……夢みたい」
私はぽつりと呟いた。
「夢?」
「うん。こんなふうに蓮と並んで、パレード見る日が来るなんて、思ってなかったから」
蓮は少し黙ってから、小さく息を吐いた。
「……俺もだよ」
その声が、静かに胸に染みてくる。やがて、音楽が一段と大きくなり、パレードが始まった。
きらきらと光るフロートがゆっくりと近づいてくる。キャラクターたちが笑顔で手を振り、リズムに乗って踊り、ファンファーレが空を満たしていく。
思わず食い入るように見つめる。けれど、ふと横を向くと、蓮がじっと私を見ていた。
「……どうしたの?」
視線がぶつかる。手をそっと握られた。
「咲が、すごく楽しそうな顔してるから。綺麗で見とれてた」
手の中の温度が、じわりと上がっていく。思わず俯く。
「……なに、それ。ずるいよ」
「ほんとうだから」
ふっと笑った彼の瞳が、パレードの光に照らされて、少しだけ幻想的に見えた。
「……咲」
「ん?」
呼ばれて見上げた先に、彼の顔がすぐ目の前にあった。
ほんの一瞬の間。触れるだけのキス。
「……っ」
胸の奥が跳ねるように高鳴って、言葉が出てこなかった。気づけば、手を握る力が強くなっていた。
その後すぐ彼の視線はパレードに戻っていたけれど。少しだけ、照れているように見えた。
「ずっと、……一緒にいような」
そう言われて。静かに頷く。
ずっとずっと、今日みたいな日が続いたらいいのに。
心の奥でそう思いながら、私はもう一度彼の肩に寄り添った。
***
「なんか、今日楽しすぎて。帰りたくなくなっちゃった」
助手席のシートにもたれながら、窓の外に流れる街の光をぼんやりと見つめて呟いた。あと、30分もすれば家に着く。
「帰っても一緒にいるのに?」
「うん。夢が覚めちゃうみたいで」
蓮は息つくように笑った。夕食であの日以降禁止していたお酒を飲んで。ふわふわした気持ちでそう言った。
次の瞬間、蓮の指先がウィンカーを出していた。車はまるで何かを決めていたかのように、ひとつ角を曲がる。たどり着いたのは、少し外れにある静かな場所。建物の前に立つネオンが、遠慮がちに淡く光っていた。
ここって。もしかしなくてもラブホテルだよね──。気づいた瞬間、鼓動が跳ねる。
けれど蓮は何も言わず、ゆっくりと車を停めて、エンジンを切った。
「……咲」
静かな声だった。
「どうする?帰るか?」
彼はハンドルに身を乗り出すと、目を細めた。
蓮は、時々意地悪だ。
「さっき帰りたくないって言ったでしょ。……あ」
頬を取られて覆い被さるようにキスをされる。
さっきよりももっと深くて、情熱的なキス。
また、夢の続きを見ているみたいだった。
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