追放された鍛冶師、異世界で最強の神器を作ってしまう ~国を捨てたら聖女と龍姫と精霊王に囲まれた件~

えりぽん

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第12話 王国の追手、侵攻開始

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王都へ向かう街道には、まだ冬の名残が濃く残っていた。夜明けの光がまだ冷たく、吐く息が銀色に揺れる。  
カイルたちは旅を急ぎ、森を抜ける細道を進んでいた。リアナは祈りの杖を握り、リュシアは人の姿のまま前を歩いている。  
風の香りがかすかに変わると、リュシアの耳が動いた。  
「来ている。風が血と鉄の臭いを運んでいる」  
「王国の追手か」  
カイルの声は落ち着いていたが、その目にはわずかな鋭さが宿っていた。  

昼になる前、遠くの丘に小さな黒い点が見えた。やがてそれが列を成し、旗を掲げて動いているのがわかった。  
「兵の数……五百。槍兵主体。禁呪師団も混じっている」  
リュシアが竜の感覚で呟く。  
リアナが顔をこわばらせた。「この数で辺境を……まるで戦争です」  
「いや、もうこれは“宣戦”だろう」カイルは地面に視線を落とし、川辺へと足を向けた。  

街道を外れ、浅い川を渡る頃には、遠方から太鼓の音が響き始めていた。追撃部隊が展開を完了したのだ。  
「数が多すぎます。正面からでは勝てません」  
リアナの声に、カイルは小さく頷いた。  
「わかってる。でも村を放ってはおけない。時間を稼ぐしかない」  
「カイル、怒りを燃やしてはなりません。あなたの火は優しさで出来ているんです」  
「わかってる。けど……火が燃えなきゃ鉄は打てない」  

彼は背から剣と槌を下ろし、土に伏せて構造を描き始めた。  
「……ここで迎え撃つ。地形を利用する」  
「まさか、鍛冶で戦う気ですか?」リアナが息を呑む。  
「俺は鍛冶師だ。それ以外に出来ることがあるか?」  

リュシアが笑った。「面白い。人の戦略、龍火と共に」  

*  

太陽が西へ沈み始めた頃、追撃部隊が街道を進軍してきた。  
彼らの脚を止めたのは、突如として立ち上がった鉄の壁だった。  
それは地面の奥から盛り上がるように現れ、まるで巨大な溶鉱炉が地中に潜んでいたかのようだった。  
「報告にない地形だ!何だこれは!」  
兵士たちが叫ぶ間に、鉄の壁が鈍く唸り、赤く発熱し始める。  

その上に立っていたのはカイルだった。鉄槌を肩に担ぎ、足元に淡い青の炎を散らしている。  
「これ以上、進むな」  
その声に応えるように、足元から轟音とともに炎が走った。  
焼けた地面が波のように前へうねり、先頭の兵たちが悲鳴を上げる。  

「これが……鍛冶師の戦いですか……」  
リアナが呟いた。祈りの光で村の外縁に結界を張りながら、彼の姿を見つめている。  
リュシアは背中に赤い鱗を浮かべ、低く唸った。  
「龍の火と同じ。違うのは、破壊ではなく守りに燃えているということ」  

しかし、兵たちは怯まない。禁呪師団の詠唱が空気を震わせた。  
紫の光が兵士の陣形を包み、空へ向かって光弾が放たれる。  
「撃て、撃てぇッ!」  
凶悪な魔弾が鉄壁を砕き、地面を抉った。  

カイルは返すように剣を地に突き立てた。  
「“共鳴炉”――起動」  
その言葉と同時に、周囲の地面が唸りを上げる。  
村人たちが使っていた鍛冶炉から延びる青白い筋が光を放ち、結界に繋がった。  
鉄の壁が修復され、さらに高く盛り上がる。  
「まさか……地脈を操っているのか!?」禁呪師が叫ぶ。  

カイルはじりっと歯を食いしばった。  
腕の火傷が熱を帯び、蒼白く光る。  
「火は生き物だ。叩けば形は変わるが、決して死なない」  

リュシアがその隣に立った。背中からまばゆい光輪が広がり、彼女の人の姿が一瞬で変わる。  
巨大な蒼龍の姿。鱗が夜空に輝き、翼の一振りで嵐が吹き荒れた。  
兵たちは一斉にひざを折り、恐怖の声を上げる。  

「……龍だ……!」  
「あれが噂の辺境の守護者か!」  

カイルは龍の背に跳び乗り、鍛冶槌を掲げた。  
「火を借りるぞ、リュシア」  
「存分に打て、人の鍛冶師」  
炎と風が交じり、天空に巨大な鉄塊が形成される。  
浮かぶ鉄は、まるで光そのものを溶かしたように赤熱していた。  

「これは……新しい炉を立てるってことか」リアナが涙をこらえるように呟く。  
空を裂くような閃光、雷鳴にも似た轟音。  
巨大な鉄塊が地に落ち、轟々と燃え上がる煙の中に円形の壁が完成した。  
その瞬間、禁呪師の魔法陣が破裂し、炎の渦が押し返していく。  

「退けっ!!」  
指揮官が叫ぶと同時に、後方の兵がばらばらに撤退を始めた。  
だが彼らの背に、カイルの声が届く。  
「二度とこの地を踏むな。火の守りは、貴族の命令より古い理に従う」  

兵たちが消えた後、辺りには風と静寂だけが残った。  
燃える鉄は次第に冷え、白煙となって消える。  
リュシアが息をつくように言った。  
「見事だ。あなたの鍛冶は戦ではなく、土地そのものを修復している」  
リアナがそっと結界をなぞった。「まるで火の加護がこの地に根を張ったみたい」  

「火を怖れるうちは、誰も真に持ち主になれない」カイルは槌を下ろした。  
「だけど、守るために燃やすなら……火は味方になる」  

その言葉と同時に、地面に埋まった鉄が淡く光り出す。  
無数の光の粒が夜空へ登っていった。  
それは嵐の後に残された、希望のような眩しさだった。  

*  

村へ戻ると、住人たちが一斉に迎え出た。  
「鍛冶師様方が戻られたぞ!」  
「無事でよかった……無事で、本当によかった!」  
リアナが微笑み、リュシアは誇らしげに翼を畳んだ。  

カイルは炉の前に立ち、黙って煙の匂いを嗅いだ。  
「戦いの匂いはもうたくさんだな」  
リアナが頷く。「でもまだ終わりじゃない。王都はまた兵を送るでしょう」  
「わかってる。だがあいつらが追ってくるほど、俺たちはこの火を育て続ける」  

リュシアが静かに言った。  
「次に来るのは“王”そのものかもしれない」  
「なら、その時は鍛冶師として叩き直してやるさ」  

夜風が三人の顔を撫でた。  
遠くの空では、王都の方向に不吉な光が瞬いている。  
禁忌炉が目覚めようとしていた。  
炎の理を奪い合う者たちの戦いは、いよいよ真の火蓋を切ろうとしていた。
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