異世界では役立たずと言われたが、気づけば神々に寵愛された件〜追放された俺は無自覚のまま英雄になっていた〜

えりぽん

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第1話 役立たずと呼ばれた日

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「お前のスキル、まじでゴミだな。」

その言葉が、頭の中でいつまでも響いていた。焚き火の赤い炎がゆらめく夜、仲間たちの笑い声がやけに遠くに聞こえる。俺の名はレオン。平均的な村人よりちょっと力が強くて、ちょっと頭が回る程度の人間だ。十六の歳に女神の選定を受けて授かったスキル、それが──【因果交錯】。

だが、その名を告げた瞬間から、俺の人生は下り坂を転げ落ちていった。

「因果?なんだそれ? 何の役にも立たなそうだな」

仲間の戦士ガイは笑いながら剣を振るい、僧侶メリアは肩をすくめた。勇者であるアレンが俺のことを「連れていってやれ」と言わなければ、冒険者登録さえされなかったはずだ。結局、俺は“勇者パーティーの荷物持ち”のような立場に甘んじていた。

「おい、次のポーション出して」
「はい……これで最後のひとつです」
「お前、補給忘れたのか? ほんと役立たずだな!」

ガイの怒鳴り声が鼓膜を打つ。俺は黙って指示に従いながら、拳を握りしめた。悔しくないと言えば嘘になる。けれど、あの頃の俺には言い返す勇気も、自分の価値を信じる力もなかった。

やがて、決定的な事件が起きた。

魔王軍の斥候部隊との遭遇戦。俺が持っていた地図をもとに進んだルートは、知らぬ間に迂回ルートに変わっていた。罠を仕掛けられ、半数の兵が怪我を負った。

「こいつのミスだ!」
「いや、地図にこんな罠があるなんて……」
「黙れ!奴がいなければこんなことにはならなかった!」

怒り狂ったガイが俺の胸ぐらを掴み、思いきり突き飛ばした。地面に叩きつけられたとき、俺はようやく悟ったのだ。もう、理由なんて関係ない。俺は“失敗の象徴”として、見限られたのだ。

その夜、アレンが冷酷な声で告げた。

「レオン。明日から、お前の代わりは連れていく。ここまでだ」
「……俺を追放するのか」
「誰もお前のスキルを信用していない。それが現実さ」

言葉を飲み込むように、彼は背を向けた。焚き火の光がその背中を照らし、やがて篝火のように遠ざかっていく。胸の奥に、空洞のような痛みが広がった。

***

翌朝。勇者パーティーを見送り、俺は荷物一つで森へ入った。行く当てもない。ただ、人が少ない方へ、少ない方へと足を運んだ。どこにいても、自分が“不要な人間”であるという事実から逃げたかった。

夜になり、疲労が限界に達したころ、森の奥で不思議な光を見つけた。

「……なんだ、これ」

淡い青色の光が、地面の亀裂から漏れ出ている。まるで地脈そのものが呼吸しているかのように、光の筋が揺れていた。近づくと、空気が変わった。重く、熱く、心臓を掴まれるような圧。思わず膝をついた瞬間、光が弾け——耳元に、声が響いた。

『見つけた……やっと、見つけた……』

人の声ではなかった。けれど、不思議と恐怖は感じなかった。むしろ、懐かしさに似たやさしさがあった。

「誰だ……?」
『我は“起源の女神”。因果を紡ぐ者、レオンよ』
「俺の名前を……知っているのか?」
『そなたの魂には、我が力の欠片が宿っておる。故に、他の者には見えぬ真実を視る流れにある』

めまいのような感覚が広がる。光の中に、数多の糸が漂って見えた。赤い糸、黒い糸、金色の糸——それらが複雑に絡み合い、一本の道を形づくっている。

「これ……が、因果?」
『然り。それはこの世界の“原因”と“結果”を結ぶ線。そなたのスキル【因果交錯】とは、それを編み替える力なのだ』

言葉の意味を理解できないまま、思考が白く染まった。けれど、胸の奥に確信のような熱が灯る。

(俺のスキル……本当は、ゴミじゃなかったのか)

『今はまだ未熟ゆえ扱えぬ。だが、時が来れば見えるようになるだろう。世界の真理を、変えうる力を』

光は次第に薄れ、静寂が戻った。周囲を見渡すと、亀裂は跡形もなく消え、ただ草のざわめきだけが残っていた。夢だったのかと疑ったが、目の前の地面には小さな水晶の欠片が落ちている。触れると、微かな温もりが指先を包んだ。

***

数日後。森の外れで倒れていた少女を見つけた。

黒い外套を纏い、腕には怪我を負っている。呼吸は浅く、顔色は悪い。俺は思わず駆け寄った。

「大丈夫か!」

肩を揺すった瞬間、少女がうっすら目を開けた。透き通るような藤色の瞳が、俺をまっすぐに見上げる。

「……あなた、誰?」
「ただの旅人だ。森で倒れてたんだ、手当てを——」
「私に触れたら……呪われますよ」

かすれた声で制止された。その手のひらには、黒い紋章のような傷が浮かんでいた。禍々しい魔力がそこから溢れている。

「呪いか……でも放っておけない」
「ふふ……優しい人。でも、死にますよ?」

そう言って、少女は目を閉じた。俺はその身体を抱え上げ、近くの木洞の中に運び込む。簡単な手当てをしながら、ふと彼女の首元のペンダントに気づいた。

古代文字で刻まれた紋章──“神の使徒”。

俺の胸に電流のような衝撃が走る。女神の声、因果の糸、そしてこの少女。すべてが一つの線で結ばれた気がした。

森の夜風が吹き、炎が揺らめく。俺は低く呟いた。

「絶対に……助けてみせる。誰にも“ゴミ”なんて言わせない」

その瞬間、少女の黒い紋章が淡く光を放った。青白い光が天に昇り、森全体が静まり返る。まるで、世界が一瞬息を潜めたようだった。

俺はまだ知らない。この出会いが、世界の命運を変えるほどの“因果”だったことを。

そして、追放された“無価値な男”と呼ばれた俺が、のちに神々さえ一目置く存在になることを——。

(第1話 了)
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