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第8話 村を襲う魔物の群れ
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赤い夕日が地平を焦がす頃、俺たちは荒野の先にある小さな村にたどり着いた。土色の家屋が並び、風に乗って干草と獣の匂いがする。旅の疲労が限界に近かった俺たちは、村の入り口で足を止めた。
「やっと人の気配だな」
「ここが“カルナ村”。火山への道の唯一の中継地よ」
リィナの声には安堵が混じっていた。
門番の老人に事情を話すと、快く中へ通してくれた。宿屋は質素だったが、屋根があり、温かい食事があるというだけで十分だった。
夕食を終え、焚き火の明かりで体を温めていると、リィナがふと呟いた。
「この村、少し気になるの」
「何がだ?」
「人々の目……どこか怯えてる。まるで何かを隠しているみたい」
「魔物の被害か?」
「それだけじゃない。空気が、淀んでいるわ」
外の様子を確かめると、夜空を裂くように雷光が走った。地鳴りのような低音が耳を打つ。村の外壁の向こうから、獣の唸り声が重なった。
「……嫌な予感がする」
次の瞬間、鋭い叫びが響いた。
「魔物だ! 南の林から群れが来たぞ!」
村人たちが慌ただしく走り出す。逃げ惑う子供を抱える母親、武器を手に取る若者。俺とリィナも外へ飛び出した。
夜の彼方には、黒くうごめく影の群れが見える。狼に似た獣だが、目が真紅に輝き、体から煙のような闇を吐いている。
「教団が操ってる……“穢れ”の呪いだわ!」
「数が多すぎる!」
俺は剣を構え、村の門の前に立った。周囲の因果の糸が瞬き、戦うための線が浮かび上がる。
「リィナ、結界は張れるか?」
「できるけど、長くはもたない!」
「短くていい! 村人を隠す時間だけ稼ぐ!」
リィナの詠唱が始まり、光の壁が村を包む。魔物がぶつかるたびに火花が散り、耳をつんざくような咆哮が響いた。
「よし……来い!」
俺は火霊剣ヴァルグランを抜き、一気に前へ踏み込んだ。斬り伏せた一体が炎に包まれ塵となる。その瞬間、黒い煙が周囲の魔物に吸い込まれ、さらに狂暴化させた。
「そんな……同化して力を増してる!」
「だったら……まとめて燃やすしかねえ!」
因果の糸が再び視界に現れる。炎の軌跡、魔物たちの動き、そして地形の裂け目。全ての線を繋げ、ひとつの“結果”を描く。
「この群れの行く末は――消滅だ!」
金の光が走り、ヴァルグランの刃が閃く。地面の亀裂が爆ぜ、炎が奔流のように広がった。赤黒い獣たちが次々に飲み込まれ、悲鳴とともに燃え尽きる。
しかし、炎の中心からひときわ大きな影が現れた。
四足の巨獣――牛のような頭に角を持ち、背中から鎖のような呪符を垂らしている。全身を覆う黒鉄の鱗。その瞳は人間の憎悪そのものだった。
「嘘だろ……“魔鎖獣”だ」
「上級魔物!? 祈祷師でもいなきゃ倒せない……!」
リィナの声が震える。だが、逃げれば村は終わる。俺は炎を握り直し、一歩踏み出した。
(恐れるな。俺には糸が見える。運命は選べる)
魔鎖獣の足元に幾重もの因果の線が浮かぶ。その中には、地面の深部に走る火脈の道があった。
「なら、お前の運命はここまでだ!」
俺は糸を掴み、火脈を獣の体に繋いだ。
炎が逆流し、大地ごと爆ぜた。
耳を裂く咆哮、眩い光。爆炎の渦が魔鎖獣を呑みこんでいく。しかしその瞬間、視界が白く染まった。意識が遠のく。
……気づけば、村人の声が聞こえていた。
「生きてる……! 結界が保たれた!」
「もう化け物はいねぇ!」
リィナが駆け寄り、俺の頬を叩いた。
「レオン! 聞こえる!? 大丈夫なの!?」
「う、うん……ちょっと燃えすぎただけ」
全身が鉛のように重い。おそらく相当な命を燃やしたのだろう。炎神の力を使いすぎれば、因果が歪む。頭の奥で鈍い痛みが弾けた。
「ごめん……もう少し制御できると思ったんだけど」
「何を言ってるの。あなたがいなければ、村はもうなかったのよ」
その声に安堵が混じる。だが、俺の背後で再び僅かな震動が走った。
村の外れ、焼け落ちた地面の中心に、黒い影が立っていた。人の姿をしているが、顔は仮面に覆われ、目の部分が虚ろに光る。
「……教団」
リィナが呟く。
「“虚無の司祭”。教祖の側近よ」
「ようやくお出ましか」
司祭はゆっくりと手を上げた。声は低く、だが耳に直接流れ込むように響く。
「愚かな修復者よ。神々の鎖をいくら繋いでも無駄だ。世界は滅びこそが救いなのだ」
「お前たちは何を見てそんなことを信じてる?」
「我らは真理を視た。因果の束――女神とてそれを制せぬ。お前は、己の力に飲まれるだろうよ」
にやりと笑った瞬間、影の体が解けた。空気がざらりと震え、そのまま消える。
リィナが奥歯を噛んだ。
「やっぱり……次の封印、“蒼の祭壇”へ先回りしてる」
「逃げ足の速い連中だ」
村人たちが集まり、頭を下げた。
「本当に助かった。あんたたちがいなきゃ、この村は終わってた」
「気にするな。また魔物が来たら、今度は自分たちで守れよ」
冗談めかして言うと、リィナが苦笑する。
夜が明け、東の空が白むころ。
「レオン、行きましょう。きっとあの司祭が本拠地を開こうとしてる」
「ああ。止めるさ。今度こそ徹底的にな」
村を出る時、風が背中を押した。
過去は俺を拒んだ。しかし今は違う。誰かを守るこの瞬間こそが、生きる理由になっている。
世界の因果が、また一つ動いた。
その先に待つのが破滅だとしても、俺は抗ってみせる。
(第8話 了)
「やっと人の気配だな」
「ここが“カルナ村”。火山への道の唯一の中継地よ」
リィナの声には安堵が混じっていた。
門番の老人に事情を話すと、快く中へ通してくれた。宿屋は質素だったが、屋根があり、温かい食事があるというだけで十分だった。
夕食を終え、焚き火の明かりで体を温めていると、リィナがふと呟いた。
「この村、少し気になるの」
「何がだ?」
「人々の目……どこか怯えてる。まるで何かを隠しているみたい」
「魔物の被害か?」
「それだけじゃない。空気が、淀んでいるわ」
外の様子を確かめると、夜空を裂くように雷光が走った。地鳴りのような低音が耳を打つ。村の外壁の向こうから、獣の唸り声が重なった。
「……嫌な予感がする」
次の瞬間、鋭い叫びが響いた。
「魔物だ! 南の林から群れが来たぞ!」
村人たちが慌ただしく走り出す。逃げ惑う子供を抱える母親、武器を手に取る若者。俺とリィナも外へ飛び出した。
夜の彼方には、黒くうごめく影の群れが見える。狼に似た獣だが、目が真紅に輝き、体から煙のような闇を吐いている。
「教団が操ってる……“穢れ”の呪いだわ!」
「数が多すぎる!」
俺は剣を構え、村の門の前に立った。周囲の因果の糸が瞬き、戦うための線が浮かび上がる。
「リィナ、結界は張れるか?」
「できるけど、長くはもたない!」
「短くていい! 村人を隠す時間だけ稼ぐ!」
リィナの詠唱が始まり、光の壁が村を包む。魔物がぶつかるたびに火花が散り、耳をつんざくような咆哮が響いた。
「よし……来い!」
俺は火霊剣ヴァルグランを抜き、一気に前へ踏み込んだ。斬り伏せた一体が炎に包まれ塵となる。その瞬間、黒い煙が周囲の魔物に吸い込まれ、さらに狂暴化させた。
「そんな……同化して力を増してる!」
「だったら……まとめて燃やすしかねえ!」
因果の糸が再び視界に現れる。炎の軌跡、魔物たちの動き、そして地形の裂け目。全ての線を繋げ、ひとつの“結果”を描く。
「この群れの行く末は――消滅だ!」
金の光が走り、ヴァルグランの刃が閃く。地面の亀裂が爆ぜ、炎が奔流のように広がった。赤黒い獣たちが次々に飲み込まれ、悲鳴とともに燃え尽きる。
しかし、炎の中心からひときわ大きな影が現れた。
四足の巨獣――牛のような頭に角を持ち、背中から鎖のような呪符を垂らしている。全身を覆う黒鉄の鱗。その瞳は人間の憎悪そのものだった。
「嘘だろ……“魔鎖獣”だ」
「上級魔物!? 祈祷師でもいなきゃ倒せない……!」
リィナの声が震える。だが、逃げれば村は終わる。俺は炎を握り直し、一歩踏み出した。
(恐れるな。俺には糸が見える。運命は選べる)
魔鎖獣の足元に幾重もの因果の線が浮かぶ。その中には、地面の深部に走る火脈の道があった。
「なら、お前の運命はここまでだ!」
俺は糸を掴み、火脈を獣の体に繋いだ。
炎が逆流し、大地ごと爆ぜた。
耳を裂く咆哮、眩い光。爆炎の渦が魔鎖獣を呑みこんでいく。しかしその瞬間、視界が白く染まった。意識が遠のく。
……気づけば、村人の声が聞こえていた。
「生きてる……! 結界が保たれた!」
「もう化け物はいねぇ!」
リィナが駆け寄り、俺の頬を叩いた。
「レオン! 聞こえる!? 大丈夫なの!?」
「う、うん……ちょっと燃えすぎただけ」
全身が鉛のように重い。おそらく相当な命を燃やしたのだろう。炎神の力を使いすぎれば、因果が歪む。頭の奥で鈍い痛みが弾けた。
「ごめん……もう少し制御できると思ったんだけど」
「何を言ってるの。あなたがいなければ、村はもうなかったのよ」
その声に安堵が混じる。だが、俺の背後で再び僅かな震動が走った。
村の外れ、焼け落ちた地面の中心に、黒い影が立っていた。人の姿をしているが、顔は仮面に覆われ、目の部分が虚ろに光る。
「……教団」
リィナが呟く。
「“虚無の司祭”。教祖の側近よ」
「ようやくお出ましか」
司祭はゆっくりと手を上げた。声は低く、だが耳に直接流れ込むように響く。
「愚かな修復者よ。神々の鎖をいくら繋いでも無駄だ。世界は滅びこそが救いなのだ」
「お前たちは何を見てそんなことを信じてる?」
「我らは真理を視た。因果の束――女神とてそれを制せぬ。お前は、己の力に飲まれるだろうよ」
にやりと笑った瞬間、影の体が解けた。空気がざらりと震え、そのまま消える。
リィナが奥歯を噛んだ。
「やっぱり……次の封印、“蒼の祭壇”へ先回りしてる」
「逃げ足の速い連中だ」
村人たちが集まり、頭を下げた。
「本当に助かった。あんたたちがいなきゃ、この村は終わってた」
「気にするな。また魔物が来たら、今度は自分たちで守れよ」
冗談めかして言うと、リィナが苦笑する。
夜が明け、東の空が白むころ。
「レオン、行きましょう。きっとあの司祭が本拠地を開こうとしてる」
「ああ。止めるさ。今度こそ徹底的にな」
村を出る時、風が背中を押した。
過去は俺を拒んだ。しかし今は違う。誰かを守るこの瞬間こそが、生きる理由になっている。
世界の因果が、また一つ動いた。
その先に待つのが破滅だとしても、俺は抗ってみせる。
(第8話 了)
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