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怪魚を追え!
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10月5日土曜日。私と谷本、坂本工業の巻田と伊藤、中村の五人は現場に立っていた。幽霊ホテルと呼ばれていた不気味な姿のパシフィックホテルは影も形もなくなっている。建物も周囲のフェンス類も全てなくなり、更地の状態である。跡地には、別の建物が建設される予定もないという。
やがて雑草がはびこり、周辺の沼沢地と同化して自然に戻ることだろう。かつて、ここに幽霊ホテルがあったことも、やがて人々の記憶からも忘れ去られるだろう。それでいいのだ。そんな思いの中、私達はいた。
「今日から、残りの最後の工事に取りかかる」
私は、皆に言った。
解体した施設の隣の草周湖には、観光客や施設の利用者らを相手にしていた観光ボートがあった。そのボートが数艘、乗り場に残されている。自分らの最後の仕事は、周辺に残されている倉庫や物置を撤去することである。ボートや乗り場を維持するためのものであったらしい。
中型重機一台と4tトラック一台の使用で、作業は行なうのであるが、施設のあった場所からそこまでは、遊歩道や小型の車両が通れる道があったようだ。だが現在は、雑草が激しくはびこり、雑木まで覆い茂って容易に近づくことはできない程である。それに、施設から降りたすぐの場所には、スズメ蜂の巣まであった。
ここから見降ろすと、人間のこれ以上の進入を拒んでいるようにも見えた。目の前の沼や湖には、大型の肉食魚も生息しているようだ。それに、二人の人間も水死していた。はっきりとした原因も分からない。
幽霊ホテルが姿を消した今でも、この周辺からは何か得体の知れない不気味な物を、私はふと感じてしまった。気のせいなのかもしれないが。
「まず問題なのは、その向こうのスズメ蜂の巣だな」
口にしたのは巻田であった。五人の視線は、スズメ蜂の巣の方へと向けられている。一歩でも近寄れば、スズメ蜂の襲撃が待っているのだ。私達も作業のために通らなければならなかった。
「巻田、やってくれるか?」
私は、彼に期待を込めて言った。彼がスズメ蜂退治に燃えていたことも知っている。頼れるのは、巻田しかいない。
「任せてくれるか。俺が重機で突入する。皆は、もしものことがあるといけないので、車の車内にでも退避していてくれ」
巻田は自信あり気に言うのである。
「本当に大丈夫なんだろうな。少し心配になってきたぞ」
「巻田さん、無理はしないでくださいよ」
谷本も不安な表情で言った。
「大丈夫だ。もし俺の身に何かあったら、自分の自己責任でやったことにしてくれ。おい、おい、心配はいらんよ」
巻田は、一同の顔を見回しながら言って
「俺の乗る油圧ショベルは、ガラスと金属でできたキャビンに囲われている。ドアと窓を完全に閉めてさえいれば、スズメ蜂は入ってこれないはずだ」
私達は、巻田に任せることにした。
彼は、中型の油圧ショベルに乗り込み、エンジンを始動させた。キャタピラの軋む音を響かせながら、敷地から降りて行く。
私と谷本は、ライトバンに乗り込んだ。私は運転席から双眼鏡を覗き込み、巻田の一部始終を監視する。
伊藤と中村は4tトラックに乗り込み、運転席から巻田の様子を窺う。距離があるため、ここまではスズメ蜂は飛んでこないとは思うが、用心のために、それぞれ車内にいることにした。
巻田の操縦するショベルは、はびこる雑草をかき分け、踏み締めながら着々と進んで行く。スズメ蜂の巣へと。
「勇ましいな、巻田・・・」
私は双眼鏡を覗き込みながら、車内で呟いた。
「大丈夫でしょうかね?」
谷本は、相変わらず不安な様子である。
「いくら狂暴なスズメ蜂の大群であっても、油圧ショベルにはかなわない」
私は言った。
巻田のショベルが、スズメ蜂の巣の領域に入ったようだ。一斉にスズメ蜂の大群が巣から飛びはじめた。
巻田は巧みにブーム、アーム、バケットを動かしながら近づいて行く。スズメ蜂の大群は、巻田のショベルに今、襲いかかった。
キャビンのフロントガラスにもスズメ蜂は無数に襲来している。視界を遮られたのか、ワイパーも動かしはじめた。
「巻田! 行け! やれ!」
私は、双眼鏡越しに叫ぶ。
ついに巻田は、ショベルのブームとアームを上げ、掘削用のバケットである四本の爪の先から、スズメ蜂の巣に振り降ろした。雑木の枝にあった巣は、粉砕しながら地面に落ちて行く。
巣の中にいた大群のスズメ蜂が、更に大きな大群となり、巻田のショベルに襲いかかる。
それでも巻田は、地面に落下した巣にバケットを振り降ろしながら、地面にこすりつける。巣は粉砕されて粉々になり、地面の雑草や土とミックスされ、原形は分からなくなった。
更にキャタピラで踏みつけ、巻田vsスズメ蜂の戦いは終わりを迎えていた。
ショベルの周りに群がっていた大群のスズメ蜂は、今や完全に行き場を失い、混乱しているのだろうか。烏合の衆のようでもある。
やがて、スズメ蜂の大群は諦めたのか、ショベルの周りから徐々にいなくなりはじめた。
巻田は、機体を雑草のはびこる方に進め、スズメ蜂を完全に追い払うようにして戻ってきた。ひとまずこれで、スズメ蜂退治は終了となった。
10月7日月曜日。巣もなくなったこともあり、スズメ蜂は完全にいなくなっただろう。
最後の仕事に向け、仮設道を作るために草苅機とチェーンソーによる伐開作業を行なう。敷地からボート乗り場に向け、車両を通行させなければならない。
巻田、伊藤、中村の三人は、一日がかりで草刈機を手にし、はびこる雑草を刈り取っていく。障害となる雑木は、チェーンソーで切り倒す。
草刈機とチェーンソーの機械音が、周囲に響き渡り、草木はなぎ倒されていく。三人は大汗を流しながら、作業を続けた。熱中症に気をつけ、水分補給をこまめに取らせる。
彼らの奮闘により、仮設道となる部分の雑草らはなくなり、残るは、巻田が重機によって地面を整地しながら締め固める。車両が何とか通れるようになればokであった。
午後の三時過ぎ、仮設道はできあがり、この日の作業は終了となる。これで建物のあった敷地から、真貝沼の前を通り、草周湖のボート乗り場までは、徒歩でも車両でも通れるようになった。しかし、また数ヶ月もすれば雑草がはびこりはじめ、通れなくなってしまうだろう。再び自然な状態に戻る。どうせ自分らの工事も、明日で終了となる予定である。あとは、私と巻田が釣りを楽しむだけであった。
五人は、草周湖のボート乗り場の前にいた。倉庫と物置が建てられており、倉庫の前には、錆びの浮いた鋼材が乱雑に置かれ、それらには雑草が激しく巻きついている。明日には、これらを全て撤去し、工事の終了となる予定であった。
ボート乗り場の岸には、三艘の小型の観光ボートが係留されたままであった。よく見ると、三艘ともハンドルのついた足漕ぎボートである。簡易なテントの屋根もついているが、既にボロボロとなっていた。
「大きな野鯉がいるぞ!」
巻田が急に岸辺の水面に目を向け、言うのであった。
皆は、一斉に目を向けた。確かに、そこには数匹の野鯉が群れのようになって泳いでいる。
「でかいな・・・」
私は、目を向けながら呟いた。大きな物は、七十センチ程の物もいる。この湖には、彼らの天敵はいないのだろうか。悠々自適に泳いでいるように見える。中には水面に顔を出し、口をパクパクさせている物もいる。まるで、人口の池で飼われている錦鯉を思い出した。
だが、ここにいる鯉達は、ギョロッとした大きな目で、こちらを睨んでいるようである。我々人間を威圧するかのように。
「何だか、こちらを睨んでいますよ」
谷本も、そう感じ取ったのか、私に言うのである。不気味な鯉達であった。
その時である。草周湖の遠くの方から、水面を揺らすような、大きな水飛沫の音が響いてきた。ザブン! バシャン! というような。
五人は一斉に目を向ける。私は一瞬であったが、鮫のような背びれを見たような気がした。谷本が以前、建物から目撃したという例の大きな背びれの怪魚・・・ 今だ定かではないが。
五人は少しの間、言葉を失っていた。
「何かいるな・・・ 得体の知れない魔物が・・・」
巻田が言った。
「幽霊ホテルの建物を自分らに壊されたため、棲み処を奪われた魔物は、湖へと逃げた・・・ 魚に形を変えて・・・」
谷本も言うのであった。五人の目には、この時、どのように映っていたのだろうか。不思議と誰も、はっきりと言おうとしない。
巻田が、ふいに地面の小石を手に取り、水面に向かって投げた。
小石は、野鯉の群れのいる水面に落ちた。その瞬間、バシャンという音を立てながら、野鯉らは一瞬にして水面下へと姿を消してしまった。
「怪魚だ。怪魚を追うぞ、矢浦!」
巻田は私に目を向けず、草周湖に視線を向けたまま言った。
怪魚、そんなもの、やはりいるはずがない、そう言いかけた私であったが、巻田の何故か真剣な横顔には言えなかった。
大きな背びれのある巨体魚。水鳥を水中に引き摺り込み、捕食する肉食魚。これらの想像から、怪魚と連想してしまっていた。それに人を寄せつけないような、自然の沼沢地。そんな物が存在していても、不思議ではない雰囲気なのだ。
谷本が言ったように、自殺者や死者を呼ぶ魔物は今や、その姿を魚に変え、自分らの目の前に現れようとしているのだろうか。棲み処を奪ってしまったのだ。幽霊ホテルのの建物を解体してしまった、その祟りというか・・・
いつの間にか空は、どんよりとした曇り空となっていた。不気味な妄想に憑かれたように、皆は、口を噤んでいた。
初めて、この領域に足を踏み入れた時に感じた、あの感触が肌に伝わってくる。
やがて雑草がはびこり、周辺の沼沢地と同化して自然に戻ることだろう。かつて、ここに幽霊ホテルがあったことも、やがて人々の記憶からも忘れ去られるだろう。それでいいのだ。そんな思いの中、私達はいた。
「今日から、残りの最後の工事に取りかかる」
私は、皆に言った。
解体した施設の隣の草周湖には、観光客や施設の利用者らを相手にしていた観光ボートがあった。そのボートが数艘、乗り場に残されている。自分らの最後の仕事は、周辺に残されている倉庫や物置を撤去することである。ボートや乗り場を維持するためのものであったらしい。
中型重機一台と4tトラック一台の使用で、作業は行なうのであるが、施設のあった場所からそこまでは、遊歩道や小型の車両が通れる道があったようだ。だが現在は、雑草が激しくはびこり、雑木まで覆い茂って容易に近づくことはできない程である。それに、施設から降りたすぐの場所には、スズメ蜂の巣まであった。
ここから見降ろすと、人間のこれ以上の進入を拒んでいるようにも見えた。目の前の沼や湖には、大型の肉食魚も生息しているようだ。それに、二人の人間も水死していた。はっきりとした原因も分からない。
幽霊ホテルが姿を消した今でも、この周辺からは何か得体の知れない不気味な物を、私はふと感じてしまった。気のせいなのかもしれないが。
「まず問題なのは、その向こうのスズメ蜂の巣だな」
口にしたのは巻田であった。五人の視線は、スズメ蜂の巣の方へと向けられている。一歩でも近寄れば、スズメ蜂の襲撃が待っているのだ。私達も作業のために通らなければならなかった。
「巻田、やってくれるか?」
私は、彼に期待を込めて言った。彼がスズメ蜂退治に燃えていたことも知っている。頼れるのは、巻田しかいない。
「任せてくれるか。俺が重機で突入する。皆は、もしものことがあるといけないので、車の車内にでも退避していてくれ」
巻田は自信あり気に言うのである。
「本当に大丈夫なんだろうな。少し心配になってきたぞ」
「巻田さん、無理はしないでくださいよ」
谷本も不安な表情で言った。
「大丈夫だ。もし俺の身に何かあったら、自分の自己責任でやったことにしてくれ。おい、おい、心配はいらんよ」
巻田は、一同の顔を見回しながら言って
「俺の乗る油圧ショベルは、ガラスと金属でできたキャビンに囲われている。ドアと窓を完全に閉めてさえいれば、スズメ蜂は入ってこれないはずだ」
私達は、巻田に任せることにした。
彼は、中型の油圧ショベルに乗り込み、エンジンを始動させた。キャタピラの軋む音を響かせながら、敷地から降りて行く。
私と谷本は、ライトバンに乗り込んだ。私は運転席から双眼鏡を覗き込み、巻田の一部始終を監視する。
伊藤と中村は4tトラックに乗り込み、運転席から巻田の様子を窺う。距離があるため、ここまではスズメ蜂は飛んでこないとは思うが、用心のために、それぞれ車内にいることにした。
巻田の操縦するショベルは、はびこる雑草をかき分け、踏み締めながら着々と進んで行く。スズメ蜂の巣へと。
「勇ましいな、巻田・・・」
私は双眼鏡を覗き込みながら、車内で呟いた。
「大丈夫でしょうかね?」
谷本は、相変わらず不安な様子である。
「いくら狂暴なスズメ蜂の大群であっても、油圧ショベルにはかなわない」
私は言った。
巻田のショベルが、スズメ蜂の巣の領域に入ったようだ。一斉にスズメ蜂の大群が巣から飛びはじめた。
巻田は巧みにブーム、アーム、バケットを動かしながら近づいて行く。スズメ蜂の大群は、巻田のショベルに今、襲いかかった。
キャビンのフロントガラスにもスズメ蜂は無数に襲来している。視界を遮られたのか、ワイパーも動かしはじめた。
「巻田! 行け! やれ!」
私は、双眼鏡越しに叫ぶ。
ついに巻田は、ショベルのブームとアームを上げ、掘削用のバケットである四本の爪の先から、スズメ蜂の巣に振り降ろした。雑木の枝にあった巣は、粉砕しながら地面に落ちて行く。
巣の中にいた大群のスズメ蜂が、更に大きな大群となり、巻田のショベルに襲いかかる。
それでも巻田は、地面に落下した巣にバケットを振り降ろしながら、地面にこすりつける。巣は粉砕されて粉々になり、地面の雑草や土とミックスされ、原形は分からなくなった。
更にキャタピラで踏みつけ、巻田vsスズメ蜂の戦いは終わりを迎えていた。
ショベルの周りに群がっていた大群のスズメ蜂は、今や完全に行き場を失い、混乱しているのだろうか。烏合の衆のようでもある。
やがて、スズメ蜂の大群は諦めたのか、ショベルの周りから徐々にいなくなりはじめた。
巻田は、機体を雑草のはびこる方に進め、スズメ蜂を完全に追い払うようにして戻ってきた。ひとまずこれで、スズメ蜂退治は終了となった。
10月7日月曜日。巣もなくなったこともあり、スズメ蜂は完全にいなくなっただろう。
最後の仕事に向け、仮設道を作るために草苅機とチェーンソーによる伐開作業を行なう。敷地からボート乗り場に向け、車両を通行させなければならない。
巻田、伊藤、中村の三人は、一日がかりで草刈機を手にし、はびこる雑草を刈り取っていく。障害となる雑木は、チェーンソーで切り倒す。
草刈機とチェーンソーの機械音が、周囲に響き渡り、草木はなぎ倒されていく。三人は大汗を流しながら、作業を続けた。熱中症に気をつけ、水分補給をこまめに取らせる。
彼らの奮闘により、仮設道となる部分の雑草らはなくなり、残るは、巻田が重機によって地面を整地しながら締め固める。車両が何とか通れるようになればokであった。
午後の三時過ぎ、仮設道はできあがり、この日の作業は終了となる。これで建物のあった敷地から、真貝沼の前を通り、草周湖のボート乗り場までは、徒歩でも車両でも通れるようになった。しかし、また数ヶ月もすれば雑草がはびこりはじめ、通れなくなってしまうだろう。再び自然な状態に戻る。どうせ自分らの工事も、明日で終了となる予定である。あとは、私と巻田が釣りを楽しむだけであった。
五人は、草周湖のボート乗り場の前にいた。倉庫と物置が建てられており、倉庫の前には、錆びの浮いた鋼材が乱雑に置かれ、それらには雑草が激しく巻きついている。明日には、これらを全て撤去し、工事の終了となる予定であった。
ボート乗り場の岸には、三艘の小型の観光ボートが係留されたままであった。よく見ると、三艘ともハンドルのついた足漕ぎボートである。簡易なテントの屋根もついているが、既にボロボロとなっていた。
「大きな野鯉がいるぞ!」
巻田が急に岸辺の水面に目を向け、言うのであった。
皆は、一斉に目を向けた。確かに、そこには数匹の野鯉が群れのようになって泳いでいる。
「でかいな・・・」
私は、目を向けながら呟いた。大きな物は、七十センチ程の物もいる。この湖には、彼らの天敵はいないのだろうか。悠々自適に泳いでいるように見える。中には水面に顔を出し、口をパクパクさせている物もいる。まるで、人口の池で飼われている錦鯉を思い出した。
だが、ここにいる鯉達は、ギョロッとした大きな目で、こちらを睨んでいるようである。我々人間を威圧するかのように。
「何だか、こちらを睨んでいますよ」
谷本も、そう感じ取ったのか、私に言うのである。不気味な鯉達であった。
その時である。草周湖の遠くの方から、水面を揺らすような、大きな水飛沫の音が響いてきた。ザブン! バシャン! というような。
五人は一斉に目を向ける。私は一瞬であったが、鮫のような背びれを見たような気がした。谷本が以前、建物から目撃したという例の大きな背びれの怪魚・・・ 今だ定かではないが。
五人は少しの間、言葉を失っていた。
「何かいるな・・・ 得体の知れない魔物が・・・」
巻田が言った。
「幽霊ホテルの建物を自分らに壊されたため、棲み処を奪われた魔物は、湖へと逃げた・・・ 魚に形を変えて・・・」
谷本も言うのであった。五人の目には、この時、どのように映っていたのだろうか。不思議と誰も、はっきりと言おうとしない。
巻田が、ふいに地面の小石を手に取り、水面に向かって投げた。
小石は、野鯉の群れのいる水面に落ちた。その瞬間、バシャンという音を立てながら、野鯉らは一瞬にして水面下へと姿を消してしまった。
「怪魚だ。怪魚を追うぞ、矢浦!」
巻田は私に目を向けず、草周湖に視線を向けたまま言った。
怪魚、そんなもの、やはりいるはずがない、そう言いかけた私であったが、巻田の何故か真剣な横顔には言えなかった。
大きな背びれのある巨体魚。水鳥を水中に引き摺り込み、捕食する肉食魚。これらの想像から、怪魚と連想してしまっていた。それに人を寄せつけないような、自然の沼沢地。そんな物が存在していても、不思議ではない雰囲気なのだ。
谷本が言ったように、自殺者や死者を呼ぶ魔物は今や、その姿を魚に変え、自分らの目の前に現れようとしているのだろうか。棲み処を奪ってしまったのだ。幽霊ホテルのの建物を解体してしまった、その祟りというか・・・
いつの間にか空は、どんよりとした曇り空となっていた。不気味な妄想に憑かれたように、皆は、口を噤んでいた。
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