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1話。
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簡潔に言おう。私は今日自殺しに行く。
場所は十和田湖。
選んだ理由は綺麗な景色を見ながら死にたかったから。
私、斎藤幸恵。30代目前のOL。
趣味は写真撮影。そして今は…
十和田湖行きのバスに乗っている。
車でも良かったのだが、死んだ後の事を考えて誰にも迷惑がかからないバスにした。
ふとあたりを見回すと、やっぱり様々な人が居た。
子連れの家族、本を読んでいるアンニュイで中性的な人、その人を見ながらクロッキー帳にペンを走らせる長髪の青年、ヘッドフォンをして寝ている少年、そして周りにカモミールでも咲きそうな純粋で可憐な女性が居た。可愛らしい。
私は首を回してふと窓から見える風景を眺めた。
綺麗だ。空気もよく澄んでいる気がする。
私は胸を弾ませた。
これから死にに行くのに、と言うと物騒だろうか。
私は膝の上に置いたカメラを見た。
高校の時、バイト代を貯めて奮発して買ったものだった。私はフォルダの中を見た。
近所に住み着いた野良猫、植木に植えられた簡素な花、桜が吹雪きだした1枚のカット…
私はそれを懐かしく思った。
学生時代から友達が少なく、今ではもう会っている友達なんて居ないのだ。
私はそれを思い出して、にっこりと朗らかに笑った。
「……十和田湖ー…十和田湖ー…お降りの方はボタンを押してお待ちください。」
運転手が優しい声で言う。
私はボタンをしっかりと押した。
プラスチックのボタンに私の顔が映った。
美人とも附子とも言えぬ平凡な顔。
私はそれが大嫌いだった。
選べるならば、もっと附子に産まれたかった。
何故かって?私は平凡で居るのが嫌いなのだ。
親からの無駄な教育でそうなった所も少しはあろう。
けれど私は特殊だった。そんな親よりもっと。
私は顔の輪郭はしっかりとしているし、目も鼻も口もそこまで形が悪い訳では無い。
けれど、鏡を見ていて思うのだ。
“なんの面白みも無い。”
私は親の遺伝子を心のどこかで恨んだ。
けれど私は親の事は愛していた。
親に何一つ罪は無いのだ。虐待なども受けなかった。
何より優しかった。
私が難関校の受験に受かった時、父と母は大いに喜んだ。その日の飯は赤飯だった。
母は私を美容院に連れて行き、
伸びた髪を切ってもらった。
その時のシャンプーの気持ち良さと言ったら格別だった。私は何不自由なく育ててもらった。
けれど私は一つだけ嫌な事があった。
それが自分に何ひとつとして面白みがないことである。それはこの歳になっても変わらなかった。
だから私はここで終わらせようと思ったのだ。
パァンとバス特有の音が鳴って、止まった。
私は席から立った。そしてバスの入り口付近に行く。
運転手は神妙な面持ちをしていた。
目の下のクマが私の脳裏に焼き付いた。
履いてきたヒールの音を高々と鳴らして私は降りた。
空気が澄んでいて気持ちが良い。
そして空も晴れ渡っている。
私の後ろから数人バスをおりる音が聞こえた。
もしかしたらその人たちは同士なのかもしれない。
そう思うと、独りで死ぬ寂しさが晴れた気がした。
私はバス停から少し離れて、どこまでも晴れ渡る空に向かって、人生最後になろうシャッターを切った。
場所は十和田湖。
選んだ理由は綺麗な景色を見ながら死にたかったから。
私、斎藤幸恵。30代目前のOL。
趣味は写真撮影。そして今は…
十和田湖行きのバスに乗っている。
車でも良かったのだが、死んだ後の事を考えて誰にも迷惑がかからないバスにした。
ふとあたりを見回すと、やっぱり様々な人が居た。
子連れの家族、本を読んでいるアンニュイで中性的な人、その人を見ながらクロッキー帳にペンを走らせる長髪の青年、ヘッドフォンをして寝ている少年、そして周りにカモミールでも咲きそうな純粋で可憐な女性が居た。可愛らしい。
私は首を回してふと窓から見える風景を眺めた。
綺麗だ。空気もよく澄んでいる気がする。
私は胸を弾ませた。
これから死にに行くのに、と言うと物騒だろうか。
私は膝の上に置いたカメラを見た。
高校の時、バイト代を貯めて奮発して買ったものだった。私はフォルダの中を見た。
近所に住み着いた野良猫、植木に植えられた簡素な花、桜が吹雪きだした1枚のカット…
私はそれを懐かしく思った。
学生時代から友達が少なく、今ではもう会っている友達なんて居ないのだ。
私はそれを思い出して、にっこりと朗らかに笑った。
「……十和田湖ー…十和田湖ー…お降りの方はボタンを押してお待ちください。」
運転手が優しい声で言う。
私はボタンをしっかりと押した。
プラスチックのボタンに私の顔が映った。
美人とも附子とも言えぬ平凡な顔。
私はそれが大嫌いだった。
選べるならば、もっと附子に産まれたかった。
何故かって?私は平凡で居るのが嫌いなのだ。
親からの無駄な教育でそうなった所も少しはあろう。
けれど私は特殊だった。そんな親よりもっと。
私は顔の輪郭はしっかりとしているし、目も鼻も口もそこまで形が悪い訳では無い。
けれど、鏡を見ていて思うのだ。
“なんの面白みも無い。”
私は親の遺伝子を心のどこかで恨んだ。
けれど私は親の事は愛していた。
親に何一つ罪は無いのだ。虐待なども受けなかった。
何より優しかった。
私が難関校の受験に受かった時、父と母は大いに喜んだ。その日の飯は赤飯だった。
母は私を美容院に連れて行き、
伸びた髪を切ってもらった。
その時のシャンプーの気持ち良さと言ったら格別だった。私は何不自由なく育ててもらった。
けれど私は一つだけ嫌な事があった。
それが自分に何ひとつとして面白みがないことである。それはこの歳になっても変わらなかった。
だから私はここで終わらせようと思ったのだ。
パァンとバス特有の音が鳴って、止まった。
私は席から立った。そしてバスの入り口付近に行く。
運転手は神妙な面持ちをしていた。
目の下のクマが私の脳裏に焼き付いた。
履いてきたヒールの音を高々と鳴らして私は降りた。
空気が澄んでいて気持ちが良い。
そして空も晴れ渡っている。
私の後ろから数人バスをおりる音が聞こえた。
もしかしたらその人たちは同士なのかもしれない。
そう思うと、独りで死ぬ寂しさが晴れた気がした。
私はバス停から少し離れて、どこまでも晴れ渡る空に向かって、人生最後になろうシャッターを切った。
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