最凶の魔王に転生した俺、シナリオをぶっ壊してスローライフがしたいのに、直属の六封凶が血気盛ん過ぎて困っています。

菊池 快晴

文字の大きさ
13 / 33

013 交渉

しおりを挟む
「魔王が何の用だ。人間に宣戦布告したと聞いてるが」
「それは誤解だ。単刀直入に言う。俺は今、国を創ろうとしてる。まあ、といってもそれは最終目標だけど。それで、家や街をつくる為に君が必要なんだ」
「それがなんで私と関係がある?」
「そこで技術者として働いてもらい。もちろん、タダでとは言わない君の――」
「断る。私はここから離れるつもりはない」

 そういって彼女は背を向けた。

 彼女の名前はファイル。
 将来、勇者の聖剣を創るのも彼女だ。

 腕前は確かで、それに――強い。

 まあ、今関係ないが。

 だが俺には原作知識がある。
 彼女が望むもの知っている。

 だが――。
 
 まずは俺のことを話すのが筋だな。

 ファイルは木を伐採しはじめた。

「それで仲間と一緒にきたのか」
「ああ、よくわかったな」
「そんな強い魔力を漂わせてたら誰でもわかる」
「……そんなに?」
「この島にも魔物はいたが、全員逃げ出した」

 そういえば森の中で魔物を見かけることはなかった。

 ……これからは気を付けるか。

 それより――。

「――何してる?」
「お手伝い」

 俺は、ファイルからひょいとクワを取って、巻き割りしようと構えた。
 彼女が驚いて目を見開く。

「……できるのか?」
「見といてくれ」

 手ごろな木を置き、そして――真っ二つに――とはならなかった。

 なぜなら、やりすぎて粉々になったからだ。

「……え?」
「魔力を入れすぎだ。振り下ろす力だけでいい」
「ふむ――こうかな? ――お、できた」
「下手だ」
「ははっ、そうかも」

 それから俺たちはたわいもない会話をした。
 だがファイルは絶対に着いて行かないと。

 俺も、それ以上誘うことはなかった。
 彼女の願いを叶えれば、間違いなく来るだろうが、それを盾にするのは違う。

 今回ばかりは、さすがに卑怯だと思ったからだ。

 奥には小さな小屋があった。
 原作で見た形と同じ。

 それを見ていると、ファイルの目が少し心配そうにしているのがわかった。

「何もしないよ。安心してくれ」
「……そうか。確かに悪い魔王には見えない。だが私はここから離れるつもりはない」
「ああわかっ――」
「デルス様!」
「魔王様!」

 するとそこにシュリとアリエルが現れる。ファイルは警戒するが、俺は双方に大丈夫だと伝える。

「魔族か」
「ああ、アリエルとシュリだ」
「お見知りおきを。アリエルでございます」
「シュリです。魔王様すみません、心配て来てしまいました」

 もしファイルが俺に攻撃を仕掛けている所を見ていたら大変なことになっていただろう。
 このタイミングで良かった……。

「構わない。彼女はファイル、僕――まあ古い友人みたいなものだ」
「友人? 私が――」
「ならば私たちの愛すべき一人なのですね! この度は歓迎致します! 一緒に最強の国を創りましょう!」
「私は行かないよ。ここから離れたくない」
「え? そ、そうなのですか? 魔王様?」
「ああ、当てが外れたよ。でも、仕方がない」

 シュリが、洗脳しますか? と目で訴えかけてきた。俺は却下する。

 ここに来るまではそれもありかなと思っていた。
 だがファイルの顔を見て気づいた。それは、良くないと。

「シュリ、彼女に渡してくれ」
「いいのですか? 彼女は来ないと――」
「構わない」

 そういって、シュリは鞄から丁寧に瓶を渡す。

「……なんだこれは?」
完全回復フルポーション浄化聖水ホーリーウォーターだ。小屋で眠っている妹さんに飲ませれば、一日もあれば治る」
「完全回復……だと? いや、それよりなんで妹のことを――」
「俺は魔王だ。何でも知ってるからね」

 ファイルの妹は、ドワーフの一族がまだ認知されていない時に襲われ、呪いの魔法を受けた。
 珍しくもないイベントだ、俺もそんな気持ちでここへ来た。

 だが気づいたのだ。

 人の命を利用すべきではないと。

 アリエルもシュリもペールも色々変わってきている。
 俺も、変わらないと。

「――行くぞ、シュリ、アリエル。それじゃあファイル。また」
「……本当にくれるのか? 魔王が? 何の見返りもなしに?」
「ああ、成分を調べてからでもいいが、問題はない。魔王の名にかけて保障しよう」

 そして俺たちはその場を後にした。

    ◇

 それから数日後、結局、家造りは全く進んでいなかった。

「魔王様、人間を連れてきて働かし、仕事が終われば返すのはどうでしょうか?」
「うーんでもアリエル、それはちよっと……」

 お金を払うことも考えたが、さすがに魔王の国を創る為に呼ぶことはできない。

 頓挫していたまさにそのとき――扉が開いた。

「魔王様、客人でございます。――先日のドワーフ様、二名・・です」

 そこに立っていたのはファイルと、その後ろに隠れているそっくりな小さな赤髪、妹だった。

「本当に魔王だったとはな。おっと、この口の利き方はまずいか。――魔王様」
「何でもいいよ。それで、なんでここに?」
「恩は返す。遅くなったのは小屋を解体したり、荷物が色々あってな。――魔王様、私は余す事なく技術を提供しよう。求めるのは安全だ。その代わりも私は何でも手伝う。――もし人間と戦うことがあれば、武器でも」

 するとファイルは片膝をついた、その横で、妹さんも。

「わ、私もです。――ありがとうございます。魔王様」

 彼女は原作だと病気で死んでしまう。
 だがその死をきっかけに勇者の仲間となり、復讐した上で魔王と戦うことになるのだ。

 俺はそれが回避できただけでもいいと思っていたが、まさか来てくれるとは……。

 だが俺は嬉しかった。

「――武器は今の所必要ないよ。でも、ありがとう。ファイル、そしてリリ・・。歓迎するよ」
「――一つ聞きたい。なんで名前を――」
「俺は魔王だ。何でも知ってる」

 そういって手を差し伸べると、ファイルは笑った。

 必要なピースはそろった。

 これからは街作りを本格化していく。

 ――魔王の国の建設の始まりだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

悪役令息の継母に転生したからには、息子を悪役になんてさせません!

水都(みなと)
ファンタジー
伯爵夫人であるロゼッタ・シルヴァリーは夫の死後、ここが前世で読んでいたラノベの世界だと気づく。 ロゼッタはラノベで悪役令息だったリゼルの継母だ。金と地位が目当てで結婚したロゼッタは、夫の連れ子であるリゼルに無関心だった。 しかし、前世ではリゼルは推しキャラ。リゼルが断罪されると思い出したロゼッタは、リゼルが悪役令息にならないよう母として奮闘していく。 ★ファンタジー小説大賞エントリー中です。 ※完結しました!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

異世界転生したおっさんが普通に生きる

カジキカジキ
ファンタジー
 第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位 応援頂きありがとうございました!  異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界  主人公のゴウは異世界転生した元冒険者  引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。  知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

嫁に来た転生悪役令嬢「破滅します!」 俺「大丈夫だ、問題ない(ドラゴン殴りながら)」~ゲームの常識が通用しない辺境領主の無自覚成り上がり~

ちくでん
ファンタジー
「なぜあなたは、私のゲーム知識をことごとく上回ってしまうのですか!?」 魔物だらけの辺境で暮らす主人公ギリアムのもとに、公爵家令嬢ミューゼアが嫁として追放されてきた。実はこのお嫁さん、ゲーム世界に転生してきた転生悪役令嬢だったのです。 本来のゲームでは外道の悪役貴族だったはずのギリアム。ミューゼアは外道貴族に蹂躙される破滅エンドだったはずなのに、なぜかこの世界線では彼ギリアムは想定外に頑張り屋の好青年。彼はミューゼアのゲーム知識をことごとく超えて彼女を仰天させるイレギュラー、『ゲーム世界のルールブレイカー』でした。 ギリアムとミューゼアは、破滅回避のために力を合わせて領地開拓をしていきます。 スローライフ+悪役転生+領地開拓。これは、ゆったりと生活しながらもだんだんと世の中に(意図せず)影響力を発揮していってしまう二人の物語です。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

処理中です...