上 下
13 / 28

第十三話 ラブコメですげぇむに巻き込まれた件 ➁

しおりを挟む
 命を懸けたラブコメですげぇむが始まった。
 公園内にいた人たちは、中心に集められている。

 俺――藤堂充。、BLくん、食パン少女ちゃん、そして――。

「な、なんでクラスの委員長の私がこんなとこにいるのよ!」
「私……図書室にいたはずなのに……」

 ツンデレ委員長ちゃん、お下げ図書眼鏡ちゃん、etc……。

 他にもまだまだいるが……生き残りをかけた戦いがはじまったのだ。

『これはラブコメであっても遊びではない。一回戦――できるだけ早くペアを選んでください』

 天からアナウンスが流れる。
 次の瞬間、周囲がペアを組み始めた。
 
「あんた! まさか幼馴染の男の子!?」
「お前!? 生き別れた義理の妹!?」

「もしかしてあの時の約束って……君だったの?」
「アンタ! もしかして今朝の!」

 ラブコメ王道あるあるの会話をしながら、次々とペアが出来上がる。
 まずい、どうしよう。
 食パンちゃんも誰かに奪われてしまった。

 残ってるのは――。

「おやおや、子猫さんたちが慌ててるねえ」

 彼だった。凄く嫌だけど、間に合わなければ大変なことになるはずだ。
 仕方ない。彼にしよう。
 俺はつかつかと歩み寄り、声をかける。

「ふっ、面白れぇ男《BL》」

 ――――
 ――
 ―

 『一回戦、終了です。ペアを組めなかった相手は、残念ながら敗退です』

 アナウンスが流れた瞬間、炙れた人たちが叫び声をあげる。
 そして――透明になって消えた。

 いや、結構やばくない!?
 存在そのものが消されちゃうの!?

 めちゃくちゃやばくない!?

「僕を選ぶなんて、罪な子猫ちゃんだ」
「BLくん、ちょっとアナウンスが聞こえないから静かにして」

 こんな奴と最後まで添い遂げなきゃならないのか?
 二回戦、どうなる!?


『では二回戦、ペアの相手を惚れさせてください。どちらか片方からでも構いません』

 え、なにそれ!?
 俺が好きになるか、BL《彼》が俺を好きにさせるってこと?

「あたし……あんたのことがずっと前から……」
「待ってくれ。――俺から言わせてくれないか?」

「だ、だから! す、好きっていってんでしょ!」
「例え血が繋がっていたとしても、俺はお前のことが好きだ」

 早速始まるラブコメ告白タイム。
 しかし、全員苦戦しているようだ。
 いくらラブコメとはいえ、そんな簡単に好きになるわけがない。

 俺がBLに惚れる? ありえない。
 ということは、惚れさせないといけない。

「君の瞳は水晶のように美しい。その唇も素敵だ」

 落ち着け藤堂充。心を押し殺せ。
 まだ時間はある。
 どうやったら彼を惚れさせることができる? 
 
 前世でありとあらゆる漫画、アニメ、小説を見てきたはずだ。
 頭の中に正解はあるはず。

 まずは――ジャブから。

「BL、お前、可愛いな」
「君のほうが素敵さ」

 だめだ……彼は……攻めに見せかけた――受け。

 ――ある。たった一つの答え。

『制限時間、残り十秒』

 いやでも……したくない。できればこの手は使いたくない。
 ……時間が……そうだ、確かポケットにおにぎりを包んでいたラップが――。

「どうしたんだいベイビー? もかして僕――」
「おしゃべりな口だな。もう黙ってろ――ちゅっ」

『時間切れです』

 また人が消えた。大勢消えた。
 だが俺たちは――生き残った。

『次がラストです』

「……こんなに大胆なことされるなんて思わなかったよ」

 俺のファースキス……にならないように、口にラップを巻いておいた。
 だからこれはノーカウント。
 BLくんは、頬を赤らめている。どうやら正解だったらしい。といっても好かれても困るんだけど……。

 周囲はもう数えるほどしかいなかった。

 今まではすべてラブコメの流れに沿っている。
 出会って、恋をして……だが、ラストなんて作品によってさまざまだ。
 最後がどうなるのか、答えはわからない。

 その場にいる全員が、固唾を飲んだ。

 BLくんは、俺を見つめていた。

『全員を惚れさせてください。制限時間は――無制限』

「な、なんだって……」

 最後はハーレムラストということか。
 BLくんは既に俺に惚れているが、残り全員を?

 そんなの、不可能だろ……。

「あ、あんた達のこと、別に好きじゃないんだからね!」
「私は……もう戦いたくない……世界を破滅させちゃうから」

 残ったツンデレ委員長と、異能力中二病女子も頑張っているが、誰の心にも響かない。
 今いるのはラブコメの猛者、いや覇者だからだ。

 そんな言葉で、心の琴線が揺れるわけがない。

 制限時間がないということは、ここから一生出られない可能性があるということ……。

 ここからが本当のサバイバルゲームということか。

 あれ、ちょっと待てよ。

 誰か……見たことある人が……あれは、悪童くん?

「あにぃ! あにぃじゃないっすか!」
「悪童くん、どうしてここに?」
「天気良かったんでここに来たら、なんか巻き込まれたんすよ!」

 悪童くんの隣には、恥ずかしがり屋の眼鏡ちゃんがいた。
 なるほど、強面キャラと臆病キャラのペアね。

「……そいつ、誰っすか?」

 悪童くんが、俺の隣のイケメンにガンを飛ばす。

「ああ、彼はBLくんだ」
「こんにちは、こんな所に迷い込んだなんて、罪な子猫ちゃ――」
「もう飽きたよ黙ってね」

 同じことを繰り返されると、さすがに腹が立ってくる。
 しかし、これはチャンスかもしれない。

 悪童くんと協力してこの場を乗り切れば……。

「あにぃ! どうするんすか!?」
「どうしようか……」

 BLくんと悪童くんは……多分だけど、俺のことが好きだ。
 つまり残りを惚れさせればいい。

 陳腐な台詞は意味がないだろうし、かといって恋愛を深める手段も限られている……。

 うーん……。

「悪童くんは、どうやってその子を落としたの?」
「俺っすか? 普通に可愛いなって言っただけっすよ」
「ちょ、ちょっと悪童くん……」

 なるほど、属性はチョロインか。
 となると、彼女もいつでも落とせるはず……。

 残ってるのは、ツンデレ美少女委員長と異能力中二病女子。

 俺は今まで、千を超える数の恋愛ゲームをプレイしてきた。

 攻略出来なかったキャラクターは皆無。

 時間制限が無制限なら、きっと攻略が出来るはず。

 俺の本気を――見せてやる。

「おい、ツンデレ委員長」
「なによ! あんた偉そうね!」
「髪に何か付いてるぜ?」


「おい、異能力中二病女子」
「もう私は……戦うことを辞めたの」
「俺の封印されし右腕を止めれるのは、お前だけなんだ」

 ――――
 ――
 ―

 『ゲームクリア・ゲームクリア! 勝者・藤堂充! 勝者・藤堂充!』

 あれから数日後、俺は全員を攻略した。

 ツンデレ委員長「ちょっと藤堂! こっち向いてよね!」
 異能力中二病女子「藤堂君……あなたの為なら、能力も、命も、失っていい」
 悪童くん「あにぃ! 一生ついていきます!」
 BLくん「僕の心を射止めたのは、君のそのピュアな心だよ」
 チョロイン「……好き好き好き好き♡」

 ふう……。いや、しかしどうなる?
 もしかして、悪童くんは……消えてしまうのか?

 そう思うと、なんだか寂しい気がした。
 せっかく仲良くなれたのに、友人が減ってしまうなんて。

『クリア報酬、この中で一人だけ、連れて帰ることができます』

 え? そうなんだ?
 
 そう言われると悩むな……。悪童くん、やっぱり必要かな?

 ふむ……。誰にしようかなあ……。

「あ、あにぃ! ワシ、ワシ……」


 ◇

「ふう……」

 無事、ですげぇむをクリアした。
 急いで公園の外に出る。
 スマホを見ると、一時間しか経っていなかった。

 おそらくだが、時間の進み方が違うのだろう。

 危うくこんなことで破滅するところだった。もう二度と、この公園には近づかないようにしよう。

「じゃあ、俺は帰るね。お疲れ様」

 報酬……俺が選んだのは――彼だった。

「僕を置いて行っちゃうのかい? myハニー」
「もう疲れたからね。家でご飯食べるよ。BLくんって家とかあるの?」
「あるわけないさ。君の家に泊らせてもらっていいかい?」
「嫌だね」
「ははっ、綺麗な花にはバラがあるって本当だったんだ」

 ごめんね悪童くん。BLくんは見た目も可愛いし、優しそうだし、なんだったらイケメンなんだ。
 彼が傍にいるだけで、俺が善人に見えるんだ。

 短い間だったけど、今まで本当にありがとう。

「――あにぃ! ――あーにぃ!」

 そこに、前から見慣れた男が歩いてきた。
 あれは……悪童くん?

「あにぃ! 奇遇ですなあ!」
「あれ? なんでここに?」
「どいうことでっか? 今帰るとこですぜ!」
「ええ……?」

 よく見ると、顔のほくろの位置が違う。
 そうか……公園にいたのは、コピー悪童くんか。

 もし俺が持ち帰っていたら、悪童くんが二人になっていた……ってこと? 恐ろしい……。

「あにぃ! 浮かない顔してどうしたんでっか?」
「いや、何にもない。あ、そうだ悪童くん、彼を家に泊らせてあげてくれない?」
「おやおや、僕は借りてきた猫じゃないよ?」
「ちょっとうるさいけど無害だから。宜しくね」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ! コイツ誰っすか!? どこいくんでっか!? あにぃ! あにぃ!?」


 帰り道、げぇむを終えた夕日は、人生で一番綺麗に輝いてみえた。



 藤堂充は、ラブコメですげぇむに勝利。
 ステータスが、アップした。
 筋力:40⇒60。
 運力:20⇒60。
 体力:50⇒70。
 身長:変わらず。
 体重:変わらず。

 悪童くんの忠誠度が、2下がった。

 追加ボーナス。
 BLくんを、いつでも呼び出せるようになった。
しおりを挟む

処理中です...