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異世界転生
第10話:お別れ
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「ねぇ、アズアズ。――――――殺していい?
その可愛らしい見た目とは裏腹に、ルチルは物騒なことを言い放った。
アイレに向けている魔力はその言葉の意味を十分に表している。
「よせ! やめるんじゃ!」
インザームが懇願しながら叫んだ。魔力は一欠けらも残っていないにもかかわらず、それを感じさせないほどの迫力も兼ね備えていた。
「ルチル。ダメだよ」
アズライトが優しく止めると、ルチルは「はーい」と可愛らしく返事をすると、手を戻した。その姿はまるで子供のように思える。
「私がここまで追いつめられるとは思いませんでした」
アズライトは納刀《のうとう》しながら二人を賞賛した。その横で、ルチルは浮遊しながらぐるぐると動いている。
「アズアズ負けたんだーっ! めっずらしー!」
「そうだね。ルチルがいなければ死んでいたかもしれない」
ルチルとアズライトはかなり親しげに見えた。緊張感のなさが逆にアイレとインザームに恐怖を与えた。
「頼む。アイレには手を出さんでくれ」
インザームは素直な気持ちでアズライトに頼んだ。心の底からの願いを込めていた。
「先ほどの素晴らしい攻撃に免じて、その願い承りましょう」
その申し出をアズライトは意外にもすんなりと受け入れた。
それどころか、二人に対して敬意を表しているかのようにも思える。
「アイレ。お主は息子のようじゃった。楽しかったぞ」
「やめろ……アズライト! やめてくれ!」
インザームは満面の笑顔を向けた。アイレは子供のように叫びながら、動かない脚を引きずりながら助けようとした。
「ルチル。頼んでいいかい?」
「えーっ アズアズ今日はわがままだなぁーっ。」
アズライトの非情な一言がアイレの心に突き刺さる。
ルチルはとても嬉しそうな笑顔を見せながら、インザームに掌を翳した。とんでもない魔力で次元が歪む。
「おじいちゃん。ばいばーいっ!」
ルチルは、インザームの姿が見えなくなるほど、漆黒に包まれた魔法を瞬時に放った。空間を歪めながら、その魔法はインザームの体をすべて包み込み、凄まじい轟音を鳴らして、文字通り跡形もなく消え去った。
まるではじめから、その場に存在していなかったかのように。
「よくもインザームを!」
アイレは最後の気力を振り絞ると我武者羅《がぶしゃらに》にルチルに向かった。
手に武器もなく、何の考えもない。
「おいたはダメっ」
ルチルはそれを見て笑顔のままアイレに掌を翳《かざ 》し――
が、そこでアズライトが、ルチルの前に立ちふさがるとアイレの腹に拳を打ち抜くように一撃を入れた。
アイレはそのまま倒れ込むと、気を失った。
「く……そ……ぉ…………」
「まだ動けるとは驚いたな」
「アズアズっ! ルチル守ってくれた! 恰好いい!」
ルチルは嬉しそうに、アズライトの周囲を浮遊した。インザームを跡形もなく消えさせた後とは思えないほど、陽気で嬉しそうにしている。
「ヴェルネルとレムリは、まだ生きている‥‥‥か」
意識を失っているアイレに視線を変えながら、アズライトが呟いた。
「アズアズっ! ルチル知ってる!! 伝説の勇者御一行!」
「そうだね。とても有名な人達だ」
「さて、行こうか。ルチル」
ルチルはその場で両手を翳《かざ 》して次元を歪ませると、亜空間を作り出した。ブラックホールのように黒く渦巻いている。その中にチラリと、どこかに繋がっている様子が伺える。
ルチルは浮遊しながら「びゅ~ん」と声をあげながら窓をくぐった。
「アイレくん。私は君のことが気に入った。またどこかで会えるといいな」
アズライトはどこか物寂しさを感じとれる声で言葉を残して、亜空間の中へ消えていった。
――数時間後、アイレはようやく意識を取り戻した。
勢いよく立ち上がると周囲を見渡した。それからすぐ我に返り、アズライト、ルチル、そしてインザームのことを思い出した。
日はすでに落ちていて、波の音だけが空しく響いている。身体のいたるところからズキズキと痛みを感じることが、夢じゃないことと否定している。
「……くそっ!くそ!」
アイレは自身の無力さに悪態をつきながら、地面を殴り続けた。そのうち手の甲の皮が破れ血が滲み出てきたが、止めることはなかった。
それから突然、アイレは放心状態になると、唖然と海を眺めた。頭の中が真っ白で何も考えられなくなり、残っているのは虚無感と怒りの感情。そして、ヴェルネルとレムリがすでに死んでいるという事実。
二人は30年前にこの世界で生きていた。さらにインザームはアイレのことも最初から知っていた。
インザームが二人を殺したというアズライトの言葉――
――インザームがルチルに――。
答えのない問いは頭の中を永遠に巡りつづけたが、疲れ果てたのか、よろめきながら巨樹の家に向かって歩き出した。
幸い途中でゴブリンとすれ違うことはなく、遭遇すれば間違いなく死んでいた。
ようやくたどり着いたが、巨樹を登る力がほとんどなく、何度も落下しそうになりながらどうにか家に辿り着いた。
部屋の扉を開くと、まるで何年も帰っていなかったような懐かしい光景に思えた。
異世界に転生してから、半年以上の期間をこの家で過ごした。慣れなかった巨樹も、いつしか安心のできる我が家となっており、家に帰ればインザームが優しく出迎えてくれた。
いつしかアイレは、インザームのことを本当の父親のように感じていた。ヴェルネルやレムリとはまた違う、友達ではない「心の安心感」を与えてくれる存在だった。
その日アイレは、ふらふらとベットに倒れ込むと、泥ように眠りについた。
――翌日
目を覚ますと再び元気よく体を起こした。それから我に返り、前を見つめて呆然とした。インザームに助けてもらったあの日の事を思い返しながら、皮肉にも身体の傷が良くなっていることに気がついた。アズライトの戦いをへて、自然治癒能力もあがっており、今までの自分と何かが違うのを感じた。
そして何かを思い出したかのようにハッとした表情を浮かべると、
「……部屋」
と、呟いた。
ゆっくりとした足取りでイザームの部屋に向かった。頑なに部屋に入れようとしなかったことが、今では何かを隠してたかのように思える。
しかし部屋はいつも鍵がかかっていた。その場合は、扉を蹴り倒してでも破ろうと思っていたが、近づいただけでカチャりとドアが開いた。まるでアイレを招きいれているかのように。
この部屋にきちんと入室するのはこれが初めてだった。もちろん、ちらりと覗くことはあったが、特別変わった部屋ではなかったので、あまり気にしたことがなかった。
部屋の家具も、リビングと同様で木材で統一されており、ところどころ魔法の印が刻まれている。机にはうずたかく積まれた本が乱暴に散らかっている。
インザームの大雑把な性格を表しているように見える。
「……ちゃんと掃除しろよ」
アイレはなぜか笑みが零《 こぼ》れた。アズライトとルチルへの怒りの感情は決して消えていないが、インザームを近く感じた。
インザームはヴェルネルとレムリと旅をしていたと話していた。アイレのことも知っていたと言っていたのに、半年以上もその事実を黙っていた。
それだけの理由があったはずだ。
部屋を様子を眺めてみると、インザームの最後の言葉が頭に響く。
「息子のようじゃった」
ずっと天涯孤独だったアイレはその言葉が本当に嬉しかった。インザームの仇を取り、すべての謎を突き止めるまで諦めない。言葉にはしていないが、心の中ではもうわかっていた。
机の横にある、本棚には同じような書物がズラリと並んでいた。
「……蘇生魔法?」
そこには多くの蘇生術や治癒ついて書かれている本ばかりが並んでいた。中にはアイレが見ても陳腐で紛い物のような、子供向けの本すらも集めていたようだ。
「インザームは……誰かを蘇らせようとしていた……?」
同時にヴェルネルとレムリの顔が浮かんだ。
それから部屋中を隈なく調べたが、手掛かりのようなものはなく、諦めかけたそのとおき、書物に挟んでいた何かがヒライラと地面に落ちた。
それはこの世界では似つかわしくない写真のようなもので、裏には魔法の刻印と、懐かしい文字でレムリお手製! と記載されている。
「……これって30年前の……?」
カラーではなく白黒の写真だったが、驚きの人物が写真に映っていた。
インザームは銀色の重厚な甲冑を着込み、肩から巨大な斧を抱えている。
ヴェルネルは蒼く長い剣を帯刀しており、その肩にはフードを被った女性を乗せていた。
レムリは自身の身長をも超える長い木の杖を手にしていた。煌びやかな羽の装飾が付いていて、先端には生前身に付けていたレムリアンシードのお守りが装着されている。
皆《みんな》、屈託《くったく》の無い笑みを浮かべていた。それを眺めながら、アイレは大粒の涙を流していた。
この世界でずっと不安を感じていた。ヴェルネルとレムリはこの世界に来ていなくて、もしかすると独りぼっちなんじゃないか、さらにはインザームやアズライトの言葉がどこまで本当で、どこまで嘘なのかわからず悩んでいたが、その答えがこの写真に集約されている気がした。
ヴェルネルとレムリはこの世界に転生していた。それは30年前ということで間違いはなさそうだったが、こんな嬉しそうに笑っているインザームが二人を裏切るわけがないと確信した。
ただひとつ、ヴェルネルの肩に乗っている少女は見覚えがなかった。インザームやアズライトの言葉からも、この子についての情報はない。
たとえこの写真が30年前であったとしても、この少女ならまだ生きているかもしれない。
ヴェルネル、レムリ、インザームのことを知っている人物で唯一の手掛かり。
同時にインザームの最後の言葉が頭に過る。魔王が根城にしていたと言われる――クルムロフ城――。
その二つがヴェルネルとレムリの死因もしくは居場所に繋がっているはず。インザームが黙っていた理由も何かわかるかもしれない。
アイレはついにこの島を出る決意を固めた。
しかしアイレはすぐに出発することはなく、部屋の書物も綺麗に本棚に戻すと、家中を隈なく掃除しはじめた。
それから冷蔵庫に残っている鹿肉を少しだけ残して、ほとんどを豪快にフライパンで焼いて食べた。
そして日が落ちると、何度も何度も写真を眺めながら、ぐっすりと眠りについた。
――旅立ちの日。
見違えるほど綺麗になった部屋は、アイレが前を向いた証拠だった。すべての思い出に感謝しながら、アイレは身支度を整えた。写真は大事に懐にしまうと、インザームお手製の茶色の服を着込み、残しておいた鹿肉を鞄に詰め込み、竹筒に水を入れた。
「確か……インザームは北北西に向かえば街があると話していたな」
――まずはその町を目指す。
アイレはこの世界に初めて来た時と同じ目をしながら、家の扉を力強く開いた。
「ヴェルネル、レムリ、インザーム、俺は絶対に諦めない」
それから数時間後。
アイレではない誰かが巨樹《きょじゅ》の家の扉を開けていた。
その可愛らしい見た目とは裏腹に、ルチルは物騒なことを言い放った。
アイレに向けている魔力はその言葉の意味を十分に表している。
「よせ! やめるんじゃ!」
インザームが懇願しながら叫んだ。魔力は一欠けらも残っていないにもかかわらず、それを感じさせないほどの迫力も兼ね備えていた。
「ルチル。ダメだよ」
アズライトが優しく止めると、ルチルは「はーい」と可愛らしく返事をすると、手を戻した。その姿はまるで子供のように思える。
「私がここまで追いつめられるとは思いませんでした」
アズライトは納刀《のうとう》しながら二人を賞賛した。その横で、ルチルは浮遊しながらぐるぐると動いている。
「アズアズ負けたんだーっ! めっずらしー!」
「そうだね。ルチルがいなければ死んでいたかもしれない」
ルチルとアズライトはかなり親しげに見えた。緊張感のなさが逆にアイレとインザームに恐怖を与えた。
「頼む。アイレには手を出さんでくれ」
インザームは素直な気持ちでアズライトに頼んだ。心の底からの願いを込めていた。
「先ほどの素晴らしい攻撃に免じて、その願い承りましょう」
その申し出をアズライトは意外にもすんなりと受け入れた。
それどころか、二人に対して敬意を表しているかのようにも思える。
「アイレ。お主は息子のようじゃった。楽しかったぞ」
「やめろ……アズライト! やめてくれ!」
インザームは満面の笑顔を向けた。アイレは子供のように叫びながら、動かない脚を引きずりながら助けようとした。
「ルチル。頼んでいいかい?」
「えーっ アズアズ今日はわがままだなぁーっ。」
アズライトの非情な一言がアイレの心に突き刺さる。
ルチルはとても嬉しそうな笑顔を見せながら、インザームに掌を翳した。とんでもない魔力で次元が歪む。
「おじいちゃん。ばいばーいっ!」
ルチルは、インザームの姿が見えなくなるほど、漆黒に包まれた魔法を瞬時に放った。空間を歪めながら、その魔法はインザームの体をすべて包み込み、凄まじい轟音を鳴らして、文字通り跡形もなく消え去った。
まるではじめから、その場に存在していなかったかのように。
「よくもインザームを!」
アイレは最後の気力を振り絞ると我武者羅《がぶしゃらに》にルチルに向かった。
手に武器もなく、何の考えもない。
「おいたはダメっ」
ルチルはそれを見て笑顔のままアイレに掌を翳《かざ 》し――
が、そこでアズライトが、ルチルの前に立ちふさがるとアイレの腹に拳を打ち抜くように一撃を入れた。
アイレはそのまま倒れ込むと、気を失った。
「く……そ……ぉ…………」
「まだ動けるとは驚いたな」
「アズアズっ! ルチル守ってくれた! 恰好いい!」
ルチルは嬉しそうに、アズライトの周囲を浮遊した。インザームを跡形もなく消えさせた後とは思えないほど、陽気で嬉しそうにしている。
「ヴェルネルとレムリは、まだ生きている‥‥‥か」
意識を失っているアイレに視線を変えながら、アズライトが呟いた。
「アズアズっ! ルチル知ってる!! 伝説の勇者御一行!」
「そうだね。とても有名な人達だ」
「さて、行こうか。ルチル」
ルチルはその場で両手を翳《かざ 》して次元を歪ませると、亜空間を作り出した。ブラックホールのように黒く渦巻いている。その中にチラリと、どこかに繋がっている様子が伺える。
ルチルは浮遊しながら「びゅ~ん」と声をあげながら窓をくぐった。
「アイレくん。私は君のことが気に入った。またどこかで会えるといいな」
アズライトはどこか物寂しさを感じとれる声で言葉を残して、亜空間の中へ消えていった。
――数時間後、アイレはようやく意識を取り戻した。
勢いよく立ち上がると周囲を見渡した。それからすぐ我に返り、アズライト、ルチル、そしてインザームのことを思い出した。
日はすでに落ちていて、波の音だけが空しく響いている。身体のいたるところからズキズキと痛みを感じることが、夢じゃないことと否定している。
「……くそっ!くそ!」
アイレは自身の無力さに悪態をつきながら、地面を殴り続けた。そのうち手の甲の皮が破れ血が滲み出てきたが、止めることはなかった。
それから突然、アイレは放心状態になると、唖然と海を眺めた。頭の中が真っ白で何も考えられなくなり、残っているのは虚無感と怒りの感情。そして、ヴェルネルとレムリがすでに死んでいるという事実。
二人は30年前にこの世界で生きていた。さらにインザームはアイレのことも最初から知っていた。
インザームが二人を殺したというアズライトの言葉――
――インザームがルチルに――。
答えのない問いは頭の中を永遠に巡りつづけたが、疲れ果てたのか、よろめきながら巨樹の家に向かって歩き出した。
幸い途中でゴブリンとすれ違うことはなく、遭遇すれば間違いなく死んでいた。
ようやくたどり着いたが、巨樹を登る力がほとんどなく、何度も落下しそうになりながらどうにか家に辿り着いた。
部屋の扉を開くと、まるで何年も帰っていなかったような懐かしい光景に思えた。
異世界に転生してから、半年以上の期間をこの家で過ごした。慣れなかった巨樹も、いつしか安心のできる我が家となっており、家に帰ればインザームが優しく出迎えてくれた。
いつしかアイレは、インザームのことを本当の父親のように感じていた。ヴェルネルやレムリとはまた違う、友達ではない「心の安心感」を与えてくれる存在だった。
その日アイレは、ふらふらとベットに倒れ込むと、泥ように眠りについた。
――翌日
目を覚ますと再び元気よく体を起こした。それから我に返り、前を見つめて呆然とした。インザームに助けてもらったあの日の事を思い返しながら、皮肉にも身体の傷が良くなっていることに気がついた。アズライトの戦いをへて、自然治癒能力もあがっており、今までの自分と何かが違うのを感じた。
そして何かを思い出したかのようにハッとした表情を浮かべると、
「……部屋」
と、呟いた。
ゆっくりとした足取りでイザームの部屋に向かった。頑なに部屋に入れようとしなかったことが、今では何かを隠してたかのように思える。
しかし部屋はいつも鍵がかかっていた。その場合は、扉を蹴り倒してでも破ろうと思っていたが、近づいただけでカチャりとドアが開いた。まるでアイレを招きいれているかのように。
この部屋にきちんと入室するのはこれが初めてだった。もちろん、ちらりと覗くことはあったが、特別変わった部屋ではなかったので、あまり気にしたことがなかった。
部屋の家具も、リビングと同様で木材で統一されており、ところどころ魔法の印が刻まれている。机にはうずたかく積まれた本が乱暴に散らかっている。
インザームの大雑把な性格を表しているように見える。
「……ちゃんと掃除しろよ」
アイレはなぜか笑みが零《 こぼ》れた。アズライトとルチルへの怒りの感情は決して消えていないが、インザームを近く感じた。
インザームはヴェルネルとレムリと旅をしていたと話していた。アイレのことも知っていたと言っていたのに、半年以上もその事実を黙っていた。
それだけの理由があったはずだ。
部屋を様子を眺めてみると、インザームの最後の言葉が頭に響く。
「息子のようじゃった」
ずっと天涯孤独だったアイレはその言葉が本当に嬉しかった。インザームの仇を取り、すべての謎を突き止めるまで諦めない。言葉にはしていないが、心の中ではもうわかっていた。
机の横にある、本棚には同じような書物がズラリと並んでいた。
「……蘇生魔法?」
そこには多くの蘇生術や治癒ついて書かれている本ばかりが並んでいた。中にはアイレが見ても陳腐で紛い物のような、子供向けの本すらも集めていたようだ。
「インザームは……誰かを蘇らせようとしていた……?」
同時にヴェルネルとレムリの顔が浮かんだ。
それから部屋中を隈なく調べたが、手掛かりのようなものはなく、諦めかけたそのとおき、書物に挟んでいた何かがヒライラと地面に落ちた。
それはこの世界では似つかわしくない写真のようなもので、裏には魔法の刻印と、懐かしい文字でレムリお手製! と記載されている。
「……これって30年前の……?」
カラーではなく白黒の写真だったが、驚きの人物が写真に映っていた。
インザームは銀色の重厚な甲冑を着込み、肩から巨大な斧を抱えている。
ヴェルネルは蒼く長い剣を帯刀しており、その肩にはフードを被った女性を乗せていた。
レムリは自身の身長をも超える長い木の杖を手にしていた。煌びやかな羽の装飾が付いていて、先端には生前身に付けていたレムリアンシードのお守りが装着されている。
皆《みんな》、屈託《くったく》の無い笑みを浮かべていた。それを眺めながら、アイレは大粒の涙を流していた。
この世界でずっと不安を感じていた。ヴェルネルとレムリはこの世界に来ていなくて、もしかすると独りぼっちなんじゃないか、さらにはインザームやアズライトの言葉がどこまで本当で、どこまで嘘なのかわからず悩んでいたが、その答えがこの写真に集約されている気がした。
ヴェルネルとレムリはこの世界に転生していた。それは30年前ということで間違いはなさそうだったが、こんな嬉しそうに笑っているインザームが二人を裏切るわけがないと確信した。
ただひとつ、ヴェルネルの肩に乗っている少女は見覚えがなかった。インザームやアズライトの言葉からも、この子についての情報はない。
たとえこの写真が30年前であったとしても、この少女ならまだ生きているかもしれない。
ヴェルネル、レムリ、インザームのことを知っている人物で唯一の手掛かり。
同時にインザームの最後の言葉が頭に過る。魔王が根城にしていたと言われる――クルムロフ城――。
その二つがヴェルネルとレムリの死因もしくは居場所に繋がっているはず。インザームが黙っていた理由も何かわかるかもしれない。
アイレはついにこの島を出る決意を固めた。
しかしアイレはすぐに出発することはなく、部屋の書物も綺麗に本棚に戻すと、家中を隈なく掃除しはじめた。
それから冷蔵庫に残っている鹿肉を少しだけ残して、ほとんどを豪快にフライパンで焼いて食べた。
そして日が落ちると、何度も何度も写真を眺めながら、ぐっすりと眠りについた。
――旅立ちの日。
見違えるほど綺麗になった部屋は、アイレが前を向いた証拠だった。すべての思い出に感謝しながら、アイレは身支度を整えた。写真は大事に懐にしまうと、インザームお手製の茶色の服を着込み、残しておいた鹿肉を鞄に詰め込み、竹筒に水を入れた。
「確か……インザームは北北西に向かえば街があると話していたな」
――まずはその町を目指す。
アイレはこの世界に初めて来た時と同じ目をしながら、家の扉を力強く開いた。
「ヴェルネル、レムリ、インザーム、俺は絶対に諦めない」
それから数時間後。
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