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ヴルタヴァ
第22話:フェアの気持ち
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「……んっ」
フェアは写真を片手に涙を流しながら目を覚ました。少し目を腫らしている。
周囲を見渡しても、アイレの姿はなかった。窓から漏れる光は朝だという事を教えてくれた。
置いて行かれたと思い少し焦った表情を浮かべた時にドア越しからアイレの声が聞こえてきた。
フェアは階段を下りて食堂へ向かった。宿の朝ご飯をフェアは食べた事がなかった。ヴェルネルとレムリの死後を見計らった様に人間以外の種族は一部の過激集団に差別され始めると、追われ殺されるようになった。近年はそういう差別が減ったとはいえ、フェアは何度もつらい思いをした。
そのため、あまり一目をつかないように行動するのがある意味癖になっていた。フェアは静かに食堂に近づくと
アイレが複数の冒険者と話しているのを見た。 アイレを囲んで、色々な話をしている様だった。
フェアはアイレの事を全く知らない。でも、ヴェルネルとレムリと旅をしていた少しの間は何度も話に出ていた。
優しくて、強くて、誰よりも人の心に寄り添える人。 フェアはインザームと別れてから30年の間、色々な場所を転々としてきた。
エルフの里に馴染む事もできず、人間の世界で暮らすには危険すぎた。その為ハーフエルフのフェアの居場所はどこにもなかった。
インザームと別れる時は断腸の思いだったが、それでもインザームの覚悟と決意を優先した。フェアは態度には出していないが
アイレをずっと待っていた。ヴェルネルとレムリとインザームの汚名を晴らしたいと思っていたが、自分一人ではどうする事もできない。
その気持ちを一緒に考えてくれる人をずっと待っていた。 アイレの昨日の瞳を見て、フェアは心の中で嬉しかった。
ヴェルネルとレムリとインザームの様に真っ直ぐな人をやっと見つけたと。
「……」
フェアは少し遠くでアイレを見て、部屋に戻ろうと思ったその時
「フェア! こっちこいよ!」
アイレはフェアを呼んだ。フェアはフードを被っていて、顔をあまり見られない様にしている。
片方だけピンとした耳は、念のためばれないようにと普段は高度な魔法で隠している。
なかなか動かないフェアに対して、アイレは近づいた
「前の……襲撃事件で亡くなった人達の事を話したりしてたんだ。 色んな思い出とか、みんな頑張ったなって
フェアもきてほしい」
アイレはそういうと、少し強引にフェアを引っ張って椅子に座らせた。
その近くには鉄拳のアンガルドがいた。
「おお!? なんだ、こんな可愛い子と知り合いだったとはアイレも墨におけねえな! って……まだ子供か?
俺は鉄拳のアンガルド様だ! よろしくな!」
「俺の大切の仲間でフェアって言うんだ。みんなよろしくな! って俺達すぐ行っちゃうけど」
「……よろしく」
冒険者達はフェアを歓迎して、自分達の食べ物や飲み物を勧めた。近くにいた食堂のおばさんはとても嬉しそうにそれを眺めていた。
フェアはずっと静かにしていたが、こうやって人の話を近くで聞いたり、歓迎してもらう事は今までなかった。
アイレはきっとその気持ちを汲んでくれたのかもしれないと、少し思ったが、人間を完全に信用する事はやはりできずにいた。
何度も、何度も、フェアは人間に殺されかけ嫌な思いを味わった。それでも、アイレは悪い人ではないなと、フェアは思った。
「よし、じゃあなアンガルド! みんな! 俺達はそろそろ向かうよ。 元気でなお前ら」
「おう! またなアイレ!」「いっぱしの冒険者らしい雰囲気だしてやがって」「元気でなアイレ! フェアちゃんもね」
「……またね。ありがとう」
フェアとアイレはそう言いながら、部屋に戻って身支度を済ませた。
ちなみにアンガルトは魔物対峙の功績を認められて冒険者Fランクの資格を得た。
「なんか、ごめんな。ああゆうの苦手だったか? 俺……昨日のフェアの話を聞いてからずっと悲しかった。 ヴェルネルもレムリは生きてるって信じてたし
いつか会えると思ってた。 でも……いつまでも悔やんでられない。 俺がこの世界に来たのは絶対に意味があると思う。 だから、前を向こうと思ったんだ」
フェアは少しだけ黙って、口を開いた
「……まぁちょっとだけ楽しかったわ。 でも、これからはちゃんと前を見ないと。 この世界は甘くない」
「当たり前だ。 俺だってこの世界の事はちゃんとわかってる」
「どうかしら……。 まずは海を渡ってベレニという街へいきましょう。 そこは人も多いし、シュタイン家の事も。あなたのその貧相な武器も新しいのに変えれると思うわ」
「貧相な武器って……これ、インザームが作ってくれた短剣だぞ。 確かにもうぼろぼろだけど……」
フェアはアイレにはわからない程度に嬉しそうに話していた。人とこうやってまともに会話するのも何十年ぶりだった。
アイレの短剣は度重なる戦闘でぼろぼろになっており、これ以上酷使すると折れてしまう一歩手前だった。
「よし、準備はできた。 行こうか、フェア」
「行こうかって場所わからないでしょ。 着いてきてくれる?」
「へいへーい」
フェアはヴェルネルとレムリとインザームと旅をしていた時と思い出しながら、少しだけ微笑みドアを開いた。
宿を出るとアイレは色々な人から声を掛けられていた。この街を守っている時、みんなアイレの事を見ていたからだ。
お礼をいって、声をかけて、アイレもそれに応えた。 襲撃事件があった時、フェアも魔物を倒していたが
極力自分の姿は晒さないようにしていた。 何か面倒に巻き込まれるのが嫌だったからだ。
それでも、アイレの姿を見ていると昔を思い出した。フェアがヴェルネルとレムリとインザームと旅をしていたのは、ほんの1年間だった。
ハーフエルフの寿命は人間より長く、エルフより短い。それでも数百年は生きる事はできる。その中の1年間はフェアにしていれば短い期間だったが、大切な時間だった。
ヴェルネルとレムリとインザームは国を助け、人を助け感謝され続けてきた。フェアはそんな生き方はできなかったが、3人を誇りに思っていた。
アイレを見る度に、深い底に眠っていた記憶が動き出していた。
ヴルダヴァを出る門に着いた時に門兵が話かけてきた。
「おう、お前行くのか?」
アイレの事を疑っていた門兵だった。
「ああ、行く所があるんだ。 ベレニ?だったっけ? その街にいくんだ」
アイレは間違ってないかフェアのほうをチラチラと見ながら門兵に答えた。
「だったら船の乗り換えだろう。 俺が龍車の手配をしてやるからそれに乗りな。 ほんの……お詫びだ」
「……いいのか?」
「お前には随分助けられたしな。 だけど……あの写真本当になんなんだ?」
「大切な……写真だよ。 詳しくは言えないんだ」
アイレは門兵に静かに答えて、門兵はそれ以上深くは聞かなかった。
15分ほど待つと、門兵の仲間が龍車を運んできた
「あまり遠くまでは行けないが、俺が船着き場まで運んでやるよ。 乗りな。 二人でいいのか?」
「ああ、頼むよ」
アイレはそう言いながら、龍車に乗り込んだ。
フェアが龍車に乗ろうとすると、アイレは手を伸ばした。
その時フェアの深い記憶が蘇った。
ヴェルネルに魔族から助けられた時の思い出だ。
『大丈夫か!? 立てるか!?』
ヴェルネルは魔物に襲われている幼いフェアを助けて手を差し伸べた。
『もう大丈夫だよ。遅くなってごめんね』 『ワシが廻りを警戒しておくぞ』
レムリとインザームの事も。
「…ッア……フェア? 聞いてる?」
アイレは龍車で手を伸ばしながら、フェアの名前を何度も呼んでいた。
「あ、ごめんなさい。ありがとう」
フェアはアイレの手を取り、龍車に乗った。
前回、先回りをしてこの龍車に乗り、アイレを待ってい時は不安でいっぱいだった。
本当に”あの”アイレなのか。ヴェルネルとレムリやインザームの事をちゃんと知っているのか、悪い人ではないのか……。と。
フェアはアイレの事を着けながら段々と悪い人ではないとわかって安心した。これから同じ道を歩んでくれる仲間を得た。
それはアイレもフェアも同じ気持ちであった。
「アイレ。ここから先は本当に危険な道になるかもしれない。絶対に油断はしないで。私はまだあなたを信用してない」
「当たり前だ。 フェアも気をつけろよ」
そして龍車はヴルダヴァの門を潜ると、ベレニ行の船の近くまで進んでいった。
フェアは写真を片手に涙を流しながら目を覚ました。少し目を腫らしている。
周囲を見渡しても、アイレの姿はなかった。窓から漏れる光は朝だという事を教えてくれた。
置いて行かれたと思い少し焦った表情を浮かべた時にドア越しからアイレの声が聞こえてきた。
フェアは階段を下りて食堂へ向かった。宿の朝ご飯をフェアは食べた事がなかった。ヴェルネルとレムリの死後を見計らった様に人間以外の種族は一部の過激集団に差別され始めると、追われ殺されるようになった。近年はそういう差別が減ったとはいえ、フェアは何度もつらい思いをした。
そのため、あまり一目をつかないように行動するのがある意味癖になっていた。フェアは静かに食堂に近づくと
アイレが複数の冒険者と話しているのを見た。 アイレを囲んで、色々な話をしている様だった。
フェアはアイレの事を全く知らない。でも、ヴェルネルとレムリと旅をしていた少しの間は何度も話に出ていた。
優しくて、強くて、誰よりも人の心に寄り添える人。 フェアはインザームと別れてから30年の間、色々な場所を転々としてきた。
エルフの里に馴染む事もできず、人間の世界で暮らすには危険すぎた。その為ハーフエルフのフェアの居場所はどこにもなかった。
インザームと別れる時は断腸の思いだったが、それでもインザームの覚悟と決意を優先した。フェアは態度には出していないが
アイレをずっと待っていた。ヴェルネルとレムリとインザームの汚名を晴らしたいと思っていたが、自分一人ではどうする事もできない。
その気持ちを一緒に考えてくれる人をずっと待っていた。 アイレの昨日の瞳を見て、フェアは心の中で嬉しかった。
ヴェルネルとレムリとインザームの様に真っ直ぐな人をやっと見つけたと。
「……」
フェアは少し遠くでアイレを見て、部屋に戻ろうと思ったその時
「フェア! こっちこいよ!」
アイレはフェアを呼んだ。フェアはフードを被っていて、顔をあまり見られない様にしている。
片方だけピンとした耳は、念のためばれないようにと普段は高度な魔法で隠している。
なかなか動かないフェアに対して、アイレは近づいた
「前の……襲撃事件で亡くなった人達の事を話したりしてたんだ。 色んな思い出とか、みんな頑張ったなって
フェアもきてほしい」
アイレはそういうと、少し強引にフェアを引っ張って椅子に座らせた。
その近くには鉄拳のアンガルドがいた。
「おお!? なんだ、こんな可愛い子と知り合いだったとはアイレも墨におけねえな! って……まだ子供か?
俺は鉄拳のアンガルド様だ! よろしくな!」
「俺の大切の仲間でフェアって言うんだ。みんなよろしくな! って俺達すぐ行っちゃうけど」
「……よろしく」
冒険者達はフェアを歓迎して、自分達の食べ物や飲み物を勧めた。近くにいた食堂のおばさんはとても嬉しそうにそれを眺めていた。
フェアはずっと静かにしていたが、こうやって人の話を近くで聞いたり、歓迎してもらう事は今までなかった。
アイレはきっとその気持ちを汲んでくれたのかもしれないと、少し思ったが、人間を完全に信用する事はやはりできずにいた。
何度も、何度も、フェアは人間に殺されかけ嫌な思いを味わった。それでも、アイレは悪い人ではないなと、フェアは思った。
「よし、じゃあなアンガルド! みんな! 俺達はそろそろ向かうよ。 元気でなお前ら」
「おう! またなアイレ!」「いっぱしの冒険者らしい雰囲気だしてやがって」「元気でなアイレ! フェアちゃんもね」
「……またね。ありがとう」
フェアとアイレはそう言いながら、部屋に戻って身支度を済ませた。
ちなみにアンガルトは魔物対峙の功績を認められて冒険者Fランクの資格を得た。
「なんか、ごめんな。ああゆうの苦手だったか? 俺……昨日のフェアの話を聞いてからずっと悲しかった。 ヴェルネルもレムリは生きてるって信じてたし
いつか会えると思ってた。 でも……いつまでも悔やんでられない。 俺がこの世界に来たのは絶対に意味があると思う。 だから、前を向こうと思ったんだ」
フェアは少しだけ黙って、口を開いた
「……まぁちょっとだけ楽しかったわ。 でも、これからはちゃんと前を見ないと。 この世界は甘くない」
「当たり前だ。 俺だってこの世界の事はちゃんとわかってる」
「どうかしら……。 まずは海を渡ってベレニという街へいきましょう。 そこは人も多いし、シュタイン家の事も。あなたのその貧相な武器も新しいのに変えれると思うわ」
「貧相な武器って……これ、インザームが作ってくれた短剣だぞ。 確かにもうぼろぼろだけど……」
フェアはアイレにはわからない程度に嬉しそうに話していた。人とこうやってまともに会話するのも何十年ぶりだった。
アイレの短剣は度重なる戦闘でぼろぼろになっており、これ以上酷使すると折れてしまう一歩手前だった。
「よし、準備はできた。 行こうか、フェア」
「行こうかって場所わからないでしょ。 着いてきてくれる?」
「へいへーい」
フェアはヴェルネルとレムリとインザームと旅をしていた時と思い出しながら、少しだけ微笑みドアを開いた。
宿を出るとアイレは色々な人から声を掛けられていた。この街を守っている時、みんなアイレの事を見ていたからだ。
お礼をいって、声をかけて、アイレもそれに応えた。 襲撃事件があった時、フェアも魔物を倒していたが
極力自分の姿は晒さないようにしていた。 何か面倒に巻き込まれるのが嫌だったからだ。
それでも、アイレの姿を見ていると昔を思い出した。フェアがヴェルネルとレムリとインザームと旅をしていたのは、ほんの1年間だった。
ハーフエルフの寿命は人間より長く、エルフより短い。それでも数百年は生きる事はできる。その中の1年間はフェアにしていれば短い期間だったが、大切な時間だった。
ヴェルネルとレムリとインザームは国を助け、人を助け感謝され続けてきた。フェアはそんな生き方はできなかったが、3人を誇りに思っていた。
アイレを見る度に、深い底に眠っていた記憶が動き出していた。
ヴルダヴァを出る門に着いた時に門兵が話かけてきた。
「おう、お前行くのか?」
アイレの事を疑っていた門兵だった。
「ああ、行く所があるんだ。 ベレニ?だったっけ? その街にいくんだ」
アイレは間違ってないかフェアのほうをチラチラと見ながら門兵に答えた。
「だったら船の乗り換えだろう。 俺が龍車の手配をしてやるからそれに乗りな。 ほんの……お詫びだ」
「……いいのか?」
「お前には随分助けられたしな。 だけど……あの写真本当になんなんだ?」
「大切な……写真だよ。 詳しくは言えないんだ」
アイレは門兵に静かに答えて、門兵はそれ以上深くは聞かなかった。
15分ほど待つと、門兵の仲間が龍車を運んできた
「あまり遠くまでは行けないが、俺が船着き場まで運んでやるよ。 乗りな。 二人でいいのか?」
「ああ、頼むよ」
アイレはそう言いながら、龍車に乗り込んだ。
フェアが龍車に乗ろうとすると、アイレは手を伸ばした。
その時フェアの深い記憶が蘇った。
ヴェルネルに魔族から助けられた時の思い出だ。
『大丈夫か!? 立てるか!?』
ヴェルネルは魔物に襲われている幼いフェアを助けて手を差し伸べた。
『もう大丈夫だよ。遅くなってごめんね』 『ワシが廻りを警戒しておくぞ』
レムリとインザームの事も。
「…ッア……フェア? 聞いてる?」
アイレは龍車で手を伸ばしながら、フェアの名前を何度も呼んでいた。
「あ、ごめんなさい。ありがとう」
フェアはアイレの手を取り、龍車に乗った。
前回、先回りをしてこの龍車に乗り、アイレを待ってい時は不安でいっぱいだった。
本当に”あの”アイレなのか。ヴェルネルとレムリやインザームの事をちゃんと知っているのか、悪い人ではないのか……。と。
フェアはアイレの事を着けながら段々と悪い人ではないとわかって安心した。これから同じ道を歩んでくれる仲間を得た。
それはアイレもフェアも同じ気持ちであった。
「アイレ。ここから先は本当に危険な道になるかもしれない。絶対に油断はしないで。私はまだあなたを信用してない」
「当たり前だ。 フェアも気をつけろよ」
そして龍車はヴルダヴァの門を潜ると、ベレニ行の船の近くまで進んでいった。
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