老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴

文字の大きさ
64 / 114
一年後

第58話:因縁

しおりを挟む
 大勢いる魔物の軍勢の真ん中にイフリートの姿が見える。ほとんどが大型タイプの種類で、高い魔力を有しているのが目を凝らさなくとも肌で感じた。
 サイクロプスにメガコカトリス、ダンジョンボスに似ている蛇の魔物の姿も。

 イフリートがその魔物達を統率しているようだった。

「なんて数だ……。ちきしょう!」

 ロンが震えながら叫んだ。数名の仲間も、すぐに情報の伝達に急いだ。

「ロン、戦える兵士は何人だ?」

「武器もまともにないんですよ……せいぜい10か20って所ですが、てんで戦力とも言えません」

「なるほど……だが、諦めるな」

 コポルスカは冷静だった。レグニツァの騎士団長というのも伊達ではない。

「やはり転移魔法は極力使わないようだな。フェアの言う通りだ」

「ええ、罠を仕掛けられる可能性もあるし、ルチルの言うとおりなら魔力量の消費も凄いはず。それに同じく制約も必ず存在しているはず」

「ど~する? まずは先手必勝?」

 イフリートの姿を見た瞬間、アクアを思い出してざわついた心をアイレは落ち着かせた。その横でシェルが

「……絶対に殺してやる」

 小さな声で怒りを露わにした。だが言動とは裏腹にすぐに冷静さを取り戻すと

「クリア、魔力量は問題ないか? 出来るだけ早く移動したい」

「大丈夫。治癒魔法は使ったけど、まだ余裕があるよ」

 何か策を考えているようだった。その横でコポルスカが

「ロン、仲間と共に一般市民を連れて隠れておいてくれ。俺はこいつらと一緒に戦う。それも兵士の立派な役目だ」

「し、しかし……」

「大丈夫だ。こいつらの実力は……俺が知ってる」

 コポルスカはアイレに視線を変えた。アニーのことをいち早く助けた動きと、母親を気遣うその姿をみていつのまにか認めていた。

「わかりました。よし! お前たち! すぐに全員を集めろ! 街の人も全員、神殿地下道に避難させるぞ!」

 ロンは仲間と共に屋上をあとにした。残ったアイレ達は

「あの感じだと、5分もかからずに到達するだろうな」

「アイレ。――僕達がどうして二人だけで先遣隊をしているのか見せるよ」


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 

 
 そして五分後、魔物の軍勢とイフリートはモジナの正門に到着した。扉は空いており、まるで中に招き入れるかのようだった。


――シンドラの話しではこの街に”あやつら”が来ているはずだ。しかし、目立った魔力を感じないな……どこにいる?

 イフリートは大型の魔物の行動を制限させながら、街の中にいるであろうアイレ達の魔力を探した。しかし何も感じない。

――ふむ。地下道に人間の群れか……。こやつらを餌におびき寄せるてみるか。

 イフリートがロン達の魔力を察知したとき、後方からとてつもない魔力を持つ者たちが現れた。

「俺についてこいよ、神速《ディヴィーツ》!」

「すべてを凍らせろ、絶対零度《アブソリュートゼロ》!」

「化け物が、七色の矢《アルカンシエルアロー》!」

 フェアの氷魔法が大勢の魔物の体を凍らせると、続いてグレースの魔法の矢がいくつも綺麗な色に枝分かれして
心臓や頭に直撃した。

 辛うじて反応した素早い魔物もいたが、アイレが神速で首を切断していった。突然現れたアイレ達にイフリートですらも驚きをかくせなかった。

「なっ! 貴様らいったいどこから!?」

 思わず後ろを振り向いたイフリートの横から

「ここだよ」

 シェルが突然現れ、赤い魔法の紋章のラインがいくつも入っている長い剣でイフリートの首を狙った。その太刀筋は以前のシェルとは比べ物にならないほどに鋭い。

「――なにっ!」

 イフリートはシェルの剣に反応すると、すぐさま右腕を盾にして首を守った。だがしかし、右腕は見事に切り落とされた。

――ちっ首を一撃で落とすつもりが――

 イフリートは血を噴き出しながらも、後方に飛び距離を空けると、残った左腕で瞬時に炎の魔法の玉を生成して
シェルに投げつけた。

「人間どもが! 小癪な手を!」

 数秒にも満たない無詠唱の魔法にも関わらず、その炎の玉はヴルダヴァでフェローに投げつけていたときよりも遥かに禍々しいほどの魔力を有している。
イフリートのまた、以前より強くなっている。

 だが、避けることも切り刻むこともせず、シェルは剣を構えて炎の玉に向かってまっすぐに追撃した。

「バカめ! 燃え尽きろ人間め!」

 イフリートが歯を見せて嬉しそうに笑みを浮かべたとき、

「魔法消滅《マジックディスパリショーン》」

 シェルの後方から、クリアが魔法を詠唱すると、イフリートが放った炎の玉は、はじめからなかったかのように”消滅”した。

「ば、バカな!?」

「――終わりだ」


◇ ◇ ◇ イフリート達がモジナに着く数分前 ◇ ◇ ◇ 


「姿を消せるのか?」

 アイレが驚いて聞き直した。思い返せば、ダンジョンでフロードの仲間も使っていた魔法。

「クリアの魔法は全員の姿と魔力も隠すことができる。それもあって、先遣隊は僕達がしているんだ。」

「それなら、二人のほうが確かに動きやすいわね……。それに高度な治癒魔法も使えるなんて、あなた一体何者なの?」

 フェアは自分より小さなクリアを見て驚いた。同じ魔法を使う者として、治癒を使えるというのはそれだけでも遥かに技術を要する。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 


 時間は巻き戻り、そのまま油断していたイフリートにシェルの追撃が見事突き刺さった。

 と思いきや、イフリートの心臓の少し手前に、小さな黒い転移魔法が出現しており、シェルの剣は異次元に転送されていた。そのまま転移魔法が瞬時に閉じようとしたが
剣が破壊されると気付きすぐに引っ込めた。

「ちっ。この魔法は……。クリア! もう一人仲間がいるぞ! おそらくシンドラだ!」

 この一年間で魔王軍の名と魔法は知れ渡っていた。冒険者ギルドに所属しているシェル達は勿論すべてを把握している。遠くでその戦いを見ていた、いつもは無表情のシンドラが
クリアの魔法を見ていた。

「――魔法を防ぐでも、破壊するでもなく”消滅”!? そんなの見たことがない……あの子……今までどこにいたの!?」

 シンドラが衝撃を受けるのも無理はなかった。

 少女の本名はクリア・ジェニー。若干14歳ながら、冒険者ギルドにレムリよりも早くS級に到達した天才。
 西の小さなリヴネ村で生まれ、幼少期は特に目立った才能はなかったが、一年前に魔物が活性化したことで、村が壊滅的なダメージを受け
魔法の才能が突然開花した。誰からも教わらずに独学で消滅魔法を習得をすると、ありとあらゆる魔物を討伐した。

 その非凡な才能をいち早く見抜いたフェローが直々にギルドに推薦し、大暴れしていた北の魔物を一掃させる事に誰よりも貢献した。

 また、シェルはアクアをカレル村に埋葬したあと、フェローの弟子になっていた。その際にクリアと出会っている。
冒険者ギルドに所属してるものであれば、クリア・ジェニーの名を知らぬものはアイレ達を覗いていない。

 そして、この一年間でシェルもフェローのもとで戦いの才能をさらに磨いていた。それはアクアの仇を取るため
イフリートと対峙しても絶対に負けないように。


「ふぇ~! 凄いな――あのシェルって――やつ」

「ああ、俺も――驚いた。めちゃくちゃ――強くなってやがる」

「こっちの魔物を一掃したら、すぐに私たちも――集合しましょう!」

 魔物と戦いながら、それを遠くで見ていた、グレース、アイレ、フェアは賛辞を送った。そしてコポルスカも「ふっ。もう俺らの時代ではないな」と、笑みを零した。



「イフリート、ヴルダヴァでのアクアの仇だ。絶対にお前を殺す」

 シェルが剣を構えてイフリートを睨んだ。あれ以来、片時も忘れたことはない。

「……人間如きが!――我の本当の力を見せてやろう」

 その言葉と共に、イフリートの体は変化した。服を突き破り、体はさらに炎で燃え盛り
大きな翼が生えはじめた。 その魔力量はエルフの集落のときよりも遥かに絶大だった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

知識スキルで異世界らいふ

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

ブラック企業で心身ボロボロの社畜だった俺が少年の姿で異世界に転生!? ~鑑定スキルと無限収納を駆使して錬金術師として第二の人生を謳歌します~

楠富 つかさ
ファンタジー
 ブラック企業で働いていた小坂直人は、ある日、仕事中の過労で意識を失い、気がつくと異世界の森の中で少年の姿になっていた。しかも、【錬金術】という強力なスキルを持っており、物質を分解・合成・強化できる能力を手にしていた。  そんなナオが出会ったのは、森で冒険者として活動する巨乳の美少女・エルフィーナ(エル)。彼女は魔物討伐の依頼をこなしていたが、強敵との戦闘で深手を負ってしまう。 「やばい……これ、動けない……」  怪我人のエルを目の当たりにしたナオは、錬金術で作成していたポーションを与え彼女を助ける。 「す、すごい……ナオのおかげで助かった……!」  異世界で自由気ままに錬金術を駆使するナオと、彼に惚れた美少女冒険者エルとのスローライフ&冒険ファンタジーが今、始まる!

独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活

髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。 しかし神は彼を見捨てていなかった。 そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。 これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します

名無し
ファンタジー
 毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。

処理中です...