老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴

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一年後

第57話:宿敵

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 シェルの体は返り血で染まっている。地面には何度も切り刻まれたであろう男の死体が転がっていた
命乞いをしていたのか、それとも逃げようとしてたいのかはわからないが、腕が変な形に曲がっている。

 コポルスカの警告にシェルが気がつくと、こちらに視線を変えた。右手には血塗られた剣。

「……もしかして、アイレ?」

「シェル……。その男は誰なんだ?」

 アイレが不安交じりの声を出した。

「ああ、こいつは――」
「シェル、終わったよ」

 同時に酒場から女性が扉をあけて現れた。シェルと同じく、返り血にそまっている。年齢はアイレ達とそう変わらないよう見える。
蒼紫のローブを装備していることから、魔法使いのようだ。髪色は綺麗な緑で腰まで長く、背はフェアより小さいが堂々としていた。

「ありがとう、クリア。どうなった?」

「大丈夫だよ、大した傷じゃなかった。……その人たちは?」

「僕の昔の仲間だよ、そう警戒しないでくれ。僕達は人を助けただけだ」

 シェルのその言葉を聞いて、アイレはほっと胸を撫でおろした。

「コポルスカ、大丈夫。俺の知り合いだ。シェル、ここでなにを?」

 アイレの言葉と同時に40代前後の女性がまた現れた。その風貌と服装はアニーが証言していた母親に似ている。

「ありがとうございます! わ、私の娘をしりませんか?」

「もしかして……アニーの?」

 その人はアニーの母親だった。この国の王族や権力者達が魔王軍に虐殺されてから、悪党一味が酒場を拠点として奴隷としてアニーとその母親を捕まえた。隙を見て
アニーを何とか逃がそうとしたとき、怪我を負ってしまったが、シェルとクリアに助けられた。
 
 コポルスカが途中まで送っていくと母親を連れてプンクヴァまで連れていき、また戻ってくるという。

「知らない人もいるから自己紹介しておくよ。僕はシェル、アイレの昔の仲間だ。で、隣にいるのがクリア。冒険者ギルドで出会った仲間だ。この街にはさっき来たばかりなんだけど
悲鳴が聞こえて……すぐにここへきたんだ」

「よろしく、援護魔法や治癒が得意です」

 クリアは丁寧にアイレ達に手を差し伸べた。

「俺はアイレだ。隣がフェアで、彼女がグレース」

 丁寧な挨拶を交わした後、男の死体の話しに戻った。

「シェルがやったのか?」

「ああ、こいつらは屑だ。酒場の中には行かないほうがいい、もっとひどい有様になっている」

 シェルは悲痛な面持ちと怒りの表情で死体を眺めた。アイレは少し驚いたが、シェルは何も変わっていない。正義感が強く、便りになるあの時のままだ。

「シェル、なんで東へきたんだ?」

「……イフリートだよ。あいつを殺すためにここへきた。この東ではイフリートの目撃は絶えないからね。それにヴェルネルの話は聞いたよ」

「……ああ」

 アイレは今までの経緯をシェルに話した。ベレニのこと、アズライトのこと、エルフの集落のこと。シェルとクリアは一切目を反らさず
余計な口も挟まずにアイレの話しを最後まで聞いた。

「そんなことが……大変だったんだね。僕達は西のほうの山を越えてきたんだ。東側へきてもう一週間かな、この街にはさっき来たんだけど
噂以上の荒れっぷりだ」

「そうみたいだな。人の気配はないが、アニーの話しだと家に籠ってる人が多いらしい。ヴェルネル達を探しに来たとはいえ、東側の街はどれもこうなのかなと思うと辛い旅になりそうだ」

「シェルにクリア。あなた達二人できたの?」

 フェアが話を割って入った。

「君は……確か同じ冒険者に合格したときにいたよね。ああ、ごめん、僕達は先遣隊なんだ。冒険者ギルドで動いてるんだよ。明日になれば、皆来ると思う。統率しているのは二人も知ってる人物だよ」

「知ってる?」
「どういうこと?」

 アイレとフェアは頭の中に共通の知り合いを浮かべ、数秒して、一人の人物が思い浮かんだ。冒険者テストの試験官をしていた、怖い美人

「あの、フェローさ。他にも冒険者の手練れが何人も東へ渡ってきている。たしか、ギルドに所属していたら通達がきていたはずだけど……知らないのか?」

「ああ、俺たちはずっと南の森にいたんだ。だから、その話は聞いてないな……」

「ちょっとちょっと、あたしにはさっぱりわかんない話ばかりでお姉さん寂しいよ~~~」

 グレースが全く話についていけず、つまらなそうな表情でうだりはじめたとき、後ろから数名の足音が聞こえた。

「……誰か来た。数名。魔力は高くない。」

 感知能力の高いフェアがいち早くそれに気付くと、全員が警戒した。

「武器を捨てろ!」
「屑共が!」
「よくも!」

 数名の男達がアイレ達に槍を構えて現れた。全員がぼろぼろで瘦せこけている。

「ロン……か?」

 コポルスカがアニーの母親をプンクヴァで送り、戻ってきて槍を構えている男に気が付いた。

「……コポルスカ騎士団長ですか?」

「改めて自己紹介をさせてください。私はこの街の元兵士のロン・ポワンといいます。今は街の自警団のリーダーをしていますが、形だけみたいなもんです。」

 外で立っているのは危険だと、近くにあるロンの自宅にアイレ達は移動した。南側の家の作りと違い、このあたりは土を固めて作ったレンガを壁にしており
木はあまり使われていない。家具はそれなりに立派に置かれているが、食料はほとんどないようで棚には何もなかった。

 痩せこけたロン達の姿を見ればほとんど何も食べれていないのがわかる。聞けば、コポルスカとは東と南の合同軍事演習で顔見知りだったという。

「久しいな、ロン。アニーの母親からも聞いたが、この街は酷い有様だな……」

「ええ、一年前に魔王軍が現れてからです。国の統一といっておきながら、領主様やお偉い方を殺して後は放置です。初めは私たち兵士が指揮を行っていたんですが
魔物が活発化したことにより、国外に出るのも難しくなりました。狩猟もままならず、食料不足で酷い暴動が起きてから誰の言うことも聞きません」

 ロンは貴重なお茶を綺麗な模様の入ったティーカップに注いで全員に渡した。その丁寧な所作から、人柄が伺える。

「なんとか他の国との連携は取れないのか?」

 コポルスカが注がれたティーカップに手をつけずに聞いた。

「他国から移住してきた人もいますが、どこも同じような有様です。つい先日まで、プンクヴァには大型の魔物がまるで門兵のように立ってたので、助けを求めることもできませんでした」

「そいつらが恐らく我が国を襲ってきた魔物達だろう。彼等が討伐してくれた。若いが優秀な子達だ」

 コポルスカがアイレに視線を向けながら言った。その時、ずっと黙っていたグレースが、

「……どれだけ酷い状況だったとしても、子供が奴隷にされていたんだぞ? どうしてもっと早く助けにいかない? あたし達やシェル達が来なければアニーや母親はは確実に死んでいたよ」

 自分が生きていた環境とアニーが被っていたからだ。実際、グレースもロック達と出会わなければ野たれ死んでいたといっていた。

「……君のいうとおりだ。すまない……」

「ロンはよくやっている! ほかのもっと偉い奴らは俺達を見捨てて誰よりも早く逃げた! ロンは……俺達を見捨てずにここに留まってくれたんだ!」

 横にいたこの街の市民の男の一人がロンを庇った。

「いや、彼女の言うとおりだ。本当に不甲斐ない……」

 ロンは深々とグレースに頭を下げた。

「……いや、あたしも何もわかってなかったかもしれないな。ごめん。」

「話の途中だけど、いいかな? 僕は冒険者のシェルだ。先遣隊としてこの国に来ている。明日になれば本隊が合流して東へ移動する手筈もできると思う、それを皆に通達してほしい。
間違いがあって揉めたり、事故が起きるのを避けたい」

 シェルの言葉この街の市民達から歓喜の声があがった。ただ、アイレだけは心の中で複雑な感情と怒りを覚えていた。

 アニーが危険な目にあったのも、この街の人が苦しんでいるのも、全てヴェルネルが元凶だ。そのことを頭の中でずっと考えていた。それを見透かしているかのようにフェアが、

「アイレ。私達は絶対にヴェルネルを止めましょう。これ以上苦しみを増やさないように。私も……覚悟を決めたわ」

「……ああ。俺も、もう迷ったりしない」

 その瞬間、ロンの家の扉が勢いよく開いた。

「ロン!!!!!!!!! 東の先から魔物の軍勢だ! それに……”あいつ”がいる」

 ロンの仲間の一人の言葉を聞いてアイレ達は確認するために家の屋上へ急いだ。フェアの感知能力でさえまだ捉えきれない遥か奥に
魔物達の軍勢の姿がうっすらと確認できた。そして、

「……シェル、遠くにいるのわかるか?」


「……ああ。忘れるわけがない」


「イフリートだ」

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