老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴

文字の大きさ
68 / 114
一年後

第62話:ファベル

しおりを挟む
「はい」

 ドアが開くと同時にファベルの姿が見える。この時、アズライトは予想外の出来事で更に固まった。

◇ ◇ ◇

「そういえば伝え忘れておったわ……」

 インザームが何かに気づいて頭を叩く。

「んっ? どうしたのおじいちゃん」

「ファベルはドワーフではないということを……」

◇ ◇ ◇

 ファベルは「ジェアン」と呼ばれる珍しい獣族で身長は190cmを超える。風貌は人間と酷使しているが
その力は他種族で類を見ないほど強い。繊細な手さばきも必要な鍛冶屋を生業としているのは、ジェアン種族で世界広しといえども、ファベルだけである。

 なお、本人曰く趣味とのこと。

 また、男性は筋肉質で大柄、女性は豊満な身体が特徴的で、頭の上に猫耳のような愛くるしい形状が付いているが、触っていいのは生涯を伴侶として認められた相手であり
他者が触ることは相当失礼に当たる。

 そしてファベルは――女性である。 

「ええと、あなた達は?」

 大きくはだけた豊満な胸と高い背にそぐわないほど、綺麗な声と丁寧な言葉で
ポルンカことアズライトと門兵を不思議に眺めた。墨色のズボンがすらりと長い脚を強調している。上半身の布の面積は少ない。

「こんにちは、私は門兵のラスです。あなたのご友人である、ポルンカさんですが、お知り合い……ですよね?」

 アズライトはなんとかインザームの遣いだということを証明するため、時間を稼ごうと門兵の前に出ると
無理やりファベルに握手を求めた。

「やあやあ! お久しぶりです! いやー! 聞いていた通り綺麗な街に綺麗な家だ!」

 ファベルは自分の記憶を辿りながら、愛想笑いをしたが、会ったことがないのだから思い出せるわけがない。

「……ええと、」

 何かを言いかけたとき、アズライトは小さな声で『インザームの遣いです』と素早く伝えた。ファベルは察したように
門兵に丁寧に挨拶をすると、扉を閉めてアズライトを招き入れた。

「いやー! すみません! 実は私もびっくりびっくりで!」

 すぐに切り替えができなかったようで、まだ心の中はポルンカだったが、失礼と何度か咳き込んでから
アズライトに戻った。

「……驚かせてすみません。インザームの遣いでここへ来ました。あなたがファベルさんですね? てっきりドワーフだと……」

「いえいえ、私を初めて見る人は良く驚かれるので。大変なことになっているのは知っています。それに魔王軍についても」

 ファベルは丁寧にアズライトを奥まで誘導すると、綺麗なティーカップに紅茶をいれはじめた。家の中には綺麗な花が沢山飾っているが、似つかわしくない剣や斧
鎌や杖も飾っていたりするところから、鍛冶屋をしているのは本当のようだ。それにアズライトは武器に視線を泳がせながらも、

「私はアズライトと言います。ええと、――先にインザームを呼んでもよろしいでしょうか? 私の大切な友人であるエルフも一緒ですが」

「勿論ですよ。……ここへですか?」

 ティーカップに紅茶を注いだとき、アズライトは心の中でルチルを呼んだ。それから数秒立たずに、ファベルの家の中に時空が歪むほどの黒い転移窓が出来上がり
二人が窓から現れた。

 衝撃で少し花が倒れそうになったが、アズライトがそれをそっと防いだ。

「久しぶりじゃの、ファベルよ。綺麗になったのぅ」

 白い髭をワシワシと触りながら、インザームは恥ずかしげもなく言った。ルチルは簡単な自己紹介をした後『わー綺麗ー! といいながら、家の中を動き回っている』

「どうかしら? あなたは……変わらないわね。あの時のままだ。この魔法は……?」

「これはこのルチルの魔法です。驚かせてすみません」

「面白い……ですね。おそらく術者の魔力を感知してそこへ移動するための窓を開くのかしら?」

 ファベルはルチルの魔法を一目見ただけで誰よりも理解した。

「……ええ。あなたは魔法にも造詣が深いようですね」

 これにはアズライトも驚いたが、あまり多くは話さなかった。ベラベラと魔法の秘密を喋るほどアズライトはバカではない。

「ファベルよ。お主に聞きたいことがあるのじゃ。多くの武器、そして魔法、そして世界を研究してきたお主の知恵を貸してほしい」

 インザームがここへきたのには理由が二つある。まずはレムリの行方。そしてオストラバ王国でアズライト達に奪取された”鉄箱”の秘密だ。

 他人の魔力を吸収することから、蘇りに関係していることは間違いないが、あれから何の手掛かりも掴めていない。ァベルは鍛冶屋としての多くの武器を手掛けてきた。
魔法についても詳しく、何か知っているかもしれないからだ。

 そしてインザームも大切な旧友でもある。

「というと?」

「少し話が長くなるが良いか?」 

 インザームは出来るだけわかりやすく、ファベルに今までの出来事を話した。特にレムリの居場所と鉄箱について知っていることはないかと
強く念押しした。

 ファベルは静かにインザームの話しを聞きながら、ルチルに暇をせせないようにと冷蔵庫から美味しいケーキを引っ張り出してテーブルに置いた。

「なるほど……。あなたなら多少なりとも関わっていると思っていましたが、むしろ渦中にいるみたいね。残念ながらレムリさんの事は知らないわ。この国に
私も深く関わっているけど、そんな話は聞いたことがない」

「ふむ……やはりそうか」

 ジスティ王国は広いこの世界の中でも非戦争を掲げており、争いごとを嫌う。勿論、攻撃をされれば別だが。ファベルのような色々なことに長けている人物が多く滞在しており
その勢力はオストラバをも凌ぐとされている。

「ファベルさん、レムリさんの事はとうことは、オストラバ王国の”鉄箱”については知っているということでしょうか?」

 アズライトがファベルの言葉尻を捉えて話の間に入る。

「どうでしょう。そもそも、あれはオストラバ王国にあったものなのに、どうしてあなたは知らないのかしら?」

「返す言葉もありません……。私は……あの国ではあまり良い立場にありません」

「あなたの事を思い出しましたわ、アズライト・シュタイン。隣にいるのがエルフのルチルですね。騎士の名を剥奪されたのは本当だったんですね
通りでまぁ、純粋な魔力をしていると思いましたが」

「ルチルっ! 有名人っ!」

「どうか教えてくれぬか?」

「そうね……。なら転移魔法について教えてくれる? 包み隠さず、すべて。勿論、私は他言はしない。知的好奇心を満たしたいだけですから」

 アズライトはその言葉に少し戸惑い、ルチルを見た。転移魔法については特殊な魔法である。クリアの消滅魔法、シンドラの転移魔法同様で
秘密を話すのは危険を伴う。

 自分のことではなく、ルチルの事を心配した。しかし、

「アズアズ、大丈夫だよ」

 ルチルは嬉しそうにケーキを平らげてから、転移魔法の説明を包み隠さず話そうとした。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

知識スキルで異世界らいふ

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

ブラック企業で心身ボロボロの社畜だった俺が少年の姿で異世界に転生!? ~鑑定スキルと無限収納を駆使して錬金術師として第二の人生を謳歌します~

楠富 つかさ
ファンタジー
 ブラック企業で働いていた小坂直人は、ある日、仕事中の過労で意識を失い、気がつくと異世界の森の中で少年の姿になっていた。しかも、【錬金術】という強力なスキルを持っており、物質を分解・合成・強化できる能力を手にしていた。  そんなナオが出会ったのは、森で冒険者として活動する巨乳の美少女・エルフィーナ(エル)。彼女は魔物討伐の依頼をこなしていたが、強敵との戦闘で深手を負ってしまう。 「やばい……これ、動けない……」  怪我人のエルを目の当たりにしたナオは、錬金術で作成していたポーションを与え彼女を助ける。 「す、すごい……ナオのおかげで助かった……!」  異世界で自由気ままに錬金術を駆使するナオと、彼に惚れた美少女冒険者エルとのスローライフ&冒険ファンタジーが今、始まる!

独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活

髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。 しかし神は彼を見捨てていなかった。 そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。 これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します

名無し
ファンタジー
 毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。

処理中です...