老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴

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最後の戦い

第101話:最強のエルフ

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 アクアがシェルに倒された直後、シンドラ《レムリ》は舌打ちをしていた。もう少し面白い見世物になると思ったが、ロックも役に立たなかった。
 大勢の魔物たちも、レッグ、アーム、アイの活躍で押されつつあった。三人が敵になるのは予想外だったが、まぁいいとアイレとルチルに視線を変えた。

 そして転移魔法の直後、ヴェルネルはずっと姿を消していたことにシンドラ《レムリ》は気付いていない。

「大丈夫か!」

 インザームが、ルチルと対峙しているアイレを気遣う。致命傷はなんとか避けているが、かなりの体力を消耗している。
 ルチルは俄然《がぜん》として無表情で、まるで砲台射撃のように無詠唱で魔法を放《はな》ってくる

 奮闘して何度も攻撃を仕掛けているが、かすり傷さえ与えられない。そればかりか、徐々にルチルの魔力が向上していく。

「これが……本来のルチルか……」

 アイレが囁いた。ここでようやく、インザームの治癒を受けてアズライトが前線に復帰。当然、インザームも続く。

「お待たせしました、申し訳ない」
「アイレ、多重攻撃を仕掛けるぞ」
「わかった。だけど……ルチルは……本当に死人なのか?」

 今まで疑問に思っていたことを二人に問いかけた。

「……わかりません、ですが今は……」

 アズライトは神妙な面持ちでルチルに顔を向けた。死人か、操られているのか、その答えが出ないまま戦った。
 しかしこの状況ではゆっくり考えている暇がない。

「ワシが思うに死人の可能性は低い。ルチルの魔力は明らかに高すぎる。いくらシンドラとはいえ、これだけの人数を操り、さらにはルチルも動かせるとは思えぬ」

 インザームの答えに、アズライトは冷静な判断が出来なかったため少しほっとする。けれども、証拠はない。さらには手加減をすることは出来ない。

「……全力で行こう。今は手加減をしている余裕はない。」

 アイレがアズライトの心を代弁するように言う。本心のようで本心でもない。だが今は決断しなければならない。

「――私から行きます」

 瞬間、アズライトは真正面から突っ込んだ。ルチルはどこか笑みを浮かべたような気がしたが、すぐに掌を翳して無詠唱で衝撃波の魔法を放つ。まるで溢れ出るように次々とアズライトに撃ちだすが、それを剣で弾く。

 ルチルの空中浮遊は反重力の魔法を身体に付与しているため自動で行われているが、限界があり高度はそれほどでもない。
 アズライトが飛び出したと同時に、インザームとアイレも左右に飛び散り、三人で同時攻撃を仕掛けた。

 しかしルチルは全方位に魔法物理防御を展開すると、すべてを防いだ。そして魔力を漲らせて、カウンターのように三人を弾き飛ばす。

 大きく吹き飛ばされながらも、なんとか体勢を整えたが、俄然《がぜん》勝利《しょうり》の糸口が見つからない。

「強すぎる……」

 当然、この場にいるアイレを含めて全員がクルムロフ城から戦闘を続けている。全快とはほど遠いが、泣き言はいってられない。よしんばルチルを乗り越えたとしても、後にはシンドラ《レムリ》が待っている。絶望の二文字を頭から排除するのは容易いものではない。
 だがそれほどにルチルは明らかに格が違う。

 心優しいルチルが心の制御を解くとここまで強くなるのかと、アズライトは今まで自分がどれだけ助けられていたのかを知る。

 しかしここで、フェアが現れた。古代禁忌魔法の使用は一時的に解いている。あまりの消費の速さに、このままでは意識を失うか命を失うと感じたからだ。おそれているのではなく、今あはまだその時ではない。再詠唱することも厭《いと》わないと覚悟を決めているが、魔法の詠唱は最初が一番消費を食う。ふたたび唱えれば、フェアの長い寿命といえどもあまりにも危険である。

「グレースは意識を失ったけど、命に別状はない。――シェルはもう大丈夫」

 ルチルに視線を保ったまま、アイレに向かって言った。返しことしなかったが、心の中では安堵していた。しかしリンのことをは忘れてはいない。
 手放しで喜べるわけではないが、それでも敵として相対することは避けられたことに安心した。

「フェア、もうあの魔法は使うんじゃないぞ。――いくらお主でも死ぬぞ」
「必要があれば、私は何度でも。たとえこの命が尽きたとしても、あなたたちを守れるならそれでいい」

 フェアは覚悟を決めているが、確実に生命の危機が脅かされる。この先のシンドラと戦うことを見据えて、今はぐっと堪《こら》えてもいる。

「ルチル! 私よ、フェア! わかる?」

 フェアは対話を求めた。ロックにはある程度の自我が存在していたからだ。

「……」

 だがルチルの目は虚ろでこちらの問いかけに反応しようとはしない。

「あの目は死人に似ているようで違う。おそらくただ操られているだけだわ」

 フェアがインザームと同じような見解を出す。魔法使いとしての直感でもある。

「じゃが、どうもできん。フェア、何かルチルの弱点、いや操られているのならば、魔法を解くことは出来ぬのか?」
「死人使いの能力とは違う、おそらくこれはレムリの魔力を使って新魔法を編み出したと思う。おそらくだけど、今までの解除魔法は役に立たないわ」
「打つ手なしってことかよ……」
「私は誰よりもルチルのことを知っています。身体に触れさえすれれば、解除の糸口が辿れるかもしれません」

 アズライトはそう言ったが、遠距離攻撃すら当てられないのに、触れることはさらに難易度が高い。それでもなんとかフェアを含めて多重攻撃を仕掛けようとしたが――


「悪い、遅くなった。クリアには倒れていたグレースを診てもらってる」

 フェローが現れた。続けてシェルの姿も。

「皆《みんな》……ごめん。犯した罪は確実に償う。だけど今は……手助けをさせてくれ」

 シェルがアイレの横に立った。シンドラはようやく面白くなってきたなと笑みを零したが、隠れているヴェルネルは徐々にシンドラに近づいていた。

 ルチルは無表情だが、敵が強大になったと気付いたのか魔力を明らかにたぎらせた。そのオーラにフェアとクリアの体が思わず震えたが、フェローとインザームが肩を叩く。

「行くぞ、全員が全力を出しても、ほんの少し動きを止められるかどうかだ。――アズライト、頼んだぜ」

 アイレが先頭で全員の士気をあげる。最強のエルフ、ルチルを前にして全員が動き出した。
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