老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴

文字の大きさ
113 / 114
最後の戦い

第105話:勇者ヴェルネル、魔法使いレムリ

しおりを挟む
「人間はいつもそうだ! 群れることで自分は強いと勘違いする。 その腐った心が私は大嫌いなんだ!」

 シンドラ《レムリ》が深い想いを吐き出しながら、悪魔のように咆哮《ほうこう》して魔法を放った。
 それは生前のレムリでさえも遥かに上回る五大元素魔法と闇魔法を融合させたシンドラの最大力魔法で、ただの人間だけなら少し触れるだけでも一瞬で絶命するほどの威力がある。
 さらにどれだけ逃げようと自動追尾をする魔法も付与していた。おそるべき速さと威力を兼ね備えているが、誰も避けようとはしていない。

 なぜなら全員がルチル《レムリ》を心から信頼しているからだ。

「すべての精霊よ、私に力を、そして彼らを悪しき魔法から守り給え、完全物理魔法防御《フル・フィジックス・マジック・シールド》!」

 全員の身体が360°の高密度の魔法防御で覆われる。生前のルチルがアズライトに掛けていた魔法を改良したものだが耐久力は桁違い。

「そんなちんけな防御魔法で、私の最大攻撃から守れるとでも!?」

 シンドラが高らかに笑う。直後、全員に魔法が直撃して埃《ほこり》が舞う。

「残念だったな! やはり私がこの世界で最強なんだ!」

「てめぇじゃねぇ。――レムリがだよ」

 シンドラの眼前に突如アイレが現れると右手に持っていた炎の武器で、シンドラの腹部を突き刺す。
 けれども、何も起こらない。

「素早いだけのガキが! 今さらそんな攻撃が喰らうわ――」
「最後の最後で――この武器の使い方がわかったぜ」

 すると、シンドラの体ではなく、付与されていた魔法物理防御がすべて燃えさかる。今はどんな攻撃でさえも、致命傷になりえるほど無防備になった。

「なんだ、なんだこれは!?」

 シンドラはレムリに乗り移ってからはじめて恐怖を感じた。

「今だ!」

 これが最後だと言わんばかりにアイレが叫ぶ。直後、全員が同時に攻撃を放つ。

「ワシはお前のせいで!」
「ルチルの仇です!」
「よくもロックを」
「エルフ族の仇よ」

「これで……最後だ」

 それぞれと想いと共に、シンドラ《レムリ》はありとあらゆる攻撃を受けて吹き飛ばされた。全魔力が完全に底を尽き、ピクリとも動かず、フェア、クリア、ルチル《レムリ》の感知でも間違いなく死亡が確認された。

「終わった……」

 アイレが神速《ディビーツ》の連続使用で身体中の筋肉が痙攣《けいれん》して膝をついた。それに連鎖するように全員も次々と倒れ込む。
 ヴェルネルはゆっくりとアイレとレムリの側に寄る。

「レムリ……。色々とすまなかった。僕は……償いきれない罪を犯した」

 その目には語り尽くすことのできない後悔と懺悔が含まれている。
 けれどもレムリは微笑みながら首を振った。

「あなたは誰よりも純粋だった。ただ、方法が間違っていたのよ。でも安心して、地獄があるなら私は一緒に付いて行くわ」
「レムリ……ありがとう……」

 ヴェルネルが勢いよく剣を捨てると涙ながらにレムリを抱きしめた。シンドラが死亡したと同時に身体中の魔力が消え去り透明になっていく。

 そして、ヴェルネルは右拳を突き出した。

「最後の最後まで迷惑をかけた」
「心配すんな、俺たちの夢が叶っただろ。世界を守ったんだぜ」

 アイレが右拳を合わせる。ルチル《フェア》もその上に両手を重ねる。
 三人の家族の絆だ。

「あの日の願いが叶ったね――」

 その時、腹部に向かって魔法が放たれた。大きな穴が空いて勢いよく倒れる。

「があぁっ――」

 フェアが名前を叫んで、その人物に駆け寄る。

「アイレ!」

 頭部と同じぐらいの丸い穴が開いていて、血が溢れるというよりは流れ出ている。誰の目から見ても助かるわけがないと思うほどの傷。
 フェアはその魔法を放った人物に顔を向けた――。

「……いくらこの身体《レムリ》でも死ぬかと思ったぞ……」

 全員が相手の名前を呼んだ。

「シンドラ……!」

「私は……死ねない! すべてを奪ったお前らなんかにやられてたまるか!」

 両手を天に翳すと、巨大な魔力玉を精製した。それはこの惑星を丸ごと破壊するほどの威力を備えている。ルチル《レムリ》がそれに気づくと、心の中でヴェルネルの名前を呼んで、顔を向けた。

 ヴェルネルも無言で頷いている。何をするべきかわかっている。

『ヴェルネル、行きましょう』
『勇者と魔法使い、最後の仕事だな』

 この世界を誰よりも愛し、憎んだ二人の心の想いはいっしょ。シンドラが巨大な魔力玉を地面に向かって放り投げようと――

「私の家族の恨みを思い知れ!」

 思い切り振りかぶる――。

「シンドラ、君のことを勘違いしていた」

 ルチル《レムリ》から魔力を譲り受けた剣でヴェルネルがシンドラの体に突き刺した。

「そんなくだらない攻撃が今さら効くとでも! ――な、なんだこれは力が、魔力が!?」

 その剣には相手の魔力を死ぬまで奪う魔法が付与されてる。
 笑みをこぼしていたシンドラは一転して顔が恐怖で歪む。

「僕たちは同じ想いを抱えていた。だけど――やり方が間違っていたんだよ」
「やめろ、やめてくれ! いやだ、死にたくない! いやだ! ――おとうさん、おかあさん――私は……死に……」

 そして魔力が完全に消滅すると完全消えうせた。レムリの身体ごと魔力の塵となり、世界から消滅した。
 それを見届けた瞬間、足先からまるで分解されるかのようにヴェルネルが消えていく。

「時間みたいだ。アイレをよろしく頼む。――また後で」
「ええ、待っていてねヴェルネル」

 最後に抱き合うと、レムリと唇を重ねてこの世界から完全に居なくなった。
 フェアは今だにアイレの体を揺さぶっている。

「アイレ、アイレぇ、死なないで……」

 インザームとクリアが治癒魔法を施しているが、どうすることもできないと察して嘆く。

「ダメじゃ……もう助からん……」
「私にも……」

 そこに現れたルチル《レムリ》が掌をアイレの腹部に翳《かざ》す。

「大丈夫。私に任せて」

 光がアイレの身体中を包み、徐々に傷口が塞がっていく。その魔法にインザームとクリアが驚きを隠せない。

「なんと……」
「これが……本当の治癒魔法……」

 まるで何ごともなかったかのように元に戻ると、ルチル《レムリ》が、

「それじゃあ、アイレには今までありがとうって伝えておいて」

 名残惜しそうに立ち上がる。続けて、

「フェアちゃん、立派になったね。インザーム、私のせいで辛い想いをさせてごめんね。アイレのことを最後まで守ってくれてありがとう。アズライト、――ルチルちゃんのことよろしくね。 それじゃあ、皆《みんな》、本当にありがとう、心の底から楽しい人生を過ごせたよ。ヴェルネルには私が叱っておくから、許してあげて――」

 最後に言葉を残すと糸が切れたよう意識を失った。アズライトが急いで抱きかかえると心臓に視線をかえたが、心臓に突き刺したはずの傷痕がない。

「……よろしくとは」

 レムリが最後に残した言葉をアズライトは理解する。

「アズ……アズ……?」

 朦朧とした目で、ルチルがふたたび目を開ける。

「ル……チル……!?」
「へへ、レムリさんが頑張ったご褒美だって……」

 身体は満足に動かせなかったが、心臓は元気に鼓動していて、魔力も少し回復している。アズライトはほっとした途端に涙を流しながら強くルチルを抱きしめた。

「ルチル……すまない……一人にさせてしまって……」
「えへへ、アズアズは甘えん坊だなぁ……」

 ルチルは手に力が入らなかったが、まるで母親のようにアズライトの頭を撫で続けた。


 

 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

知識スキルで異世界らいふ

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

ブラック企業で心身ボロボロの社畜だった俺が少年の姿で異世界に転生!? ~鑑定スキルと無限収納を駆使して錬金術師として第二の人生を謳歌します~

楠富 つかさ
ファンタジー
 ブラック企業で働いていた小坂直人は、ある日、仕事中の過労で意識を失い、気がつくと異世界の森の中で少年の姿になっていた。しかも、【錬金術】という強力なスキルを持っており、物質を分解・合成・強化できる能力を手にしていた。  そんなナオが出会ったのは、森で冒険者として活動する巨乳の美少女・エルフィーナ(エル)。彼女は魔物討伐の依頼をこなしていたが、強敵との戦闘で深手を負ってしまう。 「やばい……これ、動けない……」  怪我人のエルを目の当たりにしたナオは、錬金術で作成していたポーションを与え彼女を助ける。 「す、すごい……ナオのおかげで助かった……!」  異世界で自由気ままに錬金術を駆使するナオと、彼に惚れた美少女冒険者エルとのスローライフ&冒険ファンタジーが今、始まる!

独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活

髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。 しかし神は彼を見捨てていなかった。 そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。 これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します

名無し
ファンタジー
 毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。

処理中です...