オタクな母娘が異世界転生しちゃいました

yanako

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158.クッキーは伯母の味

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「このバタークッキーのレシピは、誰が考えたんですか?」
 アリシアはジュールに訊いた。

「前に、ここにいた人かな」

「その人は!その人には会えますか?」

「……その人は、もういないから。残念だけど」

「そ、そうですか……」


 そのバタークッキーは、ヴァロワ家でよく食べた味に似ていた。
 懐かしい味。
 ここ辺境の地で、また味わえるとは思っていなかった。


「美味しいでしょ?あーちゃん」
 リナに話しかけられて、アリシアは曖昧に微笑んだ。


「えぇ、美味しいわ。とても」

 ふと手を伸ばしたクッキーの表面に、薄く筋が彫られているのに気がついた。

 この筋はただの筋ではなく、穀物を表しているのだ。ヴァロワ家では2本の筋を刻むが、ここは1本の筋が彫ってある。

 間違いない。
 これはヴァロワ家の縁者が伝えたレシピだ。


「シア。どうした?」
 イザックがアリシアに声をかける。

「別に。どうもしないわ」
 アリシアは答えたが、イザックからハンカチを渡されて、自分が泣いていることに気づいた。


「ごめんなさい。ありがとう」
 アリシアは受け取ったハンカチで目を押さえた。



「アリシアさんの伯母さんが……ここに移り住んで、孤児院でお世話をしてくれていたんだよ」
ジュールは言った。

「そうなんですか……伯母さん……」

「俺も、会ったことは一回しかないんだけど」


「どんな人でしたか?どうしてここに来たのですか?」


「詳しくは知らないんだ。一回しか会ったことないから。けど、孤児院のために一生懸命に働いてくれたって。このクッキーも、孤児院の収益のために教えてくれたんだって」


「そうなんですね……」
アリシアの涙は止まらない。

「シア」
「あーちゃん」

イザックもリナもアリシアにかける言葉を探していた。


「あーちゃん。このクッキーが、あーちゃんを泣かせた理由なんだろ?それは、悲しい涙なの?」
ジャンが言った。

アリシアは首を横に振った。

「俺等には分からないことなんだろうけどさ、悲しい涙じゃないのなら、またここに来ればいいじゃない?」

ジャンは優しくアリシアを見つめる。


「またここに来たら、あーちゃんの伯母さんを知っている人に会えるかもしれないだろ?それに、あーちゃんには、今日服屋で頼んだセットアップとやらのデザインも考えて貰わなくちゃだし、生地とかのアドバイスもしてもらわなくちゃだし、辺境伯領には、ちょくちょく来ることになると思うよ」


「また、来たいわ」

「また来るよ。だから、大丈夫だ。なっ」

ジャンの言葉にアリシアは静かに頷いた。
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