幻冬のルナパーク

震えるシャボン玉

「今日は風が強くないし、ちょうどいいかもね」


　絵海がそう言いながら袋からシャボン玉のキットを取り出した。ピンク色の小さなボトルに黄緑色のデコボコした吹き口のストローの、昔懐かしいデザインだ。


　絵海が桜の実のような色をした唇をすぼませてストローを吹くとたくさんの小さな空気の玉が溢れた。渉はシャボン玉に気が付いたようで、あーうーと元気な声を出しながら手足をバタバタと動かした。


「喜んでる！」絵海が嬉しそうに言った。


　風はほとんど吹かず、小さなシャボン玉は私たちの周りでふわふわと彷徨いながら、綿雪のようにゆっくりと地面に落ちて消えていった。


「ねぇ、私もやりたい」


　私はそう言って絵海にシャボン玉を代わってもらった。彼女は気軽に変わってくれたけれど、さっきまで絵海が吹いていたストローに口を付ける時は心臓がひとまわり縮んだような気がした。

震える息をゆっくり吐きだして大きなシャボン玉を作ると、それは４人の目の前に満月のように静かに浮かんだ。薄い膜が太陽光を反射して虹色のうねりを作り出す。


また渉が嬉しそうな声を出して、大人たちが見守っていた。やがて虹色の膜はまだら模様になり、音もなく消えた。


それからも私たちはシャボン玉の液がほとんど無くなるまで遊んでいた。

渉は目を大きく見開きながら、生まれては消えていくシャボン玉を見つけてはしゃいでいた。