騎士王マルス ~始まりの歌~

黒山羊

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目指せ!王国騎士団長

2年生 夢と希望と絶望と

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この1年半の間、ララと毎日トレーニングを続けたマルスは、技術も精神も肉体も成長してきていた。

ララの家系は、騎士剣を得意としていて、妹と一緒に騎士剣での課題をクリアしているという話だ。その騎士剣術は 凄まじく、一般的な片手剣の攻撃速度より早く、騎士剣特有の圧倒的な攻撃力を保持している。

また、ララの騎士剣には、まさに一撃必殺の必殺技(渾身の武器破壊ブロークンハート)がある。
渾身の武器破壊ブロークンハートは、大きく振りかぶった状態から踏み込み速度を活かしての、縦一文字の渾身の一撃を放ち、防御した武器ごと破壊する技だそうだ。
マルスは、早朝のランニングを行い、授業を受け、放課後の自由時間は、ララと騎士剣の修行をするというのが、日課になっていた。




~夕方・自主訓練場~

夕食前の時間になると、周囲の生徒の数は、数えるほどになる。
しかも、残った生徒も 一日の疲れからか、休息をとりながら 他の生徒の観察をしている者がほとんどだ。

そんな中、激しく模擬刀の騎士剣(刃が潰されただけの普通の騎士剣)を振るう二人がいた。
それは、6年生のララと、2年生のマルスだった。



マルスが飛びかかり、放つ一撃を最小限の動きでかわすララ、マルスは かわされる事が分かっていたかのように、振り上げながら ララを狙う。

ララも、騎士剣を振り上げる前に、剣先を右足で踏みつけ、マルスの頭上に騎士剣の柄を振り下ろす。

マルスは、とっさに右手を騎士剣の柄から離し、ララの左肘を押さえて押し戻し、ララがバランスを崩した、その隙に、踏まれた騎士剣を引き抜く。

そのまま、体を左回転させるように、加速し反撃の一撃を放つ。

ララは、その攻撃を予測し、騎士剣を地面に突き立て、防御する。



「マルス、凄い上達だね。」

「ララ先輩のおかげです。」

「もう、下級生では、一番の実力なんじゃないの!?」

「まだまだ、こんなんじゃ足りませんよ。」




マルスは、そのまま後ろに飛び去り、右足を大きく前に出し、上段で構えた騎士剣を後ろに振りかぶる。

ララも、左足を大きく前に出し、上段で構えた騎士剣を後ろに振りかぶる。


「まさか、渾身の武器破壊ブロークンハートまで覚えたの!!?」

マルスは、口角を上げて答える。

「はい、自分なりに試して、近い技を習得しました。」




カーンカーンカーンカーンカーン

夕食の鐘がなる。

「マルスの技、見てみたかったけど、食堂に急がなきゃね。」

「はい! また今度見て下さいね。」

「じゃあ、競技会の後に見ようかな。」




2人は、食堂を目指しながら歩く。


「ところで、マルスの渾身の武器破壊ブロークンハートは、右足を前に出していたけど、あれは わざと?」

「はい、敵の攻撃に合わせてカウンターでも当てれるように工夫してみました。」

「だけど、あれだと、自分から攻撃するのは、無理なんじゃない?」

「何でですか?」

「だって、あの構えからだと、2歩進まないと、攻撃に移れないし、あんな大技、2歩も歩いてたら、回避されちゃうよ。」

「いや、一歩で放てますよ。右足を1歩進めるだけです。」


「・・・?」


「・・・?」


「まあ、いいや。今度 実際にやって見せてよ。」

「はい、よろこんで。」



食堂に入ると、上級生たちと一緒に、ブックが席に座って食事をしていた。
ブックは、マルスを見つけると、嬉しそうに手を振っている。
食堂の机の上には、軍略盤(将棋に地形が合わさったようなゲーム)が置かれていた。

「ブルック、またブックを捕まえて軍略盤で遊んでるの?」

ララは、上級生の友人に声をかける。



「すみません。ブックは戦略の考え方が新しくて、ついつい呼んじゃうんですよ。」

ブルック(青髪ロング、赤目、高身長の男性。6年生)
ちなみに ララと同じ学年だが、上級騎士の出身なので、ララには敬語を使っている。
ブルックの横に座っていた、ベール(金髪ショート、青目、身長は低めの女性。6年生)が口を挟む。

「ララさんだって、マルスを捕まえて騎士剣の特訓をしてるじゃないですか。それも毎日。」

ララは、ベールを軽く睨むと、ベールは、笑いながら食事をとりに行く。


ブックは、上級生たちと話すようになって、戦術の才能が認められ、いじめられることが、少なくなった。まだ、1人の時には、アロン一派に目をつけられているが、なんとかうまく回避しているようだ。

「マルス、君の分も持ってきてるよ。ブルック先輩が複数戦を希望されているんだけど、一緒にやろうよ。」


マルスの軍略も、毎日の自習で鍛えられ、ブックとアロン以外の同級生に負けることはなくなっていた。

「よし、こっちは、ハンデでララを起用するから、2対2の軍略盤をやろう!」

「ブルック、ハンデってどういう意味よ!」

「いや、ほら・・・。」

「ララ先輩、一緒にやりましょうよ。僕もマルスも負けませんから!」


軍略盤をやっている時のブックは、とても楽しそうだ。










~寮の自室~

「あーあ。ブルック先輩たち、強かったね。」

「そうだね。まさか、あそこでララ先輩の布陣が決め手になると思わなかったよね。」

「そうだね。これは先を読んで布陣してたのよって言ってたけど、ララ先輩も完全に忘れてた駒だったよね。」

「ところで、マルス。明日の休息日は、何か予定でもあるの?」

「いや、何も考えてないよ。でも明後日からの競技会は見学に行こうと思ってるよ。」

「そうだよね。僕、ちょっとこの連休を利用して、実家に帰ろうと思ってるんだ。家にある軍略盤を持って来たら、ここでも練習ができるかなって思って。」

「いいんじゃない。別に狭くなるとか言わないよ。」

「よかった。ありがとう。」


その後、しばらく戦術の話をしながら、消灯時間になったので、2人とも眠りについた。

明日は、10日に1回の休息日で、その後、6年生の剣術大会と魔術大会があるので、休息日も合わせると、12日の大連休になる。マルスは、立派な騎士になるまで、実家に帰るつもりもなかったので、今年も自主練習に励もうと考えていた。










~早朝の運動場~

いつものように、運動場で準備体操をしていると、ララがやってくる。

「おはよう、マルス。」

「おはようございます、ララ先輩。」


そして、いつものように、2人で走る。


走り終わり、いつものように運動場を歩いていると、ララが、いつもと違う話をしてきた。

「マルス、今日の予定は?」

「いえ、まだ決めてないです。今日からは、ララ先輩も明日の準備で忙しいでしょうから、1人で自主練をしようと思ってますけど。」

「そう、なんだ。」

「どうしたんですか。」

「いや、明日の準備で買い物に行きたかったんだけど、荷物を持ってくれる頼もしい後輩が居ないかなって思って声をかけたんだけど。」

「ええ、いいですよ。僕も休みの日は、いつも1人で自主練してたから、町に行ったこともなかったですから。ちょうど行ってみたいと思ってました。」

「ほんとうに?」

「はい。初めてここで先輩とあった日の前日に、馬車の中から見ただけです。」

「いや、休みの日に1人ってとこなんだけど。」

「はい。ブックが居ないときは、ほとんど1人ですね。どうしたんですか?」

「ほら、マルスは、下級生の間でも人気だから・・・。」

「そうですよね。いつも声をかけられるけど、ちょっと一緒に練習するレベルじゃないかなって・・・。こんなこと言ったら怒られちゃいますね。」


2人は笑いながら食堂へ移動する。


食堂は、普段の半分も人がいない。
食堂の おばちゃんの話だと、大連休と言うこともあり、ゆっくりと起きてくるのだろうと言っていた。毎年恒例の行事?で、食堂が閉まる直前に駆け込みで、食事に来るそうだ。


「マルス、準備が終わったら、部屋で待っててよ。私の準備が終わったら迎えに行くから。」

「正門で待ち合わせとかでもいいですよ。」

「・・・いや、私が迎えに行くから部屋の番号を教えて。」


マルスは、部屋の番号を、ララに教えた。
2人は、食事を終え、それぞれ部屋に戻っていった。


部屋に戻ると、ブックが旅の支度をしていた。
ブックの荷物は、里帰りというより、冒険のような荷物だ。
鞄の中には、いままでブックが買いだめしていた、非常食や寝袋などを詰め込んでいて、まだまだ 荷物の量が増えていく。



「ブック、どこに冒険に行くの?」

「ああ、マルス。僕の実家は、片道5日はかかるんだよ。乗り合い馬車を乗り継ぎ、移動しないといけないから、食事をとる暇もないだろうから、非常食を持って行くひつようがあるし、途中まで迎えに来てもらうんだけど、そこからの道中、1度は絶対に野宿もしないといけないから、寝袋も必要になるんだ。」

ブックの実家は、いったいどこになんだろう。
最終的な荷物の量は、バックパック1つ、トランク2つ、まるで秘境を目指す冒険者のようだ。


準備を終えたブックは、食堂へと移動していった。





コンコンコン。

しばらくすると、部屋をノックする音が聞こえる。


ここにきて、部屋をノックする音を聞くのは初めてかもしれない。
マルスは、部屋のドアを開ける。


「ごめんね。待たせたかな?」

(あの、どちら様でしょうか?)

本当に、そう言ってしまいたくなるほど、綺麗な女性が立っていた。
ララは、少し胸元の開いた白いワンピースに、同じ白の大きなつばの帽子、普段見ることがない化粧をした姿は、まさに大人の女性だった。

「どうしたの?」

「い、いえ。その。」

「似合わなかった?」

ララが、少し悲しそうな顔をする。


「そんなことありません。その・・・。凄く、綺麗です。」

「ありがとう。マルスにそう言ってもらえると嬉しいな。」


そういって、ララは、マルスの手を引き、正門を目指す。




途中、すれ違う人たちに見られている気がした。
一緒に歩いているのは、いつもと同じララ先輩なのに、今日は、なぜか照れてしまい、少し恥ずかしく感じていた。



正門を出ると、ララは、馬車に合図をおくる。
その合図で、目の前に立派な馬車が到着し、執事の初老の男性が、扉を開ける。


「ラアラお嬢様、いつもの場所を手配しております。」

「わかったわ。ありがとう。・・・それと、爺。今日のことは、お父様には・・・。」

「はい。心得ております。」

「ありがとう。」




マルスは、授業で習った通り、ララをエスコートして 馬車に乗せ、自分も乗り込む。


「まさか、マルスにエスコートしてもらうなんて思ってなかったな。」

「これでも一応、騎士見習いの男性ですから。」

「そうよね。お店選び以外は、マルス様にエスコートしてもらおうかしら。」


笑顔でララは、マルスを見る。

今日のララは、大人の魅力もあり、マルスは耳が赤くなる感じがした。










~王都の町の中~

ララは、明日が試合だというのに、マルスと楽しそうにショッピングを楽しむ。
どの高級店も、ララの行きつけなのか、ララが店内に入ると、店長が寄ってくるようだ。

「ねえ、マルス。」

「なんでしょうか。」

「いまから行くお店の副会長をマルスに紹介してあげるね。」

 「お店の副会長?」

「そう。ここの会長は、レヴィア団っていう冒険者の団長をしてた人だったんだって。仲良くなれば、お父さんを探す手がかりをくれるかも知れないから。」

「ララ先輩、ありがとうございます。」

「もお、いまはラアラって呼んでよ。私の本名なの。あと、先輩は禁止ね。」

「はい。ラアラ。」


ラアラの案内で来た高級店は、冒険とは程遠い、洋品店だった。
本当に、ここの団長は冒険者だったのだろうか。その噂の出どころも怪しく感じる。


「ようこそ、レヴィア洋品店へ御来店ありがとうございます。ラアラ様。」

「ミザリ副会長は来てる?」

「ええ、しばらくお待ち下さい。」


奥のVIPルームに通されてしばらくまつと、奥から1人の女性が駆け寄ってくる。
女性は、20歳くらいだろうか、ラアラの友達といった雰囲気がある。


「ラアラ、久しぶりね! 今日は、横の彼氏の服でも買いに来たの?」

「ミザリさん、相変わらず元気ですね。」

「まあね。では、さっそく、横の彼氏を紹介してよ。」

マルスは、苦笑いをするしかなかった。


「はい。この方は、マルス。同じ騎士養成所で騎士を目指している、仲間です。」

「ミザリさん、宜しくお願いします。」

「いいね。よろしく!」

「ミザリさん、今日は彼の服を買いに来たのと、今後、彼の力になってもらえるように、お願いに来たんですけど、レヴィア会長は、まだ王都に来る予定はないんでしょうか。」

「ああ、洋服は任せて! レヴィア姉さんは、昔の冒険仲間が不治の病にかかってたから、それを治すために、薬の調合で忙しいみたいなんだよ。力になれなくって、ごめんね。」

「そうなんですね。では、レヴィア会長には、また今度、お伺いさせていただきます。」

「また、レヴィア姉さんが来るのが分かったら、騎士養成所のメイガス校長に連絡しておくよ。」

「ミザリさん、ありがとうございます。助かります。」

「よかったね。マルス。また連絡があったら、一緒に来ようね。」



その後、マルスは、いまから着る服を、ラアラとミザリに選んでもらう。
ラアラが、席を外している間に、ミザリが声をかけてくる。

「ねえ、マルスくん達は、どこまで進んだの?」

「い、いえ。そんなこと何もしてないですよ。普段、一緒に訓練してる仲間ですから。」

マルスは耳が赤くなる。


「あー、耳が赤くなってるよ。騎士見習いって、そういう人が多いのかな。私の友達も、すぐ耳や顔が赤くなるんだよね。」

「普段が訓練ばっかりで、耐性がないんでしょうね。」

 「なんか、話し方までにてるよ。面白いね。」


ミザリは、嬉しそうにマルスと話す。ミザリも昔から知っている仲間と話をしているような、懐かしい感覚になっていた。


「さて、今回のお代は、金貨80枚だけど、マルスが騎士になってから払ってくれたらいいよ。女の子にお金を出させるのも嫌でしょ。もちろん、無利子で待ってあげるから。」

「そうですね。すみません。本当に大丈夫ですか?」

「大丈夫! レヴィア商会は、10年や20年でなくなるような店じゃないから。50年後に返しに来たっていいんだよ。」


「さすがに、そこまで騎士の入団試験を落ちることはないですよ。夢は騎士団長ですから!」

「いいね。私の友達も、騎士見習いの頃から、夢は騎士団長って言ってたよ。」

「騎士団長になれたんですか?」

「聞きたい?」


「・・・いえ、僕は、その方とは違いますから、聞かないことにします。」

「そうだね。夢は大事にするんだよ。私は、この後、アマゾネス村に行く用事があるから、借用書にサインだけしていってよ。店長には伝えておくからさ。」

「はい。さすが商人ですね。」

「まあね。」



ミザリは、戻ってきたラアラと話をして、店を出ていく。
マルスは、借用書の内容を確認して、名前を書いた。

【マルス=アテラティッツ=ハンニバル】

この時、マルスは、この借用書が のちの大事件の引き金になるとは、思ってもいなかった。










~夕方・騎士養成所の正門近く~

2人は、買い物や食事を楽しんで戻ってきた。
すこし歩きたいと、ラアラが無理を言ったので、正門を通り過ぎ、少し離れた場所で、馬車を降りた。


「ねえ、マルス。」

「なに、ラアラ。」

「そこの門をくぐったら、またララ先輩に戻るんだよね。」

「・・・。」

「私は、騎士にならなくてもいいかなって思っちゃった。」

「・・・。」

「妹もいるし、それにマルスが騎士になってくれれば・・・。」

「ラアラ、僕は門をくぐっても変わらないよ。もしラアラが騎士になりたくないんなら、その分、僕が 頑張るよ。でも僕は、ラアラと一緒に騎士になりたい。」

「そうだよね。騎士団長を目指してるんだもんね。・・・ごめんね。」

「そうじゃないんだけどな。」

「・・・?」

「綺麗なラアラも好きだけど、騎士を目指して努力を続けるララも好きだって意味だよ。」


マルスは、自分で言っておいて、耳や顔が赤くなっているのが分かるくらい熱くなっているのを感じる。


「それ、ほんと?」

「もちろん。」

「じゃあ、マルスを信じて、頑張ろうかな。」

「いいよ。僕を信じて一緒に頑張ろうよ。」

「わかった。じゃあ明日からの試合、応援に来てよ。私が 総合優勝したら、マルスに正式に告白してもらうから。」

「・・・告白ってしたことないんだけど。」

「いいよ。いまみたいな感じで。楽しみに待ってるからね。」


そういって、ラアラは、マルスにキスをして門をくぐる。


「ほら、置いていくよ。後輩のマルスくん。」

「待ってくださいよ。ララ先輩。」










~翌日・試合会場~

王国騎士団主催の、大会が 8日間に分けて開催される。
競技の内容は、1日ごとに変わるのだが、人気があるのは、初日の騎士剣。4日目の攻撃魔法。6日目の騎士槍。最終日の無差別になる。

無差別とは、武器の指定もなく、支給される武器以外での出場も可能であり、上級騎士以上は、魔装具を持ち込んで競技に挑む。しかも、無差別競技は、地方大会を勝ち進んだ、一般の冒険者の出場枠もあり、ここで優勝することは、大きく評価される。
この競技中、不正防止の為、6年生との接触は、いっさい禁止されている。
不正防止は、出場前でも、出場が終わっていても関係なく対象になる。
この公平さも、競技の人気なのかもしれない。

また、この大会は、基本的に、敵を戦闘不能にするか、降参させるかで勝負が決まる。
単純明快な判定方式が人気の理由でもあるようだ。
この世界では、5年ほど前に、完全回復魔法、完全蘇生魔法、完全治療魔法が一般的に普及し始めていた為、死後1時間以内なら、完全回復魔法と、完全蘇生魔法を使い、生き返ることもできることから、3年ほど前からルール改正で死亡でも勝利が確定するようになったそうだ。


1日目は、騎士剣
2日目は、片手剣
3日目は、騎士盾
4日目は、攻撃魔法
5日目は、防御魔法
6日目は、騎士槍
7日目は、戦術
8日目は、無差別



ララの出場種目は、騎士剣、騎士槍、無差別になるそうだ。
もちろん、全ての競技に出場しても構わないが、複数で勝利しても大きな評価に繋がらず、むしろ敗北による、マイナス評価が大きいため、複数でる選手は少ない。
ララの、3種目出場は、選手としては多い方でもある。





開会式も終わり、競技が開催される。
国中から観光客が集まり、王都のホテルは、全て満室になるほどだ。



1日目、騎士剣の競技は、見せ場も多く盛り上がった。その立役者となったのは、もちろん、ララだろう。彼女の渾身の武器破壊ブロークンハートは、攻撃速度も速く、回避が難しい技で、会場を沸かせた。もちろん、優勝は、ララであった。


2日目、片手剣の競技は、片手剣の素早い攻撃と小型盾の防御からの攻撃など、技が豊富で見ていて楽しいが、勝敗のほとんどが、制限時間切れの判定と言うこともあり、人気が伸び悩むようだ。


3日目、騎士盾の競技は、一般の観衆からすれば、板で殴り合うといった印象だろう。しかし、実際は 奥が深く、いかに後衛の仲間を守りながら支配領域を広げていくかという面白さがある。騎士団関係者や、玄人には人気なのだが、一般の観客は、ほぼ0である。


4日目、攻撃魔法の競技は、魔法を使える人間が増えたこともあり、再び人気に火がついているようだ。そのド派手な攻撃演出と、魔法詠唱の駆け引きや、属性の相性などもあり、素人、玄人問わず、大衆に人気がある。


5日目、防御魔法の競技は、騎士盾以上の不人気で、一般向けの、人気競技ランキングでは、不動の連続最下位記録を樹立している。まず何より、出場者が一斉に防御魔法を張り、その耐久力や持続時間を争うものであるため、勝敗が分かりにくいことや、お互いの接触などもなく、ひたすら魔法を詠唱している姿を眺めるだけの競技でもある。
残念なことに、この日は騎士団員の応援も極端に少なくなる。


6日目、騎士槍の競技は、無差別競技の次に盛り上がる人気競技で、この競技と無差別競技を見れれば、満足という一般観衆は多い。ルールもシンプルで、お互いに競技用の騎士槍を持ち、馬に乗り、すれ違いざまに攻撃を行い、落馬したり、気絶したりすれば敗北となる。残念ながら、ララは決勝で落馬してしまい 準優勝となる。


7日目、戦術の競技で、軍略盤を使い、勝敗を決する。軍略盤は、一般の娯楽としても人気がある為、技術の向上目的で見学に来る観衆は多い。また、この競技に関しては、競技場内に入っての観覧が可能なため、審判を務める有名な騎士を見る為に集まることもある。
ちなみに、この競技の優勝者は、なんと、ブルックだった。




8日目、無差別の競技。

この日、この競技で、凶悪な事件であり、最悪の事故が発生してしまう。
それは、この大会の最大の見せ場である、決勝で起こってしまった。


決勝戦に挑むのは、騎士団6年生のララと、一般参加のクロック(黒髪ロング、青目、身長は高い男性。歳は20くらい)の大戦中に起きた事件だ。


ララは、騎士剣の魔装具(※守護の聖騎士剣)を装備し、攻守に長ける。
対戦相手のクロックは、何の魔装具か分からないが、黒い炎を纏った細身の両手剣を装備している。

(※守護の聖騎士剣:LV9までの魔法を無効化し、装備者の防御力や自然回復力を大幅に向上させる。)




試合が始まり、両者が武器を構える。


先手を打ったのは、クロックの放った魔法だ。

氷の槍アイス・ランス(LV9)」

クロックの右手から無数の氷の槍がララに放たれる。
ララは、魔法を見極めそのまま突進する。

ララの魔装具の効果で、氷の槍は消え去る。そのままララは、最初の一撃を放つ。

縦一文字に振り下ろされた強打を、クロックは、武器を使って受け流す。

そのまま、薙ぎ払うようにクロックは反撃を放つが、ララは、クロックの腹を蹴り、距離を取り回避する。

会場の観衆は、一気に盛り上がる。


(相手のクロックも強いけど、ララの方が強いだろう。)
応援に来ていたマルスは、魔装具の相性や、キレのいい ララの動きを見て確信した。


再び、距離をとり、ゆっくりと相手の動きを見極める。



次は、ララが先行で仕掛ける。

ララは、姿勢を低く構え、クロックの足元を薙ぎ払うように剣を振る。

クロックは、ララの剣を避け、反撃の一撃を繰り出す。

ララは、回避されるのを予想していたのだろう。そのまま薙ぎ払った剣を振り上げるように、体を回転させることで、勢いをつけて、クロックの鎧の胴を砕く。

クロックの反撃は、ララの一撃もあり、ララの左肩に傷を入れるだけに留まった。


2人は、再び距離をとる。

ララは、切られた左肩が痛むのか、魔装具(守護の聖騎士剣)を落としてしまう。


クロックは、正々堂々と勝負を望んでいるのか、ララが武器を拾うまで、距離を取ったまま待機している。

会場からは拍手が巻き起こる。




しかし、ララは、武器を拾わない。いや、拾えないといった様子だ。
マルスをはじめ、異変に気付いた者もいた。
次の瞬間、クロックがララに詰め寄り、右腕を切り落とす。

会場からは、悲鳴があがった。

そのまま、ララの頭を わし掴みにし、ララの頭を黒い炎で包む。


勝負があったと判断した、審判の騎士や治療担当の魔法使いが、2人にかけよる。

ララの顔から手を放したクロックは、大声で会場の観衆に警告する。


「我々、黒の騎士団は、不死を手にいれ、おごり高ぶる人間どもに、制裁を加える。この騎士の傷はどのような魔法を持ってしても、治すことは出来ない。今後、我々、黒の騎士団は、人間どもに平等なる死の制裁を与えていくだろう!」


そういうと、クロックは、自分の胸を 黒い炎を纏った細身の両手剣で貫き自害した。










~翌日・王都の病院~

マルスは、ララの入院する病院に向かった。
そこには、メイガス校長先生や王国の騎士団長も揃っていた。


「マルスくん、どうしたんだいったい。」

「はい、ラアラの お見舞いに来ました。」

「ラアラ・・・。君がそうか。お見舞いは嬉しいが、ラアラは君とは会いたくないそうだ。すまないが、今日は引き取ってもらえないか。」

騎士団長が、マルスに頭を下げる。



「・・・ラアラは大丈夫なんでしょうか。」

「ムーンフェスト団長、私から話しておこう。マルス、学校に戻りながら説明しよう。」


2人は病院を出た。学校に向かう途中の馬車の中で、メイガスはマルスに説明する。
ラアラの容態は、悪くなる一方で、傷口には、呪いが掛けられており、顔は骨にまで達する火傷を負っているそうだ。王国の魔法使いが、完全回復魔法や、完全治療魔法をかけるが、呪いの効果だろうか、魔法が効いているかも分からない状況だそうだ。
そのため、病院にて、従来通りの治療を行っているらしい。



学校の寮に付き、マルスは、何かを考えていた。


次の日も、マルスは病院へ向かうが、ラアラが会いたくないとのことで、その日は帰ることにした。

次の日も、その次の日も、授業が始まった後も、毎日 授業が終わってから マルスは病院へ通う。
徒歩では、1時間程の道のりだが、マルスは 毎日、病院に通い続けた。


1ヶ月が過ぎたころからだろうか、ラアラは カーテン越しだが、マルスと面会をするようになっていた。

その日の話や、学校であったこと、マルスができるようになったこと。
ラアラも、マルスと話をするのが楽しみのようだ。





半年も過ぎるころには、ラアラの横に座り、手を握って話しかけるようになる。

ラアラの傷は、呪いのようなもので、まだまだ回復はしないそうだ。そのため、顔も右目以外の鼻から上を包帯で巻かれている。


「ラアラ、今日の調子は?」

「いつもと変わらないかな。マルス、毎日来るのも大変でしょ。」

「大丈夫だよ。朝の時間に素振りをして、午後はランニングしてきてるから、もうここまで 15分で来れるようになったんだよ。」

「それで、いつも呼吸が荒いのね。」

マルスもラアラも、この何気ない時間が幸せな時間であった。



「ねえ、マルス。」

「どうしたの、ラアラ。」

「今日は、マルスの誕生日なんでしょ。」

「うん。そうだよ。でも寮にいたって、ブックの軍略盤の相手をするだけだからね。それに、最近は、ブルック先輩がブックの本格的な軍略盤で遊びに来てるから、部屋に居場所がないんだよ。」

「そうなんだ。ブルックは変わらないね。」

2人は声を出して笑う。


「ねえ、マルス。誕生日プレゼントなんだけど、私の魔装具(守護の聖騎士剣)を貰ってくれないかな。もう右腕は治る見込みもないって言われちゃってさ。それから、再来月の私の誕生日は、マルスからの告白でいいよ。それまでには、傷をバッチリ治すからね。」

「でも・・・。」


「もらってほしいんだ。私、騎士を目指すより、立派な花嫁を目指すことにしたからさ。お願い、マルス。」

「分かった。その代わり、ちゃんと傷を治せるように頑張ろうね。
いま、ムーンフェスト団長と話をして、僕の弟を探してもらってるんだ。弟は、封印術っていう、魔法や呪いを封印して、無効化する能力があるから。もしかすると、ラアラの傷も一瞬で治るかもしれないからさ。」


「・・・そうだね。ナインくんだったっけ? 弟、早く見つかるといいね。」

「うん。お母さんと一緒に冒険に出たそうだから、すぐに見つかるよ。」


面会終了の時間になり、マルスは病室を出た。




次の日、いつものように朝の自主訓練をし、食堂に行くと、ムーンフェスト団長と聖騎士団が待っていた。


「マルスくん。少し話がある。」

「マルスは、校長室へと連れていかれる。」


ムーンフェスト団長は、魔装具(守護の聖騎士剣)を、マルスに手渡した。


「昨晩、遅くにラアラは、天に召されたよ。いままで、支えてくれて、本当に ありがとう。」

「そんな。でも・・・。」


「それから、君の弟なんだが、無事に保護している。いま、応接室で寝ているようだが・・・。」

「・・・ナインが。」


マルスは、急に立ち上がり、応接室で寝ている弟を起こす。


「・・・あれ? マルス兄ちゃん?」

マルスは、ナインに掴みかかる!

「あれじゃないよ! お前いままで、どこで遊んでいたんだ!」


遊んでいたと言われて、弟のナインも腹が立ったのか、マルスに反論する。

「僕は、遊んでなんかいないよ。マルスだって、なんで僕や母さんを置いていったんだよ!」



マルスは、ナインの顔を殴る。

メイガス校長と、ムーンフェスト団長が止めに入る。
ナインは、殴られたことが痛かったのか、声を出して泣いていた。


「マルス、ナインは、1人で生きてきたんだ。決して楽な生活はしていない。」

「1人で!? ナイン、お母さんは?」

「お母さんが、何度も手紙を出してたじゃないか。知らなかったとか言わせないよ。」

涙を ぬぐいながら、ナインは、マルスを睨む。
たしかに、母からの手紙は何通か届いていた。しかし、決心が鈍るといけないと思い、封を切らずに部屋に置いてあった。


「なぜ・・・。」

「マルス兄ちゃん、もう・・・。もう、お前に会いたくない。」

ナインは、泣きながら窓を開けて叫ぶ。




「ミッド、もうここにはいたくない。僕を引き寄せてよ。」

ナインは、黒い煙になり、南の空へと消えていった。



呆然と立ち尽くすマルスに、メイガス校長が、肩を抱き、優しく声をかける。


「マルス、君の弟は、君が家を出た後に、母と一緒に家を出たそうだ。その後、病気の治療をするために、過去の仲間を頼って旅をしていたそうだ。
その道中で、病気が悪化し、倒れてしまったと聞いている。ナインだって辛い思いをしてきたんだ。」


「・・・でも。」

「マルス、口を挟むようで 申し訳ないが、ラアラが天に召される前に、ナインくんは、封印術を発動してくれたんだが、封印術では治療は出来なかったようだ。ただ、別の術で、ラアラの姿を元に戻してくれてね。ラアラも最後は笑って旅立てたんだ。」


「・・・。」


「校長先生、ムーンフェスト団長、すみません。1人で考えさせて下さい。」


「君も心の整理が必要だろう。教員には、欠席を伝えておくことにしよう。」

「いえ、授業には参加します・・・。ラアラと約束していた立派な騎士団長にならなければいけないので。」










~1限目・訓練場~

今日は、武器による班分けをせずに、全員での訓練になる。
マルスは、朝の事件もあり、気持ちが上の空だった。
皆が、ムーンフェスト騎士団長(ララの父親)が来ていたので、だいたいの事情は知っているようだ。

落ち込みながらも、訓練をするマルスとブックの元に、アロンたちがやってくる。


「おい、マルス、ブック。お前たちの後ろ盾がいなくなったそうじゃないか。」

「・・・。」

「これから、俺たちに逆らうと、が、お前たちの顔を焼いて、化け物にしちまうからな。」

マルスがアロンを激しく睨む。

「ふざけるな!!!」


マルスは、素手でアロンの鎧を殴り、鎧を拳状に、へこませる。
アロンは、潰れた鎧が胸を圧迫して呼吸が出来ないのか、みるみる顔色が悪くなる。
異変に気づいた、ブルノス教官が、アロンの鎧を脱がせる。

「ブック、アロンを保健室へ連れていけ。フリオと、ランドは、生徒指導室へ行け。マルスは、俺に着いてこい。他は自習で素振りだ。」


マルスは、生徒同士の喧嘩で、懲罰房へ入れられた。
しかし、マルスは反省の言葉を言わない。ブルノスも事情を知っているので、マルスを問い詰めることはしなかった。
懲罰房は、一度入れば、3日間は外に出ることも許されない。
しかし、マルスは、当日の夕方に外に出される。

懲罰房から出ると、メイガス校長とブルノス教官がいた。


「マルス、メイガス校長先生も来られているんだ。意味は分かるな。
・・・マルス、もう一度 聞く。反省はしたのか?」

「いえ。私は正義と名誉の為に行動しました。」

マルスの真っすぐな瞳に、ブルノス教官も、口を開けない。


「ブルノス教官、私が話そう。」

「はい。」

「マルス。君の行いは正しかったと言えるものでもない。ただ、間違いだったといえるものでもない。同じ仲間を侮辱したアロンは、厳重注意をしてある。今後、このような事態は、アロンだけの問題にとどまらず、騎士団の問題として処罰される。しかし、マルス。君の場合は、ただ闇雲に処罰すればいいという問題でもない。騎士の教えにあるように、仲間の名誉を守るのも騎士の務めだ。したがって、今回の件は、全て私が責任を取り、保留にしようと思う。」

「メイガス校長先生、御迷惑をおかけしました。」


「ただし、君に1つ頼みごとがあるんだが。」

「なんでしょうか。」

「ララの、ラアラ=ムーンフェストの葬儀に、君も参加してもらおうと考えている。そこで、彼女の死と、彼女の願いと、彼女の意思を、君にもわかってもらいたい。」


「・・・。」


「さっそくだが、彼女の実家はここから、馬車で2日程の距離だから今から出発するとしよう。」


そういって、メイガス校長先生は、一冊の手帳をマルスに手渡した。
その手帳は、ムーンフェスト団長が託した、ラアラの日記であった。



その日記には、特級騎士の家系に産まれたことの重圧や、女騎士になる為の苦労、騎士団長を目指す上での、人並外れた努力の数々。マルスと出会えたことの喜び。マルスの面会を拒んでいたころの葛藤。自分の最後を感じ取り、愛するマルスに託した夢。


マルスは、馬車に乗り、その日記を読み進める。
後半は、左手で書いていたからだろう、文字も乱れている。
しかし、手帳の最後のページには、しっかりとした文字で言葉が刻まれていた。


【この日記を書き終わるときには、私は騎士団長に近づいている。決して怒らず、決して諦めず、決して後悔しないように、私は前に進み続ける。】



さらに、下の方には、後で継ぎ足した文字もある。その文字は、ひどく乱れているが、丁寧に書いてある。


【最愛なるマルスへ。もし私に最後の時がきても、悲しまないで下さい。今度は私が、あなたの心の支えになれるように、陰ながら見守っていきます。
心から愛していました。
いままで、いつも支えてくれて、ありがとう。】


マルスの目から涙が こぼれ落ちる。


2人を乗せた馬車の明かりは、暗い夜道を明るく照らし先に進み続ける。


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