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最終章

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それから、千紘は午後の授業で何をしたのか、どうやって帰ってきたのかも分からないほど、頭の中が混乱していた。


家に帰り着き、部屋で制服を脱ぎ、ふと机の上に目をやると、エイルがくれた三角形に一つ目の紋様が刻まれていた小さな笛を見つけた。

(そうだ、私は最後の褒美に笛を選んだんだ・・・。
 君に会いたい・・・。)




異世界の冒険は、わずかな時間だったが、エイルと一緒に過ごした時間は千紘にとってかけがえのないものになっていた。
その一瞬一瞬が千紘にとって最高の思い出と変わっていた。

たとえ、一時的に忘れていたとしても、エイルを想う千紘の気持ちが、奇跡を起こした。
人の記憶を書き換える魔法が働いたかもしれない。
しかし、千紘の心の奥深くに根付いた、エイルへの想いまで完全に消し去ることが出来なかったようだ。

だが、もう会うことが出来ないことも千紘は十分に分かっていた。
もし会えないのであれば、忘れていた方が幸せだったかもしれない。
それでも・・・。





千紘は、様々な思いを胸に、エイルがくれた小さな笛を、そっと吹いた。


ピィィーピィィー、ピィィー


笛の音が部屋に鳴り響く。




「エイル・・・。
 そうだ・・・君に会えるかもしれない。」



千紘は スマホを取り出し、Twitterを開く。
しかし、千紘を召喚した宣伝のようなものは見つからない。
次に、Googleを使い調べてみるが、まったく手掛かりがない。


(やっぱりダメなのかな・・・。)



千紘が、あきらめかけていた、その時。


検索結果:魔界王エイルシッド

「もしかして、コレかな?」


【CHANGEL】魔界姫マリーと純粋な見習い天使ジャスの・・・。



千紘は、その投稿小説を読み進めていく。

(2020年・・・5年前に完結した作品なんだ・・・。)



千紘は、投稿小説をどんどんと読み進めていった。
そして、いよいよ最終話・・・。





・君は、彼から貰った笛を吹いたか?

 YES
 NO




千紘は迷わず選択する。
右手には、彼から貰った笛を胸の前で握りしめて・・・。



→YES
 NO











【CHANGEL・最終話】


ピィィーピィィー、ピィィー

「この笛の音は・・・。」




何もない空間に漂う少年の耳に、笛の音が鳴り響く。
少年は笛の音を聞き、ゆっくりと閉じていた眼を開く。
その黒い瞳は、徐々に燃え上がる炎のように光を取り戻し、深紅の瞳へと変わっていく。

「俺の罪は、許されたのか・・・?」






少年は 大きく背伸びをすると、ニコリと笑みを浮かべた。











「チヒロ、、、いま会いに行く。」


  ~ happy end ~


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