36 / 89
4章・冒険者の休息
第3泊 先に進もう
しおりを挟む
~宿【冒険者の集い】~
徹夜のエイトと、レヴィア、たまたま報告から戻ったアルルの3人は、朝食を取り終えたところで、≪アロマスライム香水機≫の納品作業の為、迷宮へと出かける。
「なんで私なんですか?」
アルルは かなり不満もあるようだが、レヴィアが アルルの肩を叩き 説得する。
「いや、こういう地道な作業こそが、スキル習得の近道かなーって思うんだけど。」
「・・・わかりました。金貨分はちゃんと働きます。
エイトさんと二人で樽を外に運ぶだけですよね。」
「ああ、すでに完成しているから、樽を外に運ぶだけだよ。私は外から先を一人で運ぶから。」
「じゃあ、エイトさん。パパパッと終わらせましょうね。」
アルルの言葉に、エイトが力なく頷く。
~地下迷宮~
二人は魔法陣から地下迷宮の10階層に入り、長い階段を上り、保管されている樽の数を見る。
・・・。
アルルは、愕然とし 膝を着く。
「レヴィアさーん!こんなの無理ですぅ!」
残された樽は、26個もある。
階段近くまで運んであるとはいえ、階段を下りるだけでも重労働だろう。
~一方そのころ~
レイザーは 家に帰り、どこかへ出かける準備をしていた。
花束を持ち 馬に乗り、迷宮の横を抜け 小高い山に登る。
小高い山の上に 町を見下ろせる場所があり、そこに墓が2つ並んでいる。
レイザーは、手を合わせ祈るような姿勢をとる。
・・・。
・・・。
・・・。
レイザーの背後から、レヴィアが話しかける。
「レイザーの奥さんと子供かな?」
レイザーは驚き振り向く。
声の主がレヴィアだと分かると、安心した表情を見せる。
レヴィアは、レイザーの横に並び、墓に向かって手を合わせた。
・・・。
「すまない。迷宮の近くを走り抜けるのが見えたから、追ってきたんだ。」
「ああ、妻と子供の墓だよ。10年前に建てたんだ。まだ子供は、8歳だったのに・・・。」
祈りが済んだのか、レイザーが話し始める。
「異国の魔法使いの軍団に殺されたんだよ。
ちょうど、この町付近が戦場になったんだ。騎士同士の戦争だと 死ぬことはなかったんだろうが、魔法使いの戦争は、攻撃範囲が広いみたいで、この町も被害を受けてしまって・・・。
運悪く空から降ってきた火の玉が直撃した建物の中にいたんだ。建物は一気に燃え、跡形も残らなかった。
もしかすると、妻も娘も生きてるんじゃないかって、町中を探したけど、・・・もうどこにも居なかった。」
レイザーは、戦争を思い出し、肩を落とし 涙を流している。
「レイザー、もし悲しくて辛くなったときは、体を動かすんだ。
そうすれば、きっと気持ちも切り替わる。
奥さんや子供も、暗く落ち込んだレイザーは見たくないんじゃないかな。」
レイザーが涙を拭い、精一杯の笑顔を見せる。
「ああ、そうだな。レヴィアの言うとおりだ。」
レヴィアも、ほほ笑むようにレイザーを見上げ、元気よく声を掛ける。
「よし!気分転換に運動に行こう!」
~迷宮の魔法陣近く~
レヴィア達が魔法陣に戻ると、樽が外に2つ置いてある。
レヴィアは、樽を確認すると、転がし始めた。
「この樽は?」
「ああ、この樽を荷馬車に乗せていくんだよ。」
近くに止めてある荷馬車には、王国御用達の印と、ウィンター商会の印が連名で焼いてある。
うかつに触ると、それだけで罰せられるような荷馬車だ。
「こんな荷馬車を盗んだら、さすがに命乞いは難しいぞ!」
「ウィンター会長に借りたんだよ。早馬と一緒にね。」
「いったい今度は何をしてるんだ?」
「企業秘密だよ。」
レヴィアが親指を立て、ニッっと笑って見せる。
「とにかく、レイザーに頼みたい運動は、迷宮内の手伝いなんだよね。
アロマスライムのところにエイトたちがいるから、助けてあげてよ。」
「・・・運動って、労働力の確保のことだったのか。ほんとに気分転換だな。」
あきらかな重労働に渋るレイザーの肩を叩き、中断していた作業に戻りながら言う。
「さあ、先に進もう!湿っぽい話で終わるのは嫌いだからね。」
~ to be continued
【補足】
・異国の魔法使いの軍団
強力な魔法を放つ国の軍団。少ない人数で海を歩いて渡り、侵攻してきた。
当時、異国の魔法使いの軍団に対抗できるような魔導士もおらず、わずか数日で国を落とされた。彼らの通った跡は、全てが燃え尽き、地獄の使いとも呼ばれていた。
・王国御用達の印
王国専用の馬車。もしこの馬車から物を盗めば厳罰に処せられる。馬車を盗もうものなら、死罪となる。また宮廷魔導士により、位置把握の魔法が掛けられており、法の秩序の及ばない地域の山賊も、王国御用達の印が押してあれば、襲うのを辞めてしまう。
・ウィンター商会の印
ウィンター商会の馬車。この馬車には、ウィンター商会の護衛が配備されていることが多く、見慣れない不審者が近くにいるだけで、ウィンター商会の護衛や警備兵、神殿騎士などから職務質問を受ける。
レヴィアが馬車を放置しても盗まれなかったのは、こういった理由がある。
徹夜のエイトと、レヴィア、たまたま報告から戻ったアルルの3人は、朝食を取り終えたところで、≪アロマスライム香水機≫の納品作業の為、迷宮へと出かける。
「なんで私なんですか?」
アルルは かなり不満もあるようだが、レヴィアが アルルの肩を叩き 説得する。
「いや、こういう地道な作業こそが、スキル習得の近道かなーって思うんだけど。」
「・・・わかりました。金貨分はちゃんと働きます。
エイトさんと二人で樽を外に運ぶだけですよね。」
「ああ、すでに完成しているから、樽を外に運ぶだけだよ。私は外から先を一人で運ぶから。」
「じゃあ、エイトさん。パパパッと終わらせましょうね。」
アルルの言葉に、エイトが力なく頷く。
~地下迷宮~
二人は魔法陣から地下迷宮の10階層に入り、長い階段を上り、保管されている樽の数を見る。
・・・。
アルルは、愕然とし 膝を着く。
「レヴィアさーん!こんなの無理ですぅ!」
残された樽は、26個もある。
階段近くまで運んであるとはいえ、階段を下りるだけでも重労働だろう。
~一方そのころ~
レイザーは 家に帰り、どこかへ出かける準備をしていた。
花束を持ち 馬に乗り、迷宮の横を抜け 小高い山に登る。
小高い山の上に 町を見下ろせる場所があり、そこに墓が2つ並んでいる。
レイザーは、手を合わせ祈るような姿勢をとる。
・・・。
・・・。
・・・。
レイザーの背後から、レヴィアが話しかける。
「レイザーの奥さんと子供かな?」
レイザーは驚き振り向く。
声の主がレヴィアだと分かると、安心した表情を見せる。
レヴィアは、レイザーの横に並び、墓に向かって手を合わせた。
・・・。
「すまない。迷宮の近くを走り抜けるのが見えたから、追ってきたんだ。」
「ああ、妻と子供の墓だよ。10年前に建てたんだ。まだ子供は、8歳だったのに・・・。」
祈りが済んだのか、レイザーが話し始める。
「異国の魔法使いの軍団に殺されたんだよ。
ちょうど、この町付近が戦場になったんだ。騎士同士の戦争だと 死ぬことはなかったんだろうが、魔法使いの戦争は、攻撃範囲が広いみたいで、この町も被害を受けてしまって・・・。
運悪く空から降ってきた火の玉が直撃した建物の中にいたんだ。建物は一気に燃え、跡形も残らなかった。
もしかすると、妻も娘も生きてるんじゃないかって、町中を探したけど、・・・もうどこにも居なかった。」
レイザーは、戦争を思い出し、肩を落とし 涙を流している。
「レイザー、もし悲しくて辛くなったときは、体を動かすんだ。
そうすれば、きっと気持ちも切り替わる。
奥さんや子供も、暗く落ち込んだレイザーは見たくないんじゃないかな。」
レイザーが涙を拭い、精一杯の笑顔を見せる。
「ああ、そうだな。レヴィアの言うとおりだ。」
レヴィアも、ほほ笑むようにレイザーを見上げ、元気よく声を掛ける。
「よし!気分転換に運動に行こう!」
~迷宮の魔法陣近く~
レヴィア達が魔法陣に戻ると、樽が外に2つ置いてある。
レヴィアは、樽を確認すると、転がし始めた。
「この樽は?」
「ああ、この樽を荷馬車に乗せていくんだよ。」
近くに止めてある荷馬車には、王国御用達の印と、ウィンター商会の印が連名で焼いてある。
うかつに触ると、それだけで罰せられるような荷馬車だ。
「こんな荷馬車を盗んだら、さすがに命乞いは難しいぞ!」
「ウィンター会長に借りたんだよ。早馬と一緒にね。」
「いったい今度は何をしてるんだ?」
「企業秘密だよ。」
レヴィアが親指を立て、ニッっと笑って見せる。
「とにかく、レイザーに頼みたい運動は、迷宮内の手伝いなんだよね。
アロマスライムのところにエイトたちがいるから、助けてあげてよ。」
「・・・運動って、労働力の確保のことだったのか。ほんとに気分転換だな。」
あきらかな重労働に渋るレイザーの肩を叩き、中断していた作業に戻りながら言う。
「さあ、先に進もう!湿っぽい話で終わるのは嫌いだからね。」
~ to be continued
【補足】
・異国の魔法使いの軍団
強力な魔法を放つ国の軍団。少ない人数で海を歩いて渡り、侵攻してきた。
当時、異国の魔法使いの軍団に対抗できるような魔導士もおらず、わずか数日で国を落とされた。彼らの通った跡は、全てが燃え尽き、地獄の使いとも呼ばれていた。
・王国御用達の印
王国専用の馬車。もしこの馬車から物を盗めば厳罰に処せられる。馬車を盗もうものなら、死罪となる。また宮廷魔導士により、位置把握の魔法が掛けられており、法の秩序の及ばない地域の山賊も、王国御用達の印が押してあれば、襲うのを辞めてしまう。
・ウィンター商会の印
ウィンター商会の馬車。この馬車には、ウィンター商会の護衛が配備されていることが多く、見慣れない不審者が近くにいるだけで、ウィンター商会の護衛や警備兵、神殿騎士などから職務質問を受ける。
レヴィアが馬車を放置しても盗まれなかったのは、こういった理由がある。
5
あなたにおすすめの小説
相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~
ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。
休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。
啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。
異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。
これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。
サラリーマン、少女になる。
あさき のぞみ
ファンタジー
目が覚めたら、俺は見知らぬ10歳の少女になっていた。
頼れるのは、唯一の理解者であるはずの同僚「まい」だけ。彼女はなぜか僕を**「娘」として扱い始め、僕の失われた体を巡る24時間の戦い**が幕を開ける。
手がかりは、謎の製薬会社と、10年前の空白の記憶。
時間がない。焦るほどに、この幼い体が僕の理性と尊厳を蝕んでいく。そして、僕は知る。最も近くで微笑んでいた人物こそが、この絶望的な運命の**「設計者」**であったことを。
あなたは、その愛から逃れられますか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる