目指せ地獄の門 ~改訂版~

黒山羊

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4章・冒険者の休息

第3泊 先に進もう

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~宿【冒険者の集い】~

徹夜のエイトと、レヴィア、たまたま報告から戻ったアルルの3人は、朝食を取り終えたところで、≪アロマスライム香水機≫の納品作業の為、迷宮へと出かける。

「なんで私なんですか?」

アルルは かなり不満もあるようだが、レヴィアが アルルの肩を叩き 説得する。


「いや、こういう地道な作業こそが、スキル習得の近道かなーって思うんだけど。」

「・・・わかりました。金貨分はちゃんと働きます。
 エイトさんと二人で樽を外に運ぶだけですよね。」

「ああ、すでに完成しているから、樽を外に運ぶだけだよ。私は外から先を一人で運ぶから。」

「じゃあ、エイトさん。パパパッと終わらせましょうね。」

アルルの言葉に、エイトが力なく頷く。








~地下迷宮~

二人は魔法陣から地下迷宮の10階層に入り、長い階段を上り、保管されている樽の数を見る。


・・・。


アルルは、愕然とし 膝を着く。

「レヴィアさーん!こんなの無理ですぅ!」

残された樽は、26個もある。
階段近くまで運んであるとはいえ、階段を下りるだけでも重労働だろう。







~一方そのころ~

レイザーは 家に帰り、どこかへ出かける準備をしていた。
花束を持ち 馬に乗り、迷宮の横を抜け 小高い山に登る。

小高い山の上に 町を見下ろせる場所があり、そこに墓が2つ並んでいる。
レイザーは、手を合わせ祈るような姿勢をとる。


・・・。


・・・。


・・・。



レイザーの背後から、レヴィアが話しかける。

「レイザーの奥さんと子供かな?」

レイザーは驚き振り向く。
声の主がレヴィアだと分かると、安心した表情を見せる。
レヴィアは、レイザーの横に並び、墓に向かって手を合わせた。

・・・。


「すまない。迷宮の近くを走り抜けるのが見えたから、追ってきたんだ。」

「ああ、妻と子供の墓だよ。10年前に建てたんだ。まだ子供は、8歳だったのに・・・。」

祈りが済んだのか、レイザーが話し始める。

「異国の魔法使いの軍団に殺されたんだよ。
 ちょうど、この町付近が戦場になったんだ。騎士同士の戦争だと 死ぬことはなかったんだろうが、魔法使いの戦争は、攻撃範囲が広いみたいで、この町も被害を受けてしまって・・・。
 運悪く空から降ってきた火の玉が直撃した建物の中にいたんだ。建物は一気に燃え、跡形も残らなかった。
 もしかすると、妻も娘も生きてるんじゃないかって、町中を探したけど、・・・もうどこにも居なかった。」

レイザーは、戦争を思い出し、肩を落とし 涙を流している。

「レイザー、もし悲しくて辛くなったときは、体を動かすんだ。
 そうすれば、きっと気持ちも切り替わる。
 奥さんや子供も、暗く落ち込んだレイザーは見たくないんじゃないかな。」


レイザーが涙を拭い、精一杯の笑顔を見せる。

「ああ、そうだな。レヴィアの言うとおりだ。」


レヴィアも、ほほ笑むようにレイザーを見上げ、元気よく声を掛ける。

「よし!気分転換に運動に行こう!」



















~迷宮の魔法陣近く~

レヴィア達が魔法陣に戻ると、樽が外に2つ置いてある。
レヴィアは、樽を確認すると、転がし始めた。

「この樽は?」

「ああ、この樽を荷馬車に乗せていくんだよ。」


近くに止めてある荷馬車には、王国御用達の印と、ウィンター商会の印が連名で焼いてある。
うかつに触ると、それだけで罰せられるような荷馬車だ。

「こんな荷馬車を盗んだら、さすがに命乞いは難しいぞ!」

「ウィンター会長に借りたんだよ。早馬と一緒にね。」

「いったい今度は何をしてるんだ?」

「企業秘密だよ。」

レヴィアが親指を立て、ニッっと笑って見せる。


「とにかく、レイザーに頼みたい運動は、迷宮内の手伝いなんだよね。
 アロマスライムのところにエイトたちがいるから、助けてあげてよ。」

「・・・運動って、労働力の確保のことだったのか。ほんとに気分転換だな。」

あきらかな重労働に渋るレイザーの肩を叩き、中断していた作業に戻りながら言う。

「さあ、先に進もう!湿っぽい話で終わるのは嫌いだからね。」




 ~ to be continued




【補足】


・異国の魔法使いの軍団

強力な魔法を放つ国の軍団。少ない人数で海を歩いて渡り、侵攻してきた。
当時、異国の魔法使いの軍団に対抗できるような魔導士もおらず、わずか数日で国を落とされた。彼らの通った跡は、全てが燃え尽き、地獄の使いとも呼ばれていた。



・王国御用達の印

王国専用の馬車。もしこの馬車から物を盗めば厳罰に処せられる。馬車を盗もうものなら、死罪となる。また宮廷魔導士により、位置把握の魔法が掛けられており、法の秩序の及ばない地域の山賊も、王国御用達の印が押してあれば、襲うのを辞めてしまう。



・ウィンター商会の印

ウィンター商会の馬車。この馬車には、ウィンター商会の護衛が配備されていることが多く、見慣れない不審者が近くにいるだけで、ウィンター商会の護衛や警備兵、神殿騎士などから職務質問を受ける。
レヴィアが馬車を放置しても盗まれなかったのは、こういった理由がある。






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