目指せ地獄の門 ~改訂版~

黒山羊

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5章・英雄の誕生

洞窟13階 秘密の小瓶

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この話は、ちょっと前の時間の話。

~13階・階段付近~

上の階から、魔獣の断末魔が響き渡る。
恐怖を誘発するような断末魔に、とっさに身構えたアルルが心配そうに質問する。

「いまの断末魔は!?」

「ああ、エイトが無事に登ってきたんだろうね。ここで二人を待つことにしようか。」

「そうだな。エイト以外にケルベロスを倒せるパーティがいるとも思えないからな。」

安心した表情でレヴィアとレイザーはエイトを待つ。
アルルは、ずっとそわそわしている。
そんなアルルにレヴィアが話しかける。

「アルル、どうした?」

「だって、ケルベロスの頭は3つありますよね。なのに・・・。」

アルルの心配に、レイザーが答える。

「いや、同時に倒されたとかだろ。エイトは強力な魔法使いだから。」

「でも・・・。」

いますぐにでも、エイトたちの元へ駆け出したいアルルを制止するように、レヴィアが説得する。

「確かに心配だよね。だけどもし、戦闘中だとしても、ここで待つ方がいいだろう。
 いざとなれば、肉体強化に範囲魔法でケルベロスを追い込むだろうからね。」

「はい。分かりました。」

レヴィアの説得は、正論だろう。
アルルも、エイトは強力な魔法使いということは知っていたし、見たこともない強力な魔法を詠唱する場面も何度も見てきた。確かに、このままアルルたちが合流することで、逆に不利になることも想定できる。
アルルは、すぐにでも向かいたいのを我慢して待つことに決めた。









~50分後~

「その後、何も聞こえてこないね。」

「ほら、言ったじゃないですか!
 レヴィアさん、戻りましょうよ!」

3人は 上の階へと戻るため、長い階段を上に向かい進み始める。






~その頃、エイトたち~

「エイト、僕の言った通りでしょ!」

「本当だ。階段にたどり着いたね。」

「僕の直感は、結構な確率で当たるんだから!」

「そうだね。迷わず来れたのは、ミザリのおかげだね!」

ケルベロスを倒した広間から先は、入り組んだ洞窟になっていた。
エイトは、蝋燭を使った見極めで道を進む術を知っていたが、ミザリの直感を信じてほしいという熱意でミザリについてきた。
そのおかげなのか、それともケルベロスの断末魔の効果なのか、道中、魔物は一切出現せず、快適に攻略をすることができた。

「ねえ、エイト。」

「なに?」

「その、ご褒美が欲しいなーって。」

「えー!金目の物なんて持ってないよ!」


「・・・そんなんじゃないよ!」

ミザリは、エイトに抱きつく。

「あの、ミザリ・・・。」

「嫌だった?嫌じゃなければ・・・。」

「別に嫌とかじゃないけど、どうしたの?」


ミザリがエイトに抱き着いていると、階段の方から声が聞こえる。

「ああ、ミザリの本命はエイトだったか。」


「レヴィア姉さん!!!」


慌てて、エイトから離れるミザリ。

「ミザリさん、先を急ぐから、遊んでる暇はないんですよ!」

アルルは、動揺を隠しきれないようだ。
すかさず、ミザリとエイトの間に割ってはいる。

「やだなー。誤解しないでよ。僕の場合は、助けてくれたお礼と、無事に階段までたどり着いた嬉しさから、抱き合ってただけだよ。」

「そうですか、一方的に抱き着いていた気がしたんですけど・・・。」

「もしかして、アルル、妬いてるの?」

ミザリが悪戯いたずらっぽくアルルを見上げる。


「そ、そんなんじゃありませんよ。ただ・・・。」

ミザリは、アルルや、レヴィア、レイザーにも抱き着く。

「これからも、宜しくね!」


レイザーとレヴィアも、ミザリが無事で安心しているようだ。

「ほら、無事に合流できて安心したんだろ。」

「ああ、アルルは、恋する乙女のスキルが発動してるようだから、考えすぎだろう。
 今後は、まとまって先に進もう。」

「それもそうですね、今まで通り協力して頑張りましょうね。」




パーティは、階段を下り、13階の攻略を始める。
13階は今までの階層と違い、少し冷えるようだ。


「風が冷たいね。ちょうどいい気温になってきた!」

レヴィアが四次元ポシェットを探りながら、エイトを見る。
エイトは、レヴィアの視線に気がついていない様子だ。

「そうですか?ちょっと寒いですよ。」

アルルは、寒そうに腕を組んでいる。
ミザリもアルルの意見に同意する。

「そうだね。ちょっと寒いよね。」

そういって ミザリは、エイトに寄り添って歩き出す。

「ちょっと、ミザリ、寒いからって僕の体温を奪わないでよ。」

「いいじゃん。減るものでもないし。」

それを見ていたアルルは、ミザリの反対側に移動して、エイトによりそう。

「名案ですね。くっつけば暖かいですからね!」

アルルも、エイトに寄り添って歩き出す。
エイトは、2人に挟まれて歩きにくそうに歩いている。

「ちょっと、2人とも、僕が歩きにくいよ。」

エイトは、レヴィアと目が合う。
レヴィアは、四次元ポシェットから、チラチラと布を出して何か誘っている。

・・・エイトは、気づいた。

「レヴィア、四次元ポシェットから、布をだして防寒着を錬金しようよ。」

満面の笑みでレヴィアがエイトの提案に同意する。

「ああ!そうだ!エイトから、その言葉を待っていた!!」

レヴィアは、嬉しそうに布や小瓶を取り出しながら、防寒着を錬金し始めた。
レヴィアの錬金速度も質も、かなりの腕前になっている。
四次元ポシェットから布が出てしまうころには、おしゃれな防寒着が完成していた。
エイトとレヴィアは、さっそくミザリとアルルに装備させる。

「おお!レヴィア姉さん!この防寒着画期的だよ!」

「でしょ!動きやすいように、薄手だが風を通さない構造にしてある。」

アルルも装備し、レヴィアの錬金した防寒具に感動している。

「でも、暑くなりすぎないようですね。」

「そこも配慮済みで、布の繊維の方向をかえてあり、背中部分をメインに中からの熱は放出できるように工夫してあるんだ。」


レイザーとエイトも着用する。
レイザーは、ポケットに小物を入れてニコニコしている。

「このポケットが多いのも助かるな。」

「そう!冒険者は荷物が多くなるからね。とっさに取り出せるようにデザインしてある。」


エイトは、表面のコーティングを触りながら質問する。

「この表面のテカテカは?」

「ああ、雪や雨を弾くようにコーティングしてあるんだ!」

ミザリがコーティングの技術に食いつく。

「凄い技術だね!でも、何の素材を使ってコーティングしたの?」

レヴィアは、エイトをチラチラ見る。
何か嫌な予感がしたのか、エイトはレヴィアに質問する。

「・・・ドラゴン関係?」

「あ、ああ、伝説のドラゴンの汗というか、その、オシッコなんだけど・・・。」

恥ずかしそうに答えるレヴィア。
アルル、ミザリ、レイザーは、ドラゴンの尿に興奮している。
ドラゴンは、数も少なく 貴重な生物である。もし発見したとしても、強力な魔法や技で戦う為、近づいたりすることも難しいものだ。

「レヴィアさん、凄いじゃないですか!ドラゴンの尿なんて、超高級品じゃないですか!」

「レヴィア姉さんは、そんな凄い物まで保有してたの!?」

「いったい、君たちはどんな環境で育ったんだ?」

エイトは、防寒着を脱ぎ始める。

「ちょっと、ギリギリまで我慢しようかな・・・。」





 ~ to be continued



【補足】


・アルルの恋する乙女のスキル

本当にスキルが発動した分けではない。
者や物を大事にするという文言から、レヴィアがアルルを、からかっているだけ。



・伝説のドラゴンの…。

伝説のドラゴン、レヴィアタンのオシッコ。入手経路はレヴィアが内緒にしている。




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