59 / 89
6章・変革の時
第8話 ミザリィ=ローレンス=ゼタ=ハロルド
しおりを挟む
アルルと別れたあと、ミザリは ウィンター商会を訪れていた。
「すみません。ウィンター会長にお会いしたいんですけど。」
「アポイントのないお客様は、お通しすることができません。それにあなた、ハロルド商会のミザリさんですよね。」
「・・・。」
ミザリが無言で頷くと、店員も無表情のまま首を横に振った。
「どうぞ、お引き取り下さい。」
「帰りません。どうしてもウィンター会長に会わなければいけないんです。」
店員の言葉を遮るように、ミザリが真剣な表情で訴える。
その真剣な眼差しに、店員が折れたようだ。
「では、確認してきますが、難しいと思いますよ。」
そう言い残すと店員は接客を別の店員に任せて、店の奥へと引き上げていく。
・・・しばらくして、少し暗い顔の店長が戻ってきた。
「すみません。また明日にでも出直して下さい。今日は忙しいそうです。」
「はい。また明日、出直します。」
ミザリも、せっかく会長に確認してくれたのにも関わらず、このまま居座るのも迷惑になると考え、日を改めることにした。
翌日も、その翌日も、またその翌日も、何日もの間、ミザリは ウィンター商会を訪れた。
・・・ある日、ミザリが店を訪れると、ウィンター会長が待っていた。
「ミザリ、レヴィアからの手紙で、エイトの話を聞いた。3年後に向けて修行するんだな。」
「はい、ウィンター会長に師事を仰ぎたくて、お伺いしていました。」
ウィンターは、ミザリを品定めするように、じっくり見る。
彼の表情は難しく、時には頷き、時には首を傾げるようにしながら、ミザリの周囲を見て回る。
そして、ウィンターは口元を緩ませながらミザリの肩を叩く。
「ミザリには、私と同じく短剣の才能があるだろう。しかも私にない、魔法の才能も持っている。」
「どうしてそれを・・・。」
ミザリの質問に少し驚いた表情を見せた後、ウィンターは 優しい笑顔で答える。
「君の母親は、最高クラスの魔法を唱えるエルフだったからね。」
「も、もしかして・・・。」
もしかすると、ウィンターが実の父親なのかも知れない・・・。
そう思ったのだが、ミザリは口にすることができなかった。
それは、口喧嘩をすることもあるのだが、優しく頼れる父、ハロルドの顔が頭をよぎったからだった。
ウィンターは、何かを察したのだろうか、ミザリに声をかける。
「ちゃんとハロルド会長にも話をしてきなさい。準備ができ次第、迷宮と店での修行を続けるからね。」
「はい。」
ミザリは、家に戻る。
そして、父ハロルドを見たとき、ふと先ほどのウィンターの言葉を思い出し、心の中でつぶやいた。
(もしかして、ウィンター会長は・・・。)
無言で顔を見つめてくるミザリにハロルドが声をかける。
「ミザリ、いったいどうしたんだ。まだ冒険に出ないんだったら、店番をやってくれないか、ちゃんと賃金を渡すから。」
「あ、ごめん、考え事してた・・・。」
「ねえ、お父さん。ちょっといいかな?」
・・・ミザリは、ハロルドに会い、ウィンター会長に師事することを伝えた。
ハロルドは、何かを決心したように、ミザリに話しかける。
「勘のいいミザリなら、もう察してるかもしれないが、ウィンター会長と冒険に出る前に伝えておかなければいけないことがある。」
ミザリは、ハロルドの雰囲気に何かを察する。
やはり、ミザリの本当の父親は・・・。
「う、うん。なんとなく予想してたけど・・・。」
ハロルドの顔を見れないのか、下を向き目を合わせないようにするミザリ。
そんなミザリに、ハロルドが続けて話す。
「エイトくんから、聞いたぞ!」
「エイト?」
「そう!ミザリも既に落ちたらしいが、うちの家系は落とし穴に落ちるようだ。
もし、ウィンター会長の目の前で穴に落ちてしまえば、莫大な救助費用を取られてしまうから、気を付けるんだぞ。」
そういうと、ハロルドは箱に入った眼鏡をミザリに手渡した。
「・・・それだけ?」
「・・・そう、それだけ。」
「あ、あの、いや何でもない。眼鏡ありがとう。」
ミザリは、ハロルドに別れを告げて、ウィンター会長の元へ向かう。
~3年後~
レヴィア商会は、ウィンター商会に次ぐ、大きな商会になっていた。
物品の売買だけでなく、きめ細やかなサービス、商品のアフターフォロー。
注文と配達費用さえ払えば、10階層以下の迷宮内に手荷物を届けるサービスも開始している。
中でも人気なのは 一般人向けに開始されたツアーで、1階層を気軽に冒険することができる内容だ。
このツアーは、ウィンター商会とレヴィア商会でしか取り扱いがない特別なツアーとして手掛けている。
冒険者でもあり商人でもある ミザリ店長の功績は評判で、子供店長と呼ばれている。
「僕は、子供店長じゃないからね!」
「すみません。ウィンター会長にお会いしたいんですけど。」
「アポイントのないお客様は、お通しすることができません。それにあなた、ハロルド商会のミザリさんですよね。」
「・・・。」
ミザリが無言で頷くと、店員も無表情のまま首を横に振った。
「どうぞ、お引き取り下さい。」
「帰りません。どうしてもウィンター会長に会わなければいけないんです。」
店員の言葉を遮るように、ミザリが真剣な表情で訴える。
その真剣な眼差しに、店員が折れたようだ。
「では、確認してきますが、難しいと思いますよ。」
そう言い残すと店員は接客を別の店員に任せて、店の奥へと引き上げていく。
・・・しばらくして、少し暗い顔の店長が戻ってきた。
「すみません。また明日にでも出直して下さい。今日は忙しいそうです。」
「はい。また明日、出直します。」
ミザリも、せっかく会長に確認してくれたのにも関わらず、このまま居座るのも迷惑になると考え、日を改めることにした。
翌日も、その翌日も、またその翌日も、何日もの間、ミザリは ウィンター商会を訪れた。
・・・ある日、ミザリが店を訪れると、ウィンター会長が待っていた。
「ミザリ、レヴィアからの手紙で、エイトの話を聞いた。3年後に向けて修行するんだな。」
「はい、ウィンター会長に師事を仰ぎたくて、お伺いしていました。」
ウィンターは、ミザリを品定めするように、じっくり見る。
彼の表情は難しく、時には頷き、時には首を傾げるようにしながら、ミザリの周囲を見て回る。
そして、ウィンターは口元を緩ませながらミザリの肩を叩く。
「ミザリには、私と同じく短剣の才能があるだろう。しかも私にない、魔法の才能も持っている。」
「どうしてそれを・・・。」
ミザリの質問に少し驚いた表情を見せた後、ウィンターは 優しい笑顔で答える。
「君の母親は、最高クラスの魔法を唱えるエルフだったからね。」
「も、もしかして・・・。」
もしかすると、ウィンターが実の父親なのかも知れない・・・。
そう思ったのだが、ミザリは口にすることができなかった。
それは、口喧嘩をすることもあるのだが、優しく頼れる父、ハロルドの顔が頭をよぎったからだった。
ウィンターは、何かを察したのだろうか、ミザリに声をかける。
「ちゃんとハロルド会長にも話をしてきなさい。準備ができ次第、迷宮と店での修行を続けるからね。」
「はい。」
ミザリは、家に戻る。
そして、父ハロルドを見たとき、ふと先ほどのウィンターの言葉を思い出し、心の中でつぶやいた。
(もしかして、ウィンター会長は・・・。)
無言で顔を見つめてくるミザリにハロルドが声をかける。
「ミザリ、いったいどうしたんだ。まだ冒険に出ないんだったら、店番をやってくれないか、ちゃんと賃金を渡すから。」
「あ、ごめん、考え事してた・・・。」
「ねえ、お父さん。ちょっといいかな?」
・・・ミザリは、ハロルドに会い、ウィンター会長に師事することを伝えた。
ハロルドは、何かを決心したように、ミザリに話しかける。
「勘のいいミザリなら、もう察してるかもしれないが、ウィンター会長と冒険に出る前に伝えておかなければいけないことがある。」
ミザリは、ハロルドの雰囲気に何かを察する。
やはり、ミザリの本当の父親は・・・。
「う、うん。なんとなく予想してたけど・・・。」
ハロルドの顔を見れないのか、下を向き目を合わせないようにするミザリ。
そんなミザリに、ハロルドが続けて話す。
「エイトくんから、聞いたぞ!」
「エイト?」
「そう!ミザリも既に落ちたらしいが、うちの家系は落とし穴に落ちるようだ。
もし、ウィンター会長の目の前で穴に落ちてしまえば、莫大な救助費用を取られてしまうから、気を付けるんだぞ。」
そういうと、ハロルドは箱に入った眼鏡をミザリに手渡した。
「・・・それだけ?」
「・・・そう、それだけ。」
「あ、あの、いや何でもない。眼鏡ありがとう。」
ミザリは、ハロルドに別れを告げて、ウィンター会長の元へ向かう。
~3年後~
レヴィア商会は、ウィンター商会に次ぐ、大きな商会になっていた。
物品の売買だけでなく、きめ細やかなサービス、商品のアフターフォロー。
注文と配達費用さえ払えば、10階層以下の迷宮内に手荷物を届けるサービスも開始している。
中でも人気なのは 一般人向けに開始されたツアーで、1階層を気軽に冒険することができる内容だ。
このツアーは、ウィンター商会とレヴィア商会でしか取り扱いがない特別なツアーとして手掛けている。
冒険者でもあり商人でもある ミザリ店長の功績は評判で、子供店長と呼ばれている。
「僕は、子供店長じゃないからね!」
0
あなたにおすすめの小説
相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~
ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。
休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。
啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。
異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。
これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。
サラリーマン、少女になる。
あさき のぞみ
ファンタジー
目が覚めたら、俺は見知らぬ10歳の少女になっていた。
頼れるのは、唯一の理解者であるはずの同僚「まい」だけ。彼女はなぜか僕を**「娘」として扱い始め、僕の失われた体を巡る24時間の戦い**が幕を開ける。
手がかりは、謎の製薬会社と、10年前の空白の記憶。
時間がない。焦るほどに、この幼い体が僕の理性と尊厳を蝕んでいく。そして、僕は知る。最も近くで微笑んでいた人物こそが、この絶望的な運命の**「設計者」**であったことを。
あなたは、その愛から逃れられますか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる