目指せ地獄の門 ~改訂版~

黒山羊

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8章・最終章

洞窟30階 地獄の門を・・・

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30階の階段の手前で、ルシファーが歩くのを辞める。

「ここから先は、私は同行できない。」

「ああ、地獄の門があるからね。」

レヴィアは、そう言うとルシファーに手を振っている。

「そうだ。その通りだが、レヴィアは少し淡泊すぎるぞ。
 それから、エイト。」

ルシファーは エイトの肩に手を置き、エイトの耳元で小声で何かを話す。

「・・・はい。先生、分かりました。」

エイトが納得したところを見て、安心したのだろうか、ルシファーは上の階に引き返していった。
ルシファーが見えなくなると、レヴィアがエイトに質問する。

「ねえ、ルシファーに何て言われたの?」

「う、うん。助言的な事かな。」

エイトはルシファーとの話の内容を教えてくれなかった。
レヴィアは少し不服そうな顔をするが、あまり聞かれたくないことかもしれないと考え、追及するのを辞めておいた。
その後、パーティは1時間かけて階段を降り、30階に降りる。
途中、少し広くなった場所に転送の水晶があったが、いまは先を目指すことにした。








30階は、野球場くらいの広さの空間で、その周囲は深い闇の穴が続いている。
30階の中央には、両開きの扉が見える。
その扉を見つけると、レヴィアとアルルが不思議そうに話し始める。

「あれが地獄の門かな?」

「そうみたいですね、あの両開きの扉ですよね?」

「もう、開いてるよね?」

「え、ええ。ちょっと近くまで行ってみませんか?」

パーティは、近づくと気づいたことがある。
その扉は開けた後に、扉が閉まらないように地面に杭が打ってあるのが分かった。
扉をくぐってみても、何も起きない。
エイトが魔力を感知してみても、何も感じない。
周囲を見て回っていたレイザーとフラウも困っているようだ。

「なんじゃこれは、開いている扉を開けるのか?」

「どうやって?」

2人の会話にミザリも参加する。

「扉を開けて閉めるとかかな?」

「何のために開けて閉めるんじゃ?」


困った顔のメンバーに、扉の裏側を調べていたリリアスが話しかける。

「そうね。ルシファーに会わなければ、ここで引き返してたでしょうね。」

そういいながら、リリアスは杭を引き抜く。
とっさのことに、レヴィアも不思議そうに聞く。

「リリアス、どうしたんだ?」

エイトも何かに気づき、反対の扉の杭を引き抜く!

「この扉を閉めることで、地獄の門が開くのよ。」

リリアスが扉を閉めると、その面には 幾何学的な模様の中に隠された魔法円が半分だけ書かれている。
エイトが反対側の扉を閉め、魔法円を完成させる。




すると、どこからともなく耳を貫くほどのサイレンの音と、女性の声が聞こえ始めた。

【メインシステム起動、緊急事態発生の為、研究員は直ちに避難してください。】

「な、なんなの一体!?」

広い空間に鳴り響くサイレンの音に驚き慌てるアルル。


【Dカードの状況を確認、確認完了次第、羅生門を通じてデータの開放を行います。】

「なに?何を開放するって?」

女性の話している内容が気になるミザリ。


【メインシステム、緊急モードに移行します。Dカード、音声認識システム作動。
 ・・・始動完了。
 音声コード・・・イバ・ルデウモ・・・音声認識成功しました。】

「なんなんじゃ、地面が揺れ始めたぞ!」

突然の地震に冷静なレイザーも慌てている。


【羅生門、開放します。】


すると周囲が明るく照らされる。
その光が照らされた先に、巨大な門が姿を現した。
門までの道は光に照らされて分かったのだが、ガラスのように透明な板が続いているようだ。

「こ、これが、地獄の門?」

その大きさは岩場を埋め尽くすほどの大きさで、門の上の方には光も届かない。
あまりにも大きく、想像を超える建造物にレヴィアさえ言葉を失いそうになる。
羅生門と呼ばれた地獄の門は、しばらくたつと両開きの扉が、音もなく開き始めた。
巨大な扉を動かす風が、メンバーの体を門の奥へと引き込む。
そこでアルルが違和感を感じる。
その様子にミザリが声をかける。

「アルル、どうしたの?」

「この門、逆ですよね。」

アルルの指摘する逆とは、扉の開く方向が通常の門とは逆になっているということだ。
通常、この世界の門は、外敵からの攻撃に備えて外開きに門が開く。
門が外に開くことによって、防御側の魔法使いや戦士の先制攻撃ができるからだ。
内側に門が開けば、そのままなだれ込むように門の中に攻め入られてしまう。

しかし、地獄の門は、内側に扉が開いた。
騎士団で城攻めの勉強をしていたアルルは、そこに違和感を感じたのだろう。

「地獄の門の先にいる魔物から、世界を守るように設置された扉だったのかも。」

アルルの一言に、メンバーは慌てて扉を閉めるため、魔法円の書かれた扉を再び開こうとするが、まったく動く気配がない。
周囲の風は次第に強くなり、地獄の門が徐々に開き始める。

「しかたない。僕が地獄の門を閉めるから、みんなは扉を封印してくれ。
 ルシファー先生から聞いたんだけど、門の外からなら扉を閉める方法があるそうだから。」

エイトはレヴィアに貸していた魔装具(隠密の指輪)などを譲渡してもらう。
レヴィアは、エイトに魔装具を譲渡し質問する。

「エイトは、どうなる?」

「大丈夫。
 ルシファー先生から扉の締め方と一緒に、抜け道の場所を聞いているから。」

そういうとエイトは、透明の床を歩き始めた。

「私も行きます。」

エイトの後ろからアルルが駆け寄ってきて、エイトの腕をつかむ。

「ダメだ。地獄の魔物は、強さの桁が違う。
 ルシファー先生と同等以上の悪魔がいるそうだから危険だ。」

「危険だったら、なおさらエイトだけ行かせるわけないでしょ!」

エイトはアルルを見つめる。アルルの目は真剣だった。
レヴィアも2人に駆け寄りエイトに話しかける。

「エイト、そろそろ決断をした方がいい。下級の悪魔がすでに扉を出ているようだ。」

「ごめんね、嫌われたとしてもエイトに付いていく。」

アルルは、エイトの手を握る。

「分かった。一緒に門を閉めて地上に戻ろう。
 ・・・レヴィア、半年以内に僕たちが戻らなければ、再びここを目指してほしい。
 そして、ルシファー先生にコレを渡してくれ。」

そういうと、エイトは母からもらったという、布のお守りをレヴィアに渡す。

「これ、大事な形見なんだろ?」

「そうだけど、それは母の形見の魔装具(裏切りの刃)。
 アテラティッツの王国に伝わる神殺しの刀だそうだ。」

「ああ、分かった。ルシファーに神殺しを頼むんだね。」

「そう。ルシファー先生は、その魔装具の存在に気づいていて隠していてくれたようだからね。」

エイトがレヴィアに魔装具(裏切りの刃)を譲渡し終えると、アルルが声をかけてくる。

「エイト! 巨大なドラゴンが来てるよ!」

「レヴィア、あとは宜しく頼む。」

「レヴィアさん、必ず2人で戻るから待っててね。」


2人は地獄の門をくぐり、その門を内側から閉める。












地獄の門が閉まると、レヴィア達は地獄の門の封印をする。
そんなパーティの周囲を取り囲むように、大勢の悪魔が集まってきた。

「まずいな、絶体絶命ってやつだね。」

レヴィアは、周囲の敵を見渡す。
その時、背後を警戒していたミザリが異変に気付く。

「レヴィア姉さん、悪魔たちが煙に包まれていくよ!」

その黒い煙は、逃げ惑う悪魔たちを次々に飲み込んでいく。
レヴィアは、エイトから受け取った魔装具を隠す。


「・・・主父あるじ様だ。」

黒い煙は、全ての悪魔を消滅させて、レヴィア達の前に集まる。
黒い煙の中から、1人の男性が出てきた。
その瞬間、レヴィア以外のメンバーは強大な力で ひれ伏せられる。
レヴィアは、冒険に出て成長したから分かったのだろう。
主父あるじには、絶対に勝利することはできないと。
レヴィアは、悔しかったが、自ら膝をつき、主父あるじに服従する姿勢を見せる。

「よくやった、レヴィア。エイトは残念な結果になったが問題ないだろう。」

「何が問題ないのでしょうか。」

「私の能力も全て取り返すことができたし、我が君の魂も開放できた。
 約束通り、地上の民には望みの魔法を授けよう。」

主父あるじ様は、あの門をエイトが閉めなければ、どのようになさる、おつもりだったのでしょうか。」

「悪魔が流れ込むだけであろう。
 たいした問題ではないし、私への信仰は更に強まり、我が君の降臨の役に立つ。」

「・・・。」

「レヴィア、そなたは思っていたより聡明だ。
 いまここで歯向かっても、万が一にも勝ち目はない。
 エイトの死を受け入れ、残りの余生を楽しめ。」

レヴィアが、その言葉に頷くと、主父あるじは黒い煙を身に纏い始めた。

「余も満足だ。」

レヴィアは、唇を噛みしめ、拳を握る。
・・・唇は切れ、手のひらは血で滲む。

主父あるじは、黒い煙となり、上空に舞い上がると姿を消す。
煙が消えてしまうと、パーティは体が自由になった。



「「「・・・。」」」


あまりにも大きすぎる力の差にメンバーは言葉を失う。
最年長のレイザーが、メンバーを励ますように自身を奮い立たせて声をかける。

「さあ、一度、地上を目指そう。」

「あ、ああ。そうしよう。」

レヴィアは、目に涙を貯めていた。
メンバーに気づかれないように足早に階段を目指す。
しかし、メンバーは声の震えや、レヴィアの仕草から、泣いているのが分かったのだろう。
レヴィアの後を追うように後ろから追いかけた。





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