【CHANGEL】魔界姫マリーと純粋な見習い天使ジャスの不思議な魔界記

黒山羊

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魔界姫

001・王の間

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王の間にたどり着くと、そこには目を疑うような光景が広がっていた。


「あ、あのマリーさん。
 屈強な戦士で魔界の英雄って、彼らでしょうか?」

「・・・。
 ハン。ちょっと。」


マリーは、目に前にいる使い魔のハンを呼びつける。


「はい、なんスか?」

「なんスか?じゃないわよ!
 なんで誰も集合してないのよ!」

「い、いや。
 これで全員ッスよ。
 いま魔王城にいる戦士全員ッス。」

「はぁ!?
 これで全員!!?」


マリーは、目を疑った。
広大な魔王の間にいるのは、約50匹程の使い魔や悪魔たちだけであったからだ。
しかも、広大な部屋の中で自由に歩き回っている悪魔たちもいるほど、統制がとれていない。


「あ、あの、マリーさん。
 大丈夫ですか?
 さっきから震えているみたいですけど・・・。」

「え、ええ。大丈夫よ。
 魔界が敗れて300年、しかたがない結果なのかもしれないわね・・・。
 ハン、部屋に散らばる戦士たちを整列させなさい!」

「さっきから整列しているッス。」

「!!?
 さっきから整列って・・・。
 1、2、3、4、5、6、7、8。」

「そうッス。総員8名ッス。
 部屋の中にいる他の悪魔は観光客ッス。」

「・・・。」

「・・・あ、あの、マリーさん。
 私ちょっとトイレに行ってきますね。」

「・・・お、俺も掃除の続きがあったッス!」
「や、やばいニャン。マリー様が爆発しそうニャン!」


怒りのオーラが部屋の中を満たしていく。
配下の使い魔や、観光で来ていた他の悪魔たちも王の間から退却していく。
しばらくすると部屋の中には爆発寸前のマリーと、配下なのだろうか見慣れない1匹の使い魔だけが残っていた。
マリーは、少しづつ気持ちを抑え、冷静を取り戻していく。


「ふぅ、ふぅ、ふぅぅぅ。
 し、仕方がないわよね。これも運命ね。
 ・
 ・
 ・
 ところで、あなた。名前は?」


マリーは、1匹だけ残った使い魔に声をかける。
その使い魔は、言葉が通じないのだろうか、マリーの問いかけに首をかしげているような仕草を見せる。


「あなた、しゃべれないの?」

残っていた使い魔は、今度は頭を縦に動かし頷くような仕草をする。

「・・・使い魔になったのに喋れないままなんて、おかしな使い魔ね。
 使い魔として生まれ変わるときに、生前の傷や障害はなくなるはずなのにね。
 何かとてつもない悪事でも働いたの?」

残っていた使い魔は、再び頭を縦に動かし頷くような仕草をする。

「ふーん。
 まあ、私は生前の悪事を気にしないから他の使い魔と同じように生活してちょうだい。
 でも名前がないのは不便ね。
 ・
 ・
 ・
 ・
 私の配下として残った 八番目の使い魔だから、はっちゃん。
 なんてどう?」

残っていた使い魔は、今度は頭を横に動かし拒否の態度をとる。

「じゃあ、はちべえ。
 ・
 ・
 ・
 ダメか。
 それなら、はち子。
 ・
 ・
 ・
 ダメか。もっとシンプルな名前にする?
 ハッチとか。
 ・
 ・
 ・
 あっ!おしい感じだね!
 ハチヤン。
 ・
 ・
 ・
 またダメなの?
 もうそろそろ決めようよ。
 だったら、エイト。
 ・
 ・
 ・
 よかった。
 じゃあ、あなたの名前はエイトね。
 8番目の使い魔だからエイト。
 分かりやすくていいわね!」


そんなやり取りをしていると、部屋の中を恐る恐るジャスとハンたち使い魔が覗き込んでいた。


「何してるのよ!
 ほら、新たな命令を出してあげるから戻ってきなさい!」


普段と変わらない表情のマリーに安心したのか、ジャスとハンに続き 他の使い魔たちもゾロゾロと部屋の中に入ってくる。


「みんな、紹介するね。
 この子は、エイト。新しい使い魔よ。
 話をすることが出来ないけど、気にすることはないわ。」


使い魔のエイトが会釈をし、隊列へと戻っていく。
その様子に不思議そうな表情のジャスがマリーに質問する。


「マリーさんは、使い魔たちを名前で呼んでいるんですか?」

「ええ、そうよ。だって名前がないと不便じゃない。」

「それはそうですけど・・・。」

「天界でも名前で呼ぶことはないの?」

「そうですね。使い魔は使い魔ですから。」


そんな話をしていると、使い魔たちが話に入ってくる。


「天界の使い魔の様子はどんな感じなんニャン?
 名前で呼ばれることがないって言ってたけど・・・。」

「天界の使い魔ですか?」

「そうニャン。俺らの家族がどういう生活を送っているか気になったニャン。」

「そうですね。
 天界の使い魔たちは気が向いたときに仕事をして徳を貯めてますね。
 まあ、自然と今まで貯めた徳の利子がついていくから、寝てばっかりの使い魔もいるんですけどね。」

「それじゃあ、天界の使い魔は幸せなのかニャン?」

「まあ、人それぞれ感じ方もあると思いますけど、幸せだと思いますよ。」

「よかったニャン。
 それを聞いて安心したニャン。
 ジャスさん、ありがとうございましたニャン。」

「いえいえ。皆さんの家族は天界に召し上げられたんですね。
 よかったです。」


使い魔たちとの やり取りを見ていたマリーが会話に入りなおす。


「そろそろ話を進めてもいいかな?」

「マリー様、申し訳ないニャン。」

「いいよ、気にしてない。
 ・・・では、本題に入るとしましょう。
 今回、ここにいる見習い天使ジャスの助言により、親子喧嘩をする為、裏切り者のエイルシッドを探し出すこととなった。
 そこで皆には、いまの仕事とは別に命令を下す。
 これからエイルシッドの情報を集め、私に報告すること。
 ・
 ・
 ・もしエイルシッドを捕らえることが出来れば、特別に捕らえた者への褒美として、その者の罪を私がかぶり、恩赦を言い渡すこととする!
 同様に悪魔がエイルシッドを捕らえることが出来れば、魔界姫の名のもとに望みのままの褒美を与える。
 このことを魔界全土に布告しなさい!」


「「「オォォォォー!」」」


マリーの一言に、盛り上がる使い魔たち。
恩赦の提案を聞き、ジャスがマリーに近寄り声をかける。


「マリーさん、そんな約束をして大丈夫なんですか?
 使い魔の罪をかぶるってことは、マリーさんが使い魔に転生するってことですよ!
 それに、他の悪魔にだって、いまの魔王城に褒美を与えるほどの財力はないはずですよ。」

「大丈夫。悪魔の約束だから。」

「裏切るってことですか!?」


声を荒げるジャスに、ハンたち使い魔が声をかける。


「ジャスさん、大丈夫ッスよ!
 マリー様は約束を破ったことがないッス!
 俺ら全員・・・っていっても8匹ッスけど、信用しているッス!」
「そうニャンね、悪魔は約束を破らないニャン!
 それは、魔界にきて理解できた不思議な体験ニャン。」
「たしかに ちょっと解釈を曲げて約束を果たす癖があるニャンけど、無くすものがない俺らにとっては、そんなの関係ないニャンからね!」
「それに、たぶんマリー様は、隠し金庫とか持っているッス!
 たぶんソコから褒美とか滞納している300年分の維持管理費とか清算するッスよ。」


「・・・皆さんがいいのであれば、何も言うことはないんですけど。
 では、先に滞納している維持管理費、32兆7000億ゼランを払ってもらいたいんですが。」

「さ、32兆7000億ゼラン!?
 ちょっと足元みすぎなんじゃない。」

「そんなことないですよ。
 魔界の通貨での支払いなら、その金額です。
 天界の通貨であれば、30億ヘスト程度ですけど。」

「いったい何が・・・。」

「仕方がないですよ。魔界は天魔大戦に敗れて多額の賠償金を支払うために通貨を発行し続けたので、
 魔界のお金は紙くず同然になってしまいましたから。」

「な、なるほど。どうせ属国になるのであれば、後の問題など問題にしないという悪魔的な考え方が働いたのね。」

「そのようですね。天界も手を打っていたそうなのですが、悪魔の方が一枚上手だったようですね。
 そのせいで、一部の悪魔を除いて大半の悪魔も借金地獄に陥ってますよ。」

「一部の悪魔・・・。
 その一部の悪魔って、本当に悪い奴らよね!
 真の悪を見過ごすわけにはいかないよね。」

「そうですか?
 確かに悪を見過ごすわけにはいかないですけど、きっと敗戦濃厚になったときから、貴金属や宝石を買い集めたとかじゃないでしょうか。
 お金が紙くずになることを見通していただけだと思いますよ。」

「そうかな。
 じゃあ、その一部の悪魔が通貨を発行していたとしたら?」

「それは、かなり極悪な悪魔ですね。」

「じゃあ、天使として悪を見過ごせないよね。」

「そうですね。天使として悪を見過ごせないですね。
 ・
 ・
 ・・・はっ!」

「はい。ありがとう。
 録音させてもらったわ。
 ハン!
 天使の言質はとったわ!
 全軍を指揮して、造幣局に勤務または関係していて大儲けしている悪魔を探し出して、正義の名のもとに討伐戦よ!」

「了解ッス!
 全員で大儲けしている悪魔を探し出すッス!」

「あわわわわわわわ!
 天使長に怒られちゃうーーー!」

「大丈夫よ。
 いざとなったらエイルシッドを捕らえて望みの品をもらって悪魔に転生しちゃえばいいじゃない!」

「マリーさん、そんなこと出来るわけないじゃないですか!
 ど、ど、ど、どうしよーーー!」


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