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見習い天使
017・天魔界の異端は楽園と呼ばれる
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~魔王城~
マリーとジャスは元気いっぱいに魔王城の正門をくぐる。
魔王城の広間には、城の仲間たちが待ち構えていた。
「「「マリー様、ジャスさん、おかえりなさーい!」」」
「みなさん、ご迷惑をおかけしました。
これからも 宜しくお願いします!」
「アネゴ!
これからも よろしくだぜ!」
「ジャスさん みたいな天使なら大歓迎ニャン!」
「そうッスね。
これからずっと、魔王城で暮らせばいいッス。」
「そうですね。
わたしも そうしたいんですけど、いつまでも居候ってわけには・・・。」
仲間たちの歓迎を受け 笑顔を見せるが困惑するジャスに マリーも声を掛ける。
「そうだよ、ハンの言う通りだよ。
天界では死んだことになっているんだしさ、もういっそのこと、魔界天使として魔王城に住んじゃいなよ。」
「魔界天使・・・ですか?」
「そう、いま決めた職業だよ。」
(魔界天使・・・。
それってイイかもしれない・・・。)
・~・~・~・~・~・~・~・
~ジャスの妄想迷作劇場・
美少女魔界天使R、天使復活!謎の魔神出現~
魔神
「ローボォー!悪魔どもめ殲滅するぞー。」
悪魔少女
「お母さーん、助けてー!」
悪魔少女の母
「ああー娘を返して下さい、お願いします!」
魔神
「もう遅いわ、ローボォー!」
悪魔少女の母
「誰か・・・
天使様、助けて下さい。」
ヒューン!
カキーン!!
魔神
「な、何だ今の衝撃は!?」
刀を持った可憐な美少女
「そこの魔神!その女の子を離しなさい!」
魔神
「貴様、何者だ!」
刀を持った可憐な美少女
「魔界の平和を守るため、死の淵より舞い戻った、
愛と正義の美少女魔界天使、スーパージャスティス!
愛の天罰、落とさせていただきます!」
魔神
「お、おのれーーーー!
ロボロボォ!!!」
・~・~・~・~・~・~・~・
「ジャスちゃん、どうしたの?」
(ジャスちゃんって、たまにヨダレを垂らしてるよね。
天使の基本仕様なのかな・・・?)
「あっ!
何でもないです。
えっと、魔界天使って何をすればいいんですか?」
「魔界天使の仕事は みんなを笑顔で癒すこと!
仕事をすれば、ご飯だっていままで通り食べ放題だよ!」
「ご飯を食べ放題・・・。
ってことは、スイートバッハも食べ放題ですか?」
【※スイートバッハ。
魔界では有名な庶民的スイーツ。
細切れのパンの上に、温めたバター+激濃ミルク+魔蜂蜜を加えたものをかけたもの。】
「もちろん。
・
・
・ジャスちゃん、アレ大好きだよね。」
「そうなんですよ。
あの素朴で懐かしいけど、斬新な味が病みつきなんですよね。
もうすぐにでも食べたいくらいですよ!」
「素朴で懐かしいけど、斬新な味・・・?
まあ、とにかく今は魔蜂蜜を切らしてて スイートバッハも作れないんだよね。
だからさ、魔蜂蜜の買い出しにゲソ温泉まで遊びに行かない?」
「ハチミツなのに、温泉ですか?」
「うん。
ゲソ温泉のマダム・オカミって人が育ててるハチなんだ。
だから買い出しに温泉までいこうよ!」
「はい!」
「よーし、そうと決まれば魔界の楽園に1泊旅行よ!」
「「「ヤッホー!」」」
「温泉とか始めてだぜ!」
「旅行って 楽しみだニャン!」
「みんなで行くのとか初めてッス。」
「・・・あんた達も付いて行く気なんだ。」
こうして留守番の暗黒のリッチや、休みを希望した数名の悪魔以外の仲間たちは、魔王マリーの命令の元、魔界の楽園 ゲソ温泉へと旅行することになった。準備のために部屋に戻っていくマリーとジャス。
他の悪魔や使い魔たちも、出発の準備に取り掛かる。
出発前にハンは、留守番組の暗黒のリッチに声を掛けた。
「本当に暗黒のリッチは行かないッスか?」
「ええ、私たち骸骨種や腐人種は、皮膚の触覚がないので、ただの無駄な時間なんですよ。
温泉に行くぐらいなら、自分たちの趣味の時間に充てたいですね。」
「たしかに感覚が無かったら、温泉に入っても癒されずに詰まんないニャン。
まあ、俺らも無駄な時間ニャン。」
「ほほう。
では、なぜ行くのですかな?」
「だって社員旅行ニャン。
温泉に浸かんなくても楽しめるニャン。」
「・・・。
まあ、元人間である使い魔と我々では考え方の違いもあるのでしょうね。
新しい発見ができました。」
暗黒のリッチたち留守番組と話すハンたちに、準備を終えたマリーが声を掛ける。
「ほら急いでよ!
ハン、ノブナガ、置いて行っちゃうよ!」
「はい、いますぐ行くッス!」
「マリー様、待ってほしいニャン!」
「みんなにも、お土産を買ってくるッス。
留守番組も楽しみに待っててほしいッス。」
こうして、ゲソ温泉へ向かうこととなった。
まさか、魔界の楽園、ゲソ温泉で事件に巻き込まれることになるとは、誰も考えもしなかっただろう・・・。
~ゲソ温泉への道中~
「マリーさん、ゲソ温泉ってどんなところなんですか?」
「とっても快適で気持ちがいいところよ!
しかも、温泉街でのショッピングも楽しいし。」
「そうッスね。
俺ら使い魔は、ショッピングとかがメインッスね。
使い魔も感覚がないから、湯船に使っても分かんないッス。」
「ハンの言う通りニャン。
むしろ服が濡れて残念な結果にしかなんないニャン。」
「あれ?
あまり温泉につかる悪魔っていないんですかね?」
「そうね。
温泉に浸かるのは竜人種や獣人種くらいじゃないかな。」
「なんだかもったいないですね。
みんなで浸かれば楽しいのに。
・・・ちなみに、どんな温泉が湧いてるんですか?」
「温泉は、透明なお湯で とってもヌメッヌメなの。
あと、有料サービスなんだけど、ドクターローパーの住む岩でできた椅子があって、そこに座るとドクターローパーの群れが古い角質を食べてくれるから お肌もスベスベになるわよ。」
「ドクターローパー?」
不思議そうな顔をするジャスに、聞き耳を立てていた使い魔のタカトシが説明する。
「えっと、触手の群れニャン。
太さはソーセージ位の太さで体中を這いまわすようにヌメヌメ動いて古い角質を食べるニャン。
ものは試しニャン。ジャスさんの料金は俺が払うから、是非やってみるニャン。」
「へぇ、お肌スベスベっていいですね。
でも、温泉のヌメッヌメってのが気になりますね。
ちょっとサラサラの温泉に浸かりたいかも・・・。」
「そうかな?
ヌメッヌメで気持ちがいいよ。」
「そうですか?」
「まあ、ものは試して言うニャン。
俺も楽しみになってきたニャン。
魔界に転生できて最高の幸せの瞬間がやってくるニャン。」
「そうですね。
タカトシさんは、温泉が好きなんですね。
私も 温泉が、とっても楽しみです!」
タカトシの様子を見ていた他の使い魔たちがヒソヒソと話をする。
(タカトシは下心満載ニャン。)
(もしかすれば、この温泉で消滅するかもしれないニャン。)
(でも確かに、考えようによってはご褒美ニャン。)
(た、たしかに・・・。
マリー様もジャスさんも かなり美人ニャン。)
(俺もタカトシに便乗するニャン。)
(なあ、みんなで出し合うのはどうかニャン。
少ないお金でも集まれば、長時間楽しめるニャン。)
「「「よし、その作戦ニャン!」」」
~ゲソ温泉・温泉街~
ここは、魔王城から飛竜で3時間ほどの距離にある温泉街である。
ゲソ温泉の温泉街は 山間にできた町で、至る所から湯気が上がっている天然の温泉地であり、ゲソ温泉の源泉は、透明度の高い液体で まるで空を飛んでいるかのような錯覚さえ起こしてしまうほどである。
この温泉の特徴は トロっとした触感で、体を芯から温め 保温効果も高く、効果・効能は 疲労回復や皮膚疾患の治療などであり、この数千年で 温泉人気が出たため、若い竜人種に人気のスポットとなり、連日連夜 多くの人で賑わっている。
また数は少ないが、天魔大戦時から温泉好きの天使たちがツアーを組んでやってくる、魔界の中でも特殊な場所である。
「うわぁー!
すごい賑わいですね!
魔界で私以外の天使を初めて見た気がします!」
マリーたち一行は、どこの温泉施設にするか迷っている様子だ。
そんな中、ジャスは、はぐれないように、マリーと手を繋ぎながら温泉街を散策する。
マリーは、そんなジャスに手を引かれるように、何かを探しながら歩いていた。
「そうなのよ。
ちょっと有名になりすぎて、ゆったり入るのも難しくなってきみたいだから、私は足が遠のいていたんだけどね。
まだ 私が小さい頃に来たときは、隠れた名湯で 人も少なかったのにな・・・。」
「そんなに昔からあるんですね。
由緒ただしき温泉ですね。
でも、金額が・・・。」
ジャスの指さす温泉の料金は、
星700,000ヘスト
空 25,000ヘスト
地 5,000ヘスト
一般 1,200ヘスト
ドクターローパー
1h/800ヘスト
と、表示されている。
「思ったより高いわね。
人気が出て値上げしたのかな・・・。」
「どこの施設も料金は一律みたいですね。
この人数だと、地は難しいですね。
一般で入りましょうか。」
「そうだね・・・。
知り合いの温泉なら、もしかして・・・。」
そんな会話をしていると、一行の背後から野太い声が聞こえてくる。
「あら!
もしかして、いや、もしかしなくてもマリーちゃんじゃない!?」
「その声は、マダム・オカミかな?」
マリーは笑顔で振り返りながら、野太い声の方を向く。
ジャスもマリーと手を繋いでいたので、同じように振り向く。
声のした方向に立っていたのは、筋骨隆々で2m近くの身長があり、薄っすらと青髭の残る顔、ピンクのフリフリの服をきて化粧をした竜人種の化けも・・・悪魔だった。
「やっぱり、マダム・オカミだ!
久しぶりだね。3000年ぶりくらいかな?」
「もうそんなに経つのね。
・
・
・で、本題なんだけど。
マリーちゃん、その横の子は彼女?」
「いやいや・・・。」
「あ、初めまして。
見習いて・・・魔界天使のジャスって言います。
よろしくお願いします。」
「マリーちゃんにも やっと恋人ができたのね。
私も嬉しくって涙が出ちゃうわ。
しかも、絵から出てきたような美少女カップル。」
マダム・オカミは、手に持ったバスタオルで涙を拭き、豪快に鼻をかんでいる。
マリーも説明が面倒になったのか、マダム・オカミの誤解を解かずに話し始める。
「ちょうど良かったんだけど、今日は オカミの温泉に浸かった後、魔蜂蜜を買おうと思ってたんだよ。
でも、温泉街が立派になりすぎて、どれがオカミの温泉かわからなくなっちゃってさ。」
「・・・マリーちゃん、なに冗談いってるのよ。
この街全部が、この私、魔王マダム・オカミの管理下よ!」
ジャスは周囲を見渡して目を丸くしている。
山間の温泉街とは言っても、その規模はエン横の何倍もあり、魔王城ほどの大きさの温泉施設がいくつも建っていた。
「えっ、コレ全部ですか!?」
「ええ、そうよ。
あなたの恋人のマリーちゃん程の領土はないけど、かなり発展はしてる自信があるわ。」
「えっ?
マリーさんの領土って、魔王城以外に何がありましたっけ?」
「う、うん。えっと・・・。
私の領土は、迷いの森、世界樹の丘、飛竜の巣穴、それと魔王ドラニコフが所有してた テンペスト火山、あとは・・・。」
マリーが何か思い出そうとしていると、マダム・オカミが口を挟んでくる。
「私の偉大で崇高なエイルシッド様たちが祭られている魔界王の古墳群もでしょ!」
「あ、ああ、そうだった。
すっかり忘れてたよ。」
「・・・かなり広い領土なんですね。
でも、確かに発展してるとは良いがたい感じですね。」
「ふふふっ、そうだね。
田舎魔王だからね。」
「マリーちゃんは謙遜よね。
飛竜の巣穴から生まれてきた飛竜を貸出するだけで、この街全体の売り上げの20%もの粗利益を叩いてるじゃない。」
「・・・オカミ、それ極秘情報なんだけど。
どこで入手したの?」
「あら、ごめんなさい。
うちに出入りしている魔界商人のウィンターが調べてたわよ。」
「魔界商人ウィンター・・・か。」
「まあまあ、細かいことは気にしないで、温泉に入っていってよ。
今日は昔なじみのマリーちゃんに彼女が出来た お祝いね。
私のおごりよ!
2人には うちの最高級 家族温泉を提供させてもらうわ。
付き人の悪魔や使い魔も、大衆温泉でよければ、半値の600ヘストでいいわよ。」
「最高級・・・。」
「家族温泉・・・。」
「マリーさん・・・。」
「ジャスちゃん・・・。」
「「「やったね!」」」
マリーとジャスは、抱き合って飛び跳ねて喜んでいる。
使い魔たちは・・・。
「やったぜ!
浮いた分でドクターローパーを使いたいぜ!」
「そうッスね。
合計予算は若干上がるッスけど、いい思い出ッス。
ぜひ使いたいッス。」
「「「俺らは残念だニャン。」」」
「見てみろにゃん。
・・・タカトシは死にそうな程、落ち込んでいるニャン。」
「「「天罰ニャン。」」」
魔王城からの一行を 魔王マダム・オカミが案内する。
途中の温泉施設でマダム・オカミは、マリーとジャス以外の他の一行を温泉施設に連れていき、受付を済ませ中へと案内する。
その後、戻ってきたマダム・オカミは、再び マリーたちを連れて 温泉街をさらに奥へと案内していく。
ジャスは、案内してくれるマダム・オカミに質問する。
「マダム・オカミさん、お勧めのスイーツ店ってありませんか?」
「そうね・・・。
旬の味覚パフェかしら。
なんなら後で配達させるわよ。」
「えっ!
いいんですか!?
ありがとうございます。
旬の味覚パフェ 楽しみです!」
「喜んでもらえて嬉しいわ。
ところで さっきハンに聞いたんだけど、マリーちゃんたちも、今日は泊まっていくんでしょ。」
「ええ、最初から そうするつもりだったわ。
何か問題でもあった?」
「いいえ。
ちょうど今日は花火を打ち上げようと思ってたのよ。」
「はなび・・・ですか?」
マリーとジャスは、お互いに顔を見合わせ不思議そうな表情をしている。
「そうよ、私は人間だったころ、花火職人だったからね。
ここ数年、商売繁盛のお礼として、月に1回、打ち上げてるのよ。」
マリーとジャスは花火の意味が分かっていないようで、花火について質問をしようとしたのだが、目的地である最高級 家族温泉に到着してしまった為、質問のタイミングを逃がしてしまった。
~最高級 家族温泉の受付~
和風な御殿といった外観も内観も、いままで見てきた温泉施設とは違い、かなり手が込んだ作りをしている。
最高級 家族温泉の受付は、豪華さの中に自然と落ち着ける雰囲気もだしていて、引き算の美学が生かされている。
まさに楽園と呼ぶにふさわしい、相反するもの同士が自然と調和する不思議な空間だった。
マダム・オカミが支配人に指示を出し、マリーとジャスに部屋の鍵を手渡し部屋へと案内する。
「ここは、私が一番お気に入りの部屋なのよ。」
「お気に入りの部屋ですか・・・?」
温泉に入りに来たはずなのが、部屋へと案内され、ジャスは不思議そうな顔をする。
「ええそうよ。
この施設は他の施設と違って、部屋に寝泊まりできるの。」
「へぇ、便利なんですね。
・
・
・あっ、マリーさん!
宿のキャンセルをしなくっちゃいけないんじゃないですか!?」
「そうだね。当日キャンセルで手数料を取られちゃうかも・・・。」
「それなら気にしないで。
キャンセルの手配は私がしておくわ。」
「ありがとうございます。
マダム・オカミさんのご厚意に甘えっぱなしで申し訳ないです。」
「いいのよ。
気にしないでね。」
マダム・オカミは部屋の入口まで案内し、花火の準備があるからとのことで、そのまま部屋には入らずに来た道を引き返していった。
2人が案内された部屋は、土足厳禁らしく、2人とも入口の狭いスペースで履き物を脱ぎ、引き戸を開け部屋に入る。
入口から見える部屋は、余計なものが何もない 12畳の落ち着きのある質素な部屋だった。
「これが最高級・・・なんでしょうか?
部屋にあるのは、背の低い机だけですね。」
「う、うん。
床に座るってことかな?
なんだか騙された感があるよね。」
「ダメですよ、思ったことを言ったら。
きっとマダム・オカミさんが人間から転生したって言ってたし、人間だったころの収容所か何かの名残なんですよ。」
「ありえるわね。
裸足で部屋に入るってのも、逃げ出さないようにする工夫なのかも・・・。」
2人は、何もない部屋の中を散策し始めた。
部屋の中には、背の低い机と、脚のない椅子。その他に 入口の引き戸と同じような引き戸が2つあった。
「ジャスちゃん、どっちの引き戸から開けてみる?」
マリーの問いかけに、脚のない椅子に座ってみていたジャスが戸惑いながら部屋を見渡す。
「えっと、不思議な模様の小さめの引き戸と、光が差し込んでくる大きな引き戸ですね・・・。
こういうものは、小さい方が立派だったりするから、小さい方の引き戸にしてみましょうか。
もし引き戸の中身が残念な結果でも、小さい方が被害が少なそうですし・・・。」
「・
・
・それもそうね。
大きい方を開けて絶望するより、小さい方から開けて徐々に慣らしていくのもありね。」
意見の一致した2人は、小さい引き戸を開けてみる。
「「「・・・。」」」
「これ、折り畳みベッドですかね。」
「えっと、たぶん。
それにしてはコンパクトね。」
「まさか、床に敷いて使うんでしょうか・・・。」
「そのまさかだと思うよ。」
「・・・マリーさん、どうします?」
「・・・と、とりあえず、大きな引き戸を開けてみようよ。
別の部屋があるのかもよ!
この小さな部屋はエントランスや倉庫的なものでさ!」
「そ、そうですよね!
まだまだ望みはありますよね!」
2人は、お互いに手を取り合い、光の差し込む大きな引き戸に手をかける。
「いい、ジャスちゃん。」
「はい、マリーさん。」
「「「せーの!」」」
ササー!
ピシャ!
想像より少ない力で動いた大きな引き戸は、滑るように勢いよく開く。
その引き戸の先に現れた景色は、息をすることさえも忘れてしまうほど神秘的で美しい景色だった。
「ま、ま、まり、マリーさん!」
「ジャスちゃん、落ち着いて!
で、でも・・・なんなのここは、異世界にでも迷い込んだの・・・?」
「マリーさん、見てください!
温泉がありますよ!」
「すごい!
こんな景色を眺めながら温泉に ゆっくり浸かれるなんて、夢みたいだね!」
「そうですね!
さっそく入りましょうよ!」
「うん!」
マリーとジャスは、持ってきた荷物を下ろし、服を脱ぎ始める。
こんなところにも、2人の性格がでていた。
マリーは 雑に脱ぎ散らかした服を そのままに、温泉へと一直線に駆け込んでいく。
ジャスは 自分の服だけでなく、マリーの服も綺麗にたたみ、背の低い机の上に置き、バスタオルの準備をして温泉へと向かう。
温泉に浸かり景色を眺めながら マリーはジャスに話しかける。
「ね、気持ちがいいでしょ。ヌメッヌメで!」
「そんなにヌメヌメではないですよ。
まあ、かなりトロトロですけど。」
「トロトロ・・・。
ヌメヌメの方があってると思うけどな。」
「いえいえ、トロットロですよ。」
「ヌメッヌメ!」
「トロットロ!」
「ヌメッヌ・・・、
まあ、どっちでもいいか。」
「そうですね。
ヌメットロでいいんじゃないですか?
今度こそ半分こで・・・。」
「今度こそ・・・?」
不思議そうにジャスの方を見るマリーは、温まり頬が薄桃色に染まったジャスをみて、恥ずかしそうに目をそらす。
「マリーさん、どうしたんですか?」
「い、いや。
なんでもないよ。
温泉、気持ちがいいね。」
「そうですね。
ドクターローパーはないみたいですけど、なくっても十分満足ですよね。」
「そうだね。
気持ちよくって500年くらい寝ちゃいそうだね。」
ジャスはマリーの横に移動し、持っていたタオルで口元を拭いた。
「マリーさん、ヨダレ出てましたよ。」
「あははっ、気持ちよくってさ。」
「そうですよね。気持ちがいいですね。」
2人は並んで温泉に浸かりながら、他愛もない世間話から 今後の魔王城の進む方向性などの重要な話まで、いろいろな話をし続けた。
いろいろな話をしていると、いつの間にか辺りは暗くなってきた。
「ジャスちゃん、空の雲に街の光が反射して綺麗だよ!」
「本当ですね。まるで空の宝石箱みたい。」
はるか上空の厚い雲は、氷の粒を含んでおり、その氷の粒に光が反射して美しく光り輝いていた。
「ところで、はなびって何だったんでしょうか。」
「さあ、温泉が気持ちよくって、はなびの打ち上げに参加できなかったよね。」
「そうですね。
打ち上げっていうくらいだから、宴会か何かでしょうか。」
「どうなんだろう。
まあ、どうでもいいんじゃない?
宴会なんかより、2人で話ができたことの方が有意義だったよ。」
「そうですね。
温泉も気持ちがいいし、とっても幸せな時間でしたね。
・
・
・マリーさん、私・・・。」
「ジャスちゃん・・・?」
ヒュルルルルー
ドーーーーン!
周囲に鳴り響く飛来音と炸裂音にマリーとジャスは警戒する。
「何!?
他の魔王の襲撃!!?」
「あっ!
マリーさん、空を見上げてください!」
「えっ!
空・・・。」
ヒュルルルルー
ドーーーーン!
ヒュルルルルー
ドーーーーン!
バチバチバチバチ!
「「「すごくきれい!」」」
「わかった!
わかりましたよ。はなびの打ち上げの正体が!」
「えっ、何なの?」
「ほら、マリーさん、あの空に打ちあがる火をよく見てて下さい。」
ジャスは立ち上がり夜空を指さす。
ヒュルルルルー
ドーーーーン!
「花みたいに綺麗・・・。
そうか!
花みたいに綺麗な火だから、花火なんだ。
それを打ち上げるから、花火の打ち上げなんだ!」
「きっとそうですよ!
今日は、すごくいいタイミングで来たんですね!」
「日頃の行いがよかったせ・・・い・・・?
・
・
・ジャスちゃん、すっごいね・・・。」
マリーは恥ずかしがって、ジャスの方を向いていなかったから気が付かなかったのだろう。
醤油の受け皿のような初期装備のマリーに対して、お椀のようなものをジャスは装備していた・・・。
「・
・
・ジャスちゃん。
天使の おっぱいって、お湯を吸って膨らむ仕様なのかな・・・?」
「え、なに言ってるんですか?
普段と変わらない大きさですよ。」
「あ、ああ、そうなんだ・・・。
普段の服からだと体形が分かりにくくって、私と同じくらいなのかと錯覚してた。」
「マリーさんと同じ・・・?」
ジャスがマリーの胸元に目をやろうとすると、慌ててジャスのタオルを奪い、背中を向ける。
「ほ、ほら、のぼせてきたから、そろそろ上がろうか。」
「そうですね。
花火が終わったら上がりましょっか。」
ヒュルルルルー
ドーーーーン!
ヒュルルルルー
ドーーーーン!
ドーーーーン!
バチバチバチバチ!
花火も終了し、コソコソと着替えるマリー。
「どうしたんですか、マリーさん?」
「ううん、気にしないで。
それより、旬の味覚のパフェってどうなったのかな?」
着替え終わったマリーが、バスタオルを巻いたままのジャスに声をかける。
ジャスは、汗が引くまでバスタオルのままで過ごすのが日課のようで、ほてった体を冷やすように涼んでいる。
「そうですね。
旬の味覚パフェもですけど、ご飯もまだですし、お腹がすいてきましたね。」
「ねえ、せっかくだから夜の温泉街を散策しない?」
「いいですね。
じゃあ、急いで着替えますね。」
2人は着替えが終わると、受付を通り、街にくりだそうとしていた。
そこに、マダム・オカミが声をかけてきた。
マダム・オカミは、着物を着ていて、見た目の化け物感が和らいでいた。
「オカミ、その服おしゃれだね。」
「そうですね、しかも涼しそうでいい感じですね。」
「あれ・・・?
2人とも、外出用に浴衣を準備させてたと思うんだけど・・・。」
「ゆかた?
ジャスちゃん、部屋に何かあったっけ?
そもそも、ゆかたって何?」
「浴衣は、ざっくり説明すると、私が来てる着物の簡易版って感じかな。
もし、着方が分からなければ、着付けの娘をよこすけど。」
「「「・・・?」」」
「マリーさん、そういえば ありましたよ。
ほら、バスタオルの横にあった、薄手のガウンと厚めの紐の事じゃないですか?」
「あ、あったかも。
綺麗なデザインだったよね。
さっき見た花火みたいな。」
「ほらほら、2人とも。
せっかく魔王マダム・オカミの眠らない温泉街に来たんですもの、浴衣を着て夜の温泉街を散策するのが通ってものよ。」
マリーとジャスは、部屋に追い戻され浴衣の着こなしを習いお互いに浴衣を着る。
黒髪に紅い瞳のマリーには、
黒を基調とした花火柄に赤い裏地の浴衣。
金髪に青い瞳のジャスには、
白を基調とした金魚柄に青い裏地の浴衣。
浴衣に着替え終わった2人が受付で待っていたマダム・オカミに披露する。
「あら、2人とも似合ってるわよ。
この温泉街のイメージアイドルって感じね。」
「オカミさん、ありがとうございます。」
「オカミ、おだてても何もないからね。」
「そんなの 期待してないわよ。
それじゃあ、夜の温泉街を楽しんできてね。」
マリーとジャスは、夜の温泉街を散策しに出かけていった。
その頃、とある温泉では、災いの炎がメラメラと燃え上がろうとしていた。
「「「ヤバイニャン!」」」
「タカトシ、早く逃げるッス!」
「いやニャーン!
ちゃんと最後まで確認したいニャーン!」
→018へ
マリーとジャスは元気いっぱいに魔王城の正門をくぐる。
魔王城の広間には、城の仲間たちが待ち構えていた。
「「「マリー様、ジャスさん、おかえりなさーい!」」」
「みなさん、ご迷惑をおかけしました。
これからも 宜しくお願いします!」
「アネゴ!
これからも よろしくだぜ!」
「ジャスさん みたいな天使なら大歓迎ニャン!」
「そうッスね。
これからずっと、魔王城で暮らせばいいッス。」
「そうですね。
わたしも そうしたいんですけど、いつまでも居候ってわけには・・・。」
仲間たちの歓迎を受け 笑顔を見せるが困惑するジャスに マリーも声を掛ける。
「そうだよ、ハンの言う通りだよ。
天界では死んだことになっているんだしさ、もういっそのこと、魔界天使として魔王城に住んじゃいなよ。」
「魔界天使・・・ですか?」
「そう、いま決めた職業だよ。」
(魔界天使・・・。
それってイイかもしれない・・・。)
・~・~・~・~・~・~・~・
~ジャスの妄想迷作劇場・
美少女魔界天使R、天使復活!謎の魔神出現~
魔神
「ローボォー!悪魔どもめ殲滅するぞー。」
悪魔少女
「お母さーん、助けてー!」
悪魔少女の母
「ああー娘を返して下さい、お願いします!」
魔神
「もう遅いわ、ローボォー!」
悪魔少女の母
「誰か・・・
天使様、助けて下さい。」
ヒューン!
カキーン!!
魔神
「な、何だ今の衝撃は!?」
刀を持った可憐な美少女
「そこの魔神!その女の子を離しなさい!」
魔神
「貴様、何者だ!」
刀を持った可憐な美少女
「魔界の平和を守るため、死の淵より舞い戻った、
愛と正義の美少女魔界天使、スーパージャスティス!
愛の天罰、落とさせていただきます!」
魔神
「お、おのれーーーー!
ロボロボォ!!!」
・~・~・~・~・~・~・~・
「ジャスちゃん、どうしたの?」
(ジャスちゃんって、たまにヨダレを垂らしてるよね。
天使の基本仕様なのかな・・・?)
「あっ!
何でもないです。
えっと、魔界天使って何をすればいいんですか?」
「魔界天使の仕事は みんなを笑顔で癒すこと!
仕事をすれば、ご飯だっていままで通り食べ放題だよ!」
「ご飯を食べ放題・・・。
ってことは、スイートバッハも食べ放題ですか?」
【※スイートバッハ。
魔界では有名な庶民的スイーツ。
細切れのパンの上に、温めたバター+激濃ミルク+魔蜂蜜を加えたものをかけたもの。】
「もちろん。
・
・
・ジャスちゃん、アレ大好きだよね。」
「そうなんですよ。
あの素朴で懐かしいけど、斬新な味が病みつきなんですよね。
もうすぐにでも食べたいくらいですよ!」
「素朴で懐かしいけど、斬新な味・・・?
まあ、とにかく今は魔蜂蜜を切らしてて スイートバッハも作れないんだよね。
だからさ、魔蜂蜜の買い出しにゲソ温泉まで遊びに行かない?」
「ハチミツなのに、温泉ですか?」
「うん。
ゲソ温泉のマダム・オカミって人が育ててるハチなんだ。
だから買い出しに温泉までいこうよ!」
「はい!」
「よーし、そうと決まれば魔界の楽園に1泊旅行よ!」
「「「ヤッホー!」」」
「温泉とか始めてだぜ!」
「旅行って 楽しみだニャン!」
「みんなで行くのとか初めてッス。」
「・・・あんた達も付いて行く気なんだ。」
こうして留守番の暗黒のリッチや、休みを希望した数名の悪魔以外の仲間たちは、魔王マリーの命令の元、魔界の楽園 ゲソ温泉へと旅行することになった。準備のために部屋に戻っていくマリーとジャス。
他の悪魔や使い魔たちも、出発の準備に取り掛かる。
出発前にハンは、留守番組の暗黒のリッチに声を掛けた。
「本当に暗黒のリッチは行かないッスか?」
「ええ、私たち骸骨種や腐人種は、皮膚の触覚がないので、ただの無駄な時間なんですよ。
温泉に行くぐらいなら、自分たちの趣味の時間に充てたいですね。」
「たしかに感覚が無かったら、温泉に入っても癒されずに詰まんないニャン。
まあ、俺らも無駄な時間ニャン。」
「ほほう。
では、なぜ行くのですかな?」
「だって社員旅行ニャン。
温泉に浸かんなくても楽しめるニャン。」
「・・・。
まあ、元人間である使い魔と我々では考え方の違いもあるのでしょうね。
新しい発見ができました。」
暗黒のリッチたち留守番組と話すハンたちに、準備を終えたマリーが声を掛ける。
「ほら急いでよ!
ハン、ノブナガ、置いて行っちゃうよ!」
「はい、いますぐ行くッス!」
「マリー様、待ってほしいニャン!」
「みんなにも、お土産を買ってくるッス。
留守番組も楽しみに待っててほしいッス。」
こうして、ゲソ温泉へ向かうこととなった。
まさか、魔界の楽園、ゲソ温泉で事件に巻き込まれることになるとは、誰も考えもしなかっただろう・・・。
~ゲソ温泉への道中~
「マリーさん、ゲソ温泉ってどんなところなんですか?」
「とっても快適で気持ちがいいところよ!
しかも、温泉街でのショッピングも楽しいし。」
「そうッスね。
俺ら使い魔は、ショッピングとかがメインッスね。
使い魔も感覚がないから、湯船に使っても分かんないッス。」
「ハンの言う通りニャン。
むしろ服が濡れて残念な結果にしかなんないニャン。」
「あれ?
あまり温泉につかる悪魔っていないんですかね?」
「そうね。
温泉に浸かるのは竜人種や獣人種くらいじゃないかな。」
「なんだかもったいないですね。
みんなで浸かれば楽しいのに。
・・・ちなみに、どんな温泉が湧いてるんですか?」
「温泉は、透明なお湯で とってもヌメッヌメなの。
あと、有料サービスなんだけど、ドクターローパーの住む岩でできた椅子があって、そこに座るとドクターローパーの群れが古い角質を食べてくれるから お肌もスベスベになるわよ。」
「ドクターローパー?」
不思議そうな顔をするジャスに、聞き耳を立てていた使い魔のタカトシが説明する。
「えっと、触手の群れニャン。
太さはソーセージ位の太さで体中を這いまわすようにヌメヌメ動いて古い角質を食べるニャン。
ものは試しニャン。ジャスさんの料金は俺が払うから、是非やってみるニャン。」
「へぇ、お肌スベスベっていいですね。
でも、温泉のヌメッヌメってのが気になりますね。
ちょっとサラサラの温泉に浸かりたいかも・・・。」
「そうかな?
ヌメッヌメで気持ちがいいよ。」
「そうですか?」
「まあ、ものは試して言うニャン。
俺も楽しみになってきたニャン。
魔界に転生できて最高の幸せの瞬間がやってくるニャン。」
「そうですね。
タカトシさんは、温泉が好きなんですね。
私も 温泉が、とっても楽しみです!」
タカトシの様子を見ていた他の使い魔たちがヒソヒソと話をする。
(タカトシは下心満載ニャン。)
(もしかすれば、この温泉で消滅するかもしれないニャン。)
(でも確かに、考えようによってはご褒美ニャン。)
(た、たしかに・・・。
マリー様もジャスさんも かなり美人ニャン。)
(俺もタカトシに便乗するニャン。)
(なあ、みんなで出し合うのはどうかニャン。
少ないお金でも集まれば、長時間楽しめるニャン。)
「「「よし、その作戦ニャン!」」」
~ゲソ温泉・温泉街~
ここは、魔王城から飛竜で3時間ほどの距離にある温泉街である。
ゲソ温泉の温泉街は 山間にできた町で、至る所から湯気が上がっている天然の温泉地であり、ゲソ温泉の源泉は、透明度の高い液体で まるで空を飛んでいるかのような錯覚さえ起こしてしまうほどである。
この温泉の特徴は トロっとした触感で、体を芯から温め 保温効果も高く、効果・効能は 疲労回復や皮膚疾患の治療などであり、この数千年で 温泉人気が出たため、若い竜人種に人気のスポットとなり、連日連夜 多くの人で賑わっている。
また数は少ないが、天魔大戦時から温泉好きの天使たちがツアーを組んでやってくる、魔界の中でも特殊な場所である。
「うわぁー!
すごい賑わいですね!
魔界で私以外の天使を初めて見た気がします!」
マリーたち一行は、どこの温泉施設にするか迷っている様子だ。
そんな中、ジャスは、はぐれないように、マリーと手を繋ぎながら温泉街を散策する。
マリーは、そんなジャスに手を引かれるように、何かを探しながら歩いていた。
「そうなのよ。
ちょっと有名になりすぎて、ゆったり入るのも難しくなってきみたいだから、私は足が遠のいていたんだけどね。
まだ 私が小さい頃に来たときは、隠れた名湯で 人も少なかったのにな・・・。」
「そんなに昔からあるんですね。
由緒ただしき温泉ですね。
でも、金額が・・・。」
ジャスの指さす温泉の料金は、
星700,000ヘスト
空 25,000ヘスト
地 5,000ヘスト
一般 1,200ヘスト
ドクターローパー
1h/800ヘスト
と、表示されている。
「思ったより高いわね。
人気が出て値上げしたのかな・・・。」
「どこの施設も料金は一律みたいですね。
この人数だと、地は難しいですね。
一般で入りましょうか。」
「そうだね・・・。
知り合いの温泉なら、もしかして・・・。」
そんな会話をしていると、一行の背後から野太い声が聞こえてくる。
「あら!
もしかして、いや、もしかしなくてもマリーちゃんじゃない!?」
「その声は、マダム・オカミかな?」
マリーは笑顔で振り返りながら、野太い声の方を向く。
ジャスもマリーと手を繋いでいたので、同じように振り向く。
声のした方向に立っていたのは、筋骨隆々で2m近くの身長があり、薄っすらと青髭の残る顔、ピンクのフリフリの服をきて化粧をした竜人種の化けも・・・悪魔だった。
「やっぱり、マダム・オカミだ!
久しぶりだね。3000年ぶりくらいかな?」
「もうそんなに経つのね。
・
・
・で、本題なんだけど。
マリーちゃん、その横の子は彼女?」
「いやいや・・・。」
「あ、初めまして。
見習いて・・・魔界天使のジャスって言います。
よろしくお願いします。」
「マリーちゃんにも やっと恋人ができたのね。
私も嬉しくって涙が出ちゃうわ。
しかも、絵から出てきたような美少女カップル。」
マダム・オカミは、手に持ったバスタオルで涙を拭き、豪快に鼻をかんでいる。
マリーも説明が面倒になったのか、マダム・オカミの誤解を解かずに話し始める。
「ちょうど良かったんだけど、今日は オカミの温泉に浸かった後、魔蜂蜜を買おうと思ってたんだよ。
でも、温泉街が立派になりすぎて、どれがオカミの温泉かわからなくなっちゃってさ。」
「・・・マリーちゃん、なに冗談いってるのよ。
この街全部が、この私、魔王マダム・オカミの管理下よ!」
ジャスは周囲を見渡して目を丸くしている。
山間の温泉街とは言っても、その規模はエン横の何倍もあり、魔王城ほどの大きさの温泉施設がいくつも建っていた。
「えっ、コレ全部ですか!?」
「ええ、そうよ。
あなたの恋人のマリーちゃん程の領土はないけど、かなり発展はしてる自信があるわ。」
「えっ?
マリーさんの領土って、魔王城以外に何がありましたっけ?」
「う、うん。えっと・・・。
私の領土は、迷いの森、世界樹の丘、飛竜の巣穴、それと魔王ドラニコフが所有してた テンペスト火山、あとは・・・。」
マリーが何か思い出そうとしていると、マダム・オカミが口を挟んでくる。
「私の偉大で崇高なエイルシッド様たちが祭られている魔界王の古墳群もでしょ!」
「あ、ああ、そうだった。
すっかり忘れてたよ。」
「・・・かなり広い領土なんですね。
でも、確かに発展してるとは良いがたい感じですね。」
「ふふふっ、そうだね。
田舎魔王だからね。」
「マリーちゃんは謙遜よね。
飛竜の巣穴から生まれてきた飛竜を貸出するだけで、この街全体の売り上げの20%もの粗利益を叩いてるじゃない。」
「・・・オカミ、それ極秘情報なんだけど。
どこで入手したの?」
「あら、ごめんなさい。
うちに出入りしている魔界商人のウィンターが調べてたわよ。」
「魔界商人ウィンター・・・か。」
「まあまあ、細かいことは気にしないで、温泉に入っていってよ。
今日は昔なじみのマリーちゃんに彼女が出来た お祝いね。
私のおごりよ!
2人には うちの最高級 家族温泉を提供させてもらうわ。
付き人の悪魔や使い魔も、大衆温泉でよければ、半値の600ヘストでいいわよ。」
「最高級・・・。」
「家族温泉・・・。」
「マリーさん・・・。」
「ジャスちゃん・・・。」
「「「やったね!」」」
マリーとジャスは、抱き合って飛び跳ねて喜んでいる。
使い魔たちは・・・。
「やったぜ!
浮いた分でドクターローパーを使いたいぜ!」
「そうッスね。
合計予算は若干上がるッスけど、いい思い出ッス。
ぜひ使いたいッス。」
「「「俺らは残念だニャン。」」」
「見てみろにゃん。
・・・タカトシは死にそうな程、落ち込んでいるニャン。」
「「「天罰ニャン。」」」
魔王城からの一行を 魔王マダム・オカミが案内する。
途中の温泉施設でマダム・オカミは、マリーとジャス以外の他の一行を温泉施設に連れていき、受付を済ませ中へと案内する。
その後、戻ってきたマダム・オカミは、再び マリーたちを連れて 温泉街をさらに奥へと案内していく。
ジャスは、案内してくれるマダム・オカミに質問する。
「マダム・オカミさん、お勧めのスイーツ店ってありませんか?」
「そうね・・・。
旬の味覚パフェかしら。
なんなら後で配達させるわよ。」
「えっ!
いいんですか!?
ありがとうございます。
旬の味覚パフェ 楽しみです!」
「喜んでもらえて嬉しいわ。
ところで さっきハンに聞いたんだけど、マリーちゃんたちも、今日は泊まっていくんでしょ。」
「ええ、最初から そうするつもりだったわ。
何か問題でもあった?」
「いいえ。
ちょうど今日は花火を打ち上げようと思ってたのよ。」
「はなび・・・ですか?」
マリーとジャスは、お互いに顔を見合わせ不思議そうな表情をしている。
「そうよ、私は人間だったころ、花火職人だったからね。
ここ数年、商売繁盛のお礼として、月に1回、打ち上げてるのよ。」
マリーとジャスは花火の意味が分かっていないようで、花火について質問をしようとしたのだが、目的地である最高級 家族温泉に到着してしまった為、質問のタイミングを逃がしてしまった。
~最高級 家族温泉の受付~
和風な御殿といった外観も内観も、いままで見てきた温泉施設とは違い、かなり手が込んだ作りをしている。
最高級 家族温泉の受付は、豪華さの中に自然と落ち着ける雰囲気もだしていて、引き算の美学が生かされている。
まさに楽園と呼ぶにふさわしい、相反するもの同士が自然と調和する不思議な空間だった。
マダム・オカミが支配人に指示を出し、マリーとジャスに部屋の鍵を手渡し部屋へと案内する。
「ここは、私が一番お気に入りの部屋なのよ。」
「お気に入りの部屋ですか・・・?」
温泉に入りに来たはずなのが、部屋へと案内され、ジャスは不思議そうな顔をする。
「ええそうよ。
この施設は他の施設と違って、部屋に寝泊まりできるの。」
「へぇ、便利なんですね。
・
・
・あっ、マリーさん!
宿のキャンセルをしなくっちゃいけないんじゃないですか!?」
「そうだね。当日キャンセルで手数料を取られちゃうかも・・・。」
「それなら気にしないで。
キャンセルの手配は私がしておくわ。」
「ありがとうございます。
マダム・オカミさんのご厚意に甘えっぱなしで申し訳ないです。」
「いいのよ。
気にしないでね。」
マダム・オカミは部屋の入口まで案内し、花火の準備があるからとのことで、そのまま部屋には入らずに来た道を引き返していった。
2人が案内された部屋は、土足厳禁らしく、2人とも入口の狭いスペースで履き物を脱ぎ、引き戸を開け部屋に入る。
入口から見える部屋は、余計なものが何もない 12畳の落ち着きのある質素な部屋だった。
「これが最高級・・・なんでしょうか?
部屋にあるのは、背の低い机だけですね。」
「う、うん。
床に座るってことかな?
なんだか騙された感があるよね。」
「ダメですよ、思ったことを言ったら。
きっとマダム・オカミさんが人間から転生したって言ってたし、人間だったころの収容所か何かの名残なんですよ。」
「ありえるわね。
裸足で部屋に入るってのも、逃げ出さないようにする工夫なのかも・・・。」
2人は、何もない部屋の中を散策し始めた。
部屋の中には、背の低い机と、脚のない椅子。その他に 入口の引き戸と同じような引き戸が2つあった。
「ジャスちゃん、どっちの引き戸から開けてみる?」
マリーの問いかけに、脚のない椅子に座ってみていたジャスが戸惑いながら部屋を見渡す。
「えっと、不思議な模様の小さめの引き戸と、光が差し込んでくる大きな引き戸ですね・・・。
こういうものは、小さい方が立派だったりするから、小さい方の引き戸にしてみましょうか。
もし引き戸の中身が残念な結果でも、小さい方が被害が少なそうですし・・・。」
「・
・
・それもそうね。
大きい方を開けて絶望するより、小さい方から開けて徐々に慣らしていくのもありね。」
意見の一致した2人は、小さい引き戸を開けてみる。
「「「・・・。」」」
「これ、折り畳みベッドですかね。」
「えっと、たぶん。
それにしてはコンパクトね。」
「まさか、床に敷いて使うんでしょうか・・・。」
「そのまさかだと思うよ。」
「・・・マリーさん、どうします?」
「・・・と、とりあえず、大きな引き戸を開けてみようよ。
別の部屋があるのかもよ!
この小さな部屋はエントランスや倉庫的なものでさ!」
「そ、そうですよね!
まだまだ望みはありますよね!」
2人は、お互いに手を取り合い、光の差し込む大きな引き戸に手をかける。
「いい、ジャスちゃん。」
「はい、マリーさん。」
「「「せーの!」」」
ササー!
ピシャ!
想像より少ない力で動いた大きな引き戸は、滑るように勢いよく開く。
その引き戸の先に現れた景色は、息をすることさえも忘れてしまうほど神秘的で美しい景色だった。
「ま、ま、まり、マリーさん!」
「ジャスちゃん、落ち着いて!
で、でも・・・なんなのここは、異世界にでも迷い込んだの・・・?」
「マリーさん、見てください!
温泉がありますよ!」
「すごい!
こんな景色を眺めながら温泉に ゆっくり浸かれるなんて、夢みたいだね!」
「そうですね!
さっそく入りましょうよ!」
「うん!」
マリーとジャスは、持ってきた荷物を下ろし、服を脱ぎ始める。
こんなところにも、2人の性格がでていた。
マリーは 雑に脱ぎ散らかした服を そのままに、温泉へと一直線に駆け込んでいく。
ジャスは 自分の服だけでなく、マリーの服も綺麗にたたみ、背の低い机の上に置き、バスタオルの準備をして温泉へと向かう。
温泉に浸かり景色を眺めながら マリーはジャスに話しかける。
「ね、気持ちがいいでしょ。ヌメッヌメで!」
「そんなにヌメヌメではないですよ。
まあ、かなりトロトロですけど。」
「トロトロ・・・。
ヌメヌメの方があってると思うけどな。」
「いえいえ、トロットロですよ。」
「ヌメッヌメ!」
「トロットロ!」
「ヌメッヌ・・・、
まあ、どっちでもいいか。」
「そうですね。
ヌメットロでいいんじゃないですか?
今度こそ半分こで・・・。」
「今度こそ・・・?」
不思議そうにジャスの方を見るマリーは、温まり頬が薄桃色に染まったジャスをみて、恥ずかしそうに目をそらす。
「マリーさん、どうしたんですか?」
「い、いや。
なんでもないよ。
温泉、気持ちがいいね。」
「そうですね。
ドクターローパーはないみたいですけど、なくっても十分満足ですよね。」
「そうだね。
気持ちよくって500年くらい寝ちゃいそうだね。」
ジャスはマリーの横に移動し、持っていたタオルで口元を拭いた。
「マリーさん、ヨダレ出てましたよ。」
「あははっ、気持ちよくってさ。」
「そうですよね。気持ちがいいですね。」
2人は並んで温泉に浸かりながら、他愛もない世間話から 今後の魔王城の進む方向性などの重要な話まで、いろいろな話をし続けた。
いろいろな話をしていると、いつの間にか辺りは暗くなってきた。
「ジャスちゃん、空の雲に街の光が反射して綺麗だよ!」
「本当ですね。まるで空の宝石箱みたい。」
はるか上空の厚い雲は、氷の粒を含んでおり、その氷の粒に光が反射して美しく光り輝いていた。
「ところで、はなびって何だったんでしょうか。」
「さあ、温泉が気持ちよくって、はなびの打ち上げに参加できなかったよね。」
「そうですね。
打ち上げっていうくらいだから、宴会か何かでしょうか。」
「どうなんだろう。
まあ、どうでもいいんじゃない?
宴会なんかより、2人で話ができたことの方が有意義だったよ。」
「そうですね。
温泉も気持ちがいいし、とっても幸せな時間でしたね。
・
・
・マリーさん、私・・・。」
「ジャスちゃん・・・?」
ヒュルルルルー
ドーーーーン!
周囲に鳴り響く飛来音と炸裂音にマリーとジャスは警戒する。
「何!?
他の魔王の襲撃!!?」
「あっ!
マリーさん、空を見上げてください!」
「えっ!
空・・・。」
ヒュルルルルー
ドーーーーン!
ヒュルルルルー
ドーーーーン!
バチバチバチバチ!
「「「すごくきれい!」」」
「わかった!
わかりましたよ。はなびの打ち上げの正体が!」
「えっ、何なの?」
「ほら、マリーさん、あの空に打ちあがる火をよく見てて下さい。」
ジャスは立ち上がり夜空を指さす。
ヒュルルルルー
ドーーーーン!
「花みたいに綺麗・・・。
そうか!
花みたいに綺麗な火だから、花火なんだ。
それを打ち上げるから、花火の打ち上げなんだ!」
「きっとそうですよ!
今日は、すごくいいタイミングで来たんですね!」
「日頃の行いがよかったせ・・・い・・・?
・
・
・ジャスちゃん、すっごいね・・・。」
マリーは恥ずかしがって、ジャスの方を向いていなかったから気が付かなかったのだろう。
醤油の受け皿のような初期装備のマリーに対して、お椀のようなものをジャスは装備していた・・・。
「・
・
・ジャスちゃん。
天使の おっぱいって、お湯を吸って膨らむ仕様なのかな・・・?」
「え、なに言ってるんですか?
普段と変わらない大きさですよ。」
「あ、ああ、そうなんだ・・・。
普段の服からだと体形が分かりにくくって、私と同じくらいなのかと錯覚してた。」
「マリーさんと同じ・・・?」
ジャスがマリーの胸元に目をやろうとすると、慌ててジャスのタオルを奪い、背中を向ける。
「ほ、ほら、のぼせてきたから、そろそろ上がろうか。」
「そうですね。
花火が終わったら上がりましょっか。」
ヒュルルルルー
ドーーーーン!
ヒュルルルルー
ドーーーーン!
ドーーーーン!
バチバチバチバチ!
花火も終了し、コソコソと着替えるマリー。
「どうしたんですか、マリーさん?」
「ううん、気にしないで。
それより、旬の味覚のパフェってどうなったのかな?」
着替え終わったマリーが、バスタオルを巻いたままのジャスに声をかける。
ジャスは、汗が引くまでバスタオルのままで過ごすのが日課のようで、ほてった体を冷やすように涼んでいる。
「そうですね。
旬の味覚パフェもですけど、ご飯もまだですし、お腹がすいてきましたね。」
「ねえ、せっかくだから夜の温泉街を散策しない?」
「いいですね。
じゃあ、急いで着替えますね。」
2人は着替えが終わると、受付を通り、街にくりだそうとしていた。
そこに、マダム・オカミが声をかけてきた。
マダム・オカミは、着物を着ていて、見た目の化け物感が和らいでいた。
「オカミ、その服おしゃれだね。」
「そうですね、しかも涼しそうでいい感じですね。」
「あれ・・・?
2人とも、外出用に浴衣を準備させてたと思うんだけど・・・。」
「ゆかた?
ジャスちゃん、部屋に何かあったっけ?
そもそも、ゆかたって何?」
「浴衣は、ざっくり説明すると、私が来てる着物の簡易版って感じかな。
もし、着方が分からなければ、着付けの娘をよこすけど。」
「「「・・・?」」」
「マリーさん、そういえば ありましたよ。
ほら、バスタオルの横にあった、薄手のガウンと厚めの紐の事じゃないですか?」
「あ、あったかも。
綺麗なデザインだったよね。
さっき見た花火みたいな。」
「ほらほら、2人とも。
せっかく魔王マダム・オカミの眠らない温泉街に来たんですもの、浴衣を着て夜の温泉街を散策するのが通ってものよ。」
マリーとジャスは、部屋に追い戻され浴衣の着こなしを習いお互いに浴衣を着る。
黒髪に紅い瞳のマリーには、
黒を基調とした花火柄に赤い裏地の浴衣。
金髪に青い瞳のジャスには、
白を基調とした金魚柄に青い裏地の浴衣。
浴衣に着替え終わった2人が受付で待っていたマダム・オカミに披露する。
「あら、2人とも似合ってるわよ。
この温泉街のイメージアイドルって感じね。」
「オカミさん、ありがとうございます。」
「オカミ、おだてても何もないからね。」
「そんなの 期待してないわよ。
それじゃあ、夜の温泉街を楽しんできてね。」
マリーとジャスは、夜の温泉街を散策しに出かけていった。
その頃、とある温泉では、災いの炎がメラメラと燃え上がろうとしていた。
「「「ヤバイニャン!」」」
「タカトシ、早く逃げるッス!」
「いやニャーン!
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