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見習い天使
019・魔法学院
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~魔王城・食堂~
「マリーさん、おはようございます!」
マリーが朝食をとりに食堂に入ると、元気いっぱいのジャスが声をかけてきた。
「おはよー、ジャスちゃ・・・。
はぁ!なんで、あんたがココにいるのよ!」
マリーの見つめる先には、魔王マダム・オカミの温泉街で働いているはずの ノーサの姿があった。
「ノーサ、休みを貰ってきたの。
どうせ働くなら、週休6日は貰わないと長く勤めれないわ。
もちろん、ノーサの使い魔たちは施設の修繕の為、預けてきたの。」
「週休6日って・・・。
よくマダム・オカミも許可したわね。」
「ノーサの人望なの。一生懸命に働いたら、たくさん休みをくれたの。
それから、マダム・オカミからマリーに手紙を預かってるの。」
ノーサは、その豊満な胸元から1通の手紙をマリーに手渡した。
(なんだか手紙が温いんですけど・・・。)
マリーは、マダム・オカミからの手紙に目を通した。
・~・~・~・~・~
魔王マリー様
拝啓
魔王マリー様におかれましては、益々ご健勝のことと存じ上げます。
先日は当施設のご利用、並びに大宴会の開催、本当にありがとうございました。
心より御礼申し上げます。
ところで、この度 当施設での預かりとなりました、混血のノーサの件ですが、彼女は不器用なりに真面目によく働いてくれました。
しかし、彼女が働けば働くほどに、周囲の仕事が増え、彼女の使い魔たちだけでは仕事が追い付かない状況になっております。
そのため、当施設での預かりは遠慮させていただきます。
尚、この度、追加で生じた損害金につきましては、当施設で負担いたしますので、魔王マリー様には請求させていただくことはございません。
それでは、またのご来場、心よりお待ちしております。
かしこ
追伸、ノーサの預かりを希望される場合は、今回の損害金に合わせて補償金として、70億ヘストご請求させていただきます。
竜炎の月、九日
魔王マダム・オカミ
・~・~・~・~・~
手紙を読み終えたマリーは、そっと手紙を自分のポケットにしまった。
「ノーサ・・・。
あのさ、休みを貰えたっていうか、その・・・。」
「なんなの、一人でぶつぶつ言って。
やっぱり マリーは魔法学院時代から変人ね。」
「はあ!
せっかく人が優しくしてあげようと思ってんのに!
ノーサって、いっつも周りの事を考えずに行動するよね!
少しは周りの事や、その後の事を考えたらどうなの!」
「何ムキになってるの。
ノーサも、ずっと思ってるんだけど、マリーって考えてばっかり。
悪魔なんだから、もっとバカバカしくなれ!って思うの。」
「ノーサは、昔からバカバカしさの度合いが高すぎるのよ!」
「ノーサがバカだって言ってるの!」
ノーサの挑発に 珍しくムキになるマリー、どうやらマリーとノーサの相性は最悪のようだ。
言い争いを始めた2人の間に、ジャスが割って入る。
「マリーさんも ノーサさんも、仲良くしてください。
いくら友達だからって、喧嘩はダメですよ。
ほら、3人で仲良く朝ご飯を食べましょう。
朝ご飯を食べて、お腹いっぱいになれば、イライラも忘れちゃいますよ。
ほらほら、握手して仲直りして、朝ご飯にしましょう。
私も、お腹すいちゃいました。」
ジャスの意味不明な説得に 2人とも納得いかない様子だったのだが、マリーは魔王城の主として、ノーサは温泉街の恩もあり、寛大な気持ちで お互いを許したようだ。
しかし、険悪な雰囲気は変わらない。
ジャスは話題を変えようと、2人の共通の話題である 魔法学院の話をふった。
「ところで、魔法学院時代からの付き合いって、ゲソ温泉でも言ってましたけど、魔法学院っていったいどんなところなんですか?」
「ジャスって魔法学院に行ってないの!?
ノーサより貧乏なの?
・・・かわいそう。」
「ノーサ、そうじゃないよ。
ジャスちゃんは天使だったから、魔法学院に通う制度がなかったんじゃないかな。
魔法学院っていうのはね、幼い悪魔が魔法の原理を学ぶ場所よ。
そこで、魔法の適正を調べたり、実際に使えるレベルまで熟練度を上げたりするのよ。」
「そうなの。
みんな魔法が使えるようになって幸せなの。」
「魔法って、生まれた時から使えるものじゃないんですね。
・
・
・
マリーさん、私にも魔法が使えますかね?」
「え、ええ、もちろんよ。
どりょ・・・。」
「魔法、キターーー!」
マリーの返事に、ジャスが目をキラキラさせながら笑顔で立ち上がり、マリーに駆け寄る。
「マリーさん!
私、回復魔法を使えるようになりたいです!
心も体も癒せる 魔界天使・・・最高ですよね!
ぜひ教えて下さい!」
マリーは、ジャスの熱い視線に困惑していた。
なぜなら・・・。
「ねえ、マリー。
ノーサ思うんだけど、ジャスに魔法は適正があるってこと、ちゃんと教えてあげた方がいいと思うの。」
「そうだね。
・
・
・
ジャスちゃん、ただ使うだけなら、魔導書に導かれるまま 文言を読めばいいから簡単なんだけど、さっきノーサが言ったみたいに魔法には適性があって、適正に合わない魔法は使えないし、努力して使えるようになっても、実用的なレベルまで上げるのは難しいの。」
「大丈夫です!
私、天使だったんですよ!
回復魔法とか絶対に大丈夫です。
自信があります!」
「「「・・・。」」」
ノーサは、マリーに近づき、耳元で話し始める。
「ヒソヒソ・・・。」
(マリー、ジャスってちょっとアレなの?)
(今頃 気づいたの?)
(うん。さすがにノーサも引いちゃった。)
(でも、どうする。
ジャスちゃんの魔法が肉体強化とかだったら。)
(マダム・オカミ系になるの?)
(ちょっと似合わないけど、ありえるよね。)
(むしろ、魔法に適性がないって事もありえるの。)
(・・・それを伝えるのも辛いわね。)
(ノーサ、マリーの言った意味が少しだけ分かったの。)
自信満々のジャスに、マリーとノーサは 危険な香りしか感じ取れなかったという。
~魔王城・図書室~
魔王城の図書室で、マリーたち3人は、魔導書を前にして固まっている。
ジャスは、魔導書を前に痺れを切らしたのか、固まる2人に声をかけた。
「あの・・・。
この沈黙は、魔導書を読む前の儀式とかなんでしょうか。
もう かれこれ、20分くらい沈黙が続いてるんですけど・・・。」
「うっ・・・、
マリー、ノーサもこれ以上の黙秘は耐えられそうにないの。」
「黙秘って・・・。
・
・
・
ジャスちゃん、準備はいい!?」
「はい!
もちろんです!」
ジャスの即答を聞き、マリーも意を決したように、魔導書の表紙に左手をかざし 封印を解く言葉を放つ。
「我、魔界の王にして、悪魔たちの父なり。
いまこの地に、魔導書の封印を解き、我が子らに恩恵を与えたまえ。
我が魔力を受け入れよ。我が力を受け入れよ。我が魂を受け入れよ。
さあ、魔導書よ、我を求めよ、その対価として大いなる災いの力を!」
魔導書とマリーのかざした手の隙間から、激しい光がこぼれだす。
その光が、ジャスの目に飛び込んできた瞬間、周囲の動きが止まった。
そして、ジャスの頭の中に若い女性の声が響き渡る。
「汝、我が力を欲するか。」
「は、はい。」
「汝にとって魔法とは・・・。」
「え、魔法ですか・・・。
正直、いままで考えたこともなかったけど、魔法っていえば、悪者をズドーンって倒したり、襲われてる人をズバババーンって助けたりですかね。」
「汝、強大な魔法の力を手にし 何が為に使う・・・。」
「そうですね。
できれば 困ってる人を助けたりとか、傷ついた人を癒したりとか、そういった使い方ができればいいなって思います。
でも、使わないことが一番いいんですけどね。」
「なぜ魔法を使わないことが一番いいと思う・・・。」
「だって、魔法を使わなくていいってことは、争いが起きないってことですよね。
だったら、それが・・・。」
「ありがとう。我が心は決まった。
汝に、1度だけ我が力を与えよう。
もし力が必要になったときは、我が名を呼べ。
我が名は・・・・・・・・。」
魔導書から溢れた光は、再び魔導書に吸い込まれていく。
溢れ出た光が消えてしまったとき、周囲の時間が再び進み始めた。
「・・・あ、あれ?」
魔導書から手を放したマリーは、ジャスの方を振り返り、混乱しているジャスに声をかける。
「ジャスちゃん、頭の中に おじいさんの声が響いてきたでしょ。」
「あ、はい、魔導書と話をしたんですけど・・・。
若い女性の声でした。」
「響く声は人によって違うのかも知れないの。
たしかノーサのときは、男性の声が聞こえたから。
で、何の魔法を教えてもらったの?」
ノーサの質問にかぶせるように、マリーが補足する。
「最後に詠唱とか、呪文名とか言われなかった?」
「あ、あの・・・。
そういった詠唱とか呪文名とかの話にはならなかったです。」
ジャスの反応に、ノーサがマリーに近寄り、またコソコソと話し始めた。
「ヒソヒソ・・・。」
(マリー、魔法に適正がなかったんじゃないの?
それとも覚醒してないだけとかなの?)
(たぶん適正がなかったんだろうね。
頭の中に魔法の知識も入ってないようだから・・・。)
(どうする、本当のこと伝える?)
(う、うん。
黙っててもバレちゃうことだからね。)
(ノーサ、伝える役は辞退したいの。)
(・・・仕方がない、私が伝えるわ。)
(さすがマリー、頼りになるの。)
(ほんと、調子がいいんだから!)
「マリーさん、ノーサさん。
どうしたんですか?
私なら大丈夫ですよ。」
コソコソと話しをする2人に、ジャスが声をかけてきた。
ジャスも内心、魔法に適性がなかった気がしていたので、2人が心配しているのが分かったのだろう。
「あのね、ジャスちゃん。
ジャスちゃんは魔法の適性が、ちょっと低かったんじゃないかなって思うんだよね。
まったくないって訳じゃないと思うんだよ。
ほ、ほら、その、えっと・・・。」
言葉を選びすぎて困っているマリーに、ノーサが加勢する。
「きっと大丈夫なの。
ノーサも最初は魔導書で水の魔法を覚えたの。
それから覚醒して、誘惑の魔法も覚えることができたの。」
「そうね。
私も最初は守護魔法を魔導書から覚えたけど、その後、火の魔法を覚えていったわ。
ジャスちゃんも、きちんと魔法の原理から習えば、回復魔法だって覚えるかもよ。」
「ありがとうございます。
努力もせずに魔導書だけで覚えようだなんて、都合がよすぎますよね。
私も魔法の原理とか習ってみようかな。」
「それがいいよ。
たしか暗黒のリッチは、様々な魔法が使えるみたいだから、暗黒のリッチに習ってみるのもいいかもね。」
「ノーサも魔法を習おうかな。
もっと色々な魔法を使ってみたいの。」
「そうだよね。
私もジャスちゃんたちと一緒に習おうかな。
でも2人とも、魔法の訓練って拷問に近いほど勉強をしないといけないよ。
やっていける?」
「望むところです!」
「ノーサも拷問に耐える自信があるの。」
3人は顔を見合わせながら笑っている。
「マリーさん、ノーサさん、そうと決まれば、さっそく暗黒のリッチさんに習いに行きましょう!」
こうして 3人は、暗黒のリッチに魔法を習うことになったのだが・・・。
魔法講座の前に 小一時間、暗黒のリッチの昔話(生い立ち)を聞かされ。
昔話の後に 二時間程、自慢話を聞かされるという拷問の末、やっと魔法の歴史に入れた。
まだまだ本題までは長い道のりが想定される。
「で、あるからして、魔法は体内の魔力を振動させ発動する自己完結系統と、詠唱によって外部の龍魂と共鳴を起こし発動させる外部発動系統の・・・。」
「ヒソヒソ・・・。」
(ノーサ この拷問に耐えられそうにないの。)
(正直、人選を間違えたわね。)
(いつになったら本題に入れるんでしょうか・・・。)
「コラ!
3人とも、話を聞いてないなら、最初から説明しなおしましょうか!」
「「「ひぃぃ、
ご、ごめんなさーい!」」」
→020へ
「マリーさん、おはようございます!」
マリーが朝食をとりに食堂に入ると、元気いっぱいのジャスが声をかけてきた。
「おはよー、ジャスちゃ・・・。
はぁ!なんで、あんたがココにいるのよ!」
マリーの見つめる先には、魔王マダム・オカミの温泉街で働いているはずの ノーサの姿があった。
「ノーサ、休みを貰ってきたの。
どうせ働くなら、週休6日は貰わないと長く勤めれないわ。
もちろん、ノーサの使い魔たちは施設の修繕の為、預けてきたの。」
「週休6日って・・・。
よくマダム・オカミも許可したわね。」
「ノーサの人望なの。一生懸命に働いたら、たくさん休みをくれたの。
それから、マダム・オカミからマリーに手紙を預かってるの。」
ノーサは、その豊満な胸元から1通の手紙をマリーに手渡した。
(なんだか手紙が温いんですけど・・・。)
マリーは、マダム・オカミからの手紙に目を通した。
・~・~・~・~・~
魔王マリー様
拝啓
魔王マリー様におかれましては、益々ご健勝のことと存じ上げます。
先日は当施設のご利用、並びに大宴会の開催、本当にありがとうございました。
心より御礼申し上げます。
ところで、この度 当施設での預かりとなりました、混血のノーサの件ですが、彼女は不器用なりに真面目によく働いてくれました。
しかし、彼女が働けば働くほどに、周囲の仕事が増え、彼女の使い魔たちだけでは仕事が追い付かない状況になっております。
そのため、当施設での預かりは遠慮させていただきます。
尚、この度、追加で生じた損害金につきましては、当施設で負担いたしますので、魔王マリー様には請求させていただくことはございません。
それでは、またのご来場、心よりお待ちしております。
かしこ
追伸、ノーサの預かりを希望される場合は、今回の損害金に合わせて補償金として、70億ヘストご請求させていただきます。
竜炎の月、九日
魔王マダム・オカミ
・~・~・~・~・~
手紙を読み終えたマリーは、そっと手紙を自分のポケットにしまった。
「ノーサ・・・。
あのさ、休みを貰えたっていうか、その・・・。」
「なんなの、一人でぶつぶつ言って。
やっぱり マリーは魔法学院時代から変人ね。」
「はあ!
せっかく人が優しくしてあげようと思ってんのに!
ノーサって、いっつも周りの事を考えずに行動するよね!
少しは周りの事や、その後の事を考えたらどうなの!」
「何ムキになってるの。
ノーサも、ずっと思ってるんだけど、マリーって考えてばっかり。
悪魔なんだから、もっとバカバカしくなれ!って思うの。」
「ノーサは、昔からバカバカしさの度合いが高すぎるのよ!」
「ノーサがバカだって言ってるの!」
ノーサの挑発に 珍しくムキになるマリー、どうやらマリーとノーサの相性は最悪のようだ。
言い争いを始めた2人の間に、ジャスが割って入る。
「マリーさんも ノーサさんも、仲良くしてください。
いくら友達だからって、喧嘩はダメですよ。
ほら、3人で仲良く朝ご飯を食べましょう。
朝ご飯を食べて、お腹いっぱいになれば、イライラも忘れちゃいますよ。
ほらほら、握手して仲直りして、朝ご飯にしましょう。
私も、お腹すいちゃいました。」
ジャスの意味不明な説得に 2人とも納得いかない様子だったのだが、マリーは魔王城の主として、ノーサは温泉街の恩もあり、寛大な気持ちで お互いを許したようだ。
しかし、険悪な雰囲気は変わらない。
ジャスは話題を変えようと、2人の共通の話題である 魔法学院の話をふった。
「ところで、魔法学院時代からの付き合いって、ゲソ温泉でも言ってましたけど、魔法学院っていったいどんなところなんですか?」
「ジャスって魔法学院に行ってないの!?
ノーサより貧乏なの?
・・・かわいそう。」
「ノーサ、そうじゃないよ。
ジャスちゃんは天使だったから、魔法学院に通う制度がなかったんじゃないかな。
魔法学院っていうのはね、幼い悪魔が魔法の原理を学ぶ場所よ。
そこで、魔法の適正を調べたり、実際に使えるレベルまで熟練度を上げたりするのよ。」
「そうなの。
みんな魔法が使えるようになって幸せなの。」
「魔法って、生まれた時から使えるものじゃないんですね。
・
・
・
マリーさん、私にも魔法が使えますかね?」
「え、ええ、もちろんよ。
どりょ・・・。」
「魔法、キターーー!」
マリーの返事に、ジャスが目をキラキラさせながら笑顔で立ち上がり、マリーに駆け寄る。
「マリーさん!
私、回復魔法を使えるようになりたいです!
心も体も癒せる 魔界天使・・・最高ですよね!
ぜひ教えて下さい!」
マリーは、ジャスの熱い視線に困惑していた。
なぜなら・・・。
「ねえ、マリー。
ノーサ思うんだけど、ジャスに魔法は適正があるってこと、ちゃんと教えてあげた方がいいと思うの。」
「そうだね。
・
・
・
ジャスちゃん、ただ使うだけなら、魔導書に導かれるまま 文言を読めばいいから簡単なんだけど、さっきノーサが言ったみたいに魔法には適性があって、適正に合わない魔法は使えないし、努力して使えるようになっても、実用的なレベルまで上げるのは難しいの。」
「大丈夫です!
私、天使だったんですよ!
回復魔法とか絶対に大丈夫です。
自信があります!」
「「「・・・。」」」
ノーサは、マリーに近づき、耳元で話し始める。
「ヒソヒソ・・・。」
(マリー、ジャスってちょっとアレなの?)
(今頃 気づいたの?)
(うん。さすがにノーサも引いちゃった。)
(でも、どうする。
ジャスちゃんの魔法が肉体強化とかだったら。)
(マダム・オカミ系になるの?)
(ちょっと似合わないけど、ありえるよね。)
(むしろ、魔法に適性がないって事もありえるの。)
(・・・それを伝えるのも辛いわね。)
(ノーサ、マリーの言った意味が少しだけ分かったの。)
自信満々のジャスに、マリーとノーサは 危険な香りしか感じ取れなかったという。
~魔王城・図書室~
魔王城の図書室で、マリーたち3人は、魔導書を前にして固まっている。
ジャスは、魔導書を前に痺れを切らしたのか、固まる2人に声をかけた。
「あの・・・。
この沈黙は、魔導書を読む前の儀式とかなんでしょうか。
もう かれこれ、20分くらい沈黙が続いてるんですけど・・・。」
「うっ・・・、
マリー、ノーサもこれ以上の黙秘は耐えられそうにないの。」
「黙秘って・・・。
・
・
・
ジャスちゃん、準備はいい!?」
「はい!
もちろんです!」
ジャスの即答を聞き、マリーも意を決したように、魔導書の表紙に左手をかざし 封印を解く言葉を放つ。
「我、魔界の王にして、悪魔たちの父なり。
いまこの地に、魔導書の封印を解き、我が子らに恩恵を与えたまえ。
我が魔力を受け入れよ。我が力を受け入れよ。我が魂を受け入れよ。
さあ、魔導書よ、我を求めよ、その対価として大いなる災いの力を!」
魔導書とマリーのかざした手の隙間から、激しい光がこぼれだす。
その光が、ジャスの目に飛び込んできた瞬間、周囲の動きが止まった。
そして、ジャスの頭の中に若い女性の声が響き渡る。
「汝、我が力を欲するか。」
「は、はい。」
「汝にとって魔法とは・・・。」
「え、魔法ですか・・・。
正直、いままで考えたこともなかったけど、魔法っていえば、悪者をズドーンって倒したり、襲われてる人をズバババーンって助けたりですかね。」
「汝、強大な魔法の力を手にし 何が為に使う・・・。」
「そうですね。
できれば 困ってる人を助けたりとか、傷ついた人を癒したりとか、そういった使い方ができればいいなって思います。
でも、使わないことが一番いいんですけどね。」
「なぜ魔法を使わないことが一番いいと思う・・・。」
「だって、魔法を使わなくていいってことは、争いが起きないってことですよね。
だったら、それが・・・。」
「ありがとう。我が心は決まった。
汝に、1度だけ我が力を与えよう。
もし力が必要になったときは、我が名を呼べ。
我が名は・・・・・・・・。」
魔導書から溢れた光は、再び魔導書に吸い込まれていく。
溢れ出た光が消えてしまったとき、周囲の時間が再び進み始めた。
「・・・あ、あれ?」
魔導書から手を放したマリーは、ジャスの方を振り返り、混乱しているジャスに声をかける。
「ジャスちゃん、頭の中に おじいさんの声が響いてきたでしょ。」
「あ、はい、魔導書と話をしたんですけど・・・。
若い女性の声でした。」
「響く声は人によって違うのかも知れないの。
たしかノーサのときは、男性の声が聞こえたから。
で、何の魔法を教えてもらったの?」
ノーサの質問にかぶせるように、マリーが補足する。
「最後に詠唱とか、呪文名とか言われなかった?」
「あ、あの・・・。
そういった詠唱とか呪文名とかの話にはならなかったです。」
ジャスの反応に、ノーサがマリーに近寄り、またコソコソと話し始めた。
「ヒソヒソ・・・。」
(マリー、魔法に適正がなかったんじゃないの?
それとも覚醒してないだけとかなの?)
(たぶん適正がなかったんだろうね。
頭の中に魔法の知識も入ってないようだから・・・。)
(どうする、本当のこと伝える?)
(う、うん。
黙っててもバレちゃうことだからね。)
(ノーサ、伝える役は辞退したいの。)
(・・・仕方がない、私が伝えるわ。)
(さすがマリー、頼りになるの。)
(ほんと、調子がいいんだから!)
「マリーさん、ノーサさん。
どうしたんですか?
私なら大丈夫ですよ。」
コソコソと話しをする2人に、ジャスが声をかけてきた。
ジャスも内心、魔法に適性がなかった気がしていたので、2人が心配しているのが分かったのだろう。
「あのね、ジャスちゃん。
ジャスちゃんは魔法の適性が、ちょっと低かったんじゃないかなって思うんだよね。
まったくないって訳じゃないと思うんだよ。
ほ、ほら、その、えっと・・・。」
言葉を選びすぎて困っているマリーに、ノーサが加勢する。
「きっと大丈夫なの。
ノーサも最初は魔導書で水の魔法を覚えたの。
それから覚醒して、誘惑の魔法も覚えることができたの。」
「そうね。
私も最初は守護魔法を魔導書から覚えたけど、その後、火の魔法を覚えていったわ。
ジャスちゃんも、きちんと魔法の原理から習えば、回復魔法だって覚えるかもよ。」
「ありがとうございます。
努力もせずに魔導書だけで覚えようだなんて、都合がよすぎますよね。
私も魔法の原理とか習ってみようかな。」
「それがいいよ。
たしか暗黒のリッチは、様々な魔法が使えるみたいだから、暗黒のリッチに習ってみるのもいいかもね。」
「ノーサも魔法を習おうかな。
もっと色々な魔法を使ってみたいの。」
「そうだよね。
私もジャスちゃんたちと一緒に習おうかな。
でも2人とも、魔法の訓練って拷問に近いほど勉強をしないといけないよ。
やっていける?」
「望むところです!」
「ノーサも拷問に耐える自信があるの。」
3人は顔を見合わせながら笑っている。
「マリーさん、ノーサさん、そうと決まれば、さっそく暗黒のリッチさんに習いに行きましょう!」
こうして 3人は、暗黒のリッチに魔法を習うことになったのだが・・・。
魔法講座の前に 小一時間、暗黒のリッチの昔話(生い立ち)を聞かされ。
昔話の後に 二時間程、自慢話を聞かされるという拷問の末、やっと魔法の歴史に入れた。
まだまだ本題までは長い道のりが想定される。
「で、あるからして、魔法は体内の魔力を振動させ発動する自己完結系統と、詠唱によって外部の龍魂と共鳴を起こし発動させる外部発動系統の・・・。」
「ヒソヒソ・・・。」
(ノーサ この拷問に耐えられそうにないの。)
(正直、人選を間違えたわね。)
(いつになったら本題に入れるんでしょうか・・・。)
「コラ!
3人とも、話を聞いてないなら、最初から説明しなおしましょうか!」
「「「ひぃぃ、
ご、ごめんなさーい!」」」
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