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+TWINS[双子]
1-12.推理の答え
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「魔導装置って超複雑な魔法陣を組み合わせて、模型に埋め込んだやつだよね?まだ開発途中で、うちの国では実現されてないはずだよ」
「でもアタシ達の後ろにいるのがそれだとしたら辻褄が合う。この路地に入った人間を追跡して、動きが止まったら襲い掛かって急所を貫く。遺体の写真見たんでしょ?傷の数覚えてる?」
「あぁ、ほぼ左右対称に八個……ってまさか」
「この複数人の足音に聞こえるのが一つのモノの足音だったら? そしてそれは八本足で、人の体を貫通するほどの力を持っている」
「そうか。この暗闇の中で僕たちを追跡出来るのも、そういう魔法陣だとしたら納得が行く。そもそも下が土なのに、あれだけ足音が聞こえるということは……」
リコリーは再度振り返ったが、その視線は地上から離れた位置を捉えていた。
通り過ぎたばかりの街灯が、立ち並ぶ壁を照らしている。その壁に張り付くように、金属で出来た細い足が動いていた。
「上にいたってわけね」
「兎に角、立ち止まらない限りは襲ってこないはず。早いところ路地を抜けない…と」
アリトラは目の前に近づいてきたある物を見て言葉を詰まらせた。
それは、二人の行く手を阻む大きな壁だった。最後に通過した街灯で、曲がる方向を間違えたらしい。
「ア、アリトラ……」
同じことに気付いたリコリーが悲鳴交じりの声で名前を呼ぶ。
「大丈夫。このまま引き返せば、きっと……」
しかしその時、アリトラは足元に注意を払うのを忘れていた。
行き止まりの路地ということは、誰も通らない場所ということになり、当然他の道と比べて地面も荒れている。
撤去されることもなく、長らくそこにいたのであろう大きな石がアリトラを躓かせたのと、それに驚いたリコリーが立ち止まってしまったのは同時の出来事だった。
「……あ」
それを口にしたのは、果たしてどちらだったかわからない。
背後の足音が止まり、その代わりに微かなモーター音が路地に響く。
リコリーは咄嗟に身を屈めると、転んだ格好のままだったアリトラの左肩を掴んで後ろに飛びのいた。
数秒前まで二人がいた場所に、重い音を立てて何かが飛び降りる。
その衝撃でアリトラが躓いた石が砕け散って、細かな欠片が四方に飛んだ。
「アリトラ!」
リコリーはアリトラを立たせて、自分たちが今まで歩いてきた道を全速力で駆け始めた。
「あんなのに体当たりされたら、死んで当たり前だよね」
アリトラは片割れの全速力に遅れを取ることなく後を追いながら呟いた。その口調は、リコリーに言っているよりは独り言のようなものだった。
二人が走り出してから、少し遅れるようにしてモーター音が追ってくる気配がした。
アリトラが首だけで振り返って、薄闇の向こうから迫る魔導装置を確認する。そして、その駆動力が自分たちの足より速いことを瞬時に理解した。
前方を走るリコリーの首後ろ、服の襟を掴んで力を込める。両足で地面を強く蹴って、すぐ横にあった細い路地に転がるように飛び込んだ。
引きずられるような形でリコリーの体が脇道に入る直前、魔導装置が迫る。
黒い金属と白い金属を捩じりあげたような形状をした足には、よく見れば鋸の刃のようなものが複数ついていて、それぞれが歯車で連動回転していた。
それがリコリーの足を掠め、何かを引きちぎる音だけを残して高速で通り過ぎる。
「大丈夫?」
「あぁ、ブーツの踵を持っていかれただけ。でも体に当たってたら、足の一本くらい簡単に持っていかれたと思う」
買ったばかりのブーツの破損に嘆く暇もなく、リコリーは路地から顔だけ出して走り去っていく蜘蛛のような後姿を見送った。
「顔を出すと危ない」
「さっき、僕たちが走ってからあの装置が追いつくまで少し時間がかかってただろ?あの装置、自由に曲がったり出来ないんだよ。直線行動を細かく繰り返すことで、角を曲がったり引き返したりしてるんだと思う」
「でもまた戻ってくる」
「うん、僕たちロックオンされちゃったみたいだしね」
「あれ止められないかな?」
アリトラに問われて、リコリーは腕組みをして考え込む。
「魔導装置っていうのは、関節部が弱いという特性を持っているらしい。自在に動くために仕方ないのかもしれないけど。そこを狙って魔法を撃てばあるいは」
右手で精霊瓶を掴み、中にいる青い犬を覗き込む。
今日は魔法を全く使っていないので、余力は残っている。しかし、どれほどの魔法を撃てば装置が止まるのか二人にはわからなかった。
「僕が関節部を氷漬けにする。そうしたらアリトラが雷を落とす。これでどう?」
「アタシ、空瓶」
「雷落とすのは昔から得意じゃないか」
まぁね、とアリトラが曖昧な返事をする。それに重なるようにして、モーター音が聞こえた。
リコリーは精霊瓶を握りしめ、自分が出せる最大威力の魔法詠唱を始める。
二人が見据える細い路地に、黒と白の足が現れ、その場で微振動を繰り返しながら方向を変え始めた。
体長は凡そ二メートル。足を引き伸ばせば倍近くにはなりそうだったが、関節部の可動部分に鉄の部品が組み込まれているため、真っ直ぐ伸ばせるようには出来ていない。
半球状の体は足と同じような色で塗り分けられていて、夜闇の中では迷彩として機能しそうだった。更にその上には鷲の羽を広げたような紋様が描かれているが、掠れてしまって明確には見分けられない。
リコリーはその姿を見据えながら、魔法を発動するべく口を開いた。
「凍れ!」
瓶の中の犬が吠え、リコリーの魔力が氷へと変わる。それは的確に装置の関節部を捉え、氷塊となって動きを抑える。
続けてアリトラが、同じように叫んだ。
「落ちろ!」
上空から一筋の雷が現れ、途中でそれが八つに分かれる。
氷に導かれるようにして落ちた雷により、魔導装置の関節部から破裂するような音が出た。
八本の足を痙攣するように装置は左右に揺れていたが、やがて黒い煙を上げて静かになった。それぞれの足についている鋸も止まり、焦げ臭さだけをそこに漂わせる。
「止まった?」
アリトラが問いかけ、リコリーが頷く。
「じゃあ今のうちに……」
逃げよう、と言いかけたアリトラは装置の上に描かれた羽の紋様が光ったのに気付いて息を止める。半球体の表面全体に、赤い光で文字が浮かび上がった。
『駆動部エラー。緊急モードで起動』
雷により焼き切られていた関節部に魔法陣が浮かび上がる。装置はぎこちなく立ち上がると、一番前についている足を振り上げた。
「……っ!」
足の周囲についた鋸が回転数を上げ、確実に二人を仕留めようとしていた。リコリーはアリトラを背中に庇い、殆ど魔力の残っていない瓶を握りしめる。
二人を目がけて魔導装置が足を振り下ろそうとした刹那、何か小さな音が聞こえた。同時に空が光り、白い巨大な雷が装置に直撃する。
双子がやったような関節部を狙ったものではなく、本体その物を破壊する一撃だった。
八本の足が一斉に空へと突き上げられ、各関節部の魔法陣が消える。装置はそれでも何本かの足を上下しながら、右に数歩分進んだが、そこで力尽きて崩れ落ちた。
雷に撃ち抜かれた本体は表面に大きな穴が開いていて、中の複雑な機械部が見えていた。だがそれも焼き切れ、あるいは高温のために溶けてしまい、二度と動きそうにない。
それは、これまで安全な場所で生きてきた双子が、初めて目の当たりにする「破壊」だった。
「な、何今の……」
リコリーが呆然として呟くが、その傍らをアリトラはすり抜けて路地へと出た。
「いいから早く逃げよう!」
「あ、ちょっと待って!」
装置へと駆け寄ったリコリーは、その足の一つに付いたままだった自分の靴の踵を取った。
「早く!」
「今行く!」
また動き出すことを恐れて走り去った双子は、近くの建物の屋根から見下ろしている影には気付かなかった。
「でもアタシ達の後ろにいるのがそれだとしたら辻褄が合う。この路地に入った人間を追跡して、動きが止まったら襲い掛かって急所を貫く。遺体の写真見たんでしょ?傷の数覚えてる?」
「あぁ、ほぼ左右対称に八個……ってまさか」
「この複数人の足音に聞こえるのが一つのモノの足音だったら? そしてそれは八本足で、人の体を貫通するほどの力を持っている」
「そうか。この暗闇の中で僕たちを追跡出来るのも、そういう魔法陣だとしたら納得が行く。そもそも下が土なのに、あれだけ足音が聞こえるということは……」
リコリーは再度振り返ったが、その視線は地上から離れた位置を捉えていた。
通り過ぎたばかりの街灯が、立ち並ぶ壁を照らしている。その壁に張り付くように、金属で出来た細い足が動いていた。
「上にいたってわけね」
「兎に角、立ち止まらない限りは襲ってこないはず。早いところ路地を抜けない…と」
アリトラは目の前に近づいてきたある物を見て言葉を詰まらせた。
それは、二人の行く手を阻む大きな壁だった。最後に通過した街灯で、曲がる方向を間違えたらしい。
「ア、アリトラ……」
同じことに気付いたリコリーが悲鳴交じりの声で名前を呼ぶ。
「大丈夫。このまま引き返せば、きっと……」
しかしその時、アリトラは足元に注意を払うのを忘れていた。
行き止まりの路地ということは、誰も通らない場所ということになり、当然他の道と比べて地面も荒れている。
撤去されることもなく、長らくそこにいたのであろう大きな石がアリトラを躓かせたのと、それに驚いたリコリーが立ち止まってしまったのは同時の出来事だった。
「……あ」
それを口にしたのは、果たしてどちらだったかわからない。
背後の足音が止まり、その代わりに微かなモーター音が路地に響く。
リコリーは咄嗟に身を屈めると、転んだ格好のままだったアリトラの左肩を掴んで後ろに飛びのいた。
数秒前まで二人がいた場所に、重い音を立てて何かが飛び降りる。
その衝撃でアリトラが躓いた石が砕け散って、細かな欠片が四方に飛んだ。
「アリトラ!」
リコリーはアリトラを立たせて、自分たちが今まで歩いてきた道を全速力で駆け始めた。
「あんなのに体当たりされたら、死んで当たり前だよね」
アリトラは片割れの全速力に遅れを取ることなく後を追いながら呟いた。その口調は、リコリーに言っているよりは独り言のようなものだった。
二人が走り出してから、少し遅れるようにしてモーター音が追ってくる気配がした。
アリトラが首だけで振り返って、薄闇の向こうから迫る魔導装置を確認する。そして、その駆動力が自分たちの足より速いことを瞬時に理解した。
前方を走るリコリーの首後ろ、服の襟を掴んで力を込める。両足で地面を強く蹴って、すぐ横にあった細い路地に転がるように飛び込んだ。
引きずられるような形でリコリーの体が脇道に入る直前、魔導装置が迫る。
黒い金属と白い金属を捩じりあげたような形状をした足には、よく見れば鋸の刃のようなものが複数ついていて、それぞれが歯車で連動回転していた。
それがリコリーの足を掠め、何かを引きちぎる音だけを残して高速で通り過ぎる。
「大丈夫?」
「あぁ、ブーツの踵を持っていかれただけ。でも体に当たってたら、足の一本くらい簡単に持っていかれたと思う」
買ったばかりのブーツの破損に嘆く暇もなく、リコリーは路地から顔だけ出して走り去っていく蜘蛛のような後姿を見送った。
「顔を出すと危ない」
「さっき、僕たちが走ってからあの装置が追いつくまで少し時間がかかってただろ?あの装置、自由に曲がったり出来ないんだよ。直線行動を細かく繰り返すことで、角を曲がったり引き返したりしてるんだと思う」
「でもまた戻ってくる」
「うん、僕たちロックオンされちゃったみたいだしね」
「あれ止められないかな?」
アリトラに問われて、リコリーは腕組みをして考え込む。
「魔導装置っていうのは、関節部が弱いという特性を持っているらしい。自在に動くために仕方ないのかもしれないけど。そこを狙って魔法を撃てばあるいは」
右手で精霊瓶を掴み、中にいる青い犬を覗き込む。
今日は魔法を全く使っていないので、余力は残っている。しかし、どれほどの魔法を撃てば装置が止まるのか二人にはわからなかった。
「僕が関節部を氷漬けにする。そうしたらアリトラが雷を落とす。これでどう?」
「アタシ、空瓶」
「雷落とすのは昔から得意じゃないか」
まぁね、とアリトラが曖昧な返事をする。それに重なるようにして、モーター音が聞こえた。
リコリーは精霊瓶を握りしめ、自分が出せる最大威力の魔法詠唱を始める。
二人が見据える細い路地に、黒と白の足が現れ、その場で微振動を繰り返しながら方向を変え始めた。
体長は凡そ二メートル。足を引き伸ばせば倍近くにはなりそうだったが、関節部の可動部分に鉄の部品が組み込まれているため、真っ直ぐ伸ばせるようには出来ていない。
半球状の体は足と同じような色で塗り分けられていて、夜闇の中では迷彩として機能しそうだった。更にその上には鷲の羽を広げたような紋様が描かれているが、掠れてしまって明確には見分けられない。
リコリーはその姿を見据えながら、魔法を発動するべく口を開いた。
「凍れ!」
瓶の中の犬が吠え、リコリーの魔力が氷へと変わる。それは的確に装置の関節部を捉え、氷塊となって動きを抑える。
続けてアリトラが、同じように叫んだ。
「落ちろ!」
上空から一筋の雷が現れ、途中でそれが八つに分かれる。
氷に導かれるようにして落ちた雷により、魔導装置の関節部から破裂するような音が出た。
八本の足を痙攣するように装置は左右に揺れていたが、やがて黒い煙を上げて静かになった。それぞれの足についている鋸も止まり、焦げ臭さだけをそこに漂わせる。
「止まった?」
アリトラが問いかけ、リコリーが頷く。
「じゃあ今のうちに……」
逃げよう、と言いかけたアリトラは装置の上に描かれた羽の紋様が光ったのに気付いて息を止める。半球体の表面全体に、赤い光で文字が浮かび上がった。
『駆動部エラー。緊急モードで起動』
雷により焼き切られていた関節部に魔法陣が浮かび上がる。装置はぎこちなく立ち上がると、一番前についている足を振り上げた。
「……っ!」
足の周囲についた鋸が回転数を上げ、確実に二人を仕留めようとしていた。リコリーはアリトラを背中に庇い、殆ど魔力の残っていない瓶を握りしめる。
二人を目がけて魔導装置が足を振り下ろそうとした刹那、何か小さな音が聞こえた。同時に空が光り、白い巨大な雷が装置に直撃する。
双子がやったような関節部を狙ったものではなく、本体その物を破壊する一撃だった。
八本の足が一斉に空へと突き上げられ、各関節部の魔法陣が消える。装置はそれでも何本かの足を上下しながら、右に数歩分進んだが、そこで力尽きて崩れ落ちた。
雷に撃ち抜かれた本体は表面に大きな穴が開いていて、中の複雑な機械部が見えていた。だがそれも焼き切れ、あるいは高温のために溶けてしまい、二度と動きそうにない。
それは、これまで安全な場所で生きてきた双子が、初めて目の当たりにする「破壊」だった。
「な、何今の……」
リコリーが呆然として呟くが、その傍らをアリトラはすり抜けて路地へと出た。
「いいから早く逃げよう!」
「あ、ちょっと待って!」
装置へと駆け寄ったリコリーは、その足の一つに付いたままだった自分の靴の踵を取った。
「早く!」
「今行く!」
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