箱庭の救済~Relief of the miniature garden~

suz

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一箱目

1話 始まりの時

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―それは正しい事なのか、間違っていることなのか―


―それは望む事なのか、望まないことなのか―


―それは誰かの為になることなのか、誰かの為にならないことなのか―


少女は目を覚ます。短めの白い髪は僅かに薄い青みを帯びた月白色。服は灰色と赤いチェックの制服を着ていて、靴はローファーだった。
少女は目をこすりながら辺りを見回し、ふと目に留まった自分のリュックを手繰り寄せる。
その中からスマートフォンを取り出し、画面を見て何かを確認すると、自分の寝ていた場所からすっと起き上がり、周りには目もくれず焦った様子で見つけたドアへ、すたすた歩いて行った。
少女がドアのすぐ傍まで来た時、ガチャっという音を立てて閉まっていたドアが開いた。
開いたドアのその向こうにはまだ若い二十代くらいと思しき男性が立っていた。
少女はビクッと驚き、慌てて後ろへ下がる。男性は突如目の前に現れた少女の姿にパッと目を見開いた後、嬉しそうな表情でこう言った。
「あぁ、良かった。目が覚めたんだね!」
この時、少女が驚いたのには二つの理由があった。
一つ目は突如自分の目の前に見知らぬ人間が、それも男が現れた事。
二つ目はその男の格好があまりにも異様だった事。
どちらかと言えば後者の方が強かった。
目の前の男性の格好はこうだ。頭に羽のついたぶかぶかっとしている帽子を被り、ふわっと膨れたアラジンパンツに黒いインナー。その上にはノースリーブの白い上着のようなものを羽織り、腰には短剣と思しき物もぶら下げている。
要するに、誰がどう見ても珍妙な格好をしていたのだ。
「・・・。」
「どうしたの?大丈夫・・・?」
男性は心配そうな表情で少女に近づく。少女は手に持っていたリュックを身体の前に持ってきて男性からサッと離れる。
「ちょ、ちょっと待って!怪しくないから!」
どこが怪しくないんだ、と少女は至って普通にそう思った。
「分かるよ?いきなり知らない所にいるんだもんね。それで知らないやつに怪しくないなんて言われても説得力ないよね・・・。」
男性は暗い顔でそう言った。
「・・・。」
少女は何も言わない。ただ男性をまじまじと見つめ、ひたすらに変な格好だと思っていた。
するとその視線に気が付いたのか、男性は頬をピクピクっと動かした。
「もしかして・・・僕の事、変な格好してるなって思った?」
「ッ!?」
核心を突かれて思わず目を見開く。
「あ、いえ、全然・・・そんな事は・・・」
明らかに動揺した彼女の様子を見て、男性はガッカリし、そして沈んだ声で
「まぁ・・・そうだよね、そうだと思ったよ・・・。」
と言った。
「あ、いや、本当に変な格好とか思ってないです・・・」
少女は焦ってそう言うが、男性には嘘だとバレバレであった。
「はぁ・・・まぁいいや。それより身体だるくない?どこかおかしな所はある?」
そんな事を言われ、少女は我に返る。
「そ、そうだ・・・。あの、ここは何処で貴方は誰ですか?私はなんでここに居るんですか?私なんかさらっても楽しくなければ身代金だって全く出せませんよ。私の家、お金持ちでは無いですから。」
ちょっとだけ強気に少女はそう言ったが、内心では何をされるか、言われるか分からなくてビクビクしていた。
「待って待って!別に僕は君を誘拐して変な事しようとも身代金貰おうとも思ってないよ!?」
男性はわたわた手を振り、慌てた様子でそう弁解した。
「じゃあなんで私は見知らぬ所に居るんですか・・・?お願いします、家に返して下さい。今日は・・・今日はとても大切な日なんです!この日の為に頑張ってきたんです!お願いします、帰して下さい・・・!」
泣きそうな少女を見て、男性はますます焦り出す。
「泣かないで泣かないで!僕も出来る事なら君を帰してあげたいんだけど、それが出来なくて・・・。」
男性は非常に申し訳なさそうな表情でそう言った。すると少女はハッとして
「もしかして・・・誰かに脅されてるとか?大切な人を人質にとられてるんですか?それともとんでもない写真をネットに晒されそうになったり?」
「いや、全然そんなんじゃないよ。言っちゃうと、この建物の管理者は僕だし。」
「やっぱり貴方誘拐犯・・・!?」
「違うってば!」
男性はすぅはぁ、と一旦深呼吸をして、再び口を開いた。
「あの、驚かないで聞いてね?ここは君のいた世界とは違う別の世界で、君は魔法の力でここへやってきたんだ。」
見た目だけじゃなく頭もおかしかったか、と少女はそう思った。
「・・・今僕の事頭おかしいって思っただろ?」
「お、思ってないですよ?」
少女はサッと目線を逸らした。
「君、分かりやすいって言われない・・・?まぁいいや。」
そう言うと男性は真面目な顔になった。
「これは真面目な話だ。実際その証拠を君に見せよう。」
男性は手の平を上にして、目を瞑る。すると彼の手の平の上に若苗色の明るい光を纏った小さな風の渦が出来た。
「!?」
その不思議な光景に少女は思わず目を見開く。
「どう・・・やって?マジック?」
「マジックじゃない、魔法さ。」
男性はニヤッとした表情をする。
「僕達全ての生き物にはね、魔器と呼ばれる器が存在しているんだ。さらに、この世界には魔素と呼ばれる魔法を生み出す素が漂っている。目には見えず、まるで空気のようにね。そしてこの魔素を魔器の力で上手く形を変えさせた存在、それが魔法なのさ。」
男性はそう説明したが、少女は全く理解出来ていなかった。
「まぁ、君もやってみればどんなものなのか分かるさ。」
「やってみれば・・・?」
何を言って、と言いたげな表情で、少女は男性を見つめた。
「そう、君にも魔器はあるし、魔法は使えるはずだよ。例えば光る玉をイメージしてみたりさ。」
「待ってください。そもそも私、まだここが自分のいた世界だって思ってます。仮に貴方がさっき言った事が本当なら、この世界は私の居た世界とは違う。元の世界に魔法なんてものは無かったから私に魔器?なんてものが、魔法を使う能力ある訳が・・・」
少女は慌て、困った様子で男性を見つめた。
「君のいた世界に魔法が存在しなくても、君は今ここに居る。僕からしてみれば、それが何よりの証明だ。」
「それはどういう・・・。」
事ですか、少女がそう言おうとした時、男性が入ってきた扉がガチャっと開いた。
「あ、可愛い子が起きてる!」
開いた扉の先には二人の人間が居た。一人は毛先がふわっと膨らんだ長い茶髪、パッチリとした深碧の瞳、魔女っ子の様な服装で、それは実に可愛らしい見た目の少女。年齢は白髪の少女とほとんど変わらなそうで、今声を発したのはこの彼女。そしてもう一人、パーカーのフードを被った黒髪の男性。身長は高めで、目付きがキリッとしており、少し威圧感がある。
扉を閉め、茶髪の少女が駆け足で白髪の少女に近付いてくる。
「わぁ、やっぱり間近で見ると綺麗な髪だなぁ。真っ白真っ白!」
にこにこしながら茶髪の少女は顔を近付け、目の前の白い髪をさわさわした。白髪の少女はその距離の近さに焦って軽く身体を引いた。
「やぁ、丁度いいタイミングだね。」
不思議な格好の男性が黒髪の男性へと話しかける。
「まぁな。」
黒髪男性が短くそう答える。
「ねぇねぇ、キル君。この子も一緒に行くんだよね?」
茶髪の少女が黒髪の男性をキルと呼んだ。
キルと呼ばれた彼は軽く頷く。
「あぁ。俺達と同じであっち側から来た人間だからな。」
「やったぁ!よろしくね!」
そう言って茶髪の少女がニコニコしながら白髪の少女の手を握る。しかし、白髪の彼女には何が何だか、ちんぷんかんぷんだった。
「ええっと、貴方・・・」
そう言いかけて、茶髪の少女は何かを思い出したようにぱっと手を離し、こう聞いてきた。
「ねぇ、貴方お名前は?」
急に表情が変わったので白髪の少女は一体何かと身構えたが、普通すぎるその質問にほっと胸を撫で下ろした。そして自分の名前を答えようとした。
「私の名前は」
忘れるはずもない、
「私の・・・名前・・・は」
自分の名前を、
「あ、れ、私の名前って・・・」
言おうとしたのに、
「なんだっけ・・・。」
名前が、出てこなかった。
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