ショタ魔王と第三皇子

梅雨

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魔王城の生活

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心配させるような顔をしてしまっていたらしい。頬を少し捏ねて深呼吸する。これで元に戻っただろうかと二人の顔を確認すると、アリアは満足気に俺を見ていた。

「よろしい‼︎まぁまぁな顔ね‼︎エンゼ」
「アリア。その通りです。では始めましょうか」

二体は手を繋ぎ、別々の鏡を手にする。
それぞれ林檎と梨が向こうに見えるその鏡は、アリアとエンゼが動く度に揺れ動いた。

「ここは鏡の間。どこか知らぬなら何も知らぬなら、エンゼが説明して差し上げます」
「アリアもそれくらいしてあげるわ‼︎だって可哀想だし」
「じゃあお願いしようかな」
「任せなしゃい‼︎」

自信満々に言葉を噛んだアリアは何も言っていないのに俺を手に持った鏡でポコポコ叩いてくる。人形の腕でそこまで力も強くないから痛くないけど、叩くならお腹じゃなくて肩とかをお願いしたい。
ヤケになりつつあったアリアの手を握って俺から離したエンゼは、鏡の中から梨を取り出してアリアに渡す。
シャクシャク皮ごと齧っているのを尻目にエンゼが別の鏡を指差した。

「鏡の間は繋がりの間。別の場所に空間を繋げているのです。東西南北あらゆる場所に、この部屋は通じています」
「んぐっ。聞かれる前に答えちゃう優秀なアリアだけど‼︎もちろん奥方様の故郷にも通じているわ‼︎」
「アスラトリスに⁉︎」

梨を茎ごと飲み込んだアリアの台詞に驚いて周りの鏡を見回す。
それっぽい景色はいくつかあるものの、断定できるような特徴がないため、これだというものがない。あの国の最大の特徴は建物がどこもかしこも白いくらいだ。それに俺は他の国の景色に詳しいわけじゃない。城下町も城から眺めたことがあるだけ。

「分かるはずないか」
「教えてあげたいけど駄目なのよね‼︎決まりだから‼︎」
「当てずっぽうで飛び込まないでくださいね。危ないので」
「でもエンゼ。別に関係ない場所ならいいんじゃない?」
「アリア。世の中にはこういう言葉があります。バレなければ悪事は悪事になりえない、と」
「最高じゃないエンゼ‼︎アリア達の座右の銘にしましょ‼︎」

きゃっきゃと盛り上がる二体の人形達はドレスを揺らしながらいくつかの鏡を指差して何かを選んでいる様子だった。
話に入っていけないので、大人しく別の鏡を眺める。アスラトリスに戻れる鏡が見つかっても、別に帰らないしなと我に帰った俺は、逆に見たことない景色を探して鏡を覗き込んでは胸を躍らせていた。

「決まったわ‼︎南の国ローレギンドに行きましょ‼︎パッとシュッと帰ってくれば平気よね‼︎どうせ今日使用申請ないんだし‼︎」
「そうですね。何事もトライアンドエラー。ニオ様にご体験いただくが早いとエンゼも思います」

奥にある少し古びた大きな鏡をアリアとエンゼが抱えて持ってくる。
不安定に揺れる鏡はいつ倒れてもおかしくない。あのままでは絶対に転んでしまう、と急いで駆け寄った瞬間。
二人の靴が、絨毯の上を滑った。

「あ」
「えっ」

自分の身長とほぼ同じの鏡が倒れてくる、支えようと手を前に出したら、すぐに肩まで飲み込まれた。身体が全て鏡の中に浸かりそうになった瞬間、首根っこを掴まれて投げ飛ばされる。
鏡から離された後、全身に妙な重みが残って気分が悪くなり視界に紫色のモヤが見え隠れし出した時、アリアとエリゼが心配そうに駆け寄ってきた。
頭や背中を弱い力で撫でられる。ゆっくり目線を上げて自分が先ほどまでいた場所に目を向けると、ランハートが鏡を立て直している姿。
手を何度か叩いて埃を落とすと、困った顔のままアリアとエンゼの頬をつねる。

「危ないでしょう。鏡は動かさないって忘れたんですか」
「......ごめんなさい」
「アリアもエンゼも反省しています。舞い上がりました」
「今度のことも考えて、鏡はやっぱり固定すべきですね。まぁそれより」

ランハートが動けない俺の目蓋を開けて、胸ポケットに入っていたペンライトで瞳孔を確認する。

「奥方様大丈夫かしら」
「奥方様死なないですか」
「問題なし、ちょっと酔っただけでしょう。ニオさん、話せます?どうしてここにいるか」

あぁ、と返そうと口を動かすけど、喉から空気が抜けていくだけだった。気分は悪いし声は出ないし上手いこと身体に力が入ってくれない。身体が起きたまま座れているだけ褒めてほしいくらいだ。

「空間魔法はデリケートなもので、複雑に術式が絡み合っています。中途半端に入って抜けてすればそうなりますよ」
「奥方様、ごめんなさい。ランハート様にはアリア達が説明したげるわ‼︎」
「エンゼ達は証人ですので。ランハート様。お耳拝借」

何を話しているのかも理解できないほど思考能力が落ちている。なんだか視界もぼやけてきた。
やっぱりランハートの言う通り、赤く注意されている部屋には近付かない方がいい。これじゃあ俺の身が持たない。

「そうでしたか、ユーティカさんのせいで......そうとは知らず申し訳ございません」
「タバサ先生のところ連れていく?アリア達もお手伝いするわ‼︎」
「いえ、あとは私が。あなた達は」

なんとか支えていた身体がフッと軽くなる。
規則的な揺れが心地よくて、俺はゆっくり目を閉じた。
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