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デートの準備
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しおりを挟む「ニオ様に魔法を教えろ?」
そんな提案に対して嫌だ面倒だと突っぱねていたキュロに対し、ランハートはこの手だけは使いたくなかったが、と言った様子で懐から一枚の手紙を取り出す。
キュロはその手紙に目を大きく開いて頭を抱えた。
赤い汚れが滲んだ白い手紙は、誰からのものか。考えなくとも分かってしまったから。
ランハートから声をかければ、いくら魔王様のお願いとはいえキュロは拒否する。一応まぁまぁな権限を持っているおかげで、その権利を持っているから。使えるものは使わねば勿体無い。
さてここまでは想像に容易い。
そう、一手先を予め準備しておいた無駄に優秀な執事の勝利だった。その執事の手から乱暴に奪った手紙の内容は思ったとおり、キュロの恋人ルベルからのもの。
キュロに、ランハートの言うことをちゃんと聞きなさい。上司だろう。めっ。とこれまたシンプルな。それはもう実にシンプルで可愛らしい血文字が。
内容とは裏腹におどろおどろしい文体に彼らしさを感じて尊さに胸をときめかせる。手紙を丁寧に折り畳んでポケットにしまうと、恋人の優しい叱責に首を縦に振るしかないキュロを満面の笑みで見つめるランハートの脛に蔓を勢いよく叩き付けた。葉が茂り普段から動かしている生活用の蔦とは違い、太めの蔓だ。
ワンステップで避けられたが、想定内。分かっていても何かしら攻撃をしないと、キュロの怒りは収まらない。
「言ったよね、ルベルを見るな寄るな触るな喋るな、使うなって」
「同じ魔王城で仕事してるので無理ですと答えましたね」
「仕事は許容してる」
「ルベル様とは仕事以上の関係はございませんよ」
「じゃあ何で拷問官と執事が仲良く談笑するような時間はないはずなのに、ルベルがアンタに懐いてるの」
「それは私が理想的な上司だからでは?」
なるほど大樹の肥やしになりたいらしいこの執事。
キュロは地下資料室より外に出ることはないし、魔王の許可が出ない限り許されない。大樹の世話もあるせいだ。
一方でルベルも拷問の仕事が終わらない限り出てこない。仕事が終わってもまた新しい仕事が次から次へと舞い込むため、ルベルは缶詰状態。広くとも同じ屋根の下、しかし触れられる距離に二人はいない。ルベルよりもキュロが耐えられなかった。
自分が会いたくても会えないのに、どうして目の前の胡散臭い男の方がルベルと会えるのか。
「魔王様のストレス緩和のため、防衛魔法を会得していただきデートなるものを」
「もういい。どうせハイ以外の選択肢与える気ないんでしょ」
「いやぁ助かります。城が半壊する前にささっとお願いしますよ」
「それはニオ様の努力次第......あっ」
ぱっとキュロの頭に電球が点る。
使えるタイミングを間違えず、使えるものは使う。それは相手もやってきたことだ。とキュロはにまーっと笑ってランハートの顔を見やる。
「じゃあ受けるから今度ルベルに二日の休暇出して。じゃなかったら俺がこの城全壊させるよ。ニオ様の講師もしない」
「......似たもの同士ですねぇ...」
「なに」
「いーえなにもー」
先にルベルにも言われていた。そろそろ休暇をくれ、じゃないと暴れ回ってしまうかも。いつも利口なルベルに一体誰がそんな脅しを仕込んだんだと考えたが、思い当たる節の多さに思考を放棄し頷いたランハート。
城の土台である大樹を守り支えるキュロと、単騎で国を片手間に滅ぼせる竜種のルベルは、正直脅威だ。
これからも上手く扱わないとなとランハートの胃はまたキリキリ叫び始めた。
「大丈夫、それは約束しましょう。確かに最近働き詰めでしたから」
「なら、やってあげる」
こうしてキュロはニオの魔術講師を引き受けた。
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