ショタ魔王と第三皇子

梅雨

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番外編 キュロとルベル

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「へ~、そっか。それは大変だったな」

出来るだけ腰を低く、気を悪くしないよう事情を説明した後の魔王様の反応は想像よりずっと軽かった。
興味がない、ようには見えない。純粋に俺の心配をしてくれていたらしい。魔族は全て家族だと、この魔王様はずっと変わらない。

「で、キュロはその人間をどうしたいの?」

すでにお見通しのようだ。
回りくどい言い方をしなくてもいいように、きっと気を遣ってくださったのだろう。ありがたいが少し怖い。
遠慮するだけ無駄なので、自分が考えてることを全て話した。
ルベルが固有する治癒魔法が他にない特別なものである以上、人間の元に置いておくのはよろしくない。身体に掛けられていた枷や結ばれた縄。それでも傷一つなかったのは治していたからだ。
ルベルの治癒魔法は、怪我をした対象と同じ傷を負った状態でしか扱えない。そのかわり、軽い傷も重い傷も治すことができる。できてしまう。
ルベル一人が我慢するだけで、犠牲が殆どなくなってしまう。捕らえておけば無限の回復装置。見たところ空気中の魔力だけで行えてしまう割にあいすぎてしまう魔法。人の手には、あまりにも。
まぁつまるところ、人間達の元に置いておくと酷い扱いをうけ、それがどうしても許容出来ないから俺の目の、手の届く範囲に置いておきたい。ということを話した。

「俺は、ルベルを魔族にしてほしいんです」
「人間を魔族に?」

あのまま逃げ続けても、いつかは捕まってしまう。その先のことは考えなくても分かる。

「先程ご報告した通り、ルベルの魔法は」
「いや分かってる。それはとても興味深いし、魔族にする話もいいとは思うんだけど」
「えぇ。その話が事実なら、ということです」

開いているのか開いていないのか分からない目をしたランハートが自分の背後の柱に目配せすると、長い手足がイチニイサンシイ。見慣れない結われた長い灰色の髪。魔王城の中で黒い噂以外聞いたことのない蜘蛛の魔族だ。

「と、いうことハァ⁉︎試すしかございませんネェ⁉︎」

嬉しそうに背後で二本、前で六本腕を揺らしウキウキとした表情で現れた彼は君の悪い笑顔のまま近付いてくる。

「こんにちわァ。魔王様、ランハート、キュロに人間様。貴方の心にいつでもおりますユーティカでス......ん?」

笑顔の挨拶に反応しないルベルが気に食わなかったのか、眠っているから仕方ないと言っても聞きはしないだろう。

「起きなサイ。失礼デス、ユーティカの前で眠るナド」

眉を顰める様子を見て、このままだと蹴り飛ばされてもおかしくないと思い、ルベルを揺する。

「ん、うぅん......」

何度か呻いたルベルは目尻を少し摩り、次の瞬間にはぱっちりと両目を開けて辺りを見回した。

「あ、れ?」
「ルベル」
「キュロ?ここどこ?」

俺の顔をじーっと見つめてこくりと首を傾げるルベルは、やはり状況を飲み込めてはいないようだった。そりゃあ急に眠らせて魔王城に連れてきたんだ、泣き叫んでいないだけいい方だろう。

「ここは魔王城。私は魔王様の執事ランハートと申します。どの虫野郎はユーティカ。そしてあちらが魔王様です」
「魔王⁉︎」

ランハートの虫野郎発言よりも魔王様のお姿に驚いたようだった。
初代魔王様と違い、今の魔王様は人間の子供とあまり変わらない容姿のせいだろう。気になっているのは伝わってくるけれど、それを聞くよりも先に別の問いを俺に投げかけてくる。

「えっと、どうしてこうなってるの?」

当たり前の問いだった。
助ける、それだけしか告げていないから。

「俺が頼んだんだ。ルベルを魔族にしたいって」

ルベルの手に重ねられていた俺の手は震えている。
誰よりも暖かなこの手すら、今の俺の心臓を落ち着かせてくれない。

「お、俺を......魔族に?」
「言ったでしょ。次は俺がルベルを助ける番だって」
「言ってたけど、どうして」

魔族にするなんて。
そう言うルベルに、魔王様にした話とほぼ変わらない話をした。全てを聴き終わった後、オレのためにそこまで......なんて言っていたけど、俺のためだしルベルに帰るなんて選択肢を与えるつもりはない。そのことも正直に伝えた。

「いいよ‼︎」

自分でも分かってるくらい相当独占欲丸出しの酷い話をした気もするが、帰ってきた答えは恐ろしいほど清々しいものだった。
思わず目を丸くする。

「いいの?」
「うん。痛い思いそんなにしないですむなら。あっ、でも必要なときはちゃんと痛いするよ‼︎」
「しないでいいよ、そんなこと」
「それを決めるのハ貴方ではありまセンヨ」

ユーティカが話に割り込んできた。

「いやぁ裏側で実験しながらお話は聞いてたんでス。実に素晴らしい、本当ならば素晴らしい能力ですよ人間様」
「......っ」

ずいっと寄せられたユーティカの独創的な瞳に、流石のルベルも毛が逆立ったような反応を示していた。相変わらず気味が悪いと思っていたら一瞬で首がこちらに向いて、俺もつい声を漏らす。

「キュロ、君が嘘をついていないことは分かります。信じまショウ。受け入れまショウ。でもそれだけじゃ足りないデス」

指をひと回し、何を考えているのか分からない薄気味悪い瞳が、ルベルを捉える。

「逆が気になりマス」
「逆?」
「待って‼︎逆って.......まさか」

首を大きく振って俺の言葉を肯定したユーティカに、さっと全身から血の気が引いた。

「聞いた話によれバ、人間様はキュロが重傷でも手を差し伸べたソウデ。自らを傷つけテ。いやぁ何と素晴らシイ」

拍手の音が玉座の間に響く。
目の前の蜘蛛の魔族が告げるであろう言葉すら空間に混ぜてしまうほど広いこの場所は、声色とは真逆な台詞を飲み込むことなく吐き出させる。
魔王城のほぼ全ての魔族が彼を嫌う理由が分かった。

「では次ハ、キュロの番デスよねェ?」

彼の噂の中にこんなものがある。
ユーティカは誰より試行を優先し、その結果を好む。プラスでもマイナスでも、結果を知ったことに歓喜する。
その試行で生じる問題はものによっては微塵も興味を持たない。例えば、感情に関するもの。
結果として傷を癒した。感謝された。どうでもいい。
結果として殺してしまった。恨まれた。どうでもいい。
治した結果得た例を愛する。殺した結果得た知識を尊ぶ。
こうしたらどうなるという自身から生まれた疑問に対して、じゃあやってみようとどんなことでも行動に移す。
無邪気な子供みたいだが、そんな可愛らしいものではない。
自分が何をしているのか理解して、自覚があって、好んで進んでやっている。悪質な行為だ。

「今から人間様の腕を捥ぎマス。治すためにはどうすればいいかお分かりデスネ?」

人の想像している魔族はユーティカのことを知ったらますます魔族嫌いになるだろう。実際、魔族の本を書いている者は全てユーティカに会っているのかもしれない。

「覚悟があるなら、証明をしたいのなら。自らの腕を捥ぎなさい。腕の後は足、足の後はそうですネェ。下半身を取っ払いまショウ」

恐ろしい言葉をスラスラと話すユーティカの瞳は光がないのに輝いているように見えた。揺れる腕が、上がる口角がそう見せているのかもしれない。

「魅せてくだサイ。人間様を魔族にしようとする覚悟ヲ」

ルベルの手は俺よりも冷たく震えていた。


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