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周遊編
98 冒険者ギルド 02
道端で私のことを王子呼びされるのは困るため、私たちは元冒険者ギルドだった建物の中に入った。
すると、冒険者ギルドの看板を外したはずの建物の中には複数の冒険者たちがいた。
「税金は払いたくないと看板は外しているものの、しっかりと営業はしてるじゃねーか?」
ジムニが呆れてそう言うと、リンゴを齧っていたガルドロフが肩をすくめた。
「俺だってたまには長期間休むのもいいと思ったさ、しかし、こいつらは看板があろうとなかろうと毎日来るし、街の者たちからも荒くれ者の冒険者をしっかりと管理してもらわなきゃ困るって言われてよ」
確かにその通りだと納得する反面、スタッフの少なさに私は疑問を持った。
「結局は毎日ギルドを開けている割には職員が少ないのではないですか?」
「俺がしばらくギルドを閉じるって言った瞬間に、ほとんどの職員は里帰りとか旅行に行くとかで長期休暇を取ったんだよ」
今は早めに帰ってきた職員とガルドロフでギルドを回しているらしい。
「冬になって暖かい土地に移る冒険者が増えたから、最近やっと落ち着いたところだ」
つまり、この男はしばらく無休で働いているということだろう。
前世でいうところの店長のような立場だろうが、それでも無休で働いているのはブラックすぎないだろうか?
「待ってましたよ。ジムニさん」
ひと組の冒険者パーティーが近づいてきてジムニに声をかけた。
「ガルドロフ、部屋を貸してくれ」
「ギルド長室を使え。俺も話を聞きたいしな」
そう言ったガルドロフはちらりと私を見た。
「彼らはシュタークという冒険者パーティーです。S級ですし、リヒト様のことは前もって説明してあります」
ギルド長室に入り、勧められたソファーに座った私にジムニが冒険者パーティーのことを紹介してくれた。
「前もって説明というのは……」
「もちろん、エトワール王国の王子だと説明してあります」
「それでは、行動が制限されるではないですか!」
私が不満を述べるとジムニは「だからです」と答えた。
「リヒト様が無鉄砲な行動をすることはわかっていますから、彼らには護衛兼お目付役としてついてもらいます」
「ジムニさん、この子……」
シュタークのメンバーである青年が私の顔を驚いた表情で凝視している。
「イーヴォ、気づいたか? 四年前に貧民街に侵入してきたお金持ちのお坊ちゃんだよ」
「ええ!? あの急に現れて大金置いていった変な子供って王子様だったんっすか!?」
イーヴォと呼ばれた二十歳くらいの青年はどうやら3歳の頃の私を見たことがあるらしい。
ということは、彼は当時十代半ばという頃だったのだろうか?
それからほんの四年でS級冒険者パーティーに入れたということはすごいことだ。
私がイーヴォのことを感心していると、イーヴォが急に私の手を握った。
「オレ、王子様のおかげで冒険者になれたんっすよ! マジで感謝してるっす!」
どういうことかとジムニを見れば、イーヴォには弓の才能があったため国外の情報を集めさせるためにも冒険者にさせたのだという。
「イーヴォの恩人なら我々の恩人でもある」
冒険者パーティーの年長者である男性がそう言った。
「俺はシュタークのリーダーをしているヴォルフラムだ。よろしく頼む」
ヴォルフラムが握手を求めてきたので私も「よろしくお願いします」と手を握った。
シュタークの他3名のメンバーの自己紹介を聞いた後、私もカルロとグレデン卿の紹介をした。
「グレデン卿は情報ギルド長に似ていますね」
ヴォルフラムの鋭い指摘にジムニが少し嫌な表情を見せた。
本当はゲーツの生い立ちについては隠しておきたかったのかもしれない。
ゲーツも下町の者の前ではグレデン卿と親しげに話す姿は見せたことがない。
実はゲーツが貴族だったとなると下町の者たちの結束が揺らぐ可能性があるのだろうか?
私のことさえも受け入れてくれている彼らはそれほど狭量ではないと思うが。
「王子のこともそうだが、グレデン卿のことも内密に頼みたいのだが、彼はギルド長の兄だ」
「だから」とジムニは渋い表情で言った。
「グレデン卿にも無礼な振る舞いは控えるように。ギルド長に知られたらめちゃくちゃ怒られるからな」
「わかった」とシュタークのメンバーは神妙な表情で頷いた。
この様子だと知られたくなかったのはゲーツ・グレデンの生い立ちではなく、グレデン卿との関係性ということだろうか?
「それで、リヒト様は冒険者の戦い方に興味があるのですよね?」
「そうですね。できれば、皆さんが魔物とどのように戦うのか見せて欲しいです」
私の言葉にガルドロフが鼻で笑った。
「王子様の気まぐれにSランクパーティーを使おうってのか?」
「盗賊国家に肩入れしていた冒険者ギルドがうるさいです」
どうにもカルロが非常に好戦的だ。
おそらく、ヴェアトブラウを売られたことを根に持っているのだろう。
盗んだのも売ったのも冒険者ギルドではないのだが、ガルドロフの私に対しての態度も気に入らないのかもしれない。
「別に俺はこの国に肩入れしているわけじゃねぇ!」
「エトワール王国に税金は支払いたくないが、盗賊国家なら問題ないと先ほど言っていました」
「そんなこと言ってねーだろ!」
「カルロ」と私はカルロの名前を呼んで言い合いをやめさせた。
「私の思いつきでSランクパーティーの戦い方を見せてもらおうとしていることは事実ですから、そのように怒らなくても大丈夫ですよ」
「それに」と、私は微笑む。
「冒険者ギルドの支部がなくても、似たような組織を作れば魔物対策も問題なく行えるでしょうし、国営の方が扱いやすいでしょう。なんならオーロ皇帝に相談して他の国でも国営を増やし、依頼料を低く抑え、組織のメンバーには安定した収入を約束しましょう。生活に困らないように寮を作るのもいいですね。S級冒険者ほどの実力の者には魅力がなくても、駆け出しの若手冒険者にはそれなりの魅力になるはずです」
ガルドロフの表情が渋いものになった。
「王子様よ、堂々と冒険者ギルドに喧嘩売るつもりか?」
「売っていませんよ? 買う準備をしているだけです」
「おい!」とガルドロフはジムニを見た。
「お前のところの王子様はどうなってんだ? 普通の王子様は王宮の奥でぬくぬくとしているもんじゃないのか?」
「普通の王子様なら3歳で下町に来ないし、情報ギルドを立ち上げたりしない」
ガルドロフは呆れたような視線を私に向けた。
「そうだな。そうだったな」
ガルドロフは私の顔をじっと凝視する。
「とりあえず、変な王子様だってことはわかった」
不躾に凝視された挙句、とても失礼なことを言われた。
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