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学園創設編
139 周遊理由消滅
しおりを挟む「リヒト様、基幹産業はもう充分に揃いましたので、これ以降は私たちに任せていただければ大丈夫です」
カルロとの婚約を決めて数日後、第一補佐官の言葉に私は目を瞬いた。
ちなみに、大々的な婚約式のようなものは行わない。
将来的にカルロが他の誰かと結婚したくなった時に、王子との婚約式の記憶など邪魔になるだろうから。
「しかし、私はまだこれといった産業を提案した記憶がないのですが?」
「何をおっしゃいますか」と、第一補佐は苦笑した。
「魔塔が我が国に移ってきたことにより他国からの注目が集まりましたし、我が国の農産物の魔力濃度が高いこともわかりました。それに、リヒト様が元ティニ公国にあった冒険者ギルドにご自身で出向いたことによって我が国の信頼度が高まり、冒険者ギルドがエトワール王国の王都に移ってきました。そのことに伴い、冒険者が集まり、さらに我が国に留まることによって傷の回復が早いことが冒険者の中に広まってさらに人が集まるようになりました。その話がS級パーティーを通して他国の貴族の間にも広まり、ヴェアトブラウの花畑もあることから徐々に療養や保養、観光を目的とした他国の貴族たちの来訪が増えました」
魔力を豊富に含む農作物が評判になったことによってまさかここまでの集客効果があるとは驚きだ。
エトワール王国産の農産物を輸出して欲しいという大国からの圧力もあるようだが、それはオーロ皇帝が禁止していると言って断っているそうだ。
オーロ皇帝が懸念していたように、他国の王族の魔力が増えても良いことはないので、エトワール王国の農産物を食べることができるのは我が国を訪問してお金を落としてくれた者たちの特権ということで良いだろう。
「次に、ドレック・ルーヴの会社の成長が著しく、工場も増築して従業員の大量雇用も行なっており、農家の三男や四男、貧民街の者たちなど、職を得るのが難しかった者たちの受け入れ先になっています。リヒト様が後ろ盾になったことによって、工場増築を反対する貴族も減り、土地も購入しやすいと言っていました。工場は複数領地に分散していますし、今後も販売先は増える予定のようですし、基幹産業として成長してくれそうです」
こちらはある程度想定していた通りの発展だ。
まだおもちゃや娯楽が少ないこの世界でドレック・ルーヴが提供するカードゲームやボードゲームはかなり刺激的だろう。
ドレック・ルーヴには前世の記憶があるから、これからもどんどんそうした商品を作ってくれるに違いない。
「そして」とさらに第一補佐官が話す。
「オルニス国との交易も順調です。彼らが求める砂糖、小麦、それから香辛料は我が国の特産ではありませんが、彼らはどうしてもリヒト様の国を通して調達したいと望んでくれたため、仲介役として頑張らせていただいております」
オルニスがエトワール王国との交易を望んだのは魔塔主の影響によるものだが、魔塔主=オルニスの首長とは明かせないため、私は曖昧に笑っておいた。
エトワール王国とオルニス国間の輸送には商業ギルドが使っている転送用の魔導具を使うことにした。
これまた非常にお高い魔導具だったが、オルニスの人工水晶をいくつか譲る約束をして、オーロ皇帝にまけてもらった。
王侯貴族や各ギルドで使うようなお高い魔導具は大体がオーロ皇帝の依頼によって魔塔が作ったものであり、その生産売買権はルシエンテ帝国……つまりはオーロ皇帝が独占している。
「オルニス国の人工水晶は活用できていますか?」
「リヒト様のご提案通りに建物を建設して、その中でエトワール王国の気候では栽培できない野菜や果物を作っております。まだ実験段階ではありますが、今のところ順調に成長しているという報告が上がっています」
「そうですか。このまま取引きが続くと人口水晶の使い道も無くなってしまうと思いますので、どのように使っていくかを考える必要があるでしょう」
「それに関しても研究を進めさせます」
「最後に」と第一補佐官の言葉はまだ続いた。
「魔法学園を創設したことにより、他国の王子や王女、貴族の子女が魔法学園に留まります。それにより経済活動が活発になりますし、大きな利益を見込むこともできますので、これ以上の基幹産業が増えると逆に人手が足りなくなります」
「実は、今の時点ですこし文官が足りないのです」と第一補佐官は苦笑した。
私は周遊の大義名分が無くなってしまったことに密かに内心でがっかりした。
内心に留めていたつもりだったその気持ちは表に出てしまっていたようで、第一補佐官が笑った。
「リヒト様、がっかりしなくても大丈夫です。以前も王が言われていましたが、リヒト様はまだ公務に追われるような年齢ではございません。それに、転移魔法も使えるのですから、好きな場所に遊びに行っていただいていいのですよ? 子供は遊んで学ぶものなのですから、本来は大義名分など必要ないのです。リヒト様はすでに基礎学習を終え、魔法についても魔塔主から天才とお墨付きをいただいているのですから、むしろ魔法学園が始まって忙しくなる前にたくさん遊んでください」
「……本当に、いいのですか?」
中身52歳の私が遊んでいても?
という言葉を飲み込む。
「はい。ただ、我々も心配ですので、出かける時には場所と時間や日数はお伝えください」
それは乳母にも散々言われていることなので、私は素直に頷いた。
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