不憫な推しキャラを救おうとしただけなのに【幼児ブロマンス期→BL期 成長物語】

はぴねこ

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学園創設編

140 怠惰の犠牲者

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 魔法学園の建物が完成するとオーロ皇帝から各国へ魔法学園のことが知らされ、自身の子供を入学させたい王族や貴族から問い合わせや申し込みが相次いだ。

 困ったのは、入学金を払うことができそうもない下級貴族からの見学だけでもしたいという申し出だった。
 エトワール王国の貴族だけでなく、他国の貴族からもそうした申し込みがあるものだから、魔法学園の対応のためにと準備していた文官の数が足りなかった。

 そこで私は臨時雇用を行うことにした。
 断りの文面は同じなため、印刷したものを使用する。
 貴族に対して直筆でないことは失礼だったが、一枚一枚書いている暇などない。

 印刷した手紙を折って封筒に入れて封をするだけの係なので、情報ギルドが管理する保護施設と、他の保護施設にいる子供たちにお願いすることにした。
 私は子供たちが封づめの仕事をしている部屋にちょくちょく顔を出し、お菓子や飲み物の差し入れをしていたから、以前から私のことを知っている子供たちは割と気軽に寄って来て話しをしてくれた。

「テオ、魔法の授業は順調ですか?」

 私が声をかけると、テオは以前には見られなかった自信に満ちた明るい笑顔で返事をしてくれた。
 テオは今や、他の子供たちに魔法の基礎を教える教師役として活躍してくれているのだ。
 魔法学園の試験を受けるようにも勧めている。

「またリヒト様から魔法を教えていただけると嬉しいです」

 テオは元貴族ではあるが、愛妾として住んでいた屋敷からは解放され、親は迎えに来ないため、今の身分は平民だ。
 テオが魔法学園に入学することは、平民の入学という前例を作ることになる。
 魔塔の魔法使いたちは身分を気にしないので、平民だからという理由で入学試験の採点を厳しくするというような差別はないはずだ。
 そうした差別さえなければ、テオが試験に受かる可能性は高い。
 年齢的に、テオが受ける試験は魔法学園創設の翌年になるので、その頃には確実に試験に合格できるだけの実力を備えているだろう。

 私はまたテオに魔法を教えてに行くと約束して、明るい茶色の髪を撫でた。
 心なしか、その色が以前よりも明るくなっているような気がする。
 それに、そばかすも薄くなっているような気が……

「あの、王子様……」

 テオの髪色の変化を不思議に思いながらその髪を撫でていると、後ろから幼い声がした。
 振り返ると、数名の少年少女が立っていた。

「シュレガー伯爵様を辞めさせないでください」

 シュレガー伯爵とは、あの前王にも現王にもいい顔をしているコウモリ伯爵だ。
 そこに集まっていた数名の少年少女は、シュレガー領の保護施設から仕事に来た子供たちだろう。
 彼らは確か、豪商や下級貴族に売られた平民の子供たちだったはずだ。

 そして、彼らは知らないのだろうが、豪商や下級貴族と平民の間を繋いで仲介料を得ていたのが、シュレガー伯爵その人だ。

「辞めさせないでというのは、どういう意味ですか?」

 彼らに視線を合わせるために屈もうとした私の動きを、護衛としてついて来ていたヘンリックが止めた。
 万が一にも、彼らが私に危害を加える危険性を考えてのことだろう。

「シュレガー伯爵様が王子様のお怒りを買って、成人したばかりのご子息に爵位を譲ると聞きました」
「私はまだ子供ですから、伯爵を辞めさせるような権限はありませんよ」

 自分が爵位を譲ることを私のせいにしないでほしいものである。
 しかも、それをこんな子供たちが知るような手段で公表するとは。

「でも、なぜ、シュレガー伯爵にやめて欲しくないのですか?」
「シュレガー伯爵は領民のため、領地を豊かにするために、色々してくださるのだとみんな言っています」
「そのみんなには、豪商や貴族に売られた子供たちも入っていますか?」

 子供たちが言葉を飲み込んだ。

「シュレガー領が栄えた領地で、他領から引っ越す者がいるほどに生活しやすいことは私も知っています。でも、その豊かさが誰かの不幸の上に成り立っていて、大人たちがそのことに目を逸らしているのだとしたら、私は王族として悲しく思います。犠牲になった国民も私の国民ですから」

 いつの間にか他の子供たちも私たちの話に耳を澄ませていたようで、その場はしんっと静まり返っていた。

「でも、シュレガー伯爵は貴族に捨てられたり、帝国法により屋敷から出されてしまった私たちのことも保護して住む場所を与え、養ってくれているのです!」

 先ほどの少年とは違う少年が言った。
 彼もまたシュレガー領の子供なのだろう。

「シュレガー伯爵がシュレガー領で信頼され、好かれている領主だということはわかりました。しかし、領地がそれほど栄えずとも、子供を売らず、守っている領地もあるのです」

「え……」と、子供たちから声が漏れた。

「子供たちを犠牲にして領地を豊かにするのではなく、農地を耕し、節約をし、子供たちを守る領主もエトワール王国にはいたのです」

 そんな領主たちは皆一様に現王派で、父上が王になる前から父上を支持してくれていた人たちだ。

 もちろん、彼らは自分たちの子供を上位の貴族や王族に渡すことによって利益を得たりしない。
 その代わり、子供を一人や二人だけに留めて大切にする。

 若い領主などは子供を作ることさえも我慢していたそうだ。
 まずは、領民の暮らしが第一だと考え、自分たちの幸せを後回しにしてきた人々だ。

「きっと、シュレガー伯爵は君たちに優しく接してくれたのでしょう。そんな人から自分たちが虐げられたとは思いたくないのはわかります。しかし、豊かになるためには犠牲が必要だなどとは思わないでください」

 そんな考えが定着していては、自分たちが大人になった時に子供を犠牲にすることは仕方ないと思ってしまうかもしれない。
 愚かしい行為を繰り返しては欲しくない。
 被害者だった子供たちが大人になってから加害者になるなどあってはならないだろう。

 微妙な空気になってしまった部屋からその原因である私は退場することにして部屋を出た。
 今日の封詰作業はいつもよりも進まないかもしれないなと思いながら私は城へと戻った。

 子供たちを犠牲にしなければ領地を栄えさせることができないというのは、ただの大人たちの怠惰な言い訳に過ぎない。

 そして、それはこの国を治める王族にも言えることだ。
 国を豊かにしなければ、領民を守っている領主たちを支えることもできない。

「やはり、もっと大々的な基幹産業が必要なのでは?」

 そう漏らした声が聞こえたようで、ヘンリックから「まずは国に仕える者たちをお育てください」と注意されてしまった。




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