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魔法学園<二年生>編
267 適任者 08
しおりを挟むハンスギア王国をルシエンテ帝国の直轄地とする認可状を持って城に戻ると、貴族の私兵たちを王城勤めの騎士たちが捕らえて縛り上げていた。
「リヒト様! メモにあった書類のいくつかはすでに処分されておりました」
申し訳なさそうにザハールハイドは言ったが、集められた書類はかなりの量がありそうだった。
私は項垂れるザハールハイドの頭を撫でる。
「ザハールハイド様は充分頑張ってくれました。ありがとうございます」
私の言葉にザハールハイドはぱぁぁぁっとその表情を明るくした。
「さて」と、私は捕まっている貴族の私兵たちに視線を向ける。
私とザハールハイドが話している間も私兵たちはごちゃごちゃと何やら言っていた。
どうやら、騎士たちから光の聖剣の話を聞いていたようだが、私がその光の聖剣の使い手であることに納得がいかないようだ。
「光の聖剣が使える者が現れたとは聞いていたが、まだ子供ではないか?」
「ハンスギア王国の初代国王は聖剣を扱え、さらに剣技も素晴らしかったと聞いている!」
「王子のそれがハリボテではないことを証明しろ!」
私としては光の聖剣を見せ物にする気はない。
ハンスギア王国の騎士たちに見せたのは我が国の騎士たちに無駄な労力を使わせないための仕方のない手段だったが、やはり私の魔法はエトワール王国の国民のために使うべきだろう。
軍事制圧するためとは言えど、彼らはハンスギア王国の貴族たちの私兵であり、私が今軍事制圧のために使いたい城に勤めている騎士団たちとは違う。
無血開城が一番の理想だが、貴族たちの私兵に光の聖剣を見せる必要はないだろう。
それは過剰なサービスだ。
さて、どうしたものかと迷っていると、魔塔主がずいっと私の前に出た。
「私は魔塔の主人をやっていますが、リヒト様の聖剣は歴史上、もっとも強力なものだと証言しましょう」
魔塔主がそうにこりと微笑んだだけで私兵たちは顔を青くした。
「魔塔の……」
「魔塔主がそう言うなら……」
「しかし、実際に見ないことには……」
「先ほども言いましたが、リヒト様の光の聖剣はとても強力です。戦おうとすれば、あなた方は消し炭に……いえ、灰さえも残りませんね」
「大量の魔虫が一瞬で消えましたからね」
「まぁ、塵一つ残らないので、ある意味、無血開城ですかね?」
他の生徒たちが煽ったのもあって、貴族の私兵たちはそれ以上、光の聖剣で戦えということは言わなかった。
見ることさえも怖くなってしまったようで、それ以上の要望は口にしなかったのでちょうどよかった。
大人しくなったのならばとりあえずは縄で縛ったまま空き部屋に突っ込んでおけばいいかと思えば、アイデルが「リヒト様」と私の前に膝をついた。
私はアイデルの主人ではないのでそうした行動はしないでほしい。
しかし、アイデルの主人であるイェレナは特に不満などはないようで、私と目が合うとむしろ申し訳なさそうな表情をした。
ふとグレデン卿の方へ視線を向ければ憮然とした表情をしていた。
グレデン卿のそんな表情を見るのは初めてで、少し笑ってしまいそうになったが、私は笑いを堪えてアイデルに視線を向けた。
「私兵についてご提案があります」
アイデルの提案はかなり奇抜なものであり、成功するという保証もなかったが理想的ではあったので採用することにした。
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アイデルの提案というのは、三つの公爵家の私兵に自身の主とその関係者や派閥の貴族をそれぞれ捕らえてもらうというものだった。
要するに、私兵に自分たちの主人を裏切ることを強要したのである。
それは非常に奇抜な発想であり、うまくいくか半信半疑であったが、アイデルができると言うならばとやらせてみたのだ。
思った以上にうまくいったが、アイデルが私兵たちを懐柔する際に、「今後の働きによっては、リヒト様もあなた方を信頼して光の聖剣を見せてくださるかもしれませんよ?」と私をダシに使うのはいただけない。
「悔しいですが、アイデル卿は非常に優秀です」
貴族たちが捕えられていく様子を見ていると、グレデン卿が私の隣に来てそう報告してくれた。
相手を認めつつもまだ憮然とした表情を崩さないグレデン卿の姿に少し笑ってしまった。
「アイデル卿の実力の確認をしてくださり、ありがとうございます」
「いえ、単に騎士の意地でやったことです。リヒト様からのご命令を途中で中断してしまい、申し訳ございませんでした」
私からの命というのは次期グレデン公爵家当主としての教育をキルアに行うことであろう。
「私は久しぶりにグレデン卿の活躍を見ることができて楽しかったですよ」
「私はリヒト様のご判断に従います」
すごく沈痛な表情でグレデン卿は言った。
なんだろう。護衛解任の覚悟でもしているのだろうか?
「グレデン卿。覚悟なら、私が老いて死ぬまで護衛騎士を勤め上げる覚悟をしてください」
私の言葉にグレデン卿はその目を丸くし、それから笑った。
「リヒト様、私はリヒト様よりもかなり年上なのですが?」
「強い武人ならばオーロ皇帝のように長生きするでしょう?」
「次期魔塔主にもなれそうな魔力の持ち主のリヒト様よりも長生きすることが可能かどうか」
喚き散らす貴族たちと冷静にそれらを捕らえる騎士たちの声が入り混じる混沌とした中で、私とグレデン卿が笑っていると、カルロが私の腕にしがみついてきた。
「僕もリヒト様のそばにずっといますから!」
「私もです」
ヘンリックがカルロの隣に立って、カルロを私から引き剥がした。
「ありがとう。二人とも」
「そうですね。ヘンリックと一緒にカルロを見張る者が必要でしょうから、私も長生きしないといけませんね」
グレデン卿の言葉に私は首を傾げた。
「カルロを見張る者ですか?」
「ええ。カルロからもリヒト様をお守りしないといけませんからね」
カルロから私を守る? なぜ? とさらに私は首を傾げたが、ガシッとグレデン卿とヘンリックが固い握手を交わしていた。
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