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しばらく部屋の中で落ち着いてから外に出ると、扉の真ん前に椅子に座ったジェラルドが待っていた。
そんなところに椅子はなかったから、ジェラルドが持って来たのだろう。
「レン! 遅いよ!」
そう頬を膨らませたジェラルドに王子が言う。
「神との対話には時間がかかるものだ」
「何をそんなに神様と長話をしていたのさ!?」
神との対話よりも、問題はその後だったがそれは言えない。
しかし、ジェラルドは何かを察したのか、じろりと王子を見た。
「兄さんはなんでそんなに機嫌が良さそうなの? そんなにいい啓示があったの?」
今回は俺が神々に観察されて終わったので、大した会話はしていないが、王子にはそのことも、神に触れられたためにあのようになってしまったことも伝えるべきだったのだろう。
しかし、俺の体調を気遣って、王子は何も聞かないでいてくれた。
「ジェラルド王子、一緒におやつを食べましょう」
二人の王子の兄弟喧嘩を止めるためにそう言うと、ジェラルドはすぐに機嫌が良くなって俺の手を引いた。
「レンはジェラルドに甘いです」
「ジェラルド王子はまだ子供ですから」
「そう、僕は子供だからね!」
ジェラルドが俺に抱きついてくる。
ジェラルドは俺の半分ほどの背丈しかない。
そんな小さな体を俺が受け入れると、王子は不満そうな表情をして、それから彼も後ろから俺の体をそっと抱きしめた。
「王子!?」
小さな子供の前ですることではないと俺は慌てた。
王子の腕は俺の肩のあたりにゆるく巻かれているのに、俺が抵抗してもその腕が外れることはない。
「レンから見たら、私だって年下ですよ?」
あざとい!
ジェラルドは自分の年齢とかわいさを理解してそれを活かしている感じだったが、生真面目な王子はそうではなかったはずなのに、あざとい! すごくあざとい!!
俺が驚いて王子を見上げていると、王子がその顔を逸らした。
「恥ずかしいので、そんなに見ないでください。わかっているんです。こういうことは私には似合わないし、醜い嫉妬だって」
醜いどころか……むしろ、可愛い。
似合う似合わないの問題ではないと思うが、すごく可愛い。
普段は大人ぶっている王子が歳の離れた弟に対抗して、自分も同様に子供なのだからと甘えてくる様子は可愛かった。
しかし、そんなことを素直に言うわけにはいかないだろう。
王子は、俺が聖女だから、その恩恵にあやかるために結婚したいだけなのだ。
俺のことが好きで嫉妬してくれているわけではないのだから、勘違いしないように気をつけなければならない。
「何か言ってください」
そう言って王子は俺の首のあたりに額を押し当ててくる。
「えっと……」
何かと言われても困るのだが……
「そうですね……似合う似合わないで言えば、似合っています。嫉妬する姿さえもかわ……格好いいです。きっとどんな女性も王子のことを好きになると思います」
だから、わざわざ俺となんて結婚しなくてもいいと思う。
いや、加護の恩恵が欲しいだけなのはわかっているけれど、それだけで結婚相手を決めてしまうのはなんだか勿体無いと思う。
「本当ですか?」
そう王子が後ろから俺の顔を覗き込んできた。
「レンも私のことを好きになりますか?」
「え……」
やはり、捨てられた子犬の顔に俺は逆らえない。
「そ……そうですね……」
そう曖昧に笑うと、「それなら」と王子は俺の目をまっすぐに見つめてきた。
「私のこともジェラルドのように名前で呼んでください! フラウィアンと」
「え……」
想定外のお願いに俺は驚いた。
「嫌ですか?」
しょんぼりと垂れた犬耳と尻尾が見えるような気がする。
「嫌ではないです……ただ……」
「ただ、なんですか?」
ただ、恥ずかしいのだ。
俺はこれまで付き合ってきた女性たちの名前さえも、下の名前を気軽に呼べるようになる前に奪われてきたから、友達とか家族以外の下の名前を呼んだことがない。
ジェラルドはまだ子供だし、フラウィアンと同じ王子だから区別のために呼んでいたけれど……
「……呼ばないと、ダメですか?」
「婚約者のレンにはちゃんと名前を呼んでほしいのです」
「わ、わかりました……」
わかったから、そんなわんこのような目で見ないでほしい。
「フ、フラウィアン王子……」
「レンと私は婚約者なのですから、敬称も必要ないです」
「それじゃ……フラウィアン?」
恥ずかしさを自分の中に押し込めて、なんとか名前を呼べば、フラウィアンは花が綻ぶように微笑んだ。
「はい! レン!」
フラウィアンは本当に嬉しそうに俺のことをギューっと抱きしめた。
「ちょっと二人とも! 僕も護衛もいることも、ここが廊下だってことも忘れてない?」
ジェラルドの言葉に俺の頬は熱くなった。
「お二人がお幸せそうでよかったです。私のことは柱だと思って気にしないでください」
護衛の騎士さんはどういうわけか嬉しそうだ。
「僕のことは気にしてよね!」
ジェラルドは正面から俺にしがみついてきた。
「レン! 早くおやつ食べに行こう!」
「ジェラルド! レンは私の婚約者だ! わがままを言うな!」
「まだ子供だからって父様は僕に婚約許可証はくれなかったけど、大人になったら絶対にレンと結婚するもん!」
ジェラルドとフラウィアンの言い合いに俺の羞恥心は少し和らいだ。
ジェラルドはまだ子供だから結婚なんてとても考えられないけど、でも、賑やかなジェラルドがこの場にいてくれてよかったと思う。
フラウィアンの空気は甘くて、とても俺の羞恥心が耐えられそうにないから。
そんなところに椅子はなかったから、ジェラルドが持って来たのだろう。
「レン! 遅いよ!」
そう頬を膨らませたジェラルドに王子が言う。
「神との対話には時間がかかるものだ」
「何をそんなに神様と長話をしていたのさ!?」
神との対話よりも、問題はその後だったがそれは言えない。
しかし、ジェラルドは何かを察したのか、じろりと王子を見た。
「兄さんはなんでそんなに機嫌が良さそうなの? そんなにいい啓示があったの?」
今回は俺が神々に観察されて終わったので、大した会話はしていないが、王子にはそのことも、神に触れられたためにあのようになってしまったことも伝えるべきだったのだろう。
しかし、俺の体調を気遣って、王子は何も聞かないでいてくれた。
「ジェラルド王子、一緒におやつを食べましょう」
二人の王子の兄弟喧嘩を止めるためにそう言うと、ジェラルドはすぐに機嫌が良くなって俺の手を引いた。
「レンはジェラルドに甘いです」
「ジェラルド王子はまだ子供ですから」
「そう、僕は子供だからね!」
ジェラルドが俺に抱きついてくる。
ジェラルドは俺の半分ほどの背丈しかない。
そんな小さな体を俺が受け入れると、王子は不満そうな表情をして、それから彼も後ろから俺の体をそっと抱きしめた。
「王子!?」
小さな子供の前ですることではないと俺は慌てた。
王子の腕は俺の肩のあたりにゆるく巻かれているのに、俺が抵抗してもその腕が外れることはない。
「レンから見たら、私だって年下ですよ?」
あざとい!
ジェラルドは自分の年齢とかわいさを理解してそれを活かしている感じだったが、生真面目な王子はそうではなかったはずなのに、あざとい! すごくあざとい!!
俺が驚いて王子を見上げていると、王子がその顔を逸らした。
「恥ずかしいので、そんなに見ないでください。わかっているんです。こういうことは私には似合わないし、醜い嫉妬だって」
醜いどころか……むしろ、可愛い。
似合う似合わないの問題ではないと思うが、すごく可愛い。
普段は大人ぶっている王子が歳の離れた弟に対抗して、自分も同様に子供なのだからと甘えてくる様子は可愛かった。
しかし、そんなことを素直に言うわけにはいかないだろう。
王子は、俺が聖女だから、その恩恵にあやかるために結婚したいだけなのだ。
俺のことが好きで嫉妬してくれているわけではないのだから、勘違いしないように気をつけなければならない。
「何か言ってください」
そう言って王子は俺の首のあたりに額を押し当ててくる。
「えっと……」
何かと言われても困るのだが……
「そうですね……似合う似合わないで言えば、似合っています。嫉妬する姿さえもかわ……格好いいです。きっとどんな女性も王子のことを好きになると思います」
だから、わざわざ俺となんて結婚しなくてもいいと思う。
いや、加護の恩恵が欲しいだけなのはわかっているけれど、それだけで結婚相手を決めてしまうのはなんだか勿体無いと思う。
「本当ですか?」
そう王子が後ろから俺の顔を覗き込んできた。
「レンも私のことを好きになりますか?」
「え……」
やはり、捨てられた子犬の顔に俺は逆らえない。
「そ……そうですね……」
そう曖昧に笑うと、「それなら」と王子は俺の目をまっすぐに見つめてきた。
「私のこともジェラルドのように名前で呼んでください! フラウィアンと」
「え……」
想定外のお願いに俺は驚いた。
「嫌ですか?」
しょんぼりと垂れた犬耳と尻尾が見えるような気がする。
「嫌ではないです……ただ……」
「ただ、なんですか?」
ただ、恥ずかしいのだ。
俺はこれまで付き合ってきた女性たちの名前さえも、下の名前を気軽に呼べるようになる前に奪われてきたから、友達とか家族以外の下の名前を呼んだことがない。
ジェラルドはまだ子供だし、フラウィアンと同じ王子だから区別のために呼んでいたけれど……
「……呼ばないと、ダメですか?」
「婚約者のレンにはちゃんと名前を呼んでほしいのです」
「わ、わかりました……」
わかったから、そんなわんこのような目で見ないでほしい。
「フ、フラウィアン王子……」
「レンと私は婚約者なのですから、敬称も必要ないです」
「それじゃ……フラウィアン?」
恥ずかしさを自分の中に押し込めて、なんとか名前を呼べば、フラウィアンは花が綻ぶように微笑んだ。
「はい! レン!」
フラウィアンは本当に嬉しそうに俺のことをギューっと抱きしめた。
「ちょっと二人とも! 僕も護衛もいることも、ここが廊下だってことも忘れてない?」
ジェラルドの言葉に俺の頬は熱くなった。
「お二人がお幸せそうでよかったです。私のことは柱だと思って気にしないでください」
護衛の騎士さんはどういうわけか嬉しそうだ。
「僕のことは気にしてよね!」
ジェラルドは正面から俺にしがみついてきた。
「レン! 早くおやつ食べに行こう!」
「ジェラルド! レンは私の婚約者だ! わがままを言うな!」
「まだ子供だからって父様は僕に婚約許可証はくれなかったけど、大人になったら絶対にレンと結婚するもん!」
ジェラルドとフラウィアンの言い合いに俺の羞恥心は少し和らいだ。
ジェラルドはまだ子供だから結婚なんてとても考えられないけど、でも、賑やかなジェラルドがこの場にいてくれてよかったと思う。
フラウィアンの空気は甘くて、とても俺の羞恥心が耐えられそうにないから。
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