8 / 11
08
しばらく部屋の中で落ち着いてから外に出ると、扉の真ん前に椅子に座ったジェラルドが待っていた。
そんなところに椅子はなかったから、ジェラルドが持って来たのだろう。
「レン! 遅いよ!」
そう頬を膨らませたジェラルドに王子が言う。
「神との対話には時間がかかるものだ」
「何をそんなに神様と長話をしていたのさ!?」
神との対話よりも、問題はその後だったがそれは言えない。
しかし、ジェラルドは何かを察したのか、じろりと王子を見た。
「兄さんはなんでそんなに機嫌が良さそうなの? そんなにいい啓示があったの?」
今回は俺が神々に観察されて終わったので、大した会話はしていないが、王子にはそのことも、神に触れられたためにあのようになってしまったことも伝えるべきだったのだろう。
しかし、俺の体調を気遣って、王子は何も聞かないでいてくれた。
「ジェラルド王子、一緒におやつを食べましょう」
二人の王子の兄弟喧嘩を止めるためにそう言うと、ジェラルドはすぐに機嫌が良くなって俺の手を引いた。
「レンはジェラルドに甘いです」
「ジェラルド王子はまだ子供ですから」
「そう、僕は子供だからね!」
ジェラルドが俺に抱きついてくる。
ジェラルドは俺の半分ほどの背丈しかない。
そんな小さな体を俺が受け入れると、王子は不満そうな表情をして、それから彼も後ろから俺の体をそっと抱きしめた。
「王子!?」
小さな子供の前ですることではないと俺は慌てた。
王子の腕は俺の肩のあたりにゆるく巻かれているのに、俺が抵抗してもその腕が外れることはない。
「レンから見たら、私だって年下ですよ?」
あざとい!
ジェラルドは自分の年齢とかわいさを理解してそれを活かしている感じだったが、生真面目な王子はそうではなかったはずなのに、あざとい! すごくあざとい!!
俺が驚いて王子を見上げていると、王子がその顔を逸らした。
「恥ずかしいので、そんなに見ないでください。わかっているんです。こういうことは私には似合わないし、醜い嫉妬だって」
醜いどころか……むしろ、可愛い。
似合う似合わないの問題ではないと思うが、すごく可愛い。
普段は大人ぶっている王子が歳の離れた弟に対抗して、自分も同様に子供なのだからと甘えてくる様子は可愛かった。
しかし、そんなことを素直に言うわけにはいかないだろう。
王子は、俺が聖女だから、その恩恵にあやかるために結婚したいだけなのだ。
俺のことが好きで嫉妬してくれているわけではないのだから、勘違いしないように気をつけなければならない。
「何か言ってください」
そう言って王子は俺の首のあたりに額を押し当ててくる。
「えっと……」
何かと言われても困るのだが……
「そうですね……似合う似合わないで言えば、似合っています。嫉妬する姿さえもかわ……格好いいです。きっとどんな女性も王子のことを好きになると思います」
だから、わざわざ俺となんて結婚しなくてもいいと思う。
いや、加護の恩恵が欲しいだけなのはわかっているけれど、それだけで結婚相手を決めてしまうのはなんだか勿体無いと思う。
「本当ですか?」
そう王子が後ろから俺の顔を覗き込んできた。
「レンも私のことを好きになりますか?」
「え……」
やはり、捨てられた子犬の顔に俺は逆らえない。
「そ……そうですね……」
そう曖昧に笑うと、「それなら」と王子は俺の目をまっすぐに見つめてきた。
「私のこともジェラルドのように名前で呼んでください! フラウィアンと」
「え……」
想定外のお願いに俺は驚いた。
「嫌ですか?」
しょんぼりと垂れた犬耳と尻尾が見えるような気がする。
「嫌ではないです……ただ……」
「ただ、なんですか?」
ただ、恥ずかしいのだ。
俺はこれまで付き合ってきた女性たちの名前さえも、下の名前を気軽に呼べるようになる前に奪われてきたから、友達とか家族以外の下の名前を呼んだことがない。
ジェラルドはまだ子供だし、フラウィアンと同じ王子だから区別のために呼んでいたけれど……
「……呼ばないと、ダメですか?」
「婚約者のレンにはちゃんと名前を呼んでほしいのです」
「わ、わかりました……」
わかったから、そんなわんこのような目で見ないでほしい。
「フ、フラウィアン王子……」
「レンと私は婚約者なのですから、敬称も必要ないです」
「それじゃ……フラウィアン?」
恥ずかしさを自分の中に押し込めて、なんとか名前を呼べば、フラウィアンは花が綻ぶように微笑んだ。
「はい! レン!」
フラウィアンは本当に嬉しそうに俺のことをギューっと抱きしめた。
「ちょっと二人とも! 僕も護衛もいることも、ここが廊下だってことも忘れてない?」
ジェラルドの言葉に俺の頬は熱くなった。
「お二人がお幸せそうでよかったです。私のことは柱だと思って気にしないでください」
護衛の騎士さんはどういうわけか嬉しそうだ。
「僕のことは気にしてよね!」
ジェラルドは正面から俺にしがみついてきた。
「レン! 早くおやつ食べに行こう!」
「ジェラルド! レンは私の婚約者だ! わがままを言うな!」
「まだ子供だからって父様は僕に婚約許可証はくれなかったけど、大人になったら絶対にレンと結婚するもん!」
ジェラルドとフラウィアンの言い合いに俺の羞恥心は少し和らいだ。
ジェラルドはまだ子供だから結婚なんてとても考えられないけど、でも、賑やかなジェラルドがこの場にいてくれてよかったと思う。
フラウィアンの空気は甘くて、とても俺の羞恥心が耐えられそうにないから。
そんなところに椅子はなかったから、ジェラルドが持って来たのだろう。
「レン! 遅いよ!」
そう頬を膨らませたジェラルドに王子が言う。
「神との対話には時間がかかるものだ」
「何をそんなに神様と長話をしていたのさ!?」
神との対話よりも、問題はその後だったがそれは言えない。
しかし、ジェラルドは何かを察したのか、じろりと王子を見た。
「兄さんはなんでそんなに機嫌が良さそうなの? そんなにいい啓示があったの?」
今回は俺が神々に観察されて終わったので、大した会話はしていないが、王子にはそのことも、神に触れられたためにあのようになってしまったことも伝えるべきだったのだろう。
しかし、俺の体調を気遣って、王子は何も聞かないでいてくれた。
「ジェラルド王子、一緒におやつを食べましょう」
二人の王子の兄弟喧嘩を止めるためにそう言うと、ジェラルドはすぐに機嫌が良くなって俺の手を引いた。
「レンはジェラルドに甘いです」
「ジェラルド王子はまだ子供ですから」
「そう、僕は子供だからね!」
ジェラルドが俺に抱きついてくる。
ジェラルドは俺の半分ほどの背丈しかない。
そんな小さな体を俺が受け入れると、王子は不満そうな表情をして、それから彼も後ろから俺の体をそっと抱きしめた。
「王子!?」
小さな子供の前ですることではないと俺は慌てた。
王子の腕は俺の肩のあたりにゆるく巻かれているのに、俺が抵抗してもその腕が外れることはない。
「レンから見たら、私だって年下ですよ?」
あざとい!
ジェラルドは自分の年齢とかわいさを理解してそれを活かしている感じだったが、生真面目な王子はそうではなかったはずなのに、あざとい! すごくあざとい!!
俺が驚いて王子を見上げていると、王子がその顔を逸らした。
「恥ずかしいので、そんなに見ないでください。わかっているんです。こういうことは私には似合わないし、醜い嫉妬だって」
醜いどころか……むしろ、可愛い。
似合う似合わないの問題ではないと思うが、すごく可愛い。
普段は大人ぶっている王子が歳の離れた弟に対抗して、自分も同様に子供なのだからと甘えてくる様子は可愛かった。
しかし、そんなことを素直に言うわけにはいかないだろう。
王子は、俺が聖女だから、その恩恵にあやかるために結婚したいだけなのだ。
俺のことが好きで嫉妬してくれているわけではないのだから、勘違いしないように気をつけなければならない。
「何か言ってください」
そう言って王子は俺の首のあたりに額を押し当ててくる。
「えっと……」
何かと言われても困るのだが……
「そうですね……似合う似合わないで言えば、似合っています。嫉妬する姿さえもかわ……格好いいです。きっとどんな女性も王子のことを好きになると思います」
だから、わざわざ俺となんて結婚しなくてもいいと思う。
いや、加護の恩恵が欲しいだけなのはわかっているけれど、それだけで結婚相手を決めてしまうのはなんだか勿体無いと思う。
「本当ですか?」
そう王子が後ろから俺の顔を覗き込んできた。
「レンも私のことを好きになりますか?」
「え……」
やはり、捨てられた子犬の顔に俺は逆らえない。
「そ……そうですね……」
そう曖昧に笑うと、「それなら」と王子は俺の目をまっすぐに見つめてきた。
「私のこともジェラルドのように名前で呼んでください! フラウィアンと」
「え……」
想定外のお願いに俺は驚いた。
「嫌ですか?」
しょんぼりと垂れた犬耳と尻尾が見えるような気がする。
「嫌ではないです……ただ……」
「ただ、なんですか?」
ただ、恥ずかしいのだ。
俺はこれまで付き合ってきた女性たちの名前さえも、下の名前を気軽に呼べるようになる前に奪われてきたから、友達とか家族以外の下の名前を呼んだことがない。
ジェラルドはまだ子供だし、フラウィアンと同じ王子だから区別のために呼んでいたけれど……
「……呼ばないと、ダメですか?」
「婚約者のレンにはちゃんと名前を呼んでほしいのです」
「わ、わかりました……」
わかったから、そんなわんこのような目で見ないでほしい。
「フ、フラウィアン王子……」
「レンと私は婚約者なのですから、敬称も必要ないです」
「それじゃ……フラウィアン?」
恥ずかしさを自分の中に押し込めて、なんとか名前を呼べば、フラウィアンは花が綻ぶように微笑んだ。
「はい! レン!」
フラウィアンは本当に嬉しそうに俺のことをギューっと抱きしめた。
「ちょっと二人とも! 僕も護衛もいることも、ここが廊下だってことも忘れてない?」
ジェラルドの言葉に俺の頬は熱くなった。
「お二人がお幸せそうでよかったです。私のことは柱だと思って気にしないでください」
護衛の騎士さんはどういうわけか嬉しそうだ。
「僕のことは気にしてよね!」
ジェラルドは正面から俺にしがみついてきた。
「レン! 早くおやつ食べに行こう!」
「ジェラルド! レンは私の婚約者だ! わがままを言うな!」
「まだ子供だからって父様は僕に婚約許可証はくれなかったけど、大人になったら絶対にレンと結婚するもん!」
ジェラルドとフラウィアンの言い合いに俺の羞恥心は少し和らいだ。
ジェラルドはまだ子供だから結婚なんてとても考えられないけど、でも、賑やかなジェラルドがこの場にいてくれてよかったと思う。
フラウィアンの空気は甘くて、とても俺の羞恥心が耐えられそうにないから。
あなたにおすすめの小説
結婚間近だったのに、殿下の皇太子妃に選ばれたのは僕だった
釦
BL
皇太子妃を輩出する家系に産まれた主人公は半ば政略的な結婚を控えていた。
にも関わらず、皇太子が皇妃に選んだのは皇太子妃争いに参加していない見目のよくない五男の主人公だった、というお話。
龍は精霊の愛し子を愛でる
林 業
BL
竜人族の騎士団団長サンムーンは人の子を嫁にしている。
その子は精霊に愛されているが、人族からは嫌われた子供だった。
王族の養子として、騎士団長の嫁として今日も楽しく自由に生きていく。
転生したら最強辺境伯に拾われました
マンスーン
BL
現代日本人・東堂裕太が目を覚ますと、そこは異世界。クズな婚約者に魔力を限界まで搾取され、ボロボロになって森に捨てられる悲惨な青年・ルカに転生していた。
死を覚悟した裕太だったが、そんな彼を拾い上げたのは、帝国最強の武力を誇り「氷の死神」と恐れられる辺境伯・ラーク。
聖女召喚の巻き添えで喚ばれた「オマケ」の男子高校生ですが、魔王様の「抱き枕」として重宝されています
八百屋 成美
BL
聖女召喚に巻き込まれて異世界に来た主人公。聖女は優遇されるが、魔力のない主人公は城から追い出され、魔の森へ捨てられる。
そこで出会ったのは、強大な魔力ゆえに不眠症に悩む魔王。なぜか主人公の「匂い」や「体温」だけが魔王を安眠させることができると判明し、魔王城で「生きた抱き枕」として飼われることになる。
婚約破棄させた愛し合う2人にザマァされた俺。とその後
結人
BL
王太子妃になるために頑張ってた公爵家の三男アランが愛する2人の愛でザマァされ…溺愛される話。
※男しかいない世界で男同士でも結婚できます。子供はなんかしたら作ることができます。きっと…。
全5話完結。予約更新します。
獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果
ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。
そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。
2023/04/06 後日談追加