【完結・番外編更新】魔法書の創り手 〜無属性で落ちこぼれの烙印を押された僕が魔法書を創ったら、なぜか最強たちの中心にいた件〜

はぴねこ

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05 新しい呼び名

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 気持ちを落ち着けて、温かいお茶を淹れたカップを再びオスカーの前に置く。

「まぁ……少しだけなら、質問に答えてもいいよ」

 僕は椅子に座り直してそう言った。
 気恥ずかしくて、必要以上にぶっきらぼうな声になってしまったのがさらに恥ずかしい。

 しかし、そんな僕の態度など気にならないのか、オスカーは「ありがとう」とお礼を言った。
 オスカーよりもずっと年下の僕が作ったものを認めて金貨を払ってくれたり、素直にお礼を言ったり、こういうところは大人だと思う。

「君は森の民ではないだろう? それなのに、どうして精霊の森で生活できているんだ?」
「あなたと同じでたまたま運が良かったからでしょう」
「結局はぐらかすつもり?」
「違うよ。本当に、たまたま運がよく、精霊に好かれる体質だっただけ」
「精霊に好かれる体質とはどういうことだ?」

「僕は精霊を見ることができるんです」
「魔力が多かったり、神聖力が高い者の中には自分の属性の精霊を見る者もいるな。私も時折、風属性の精霊が見えたりするし」
「僕は全属性の精霊が常に見えていて、精霊の声を常に聞くことができます」
「精霊たちの言葉を理解するだけでなく、聞くこともできる……いや、聞けるから、理解できるようになったのか?」
「そうですね。僕は小さい頃から精霊たちの教育を受けてきましたから」
「その教育の賜物がこの魔法書ということか」

「魔法陣は本来は精霊の言葉で構成されています」
「だから詠唱で精霊の力を借りる時よりも、君の魔法書で魔法を使った時の方が魔力は少なく、威力は絶大だったのか……君はこのことを魔法学会に発表しなくてもいいのか? 栄誉も名声も権力も富も得ることができると思うのだが?」
「学会に発表する気などありませんよ。精霊たちはそれを望んでいませんし、そもそも僕が言っていることが正しいと立証できる人がいませんから」

 下手したらインチキ扱いされて魔女裁判みたいなことになるかもしれない。
 そんなのはごめんだ。

 そのことはオスカーにも理解できることだったのか、「そうだな」と頷いた。
 それから、信じられないことを言った。

「それじゃ、私が君の証人になれるように頑張ろう」
「え?」
「今はちょっと立場的に弱いから、君の後ろ盾になれるくらいには頑張ってみるよ」

 いや、待ってくれ。
 魔法学会は偏屈な貴族しかおらず、そんじょそこらの貴族の話には耳を貸さない。
 そんな学会の証人になれるのはかなり位の高い者だけだ。

「今はちょっと暗殺から逃げてるけど、私はこの国の第四王子だから」
「……」

 ……え?
 第四王子って言った?
 え?
 王子?

「私の名は……」
「いや、名乗らなくても大丈夫です!」

 王子だなんてとんでもない!
 絶対に関わってはいけない人物じゃん!
 面倒なことになるに決まっている!!

 できればさっき聞いたオスカーという名前も忘れたい!
 正式な名前(フルネーム)なんて聞きたくない!!

 というか、僕、さっき、この人に「くさい」って言わなかった!?
 不敬罪で死罪とかにならない!?

「オスカー・ワンズ・クレインだ」
「だから名乗らなくていいって言ったじゃん!!」

 僕は両手で頭を抱えた。

「今は暗殺者に追われる憐れな身だ。そう気にするな」

 王子がこんな守りもない森の中で自分の身分を明かすなんてあってはならない。
 それも、公爵家を追い出されたなんの身分もない僕に対して。

「王子がこんなところで何してるんですか!? もう森から出てください! 王子様がいていい場所じゃないですから!」
「しかし、精霊が私を追い出さないということは、私は君にとって害になる人物ではないと判断されているということだろう?」
「それはそうですが……」

 ああ、どうしよう。
 めちゃくちゃ面倒臭い人物に関わってしまった。

「それで、君は?」

 どことなく機嫌のいい様子でオスカーは聞いてきた。
 彼の身分も正式な名前も知ってしまっては、僕だけ自分のことを話さないというのは無理だろう。

「……隣の隣の国のとある公爵家の嫡男でした」
「隣の隣の国って魔法大国ムーか? そんなところの公爵家の嫡男がどうしてこんな小さな国の森に……ん? 過去形?」
「無属性だからです」
「無属性……え? 君、無属性なのか?」
「そうです。魔法を使うことを誇りにしているムー王国の貴族にとっては価値のない無属性です」
「価値がないと勘違いされているだけで、実際には無属性だからこうした魔法書が作れたということだろう?」

 先ほどからの会話でもわかるけど、オスカーはかなり察しがいい。
 物事を理解するのが早い。つまり、頭の回転が早いということだ。
 それでいて、精霊の森に入ることができる善良さを持っている。
 そうしたところを邪魔に思う人物に命を狙われているのかもしれない。

「精霊に愛された無属性魔法使い。君はかなり面白いね」
「僕のことを魔法使いだと言ったのはあなたが初めてです」

 自分で言いながらも情けなくなる。
 僕だって、本当は、自分で魔法を使ってみたい。
 生活魔法ではなく、もっと魔法らしい魔法というか、派手な魔法を使ってみたい。
 だけど、無属性では、魔法書を作ることはできても属性が必要な魔法を使うことはできないのだ。

「魔法は使えなくてもこれだけの素晴らしい魔法の書を作ることができるのだから魔法使いと名乗っても良さそうなものだが……それなら、魔法書の創造者と言ったところだろうか?」
「魔法書の創造者……」

 落ちこぼれと呼ばれてきた僕には勿体無いくらいの呼び名だと思う。
 だけど、それが妙にくすぐったくて、自然と頬が緩みそうになる。
 恥ずかしいから、笑ったりしないけど。

「魔法書の創造者、君の名前を教えてくれないか?」
「エノク・ラツィエル……いえ、今はただのエノクです」
「そうか、エノク。私も今はただのオスカーだ」

 オスカーが右手を差し出してきた。

 僕は公爵家を追い出された落ちこぼれだけれど、暗殺者に追われて城に帰ることのできない王子の手なら、握り返しても許されるだろうか?

 ゆっくりと右手を差し出せば、がっしりとオスカーの手に握られた。
 その手は、王子の手というよりは、戦士の手のようだった。


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