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10 オスカーの婚約者
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精霊信仰が根差したナタール王国は王よりも法王を慕う国民が多く、法王の権力の方が実質強く、他国からはもっぱらナタール聖国と呼ばれている。
その法王に気に入られている王子が、王位継承を狙う他の王子たちにとって脅威じゃないわけがない。
「いや、でも、ジョン兄上は単純な人で、計算高くはないから、法王のこととかそれほど考えてないと思うよ?」
「この国の王子なのに、そんなわけないでしょう?」
どんなバカでも、この国にいれば王よりも法王の方が国民からの人気が高く、支持されていることくらいはわかる。
ムー王国にいた頃の僕でさえ、風の噂で聞いていた話なのだから、この国で生まれ育った人が知らないわけがない。
それも王子なのだから、自分の立場を常に意識していたはずだ。
「まさか、王位継承争いの真っ只中の人を匿ってしまうなんて……」
もっとオスカーの状況をちゃんと確認してから決めればよかった。
後悔先に立たずとはこのことだ。
「大丈夫。心配しないで。私の美しい婚約者には今度紹介してあげるから」
そんなことは全く心配していないが?
「そういえば、婚約者さんはどこかの令嬢とかお姫様じゃないの? どうして、オスカーと連絡が取れないからって一人で第一王子を打ちに行くなんて発想になるのか……普通、そんな令嬢はいないよね?」
「エノクは大人びていると思ったけどやはりまだ子供だな。”普通”なんて人それぞれさ」
オスカーが聖人のような温かい笑顔を見せる。
さすが王子。そういう笑顔を作るのが上手いなと思う。
オスカーの言葉は”普通”という言葉の概念を全否定しているような気もするけれど、相手の特異さを受け入れる度量の大きさを思わせるような気もした。
「彼女は伯爵家の三女なのだけど、自由気ままな女性で今は冒険者をやっているんだ」
「冒険者……」
王子の婚約者ならば上級貴族の令嬢かと思っていたので伯爵家の三女というのも想定外だったが、貴族の令嬢なのに冒険者というのはどういうことなのだろうか?
想定していたよりもはるかに変わった婚約者のようだ。
「王子様の婚約者ということは、王様が決めたんだよね?」
「いや、私の一目惚れだ。最初は婚約の申し込みも断られていたのだが、猛烈にアピールして承諾してもらったんだ!」
何気にオスカーと第一王子は似ているのかもしれない。
しつこさという点が。
嫌な共通点だな。
「王様はオスカーが暗殺されそうになっていることは知っているの? 王様に訴えれば兄弟の暗殺を指示した第一王子の方が捕えられるんじゃない?」
「父上は強い王を求めているから、私が暗殺に屈したのならばそれだけのことだと事実を受け入れるだけだと思うよ。それに、私が勝手に婚約者を選んだことも父上はよく思っていないだろうし。私のために動いてくれる可能性は極めて低いね」
「王様には認められていない婚約者ということ? それって、婚約は正式に為されているの?」
「ああ。法王が認めてくださったからね」
そうだった。オスカーは法王のお気に入りだったのだ。
王様からしたら、むしろ法王の後ろ盾があるオスカーは邪魔な存在かもしれないな。
いつ自分の地位を脅かすかわからないわけだから。
「私の婚約者はとても気高くて凛々しい人なんだ! 隣国に留学に行く途中の馬車が魔物に襲われたのだが、彼女が馬に乗って颯爽と現れて助けてくれたんだ。彼女が引く弓で私は心の臓を射抜かれたような気がしたよ。私は彼女とすぐに婚約したくて、留学をやめて聖騎士になったんだ」
聞いてもいないのにオスカーが婚約者について語り出した。
「彼女は他の令嬢とは違い、ドレスや宝石には興味がなくてね。いつも馬に乗ったり、剣の稽古をしたり、弓矢を射たりしていた。彼女ほど美しい人を私は知らない」
色々ツッコミどころはあるものの、オスカーが婚約者に惚れ込んでいることだけはわかった。
「……ちなみに、婚約者の冒険者ランクを聞いても?」
「S級だ!」
そうか。そんな気はした。
貴族なら正式な剣の訓練も弓の訓練も受けることができる。
ある程度の才能も必要だろうが、そもそも動くことが好きなのだから身体能力は高いのだろう。
農村の三男、四男などで仕方なく冒険者になった成り上がりの冒険者よりも腕は立ちそうだ。
「あなたが魔法書の創造者様ね?」
オスカーの婚約者が凄腕の冒険者だと知ってから数日後、出来上がった風魔法の魔法書をオスカーに渡すと、オスカーはその目を嬉しそうに煌めかせて、「久しぶりにちょっと精霊の森の外に出てくる」と爽やかに笑って精霊の森を出た。
そんなオスカーを見送ってから数時間後、噂の婚約者が目の前に登場。
どういうことだ?
その法王に気に入られている王子が、王位継承を狙う他の王子たちにとって脅威じゃないわけがない。
「いや、でも、ジョン兄上は単純な人で、計算高くはないから、法王のこととかそれほど考えてないと思うよ?」
「この国の王子なのに、そんなわけないでしょう?」
どんなバカでも、この国にいれば王よりも法王の方が国民からの人気が高く、支持されていることくらいはわかる。
ムー王国にいた頃の僕でさえ、風の噂で聞いていた話なのだから、この国で生まれ育った人が知らないわけがない。
それも王子なのだから、自分の立場を常に意識していたはずだ。
「まさか、王位継承争いの真っ只中の人を匿ってしまうなんて……」
もっとオスカーの状況をちゃんと確認してから決めればよかった。
後悔先に立たずとはこのことだ。
「大丈夫。心配しないで。私の美しい婚約者には今度紹介してあげるから」
そんなことは全く心配していないが?
「そういえば、婚約者さんはどこかの令嬢とかお姫様じゃないの? どうして、オスカーと連絡が取れないからって一人で第一王子を打ちに行くなんて発想になるのか……普通、そんな令嬢はいないよね?」
「エノクは大人びていると思ったけどやはりまだ子供だな。”普通”なんて人それぞれさ」
オスカーが聖人のような温かい笑顔を見せる。
さすが王子。そういう笑顔を作るのが上手いなと思う。
オスカーの言葉は”普通”という言葉の概念を全否定しているような気もするけれど、相手の特異さを受け入れる度量の大きさを思わせるような気もした。
「彼女は伯爵家の三女なのだけど、自由気ままな女性で今は冒険者をやっているんだ」
「冒険者……」
王子の婚約者ならば上級貴族の令嬢かと思っていたので伯爵家の三女というのも想定外だったが、貴族の令嬢なのに冒険者というのはどういうことなのだろうか?
想定していたよりもはるかに変わった婚約者のようだ。
「王子様の婚約者ということは、王様が決めたんだよね?」
「いや、私の一目惚れだ。最初は婚約の申し込みも断られていたのだが、猛烈にアピールして承諾してもらったんだ!」
何気にオスカーと第一王子は似ているのかもしれない。
しつこさという点が。
嫌な共通点だな。
「王様はオスカーが暗殺されそうになっていることは知っているの? 王様に訴えれば兄弟の暗殺を指示した第一王子の方が捕えられるんじゃない?」
「父上は強い王を求めているから、私が暗殺に屈したのならばそれだけのことだと事実を受け入れるだけだと思うよ。それに、私が勝手に婚約者を選んだことも父上はよく思っていないだろうし。私のために動いてくれる可能性は極めて低いね」
「王様には認められていない婚約者ということ? それって、婚約は正式に為されているの?」
「ああ。法王が認めてくださったからね」
そうだった。オスカーは法王のお気に入りだったのだ。
王様からしたら、むしろ法王の後ろ盾があるオスカーは邪魔な存在かもしれないな。
いつ自分の地位を脅かすかわからないわけだから。
「私の婚約者はとても気高くて凛々しい人なんだ! 隣国に留学に行く途中の馬車が魔物に襲われたのだが、彼女が馬に乗って颯爽と現れて助けてくれたんだ。彼女が引く弓で私は心の臓を射抜かれたような気がしたよ。私は彼女とすぐに婚約したくて、留学をやめて聖騎士になったんだ」
聞いてもいないのにオスカーが婚約者について語り出した。
「彼女は他の令嬢とは違い、ドレスや宝石には興味がなくてね。いつも馬に乗ったり、剣の稽古をしたり、弓矢を射たりしていた。彼女ほど美しい人を私は知らない」
色々ツッコミどころはあるものの、オスカーが婚約者に惚れ込んでいることだけはわかった。
「……ちなみに、婚約者の冒険者ランクを聞いても?」
「S級だ!」
そうか。そんな気はした。
貴族なら正式な剣の訓練も弓の訓練も受けることができる。
ある程度の才能も必要だろうが、そもそも動くことが好きなのだから身体能力は高いのだろう。
農村の三男、四男などで仕方なく冒険者になった成り上がりの冒険者よりも腕は立ちそうだ。
「あなたが魔法書の創造者様ね?」
オスカーの婚約者が凄腕の冒険者だと知ってから数日後、出来上がった風魔法の魔法書をオスカーに渡すと、オスカーはその目を嬉しそうに煌めかせて、「久しぶりにちょっと精霊の森の外に出てくる」と爽やかに笑って精霊の森を出た。
そんなオスカーを見送ってから数時間後、噂の婚約者が目の前に登場。
どういうことだ?
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