魔法使いと皇の剣

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3章 神の肉

突入

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 ジンは騎士団が集まる通りに足を踏み入れた瞬間、驚きを隠せなかった。そこには30人近い騎士が集結しており、さらに検問を行っている者や見回りの騎士も周囲に散らばっていた。

(……これはかなりの数だ。アジトに残っている盗賊たちは少ないとガルシアから聞いているはずだが……)

 ジンは眉をひそめながら考えた。(それほどまでに盗賊……いや、“真の王”を何としてでも排除したい勢力が動いているのか)

 騎士たちの注目が集まる中、ジンと共に来た騎士が声を張り上げた。

「マーディ殿! 近くを彷徨いていた盗賊をひっ捕らえました!」

 その言葉に、周囲の騎士たちがざわめき立つ。程なくして、人混みを割って一際大柄な騎士が前に進み出てきた。彼は高価な鎧を身にまとい、他の騎士たちとは格が違う存在感を放っている。

「ほう……」


 マーディはゆっくりと兜を脱ぎ、ジンたちの前に立った。現れたのは40代ほどの男で、手入れの行き届いた青みがかった長髪が肩に流れている。堂々とした立ち姿に加え、濃い髭を蓄えたその顔は、威厳と自信に満ちていた。

「彼女がその捕らえた盗賊か?」

 マーディと呼ばれた男は鋭い目をアイシャに向ける。アイシャは軽く目をそらしながら、わざとらしく無表情を装っていた。

 ジンは間髪入れずに答えた。

「はい、こちらの者がアジトに仕掛けられた罠の詳細を知っているようでしたので、連れて参りました。少し抵抗がありましたが、身の安全が保証されるなら協力するとも言っております」

 その言葉に合わせるように、アイシャがしぶしぶながらも小さく頷く。マーディは彼女をじっと見下ろし、額に手を当ててわざとらしいほど大げさにため息をついた。

「こんなか弱い少女が……なんという悲劇だろうか……」

 芝居じみた言葉に周囲の騎士たちが戸惑いの表情を見せる中、マーディは続けた。

「君の名は何という?」

 突然の問いに、アイシャは少し戸惑いながら答えた。

「えっ……? あ、アイシャ……」

 すると、マーディは満足そうに頷き、胸に手を当てて誇らしげに言った。

「アイシャか……いい名だ。我々に協力するという善意の意志、しかと受け取った。私はマーディ・ロブスタ。アイシャ、君が我らの助けになるなら、この名にかけて君の身を保証しよう!」

 その言葉と共に、マーディは胸に手を置いたまま高々と宣言した。周囲の騎士たちは一瞬驚いた様子だったが、少しずつ釣られるようにして同じく胸に手を当てる。

 ジンはその光景を見て困惑を隠せなかった。しかし、マーディは続けて言葉を紡いだ。

「だが、アイシャ。君がアジトに行く必要はない。罠の場所を教えてくれるだけで良い」

 その言葉に、ジンは一瞬思案する。ここでアイシャを連れていく必要もないと、そんな考えを遮るようにアイシャは

「現場を見ないと説明が難しい罠もある。それでいいなら、あたしは構わない」

 アイシャがさらりと言うと、マーディは少し驚いたような顔をしてから、顎に手を当てて考え込んだ。

「ふむ……君も盗賊の一味なら、アジトに仕掛けられた罠がどれほど危険か知っているはずだが……いや、あー、何と言うか、分かっているんだな?」

 その言葉を聞いたジンは、マーディが既にアジトが自壊するような仕掛けがあることを把握していると悟った。しかし、同時にこの場にいる先行部隊の騎士たちはその情報を知らされていないのだとも感じ取る。

 アイシャは何事もないように頷いた。

「それもどうにかできる」

 平然と嘘をつくアイシャに、ジンは思わず彼女の顔を見た。だが、アイシャは至ってすました顔をしている。

(おい……大丈夫なのか、それ)

 内心焦りを感じるジンをよそに、マーディは急に顔を輝かせた。

「なるほど! なるほど……うむ、うむ! 良いぞ、アイシャ。ならば現場での案内を任せよう!」

 そう言うと、マーディは満足げに周りの騎士たちへ指示を出し始めた。

 その隙に、アイシャはジンにだけ聞こえるよう小さく呟いた。

「……貴族上がりの馬鹿で助かったわ」

 その皮肉めいた言葉に、ジンは思わず呆れ、急いで気持ちを整えた。

 ジンが先行部隊に紛れ込むのは、思ったよりも容易だった。事情を詳しく知っている者は少なく、人数が増えることにも誰も疑念を抱いていないようだ。周囲の騎士たちは、徴兵で集められたばかりなのか、どこか浮足立っており緊張感に欠けていた。

(……助かるな。こんなに杜撰だと)

 さらに、指揮官があのマーディであることも、今の状況では好都合だった。

 後方からマーディの大声が響く。

「突入!」

 その号令と共に、騎士たちはアジトの入り口へ一斉に突入していった。ジンも自然に先行部隊に混じり、アジトの中へと足を踏み入れる。

 再び訪れたアジト内には、以前にジンとアイシャが出る際に対峙した盗賊たちの亡骸がまだそのまま放置されていた。

(……片付けもされてないのか。もう手を引いているのか?)

 新たな罠や仕掛けもなく、順調に奥へと進むことができている。その異様なほどの静けさに、ジンは不審を抱き、アイシャに小声で囁いた。

「まさか……もう逃げ出したのか?」

 アイシャも声を潜めて答える。

「わからない。でも、入り口は騎士に封鎖されてたし……私たちを捕まえた時の見張りの騎士と、外にいた騎士が違ってたけど単純に“梟の夜会”が何か仕掛けたわけでもないと思う」

 ジンは顎に手をやりながら考え込む。

(……それでも、まだ何かが引っかかる。妙に静かすぎる)

 奥へ進むにつれ、ジンは心の中で祈っていた。

(頼む……アイリーンが無事でいてくれ)

 その時、慣れ親しんだ気配を感じ、思わず目を見開いた。

(……アイリーン!)

 胸が高鳴る。しかし、同時に別の気配も感じ取り、ジンは苦い顔をして小さくため息をついた。

(……そして、ジャズも無事だったか。面倒なことになりそうだな)

 アジトの奥にたどり着いたジンたちを待ち受けていたのは、残り僅かの盗賊たちだった。彼らは武器を構えることもなく、静かにその場で佇んでいる。

 先行隊を指揮していた騎士はその様子に戸惑いながらも声を張り上げた。

「“梟の夜会”だな。逃げ場はない。抵抗しなければ血が流れることはないぞ」

 その言葉に、盗賊の何人かが顔を見合わせて含み笑いをし、やがて嘲笑を漏らした。その中から、盗賊たちのボス――エースがゆっくりと前に出ると、アイシャの姿を見つけて軽く目を細めた。

「驚いたな。半端者の裏切り者が、今度は半端な騎士どもを連れてきやがったか」

 エースの言葉に、盗賊たちは一斉に笑い声を上げた。嘲るようなその声がアジトの奥に響き渡る。

 アイシャは顔を歪めることもなく、拳を強く握り締めてただ無表情で耐えていた。

 しかし、無視された上に侮辱された隊長は怒りを隠せず、声を荒げる。

「黙れ! 貴様らのくだらん計画はここで終わりだ! 王族に対する反逆だけでも万死に値するというのに、数々の罪……もはや言い逃れはできん!」

 その言葉に応じるように、周囲の騎士たちが剣を抜き放った。ジンもそれに倣うふりをしながら、刀を隠して警戒を強め、いつでも抜刀できるよう意識を集中させる。

 その時、ロスティンが呆れたように前へ進み出た。

「おいおい、あんたら知らないんだろうが、ここに仕掛けられてる罠が作動したら、この建物は崩壊して、ここにいる全員が死ぬことになるんだぜ?」

 その言葉に、一部の騎士たちは顔を青ざめ、ざわつき始めた。だが、隊長は動じずに叫んだ。

「安心しろ! マーディ殿より、彼女が罠を解錠できると聞いている! 盗賊の言葉に惑わされるな……全員、かかれ!」

 号令と共に、浮足立っていた騎士たちは奮い立つように盗賊たちへ向かって突撃を開始した。

「仕方ねえな……」

 ロスティンは呆れたように小さく呟きながら武器を手に取った。それを合図に、他の盗賊たちも殺気を纏い、それぞれの武器を手に戦闘態勢に入る。

 一方、エースは退屈そうにその場に座ったまま、手元に剣を寄せただけだった。

 ジンはふと、盗賊の中にいるジャズに目を向けた。かつてジンに負わされた傷は、完全ではないがほとんど癒えているように見える。

(眷属の力か……厄介だな)

 そう考えるジンの耳に、甲高い声が聞こえた。

「やっちゃいなさい! ジンの敵よ!」


 アイリーンの声だ。ジンは声の主を見つけ、彼女が無事でいることを確認して安堵した。

(……無事だったか。よかった)

 戦場の混乱の中、ジンは隙を見つけ、アイリーンを助け出すために、金属音と叫び声がアジトの奥で激しく響き渡り、乱戦が本格化していく中、駆け出した。
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