魔法使いと皇の剣

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5章 運命

部屋での談話

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 ミエラは「本と酒」で借りた彼女とアイリーンの共同の部屋に皆を集めた。宿の主人ヨヨヨから聞いた衝撃的な話を、躊躇いながらも仲間たちに伝える必要があった。

 窓から差し込む柔らかな夕暮れの光が部屋を温かく照らす中、彼女の言葉は重く響いた。

 古びた椅子にだるそうに腰掛けたロスティンは、ミエラの話が終わるとすぐに肩をすくめた。その反応は予想通りだった。

「まぁ長く生きてる眷属がいる事は別に珍しくない。しかもアグナの森にいたら尚更だ…」

 ロスティンはつばを吐きかけるような仕草をして続けた。その目には諦めと冷笑が混じっていた。

「だけど信じるのか? 俺からしたら別に生きてようが死んでようが構わないけどな」

 部屋の隅に立っていたアーベンは、穏やかな声でロスティンの言葉に同調した。しかし、その眼差しには何か別の思惑が隠されているようにも見えた。

「…ロスティンの言うことも一理あると私は思うよ。所詮は仮の話」

 アーベンは窓辺へと歩み寄り、外の景色を一瞥してから振り返った。その姿は夕日に照らされ、何か神々しいものさえ感じさせた。

「それに生きていようが、ミエラ、君が今考えなければいけないのは、誓いをどうするか…では?」

 アーベンの核心を突いた言葉に、ミエラは返す言葉を失った。彼の冷静な分析は、いつも彼女の感情的な部分を打ち砕く。ミエラは窓の外に広がる街並みを見つめながら、やっとの思いで言葉を絞り出した。

「確かにそうなんですが、もし生きているならば賢者イランカランが言っていた、ノストールを顕現させた理由が知れれば何か解決ができるかもと…」

 彼女の声には微かな希望と、自分でも気づいていない恐れが混ざっていた。
 アーベンは頭を軽く振り、冷静さで分析を続けた。

「現実的ではないね。確かに興味がある話だと思うが、大陸が離された後、すぐにアグナの森に結界を作った可能性もある。それならば別におかしくない」

 アーベンは部屋を横切り、ミエラの肩に優しく手を置いた。その仕草には慰めと警告が同時に込められていた。

「ヨヨヨが生きた年月を信じれば、明日だろうと100年後だろうが一緒だろうからね」

 ミエラは言い返すこともできず、肩を落とした。ミエラの心には迷いと焦りが混在していた。ベッドの端に座っていたアイリーンは、その雰囲気を察し、明るい声でミエラを励ました。

「まぁミエラちゃんの気持ちは分かるわよ。いきなり、誓いが必要だの神子とか言われてもね。あたしも結局運命って何か分からずじまいだし」

 アイリーンの言葉には、自身の経験に基づいた共感と理解が込められていた。ロスティンは不機嫌そうに床を見つめながら付け加えた。 

「だな、それより本当にどうにかしないとこのままだと誓いをたてろとか何されるかわからないぞ」

 彼の言葉には不安と焦りが隠せていなかった。闇夜の中で刃を持った影を常に感じているかのように

 アーベンは顎に手をあて冷静に話をを続けた。

「誓いは双方が必要だ、人を操り強制はできない。だから神の肉なんて生まれたのだがね…」

 彼は窓辺に戻り、街の灯りを見つめながら言葉を続けた。

「どんな手を使うか。純粋に話し合いは期待できそうもないがね、魔法使いは特に」

 アイリーンは周りを見渡し思い切った提案をした。

「なんだったらもう逃げちゃう? いる意味なさそうだけど」

 ロスティンは即座に反応し、声を荒げた。その顔には複雑な感情が浮かんでいた。

「逃げるならお前達だけでいけよな。俺はこの街が…気に入ってはいない、まだ知らないからな。だがオーデントを出たのに更に危険に巻き込まれるのはごめんだぜ」

 アイリーンは非難した目をロスティンに向けた。

「あんたねぇ」

 暗い思考に沈むミエラの様子を見て、アーベンは話題を変えるように

「ミエラ、君がここに来た目的は魔法を深く知る事とノストールを殺す事だね。ならば目的とは違う流れに進むことを気にしないといけない。それに…」

 アーベンは微笑み、その表情は珍しく柔らかかった。

「せっかく街を動ける機会があるんだ、疲れもある。各々休んで、街を見たりするのもいいだろう。私もただ目的なく君についてきたわけではなく、先にこちらに来ているはずの七騎士ライカン・スクリームを探したいのでね」

 その名前がロスティンの注意を引いた。彼の目が突然鋭くなり、姿勢を正した。

「ライカン・スクリーム…? 戦いには参加してなかったのか?」

 アーベンは思わぬロスティンからの反応に眉をしかめた。

「ああ、ライカンはオーデント周辺の徴兵と、テネグリアを除く周辺への協力要請で出向いていたはずだよ。オーデントがああなったのを知り、戻ったかもしれないが…」

 彼は言葉を選びながら続けた。

「ドーユンに聞いたところ、こちらに向かったきり戻った噂などはないらしいね」

 ロスティンは何か考えるように黙って頷いた。その表情からは多くを読み取ることができなかった。

 ミエラは訝しがりながらも、アーベンの助言に従うことにした。それが最も賢明な選択だと感じたからだ。アーベンやロスティンが部屋に戻る中、アイリーンだけがミエラと二人きりになった。

 彼女はミエラの隣に座り、優しく肩を抱いた。

「ミエラちゃん、気にしないでは嘘になっちゃうわね。でも気持ちがわかるのは本当よ、この大陸に来てからずっと運命運命言われて命を狙われたりしたからね」

 ミエラはアイリーンを見つめた。そうだった、と彼女は思った。アイリーンもまた「運命」という名の下に翻弄されてきた一人だった。

 これまでミエラは心配はしていた、それは嘘ではない。だが真に理解はしていなかった。自分の知らないところで訳もわからず、知ったような人間に言われる気持ちを。

 アイリーンは和やかに微笑んだ。その笑顔は部屋の空気を一変させるほど明るかった。

「でもこれで同じ!…慰めになるかわからないけど、アタシはミエラちゃんの味方だからね」 

 ミエラは心から湧き上がる感謝の気持ちを言葉にした。

「有難う、アイリーン」

 アイリーンは楽しそうに笑い、立ち上がった。

「それじゃ!どうする?」
 ミエラは長い溜息をついて答えた。彼女の顔には疲労と解放感が混ざっていた。

「とりあえずは休みたいな。そこから一緒に街を見てくれる?」

 アイリーンは元気よく頷いた。ミエラは少し軽くなった気持ちで、ようやく休息を得ることができそうだった。
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