僕の記憶

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僕の記憶

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僕の記憶は曖昧だ。
時折、自分がわからなくなる時がある。

いつからこうなったのかも覚えてない。
微かに残る病室の記憶から事故にでもあったのかも知れない

僕の頭の中にあるのは、霧のような記憶の断片だ。

白い天井、薬の匂い、そして何かを言っている誰かの声。

けれど、その声の主は顔も形も思い出せない。まるで僕が僕ではない誰かの記憶を覗き込んでいるような、不自然な感覚。

事故にあったのだろうか。それとも病気か。どちらにしても、僕の中にあるはずの“僕”という存在が、どこか歪んでしまった気がする。

病室の記憶は、たまに鮮明になる。

モニターの規則的な音、窓の外に見えた曇った空。そして、自分が動かない体をじっと見下ろしていた感覚。
そこに恐怖はなく、ただ冷静に「どうしてだろう」と考えていた。それが夢だったのか現実だったのかさえ、今は判断できない。


退院の日、僕は静かに病院を出た。

迎えに来た二人の女性を見たとき、どこか懐かしいような気持ちと、まったくの他人を見るような違和感が入り混じった。

年配のおばあさんは小柄で、歩くたびに杖を使っていた。目尻には無数のしわが刻まれていたが、優しい瞳をしており。

彼女は僕を見つめてこう言った。

「退院できてよかった。お家に帰りましょう」

声には親しみのある響きがあったが、僕の心にそれが何かを呼び起こすことはなかった。

もう一人の女性は、50代くらいのどっしりとした雰囲気のおばさんだった。彼女は終始、僕の顔をじっと見ていた。まるで僕が何か異常を見せるのを待っているように。

「お母さん。本当に家に連れて帰って大丈夫?世話できるの?」

まるで僕をペットか何か扱うみたいに話すおばさんに腹が立ち、僕は叫んだ。

「まず誰なんだよ、あんたら」

僕の声が静かな病院の駐車場に響いた。
叫んだ直後、自分でも驚いた。けれど、それは抑えきれなかった感情だった。

おばあさんとおばさんは、一瞬動きを止めて僕を見つめた。

おばあさんは、悲しい顔で僕をみたが、おばさんの方は嫌な物をみる顔で、僕をみていた。

そんな様子にますます腹が立ち殴りつけてやろうと思った。

だけど気づくと、先程の駐車場からいつの間にか
見知らぬ家に僕はいた。

あまりの出来事で僕が動揺していると、嫌なおばさんは僕に向かって。

「自分の家でしょう⋯」

と呟いた

僕の家⋯
そう言うおばさんの顔は、駐車場の時と違って憐れみがこもってた。

僕はそんな様子に甘えるよう

「知らないよ⋯こんな所」

おばさんの目に、ほんの一瞬だけ苛立ちのような色が浮かんだ。

けれど、すぐにそれは抑え込まれたようで、深いため息をつきながら僕を見下ろした。

「……そうよね、無理もないわ」

おばさんはそう言うと、家の中を見渡した。古びた木造の一軒家だった。廊下は薄暗く、壁の色はくすんでいて、長い間手入れがされていないのが一目でわかった。

ただ、空気が妙に重く、何かが胸を締めつけるような違和感だけが残る。

「何か思い出すかもしれないから、少し家の中を歩いてみたら?」

おばあさんが優しい声でそう言った。

おばさんと違い優しく言う女性に少し安心感が湧いたけど、まだ信用しちゃ駄目だ。

僕はそう自分に言い聞かせた。

どこか優しい雰囲気のおばあさんも、苛立ちを隠しながら冷たく振る舞うおばさんも、結局は僕の記憶を利用して何かしようとしている可能性がある。彼女たちが言う「家」というのも、僕を混乱させるための嘘かもしれない。

誘拐犯――その考えが頭に浮かぶと、ますますこの状況が不気味に思えてきた。

「……分かった、少し見てみる。」

そう言って歩き始めたが、足を進めるたびに家の薄暗い空気が僕を飲み込むように感じた。廊下の床は古びて軋み、まるで誰かが背後から追ってくるような気配がする。振り返ると、おばあさんとおばさんが距離を取って僕をじっと見ている。

「何かあれば呼んでね。」

おばあさんがそう言ったが、その声すらも僕にはどこか遠く感じられた。

奥の部屋に1枚の写真が置かれているのが目に入った。

写真には仲良さそうに映る
男性と女性の写真だった。

写真を手に取り眺めていると懐かしい気持ちが溢れてきた。

おとうさん、おかあさん⋯?

そうだ僕のおかあさんとおとうさんは?
そんな気持ちで、おばさんを振り返った。まさかこの嫌な奴が親だろうか?

でも写真に映る女性とおばさんは似ているが別人だ⋯じゃあ僕のおかあさんは⋯?

そしたらまた景色が飛んでいた。

目を開けると、僕は再び病室にいた。白い天井、薬の匂い、そして規則的に響くモニターの音。

夢なのか、それとも現実なのか――僕は混乱しながらも周囲を見渡した。

ベッドのそばには、おばさんが座っていた。隣には中年の男。そして、その後ろには僕と同じくらいの年齢の少年と少女が立っている。

彼らは、まるで僕を観察するような目つきでこちらをじっと見つめていた。

「……誰なんだ、お前たちは?」

声を出すのがやっとだった。喉が乾いていて、声が掠れている。

おばさんは驚いたような顔をし、すぐに何かを隠すように微笑んだ。

その微笑みはどこか不自然だった。
悲しむような、安心したような笑顔で、ますます僕を不安にさせた。

「家族よ。」おばさんが静かに言った。

嘘だ!僕は声を出そうにも上手く出ない状況で
精一杯心の声をだした。

(写真に写っていた人たち……あれが本当の家族だろう!お前は違う!俺の母親じゃない!)


幼い兄妹達が驚き見つめる中、僕はだんだんと意識が遠のくのが感じていた。

ふと意識が遠くなりつつある中、僕は妻に会いたくなった。


妻――。

その言葉が頭をよぎった瞬間、記憶の霧が少しだけ晴れたような気がした。

そうだ、僕には妻がいた。優しい笑顔と、柔らかな声が浮かんできた。

彼女は誰よりも僕を支えてくれていた……はずだ。でも、名前が思い出せない。顔も、声も、記憶の奥底で霞んでいる。

なぜ今まで忘れていたのか?そして、彼女はどこにいるのか?

ふと写真に映る彼女の姿が頭に浮かんだ。

優しい微笑み、肩まで伸びた黒髪、そして僕を見つめるあの瞳。

そうだ、彼女は僕の妻だった――

そして、この感覚には奇妙なことがある。あの写真に映っていた彼女が、なぜ僕の頭に浮かぶ?

僕の記憶と現実が入り混じり、何が本物で何が偽りかがわからなくなっていく。

遠のく意識の中で僕は祈った
起きたら妻や娘達に会えるよう
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