氷結王子と呼ばれる騎士団長と契約結婚をすることになったのですが、どうやら一目惚れされているらしいです?

新 星緒

文字の大きさ
21 / 41

7・1 はじめてのデート

しおりを挟む
 ストラーニ邸のエントランスホールから外に出ると、そこには一頭の美しい白馬がいた。
 ほかにはなにもない。
 隣に立つランベルト様を見る。

「今日は馬でお出かけなのですか」
 おもむろに頷いたランベルト様は、すぐに眼光の鋭さを増しましにした。
「馬車のほうがよかったか!」
「伝えていなかったんですか」と、そばにいたアランが額を押さえる。
「デートは馬で行くものだと兄上が……」
「んなわけありますか」と嘆息するアラン。「なに騙されているんですか。これだから交際経験のない恋愛音痴は困る」

 ランベルト様が氷のようなお顔のまま、むぐっと言葉に詰まっている。

「令嬢が乗馬に慣れているとでも思っているんですか? 契約婚の相手と体を密着させたいと?」
 畳みかけるアランさんに、ランベルト様の顔色が悪くなる。
「……わかった。執事長フレデリック馬車の用意を大至急だ」
「待ってください!」ランベルト様たちのコントのような会話に、急いで割って入る。「私は馬で大丈夫です。少し驚きましたが、それは、なんというか――」

 言葉を切って、考える。お出かけがまさか馬車ではなく馬だとは思わなかった。それは、なぜ?
 ランベルト様が馬に乗る姿は最初に見ている。
 ――ああ、そうだ。

「公爵様は、私にあまり触れたくないのかと思っていたので」
 食事時に倒れたときは、手を当て痛みを取り、直接抱き上げて運んでくれた。
 だけど常に手袋をしているから、本当は潔癖症で女性に触れたくないのだろうと考えていたのだ。
 でもランベルト様は目を見開いて(怖さがまた増した!)
「まさか」と間を置かずに否定した。「触れたくて仕方ないのだが?」
「はいっ!?」

 今、なんて?
 心臓が破裂したかのようにうるさくなり、顔が熱い。
 ランベルト様も、
「あ……」と声を出したあと、頬が次第に赤く染まっていく。

 しばらくの間、お互いに向き合ったまま動くことができなかったけれど、このままでは埒があかない。ランベルト様がガチガチに緊張しながらデートに誘ってくれたのだから、今度は私ががんばる番だろう。

「それでは、お出かけしましょうか」
 声をかけて手を差し出す。するとランベルト様ののどがゴクリと鳴った。
 ぎくしゃくとした動きで私を抱き上げ馬に乗せ、すぐに自分も続く。

「かっこよさが微塵もない……」とアランさんがエマにこぼすのが耳に入ったけれど、聞こえなかったことにしよう。
 だって普段、いかにも切れ者に見えるランベルト様がこんな様子になっているのは、ものすごく可愛いもの。

 あきらかに緊張しているランベルト様だけど、馬は無難に歩き出してくれた。見送りのひとたちに『行ってきます』と挨拶をして、お屋敷の庭を進む。
 背後から、
「落ち着いて行動するんですよ――」というアランさんの叫び声が聞こえてきた。

 首を巡らせてランベルト様の顔を見上げると、お顔の怖さが普段比十倍になっていた。
 私も緊張で心臓が破裂しそうなほどドキドキしているけれど、きっとランベルト様もなのね。
 ほほえましく思っていたら、ふと、思い出した。彼と婚約をした日のエスコート。

「公爵様。以前王宮でエスコートをしてくださったとき、異常に早足だったのは、もしかして緊張なさっていたのでしょうか」
 ぎろり、とランベルト様が私をにらむ。
「……スマートな対応ができなくて、悪かった」
 やっぱり!

「てっきり私をエスコートするのがおイヤなのだと思っていました」
「まさか!」とランベルト様がまた目力を増す。「いや、そう思われても仕方ないか。次は、きちんとやる」
「お心遣いをありがとうございます」
「口下手なのも、すまない」
「口達者が良いとは限りません。セストは上手いことを言って私を騙そうとしましたし」

 元婚約者の名前を無意識のまま口にして、すぐになんとも言えない気持ちになった。
 先日暴行罪で捕まった彼は、保釈金を支払って牢を出た。もう領地に向かっているはずだ。
 ランベルト様によると、彼が主張していた『貴族社会からつまはじきにされている』というのは事実らしい。

 だけど、誰かの差し金なんかではない。セストもナタリアさんの実家であるザネッロ商会も悪評まみれで、それが原因だという。

 セストは婚約を解消した翌日に別の女性と婚約したことが、非難されている。
 ザネッロ商会はだいぶ以前から、上位貴族の間では違法な商売をしているとみなされているとか。だから叙爵される可能性はまったくなく、ナタリアを妻に迎える貴族もいなかった。情報に疎く愚かなセストを除いては、ということらしい。

 セストのことはもう、幼馴染とすらも思っていない。
 それでも、かつては親しかったひとの人生が転落しかかっているというのは、悲しい。

 コホンとランベルト様が咳ばらいをした。顔を見上げると、またまた恐ろしい表情だった。
「今は私とのデート中だ」
「はい。存じておりますが」
「……わかっているなら、いい」
 私はよくわからない。

 そもそも、ランベルト様が私をどう思っているのかも、わからない。好かれてはいる、ような気はする。だけど彼からそのような言葉をもらったことがないのだ。
 もしかしたら私の盛大な勘違いということもあるかもしれない。

 今日だって『デート』としてお誘いを受けたけれど、シャルロット様に勧められて婚約者としての義務を果たそうとしているだけなんて可能性もある。
 ――そうだとしたら、さみしいような気がする。
 私は義務のデートでは嫌みたいだ。

 街中を進む私たちは、ものすごく注目を浴びている。主に、ランベルト様が。

「……ミレーナ嬢」と、ランベルト様。
「よく考えたら、今日の行き先について、君の意見をきかずに決めてしまった」
 思わず、クスリと笑う。
 確かに私は訊かれなかった。だけどランベルト様はウルスラ叔母さまやエマにアドバイスをもらっている。私を楽しませるために。
 そこまでしてもらって、不満なんてあるはずがない。だけど――

「では次は、一緒に決めましょうか」
 そう言うと、ランベルト様の氷のお顔がふにゃりと崩れた。
「それは、いい案だ」
「もちろん、今日の目的地も楽しみですよ」
 行く先は王立植物園だ。そこにある特別温室には、プラントハンターが集めた世界中の珍しい植物があるとか。聞いただけでもわくわくする場所だ。
「そうか。よかった。貸し切りにした甲斐がある」
「貸し切り!?」

 驚きのあまり、大きい声をだしてしまった。だけどランベルト様は当然のようにうなずいた。
「兄上がデートのときは、そうするものだと言っていた」
「……そうですか」

 それが王族の常識なのか、陛下の弟への配慮なのかは、わからない。
 私にはなかなか慣れることはできそうにないけれど、ランベルト様が一生懸命私のために考えてくださっているのだと思うと、とても嬉しい。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】余命三年ですが、怖いと評判の宰相様と契約結婚します

佐倉えび
恋愛
断罪→偽装結婚(離婚)→契約結婚 不遇の人生を繰り返してきた令嬢の物語。 私はきっとまた、二十歳を越えられないーー  一周目、王立学園にて、第二王子ヴィヴィアン殿下の婚約者である公爵令嬢マイナに罪を被せたという、身に覚えのない罪で断罪され、修道院へ。  二周目、学園卒業後、夜会で助けてくれた公爵令息レイと結婚するも「あなたを愛することはない」と初夜を拒否された偽装結婚だった。後に離婚。  三周目、学園への入学は回避。しかし評判の悪い王太子の妾にされる。その後、下賜されることになったが、手渡された契約書を見て、契約結婚だと理解する。そうして、怖いと評判の宰相との結婚生活が始まったのだが――? *ムーンライトノベルズにも掲載

婚約破棄を望む伯爵令嬢と逃がしたくない宰相閣下との攻防戦~最短で破棄したいので、悪役令嬢乗っ取ります~

甘寧
恋愛
この世界が前世で読んだ事のある小説『恋の花紡』だと気付いたリリー・エーヴェルト。 その瞬間から婚約破棄を望んでいるが、宰相を務める美麗秀麗な婚約者ルーファス・クライナートはそれを受け入れてくれない。 そんな折、気がついた。 「悪役令嬢になればいいじゃない?」 悪役令嬢になれば断罪は必然だが、幸運な事に原作では処刑されない事になってる。 貴族社会に思い残すことも無いし、断罪後は僻地でのんびり暮らすのもよかろう。 よしっ、悪役令嬢乗っ取ろう。 これで万事解決。 ……て思ってたのに、あれ?何で貴方が断罪されてるの? ※全12話で完結です。

【完結】 「運命の番」探し中の狼皇帝がなぜか、男装中の私をそばに置きたがります

廻り
恋愛
羊獣人の伯爵令嬢リーゼル18歳には、双子の兄がいた。 二人が成人を迎えた誕生日の翌日、その兄が突如、行方不明に。 リーゼルはやむを得ず兄のふりをして、皇宮の官吏となる。 叙任式をきっかけに、リーゼルは皇帝陛下の目にとまり、彼の侍従となるが。 皇帝ディートリヒは、リーゼルに対する重大な悩みを抱えているようで。

働かないつもりでしたのに、気づけば全部うまくいっていました ――自由に生きる貴族夫人と溺愛旦那様』

鷹 綾
恋愛
前世では、仕事に追われるだけの人生を送り、恋も自由も知らないまま終わった私。 だからこそ転生後に誓った―― 「今度こそ、働かずに優雅に生きる!」 と。 気づけば貴族夫人、しかも結婚相手は冷静沈着な名門貴族リチャード様。 「君は何もしなくていい。自由に過ごしてくれ」 ――理想的すぎる条件に、これは勝ち確人生だと思ったのに。 なぜか気づけば、 ・屋敷の管理を改善して使用人の待遇が激変 ・夫の仕事を手伝ったら経理改革が大成功 ・興味本位で教えた簿記と珠算が商業界に革命を起こす ・商人ギルドの顧問にまで祭り上げられる始末 「あれ? 私、働かない予定でしたよね???」 自分から出世街道を爆走するつもりはなかったはずなのに、 “やりたいことをやっていただけ”で、世界のほうが勝手に変わっていく。 一方、そんな彼女を静かに見守り続けていた夫・リチャードは、 実は昔から彼女を想い続けていた溺愛系旦那様で――。 「君が選ぶなら、私はずっとそばにいる」 働かないつもりだった貴族夫人が、 自由・仕事・愛情のすべてを“自分で選ぶ”人生に辿り着く物語。 これは、 何もしないはずだったのに、幸せだけは全部手に入れてしまった女性の物語。

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

キズモノ転生令嬢は趣味を活かして幸せともふもふを手に入れる

藤 ゆみ子
恋愛
セレーナ・カーソンは前世、心臓が弱く手術と入退院を繰り返していた。 将来は好きな人と結婚して幸せな家庭を築きたい。そんな夢を持っていたが、胸元に大きな手術痕のある自分には無理だと諦めていた。 入院中、暇潰しのために始めた刺繍が唯一の楽しみだったが、その後十八歳で亡くなってしまう。 セレーナが八歳で前世の記憶を思い出したのは、前世と同じように胸元に大きな傷ができたときだった。 家族から虐げられ、キズモノになり、全てを諦めかけていたが、十八歳を過ぎた時家を出ることを決意する。 得意な裁縫を活かし、仕事をみつけるが、そこは秘密を抱えたもふもふたちの住みかだった。

眠り姫は十年後、元婚約者の隣に別の令嬢を見つけました

鍛高譚
恋愛
幼い頃、事故に遭い10年間も眠り続けていた伯爵令嬢アーシア。目を覚ますと、そこは見知らぬ大人の世界。成長した自分の身体に戸惑い、周囲の変化に困惑する日々が始まる。 そんな彼女を支えるのは、10年前に婚約していた幼馴染のレオン。しかし、目覚めたアーシアに突きつけられたのは、彼がすでに新しい婚約者・リリアナと共に未来を築こうとしている現実だった――。 「本当に彼なの?」 目の前のレオンは、あの頃の優しい少年ではなく、立派な青年へと成長していた。 彼の隣には、才色兼備で知的な令嬢リリアナが寄り添い、二人の関係は既に「当然のもの」となっている。 アーシアは過去の婚約に縋るべきではないと分かりつつも、彼の姿を目にするたびに心がざわめく。 一方でレオンもまた、アーシアへの想いを完全に断ち切れてはいなかった。 幼い頃の約束と、10年間支え続けてくれたリリアナへの誠意――揺れ動く気持ちの狭間で、彼はどんな未来を選ぶのか。 「私の婚約者は、もう私のものではないの?」 「それでも私は……まだ、あなたを――」 10年間の空白が引き裂いた二人の関係。 心は10歳のまま、だけど身体は大人になったアーシアが、新たな愛を見つけるまでの物語。 運命の婚約者との再会は、果たして幸福をもたらすのか――? 涙と葛藤の三角関係ラブストーリー、ここに開幕!

処理中です...